74 / 138
74.フェリス
しおりを挟む
フェリスに連れてこられたのは、すぐ近くの宿屋のような場所だった。あまり広くはないが清潔な部屋で、卓を挟んで二つの椅子と大きめの寝台がある。
アデルジェスは寝台を見て目をそらした。そしてふつふつと後悔の念がわきあがってくる。
未だにフェリスが幼馴染のあの子ではないかという思いは捨てきれない。そのためについてきてしまったが、ミゼアスと広場で落ち合う約束もしているのだ。あまり遅くなるとミゼアスが心配するだろう。
「あの……話って何だろう?」
落ち着きなく視線をさまよわせながら、アデルジェスは問いかける。
「ふふ……焦らないで。それにしてもミゼアスと仲が良いのね。うらやましいわ」
「え……あ……その……」
「あのミゼアスがずっと側に留めておいているのですものね。それだけ気に入っているのかしら。でも……」
フェリスはそっと手を伸ばし、アデルジェスの頬を両手で優しく挟みこむ。甘く、良い香りがした。
「あなただって、ミゼアスを捨てて出て行くのでしょう?」
静かな声で囁かれ、アデルジェスは頭を重たい鈍器で殴られたような衝撃を覚えた。
そんなつもりはない。しかし、実際にはそうなってしまうことになる。島に残らないかと問われたときに断ったのだ。そうなるしかない。
「いくら愛を誓い合おうと、わずかな間だけの夢。夢は醒めてしまうもの。私たちは夢の中に取り残され、あなたたちは現実に戻る。そうでしょう?」
歌うようにフェリスが囁く。
「……家が没落して幼かった私が売られるとき、いつか迎えに行くと言った方は私のことなど忘れて名家の令嬢を娶った。私に愛を囁き、私だけだと言った方も私を捨てた。花街での約束など、朝露のようなもの。朝になれば儚く消えてしまう。男など、所詮我が身が可愛いだけの臆病者ばかり」
フェリスの言葉がアデルジェスの心を抉る。
自分のことを責められているようにしか感じられない。そして、それに対して言い訳もできないと、自覚があった。
アデルジェスは寝台を見て目をそらした。そしてふつふつと後悔の念がわきあがってくる。
未だにフェリスが幼馴染のあの子ではないかという思いは捨てきれない。そのためについてきてしまったが、ミゼアスと広場で落ち合う約束もしているのだ。あまり遅くなるとミゼアスが心配するだろう。
「あの……話って何だろう?」
落ち着きなく視線をさまよわせながら、アデルジェスは問いかける。
「ふふ……焦らないで。それにしてもミゼアスと仲が良いのね。うらやましいわ」
「え……あ……その……」
「あのミゼアスがずっと側に留めておいているのですものね。それだけ気に入っているのかしら。でも……」
フェリスはそっと手を伸ばし、アデルジェスの頬を両手で優しく挟みこむ。甘く、良い香りがした。
「あなただって、ミゼアスを捨てて出て行くのでしょう?」
静かな声で囁かれ、アデルジェスは頭を重たい鈍器で殴られたような衝撃を覚えた。
そんなつもりはない。しかし、実際にはそうなってしまうことになる。島に残らないかと問われたときに断ったのだ。そうなるしかない。
「いくら愛を誓い合おうと、わずかな間だけの夢。夢は醒めてしまうもの。私たちは夢の中に取り残され、あなたたちは現実に戻る。そうでしょう?」
歌うようにフェリスが囁く。
「……家が没落して幼かった私が売られるとき、いつか迎えに行くと言った方は私のことなど忘れて名家の令嬢を娶った。私に愛を囁き、私だけだと言った方も私を捨てた。花街での約束など、朝露のようなもの。朝になれば儚く消えてしまう。男など、所詮我が身が可愛いだけの臆病者ばかり」
フェリスの言葉がアデルジェスの心を抉る。
自分のことを責められているようにしか感じられない。そして、それに対して言い訳もできないと、自覚があった。
4
お気に入りに追加
147
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜
7ズ
BL
異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。
攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。
そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。
しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。
彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。
どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。
ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。
異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。
果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──?
ーーーーーーーーーーーー
狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる