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75.臆病者
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『我が身が可愛いだけの臆病者』とはまさに自分のことだとアデルジェスは思う。
本当にミゼアスのことだけを考えれば、島に残るべきなのではないだろうか。
この島でだって、何らかの仕事は見つけられるかもしれない。そうすればミゼアスの世話になって金をたからずとも、自分で自分の食い扶持くらいはどうにかなるだろう。
しかし、そうではないのだ。それは理由のひとつではあっても、全てではない。
島に残りたくない最も大きな理由、それはミゼアスが他の男に抱かれる姿を近くで見ていたくないからなのだ。
いくら滅多に床入りをしないとはいっても、まったくないわけではないだろう。ここ数日の間にはなかったようだったが、この先ずっと側にいればいつかはそういう時も来るはずだ。
今まで気づかなかったが、どうやらアデルジェスは独占欲が強いようだった。想い合っていることを知る前ですら、嫉妬から暴走しかけてしまったくらいだ。それが想い合っていることを確認した今、何かあれば自分を止められる自信がない。
ミゼアスが他の男に抱かれ、陶酔の表情で甘い声をあげる。そう思っただけで、ミゼアスを壊してしまいたくなるくらい乱暴な衝動がわきあがってくる。
このまま近くにいれば、ミゼアスを傷つけてしまうだろう。だから島を出るのだ。
だが、それも綺麗ごとに過ぎないとアデルジェスは気づいていた。
本当はミゼアスを傷つけるのが怖いのではなく、自分が傷つくのが怖いのだ。
まさに、『我が身が可愛いだけの臆病者』だろう。
「白花の頂点に立つミゼアスだって、捨てられる側の存在。お金を積むだけの相手は捨てることができても、想いを寄せる相手からは捨てられるのが私たち。……もう、想いなど忘れて、一時だけの享楽に酔ってみません?」
囁くフェリスの声がどこか遠くから聞こえてくるような気がした。
甘い香りがする。
アデルジェスは頭が白く霞み、何をしていたのかわからなくなってきた。
そういえばフェリスは家が没落したとか、迎えに行くと言った相手がどうのと言っていた。どうやら幼馴染のフェイちゃんとは違うのではないだろうか。ぼんやりとアデルジェスはそう考える。
「さあ……楽しみましょう……」
目の前の女がそう言う。
この女は誰だっただろう。ミゼアスと何か約束をしていたような気がするが、わからない。何をすればいいのだろう。もう頭が働かない。アデルジェスを頭痛が苛む。
女がアデルジェスの上着を脱がせていくのを、アデルジェスは抵抗することもなくただ眺めていた。
本当にミゼアスのことだけを考えれば、島に残るべきなのではないだろうか。
この島でだって、何らかの仕事は見つけられるかもしれない。そうすればミゼアスの世話になって金をたからずとも、自分で自分の食い扶持くらいはどうにかなるだろう。
しかし、そうではないのだ。それは理由のひとつではあっても、全てではない。
島に残りたくない最も大きな理由、それはミゼアスが他の男に抱かれる姿を近くで見ていたくないからなのだ。
いくら滅多に床入りをしないとはいっても、まったくないわけではないだろう。ここ数日の間にはなかったようだったが、この先ずっと側にいればいつかはそういう時も来るはずだ。
今まで気づかなかったが、どうやらアデルジェスは独占欲が強いようだった。想い合っていることを知る前ですら、嫉妬から暴走しかけてしまったくらいだ。それが想い合っていることを確認した今、何かあれば自分を止められる自信がない。
ミゼアスが他の男に抱かれ、陶酔の表情で甘い声をあげる。そう思っただけで、ミゼアスを壊してしまいたくなるくらい乱暴な衝動がわきあがってくる。
このまま近くにいれば、ミゼアスを傷つけてしまうだろう。だから島を出るのだ。
だが、それも綺麗ごとに過ぎないとアデルジェスは気づいていた。
本当はミゼアスを傷つけるのが怖いのではなく、自分が傷つくのが怖いのだ。
まさに、『我が身が可愛いだけの臆病者』だろう。
「白花の頂点に立つミゼアスだって、捨てられる側の存在。お金を積むだけの相手は捨てることができても、想いを寄せる相手からは捨てられるのが私たち。……もう、想いなど忘れて、一時だけの享楽に酔ってみません?」
囁くフェリスの声がどこか遠くから聞こえてくるような気がした。
甘い香りがする。
アデルジェスは頭が白く霞み、何をしていたのかわからなくなってきた。
そういえばフェリスは家が没落したとか、迎えに行くと言った相手がどうのと言っていた。どうやら幼馴染のフェイちゃんとは違うのではないだろうか。ぼんやりとアデルジェスはそう考える。
「さあ……楽しみましょう……」
目の前の女がそう言う。
この女は誰だっただろう。ミゼアスと何か約束をしていたような気がするが、わからない。何をすればいいのだろう。もう頭が働かない。アデルジェスを頭痛が苛む。
女がアデルジェスの上着を脱がせていくのを、アデルジェスは抵抗することもなくただ眺めていた。
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