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76.裏切り者
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上着のボタンがはずされていく。
白く濁った頭でぼんやりとアデルジェスはそれを眺めていた。
女が微笑みを浮かべて見上げてくる。アデルジェスは何だか愉快な気分になり、笑った。
すると女も笑った。二人で笑いあった。
いつのまにか上着は脱がされ、シャツも脱がされていた。上半身がむき出しになっている。
「素敵な身体ね……」
女はそう呟くと、アデルジェスに杯を渡してきた。
「元気になる飲み物よ。それを飲んで、いっぱい楽しみましょうね……」
アデルジェスは渡された杯を見る。
薄紅色に濁った液体が杯に満たされていた。ほんのりと甘い香りがする。
女が言うには、元気になるらしい。別にどうでもいいのだが、甘い香りがして美味しそうだ。アデルジェスは杯を口に運ぼうと持ち上げる。
「ダメっ!」
突然大きな音を立てて扉が開かれた。
扉を開けたのは金髪の少年だ。名前がうまく思い出せない。しかし、アデルジェスにとっては最も愛しい存在だということだけはわかる。
金髪の少年はアデルジェスに駆け寄ってきて、杯を取り上げる。そして今度は杯を持ったまま窓を大きく開け放った。
「な……なんなの……どうして勝手に入っているの!?」
女が叫ぶ。耳障りな声だ、とアデルジェスは思った。
「なんなの、はこっちの台詞だよ。どういうつもりだい? これは何?」
金髪の少年が杯を持ち上げて言う。なにやら怒っているようだった。だが、アデルジェスには少年の怒った顔も美しく見えた。
「た……ただの強壮剤よ……」
「ふぅん、そう。じゃあ、飲んでみて」
「え……? どうして私が飲まなくちゃいけないのかしら。必要ありませんわ」
「へえ……今、動揺したよね。その強壮剤、何が入っているの?」
「何も入っていませんわよ。ただ、強めの強壮剤というだけですわ」
「そう、じゃあ飲めるよね? 飲んでみて」
「……それは……」
女と金髪の少年が何かを言い合っていた。
すると黒髪の少年が開け放たれたままの扉から入ってきた。
「いい加減にしたらいかがですか? その中身が何か、わたくしが言ってさしあげましょうか?」
「エアイール……裏切ったわね!」
「裏切るも何も……わたくしは最初からあなたの味方ではありませんよ。同じ趣味を持つ者として少々お話をしただけでしょう?」
「そう……あなたも男ですものね……裏切り者! 男なんてみんな裏切り者よ! 私はお姉様のためにも裏切り者を始末しないといけないのよ! その人も裏切る前に始末するの! お姉様のためにその人を始末するのよ!」
半狂乱になって女がわめき散らす。
「支離滅裂になっていますよ。少し頭を冷やしたほうがよろしいようですね」
黒髪の少年がそう言うと、大男が二人部屋に入ってきた。二人の大男が女を拘束すると、女は力なく泣き崩れた。
小さくかすれた声で『裏切り者』と繰り返し続ける。
「ジェス、しっかりして」
金髪の少年が心配そうにアデルジェスを覗き込んでいる。潤んだ緑色の瞳を見ると、胸が痛んだ。
「しばらくすれば戻りますよ。軽く吸い込んだだけのようですし。それよりもミゼアス、フェリスの件はあなたが担当になるわけでしょう? 話を聞いてきてください」
「……嫌だ。僕はジェスの側にいる」
「聞き分けのないことを言わないでください。いつもは聡明なあなたが……。アデルジェスさんのことはわたくしに任せてください。わたくしのほうが薬物には詳しいですし」
「…………」
「もう手出しをしようとはしませんよ。早く行って早く終わらせて、それからアデルジェスさんとゆっくりするほうがよろしいのではありませんか?」
「……わかった。行ってくるよ。ジェスのこと、頼むよ」
