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31.敵わない相手

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「……ちょっと暗い話になっちゃったね。気分を変えて、どこか遊びに行こうか」

「遊び?」

「賭博場でも行ってみる?」

「賭博場!?」

「うん、そういった施設もあるよ。でも、貴族や裕福な相手向けでわりとお上品だから安心して」

「いや……そういうところは……」

 兵士たちの間でも賭博はよく行われる。しかしアデルジェスは自分には向いていないという自覚があった。顔にすぐ出てしまうので、同僚たちの格好の餌食とされていたのだ。
 それに金銭面の問題もある。貴族や裕福な相手向けということは、掛け金も高そうだ。アデルジェスの懐を考えると、かなり無理があるように思えた。

「じゃあきみが気になっている、広場の奥に行ってみるかい? あの辺の店で場所だけ借りて遊ぶこともできるよ」

「それって……変態向けの店だって言っていなかったっけ……?」

「うん、でも度合いがあるし。痛いのや汚いの、畜生は嫌だけれど、雰囲気だけとか軽いものだったら僕もまんざらでもない」

 ミゼアスは軽く目を伏せる。恥らっているように見えなくもない。

「はい!?」

「ああ、でも特殊趣味は無理。笛の音に欲情したりしないし、それだけで射精なんて僕にはできない。合わせ鏡の間に肉を置いて見つめるのも、意味がわからない」

「……それ……なに……?」

 ミゼアスの言っていることがわからない。笛や合わせ鏡とは、何かの隠語なのだろうか。アデルジェスは頭が痛くなりそうだった。

「僕にはわからない世界だけれど、笛愛好家っていうのが意外といるらしい。世界各地の笛を取り揃えた店があるんだよ。吹き手に吹いてもらってどれがどう下半身に響くかを試し、お気に入りの一品を見つけたり、そのときの気分で使い分けたりできるんだって。それから……」

「ごめんなさい! もういいです! 聞きたくないです!」

 アデルジェスは上擦った声で叫んだ。
 あまりに深い茨道すぎる。理解できないし、理解したくもない世界だった。

「そういう変なのなしで! ごくごく普通の散歩がいいです。お願いします」

「ずいぶん健全だねぇ。まあ、きみがいいならいいけど」

 ミゼアスはあっけらかんと答える。
 やはり敵う相手ではない。アデルジェスは了承の返事を得られたことに安堵しながらも、身体が震えそうになるのを感じていた。
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