黒髪の少年と金髪の少年が何かを言い合った後、金髪の少年はアデルジェスに心配そうな視線を向けつつ、部屋を出て行った。
白く濁った頭でぼんやりとアデルジェスはそれを眺めていた。
女が微笑みを浮かべて見上げてくる。アデルジェスは何だか愉快な気分になり、笑った。
すると女も笑った。二人で笑いあった。
いつのまにか上着は脱がされ、シャツも脱がされていた。上半身がむき出しになっている。
「素敵な身体ね……」
女はそう呟くと、アデルジェスに杯を渡してきた。
「元気になる飲み物よ。それを飲んで、いっぱい楽しみましょうね……」
アデルジェスは渡された杯を見る。
薄紅色に濁った液体が杯に満たされていた。ほんのりと甘い香りがする。
女が言うには、元気になるらしい。別にどうでもいいのだが、甘い香りがして美味しそうだ。アデルジェスは杯を口に運ぼうと持ち上げる。
「ダメっ!」
突然大きな音を立てて扉が開かれた。
扉を開けたのは金髪の少年だ。名前がうまく思い出せない。しかし、アデルジェスにとっては最も愛しい存在だということだけはわかる。
金髪の少年はアデルジェスに駆け寄ってきて、杯を取り上げる。そして今度は杯を持ったまま窓を大きく開け放った。
「な……なんなの……どうして勝手に入っているの!?」
女が叫ぶ。耳障りな声だ、とアデルジェスは思った。
「なんなの、はこっちの台詞だよ。どういうつもりだい? これは何?」
金髪の少年が杯を持ち上げて言う。なにやら怒っているようだった。だが、アデルジェスには少年の怒った顔も美しく見えた。
「た……ただの強壮剤よ……」
「ふぅん、そう。じゃあ、飲んでみて」
「え……? どうして私が飲まなくちゃいけないのかしら。必要ありませんわ」
「へえ……今、動揺したよね。その強壮剤、何が入っているの?」
「何も入っていませんわよ。ただ、強めの強壮剤というだけですわ」
「そう、じゃあ飲めるよね? 飲んでみて」
「……それは……」
女と金髪の少年が何かを言い合っていた。
すると黒髪の少年が開け放たれたままの扉から入ってきた。
「いい加減にしたらいかがですか? その中身が何か、わたくしが言ってさしあげましょうか?」
「エアイール……裏切ったわね!」
「裏切るも何も……わたくしは最初からあなたの味方ではありませんよ。同じ趣味を持つ者として少々お話をしただけでしょう?」
「そう……あなたも男ですものね……裏切り者! 男なんてみんな裏切り者よ! 私はお姉様のためにも裏切り者を始末しないといけないのよ! その人も裏切る前に始末するの! お姉様のためにその人を始末するのよ!」
半狂乱になって女がわめき散らす。
「支離滅裂になっていますよ。少し頭を冷やしたほうがよろしいようですね」
黒髪の少年がそう言うと、大男が二人部屋に入ってきた。二人の大男が女を拘束すると、女は力なく泣き崩れた。
小さくかすれた声で『裏切り者』と繰り返し続ける。
「ジェス、しっかりして」
金髪の少年が心配そうにアデルジェスを覗き込んでいる。潤んだ緑色の瞳を見ると、胸が痛んだ。
「しばらくすれば戻りますよ。軽く吸い込んだだけのようですし。それよりもミゼアス、フェリスの件はあなたが担当になるわけでしょう? 話を聞いてきてください」
「……嫌だ。僕はジェスの側にいる」
「聞き分けのないことを言わないでください。いつもは聡明なあなたが……。アデルジェスさんのことはわたくしに任せてください。わたくしのほうが薬物には詳しいですし」
「…………」
「もう手出しをしようとはしませんよ。早く行って早く終わらせて、それからアデルジェスさんとゆっくりするほうがよろしいのではありませんか?」
「……わかった。行ってくるよ。ジェスのこと、頼むよ」
黒髪の少年と金髪の少年が何かを言い合った後、金髪の少年はアデルジェスに心配そうな視線を向けつつ、部屋を出て行った。
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