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23.学校

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「ここ、ずっと使っていても大丈夫なの?」

「……?」

「誰か別の人が待っていたりしない?」

 おそらくミゼアスの優先順位は高いのだろうが、この浴室を他に使いたい人が待っているのかもしれない。気になってアデルジェスは尋ねてみた。

「ここは僕専用の浴室だよ。誰も来やしないよ」

 あっさりと答えが返ってくる。

「……僕の部屋から繋がっているんだし、裸でここまで来たじゃないか。どうしたら誰か待っているって思えるんだい?」

 ミゼアスの声は少々呆れたようだった。確かにごもっともだ。

「ああ……見習いの子たちのことかい? 掃除に来ることはあるけれど、今は学校に行っている時間だよ」

「学校?」

 意外な言葉を聞いたように思う。この巨大な娼館である島にも学校などあるのか。

「どんなことを習うの?」

「まずは読み書き、算術、礼儀作法など……多分、普通の街の学校とそんなに変わらない内容だと思うよ、最初は」

「へえ……」

「昇級していくと、楽器や踊り、詩の朗誦などが加わっていく。もしかしたら想像しているかもしれない、いやらしい実地教育のようなものはないから。身体の仕組みは学ぶけれど」

「はは……」

 実は想像していたアデルジェスは、笑ってごまかす。
 客を虜にするような技術を学んでいるのではないかという考えはあったが、見事に否定された。実際はかなり高い教育水準を誇る学校のようだ。
 この島は高級娼館だ。知性や教養が必要とされるのは昨日も聞いたとおりである。
 アデルジェスは不夜島の存在自体は聞いたことがあったものの、今まで関心を向けたことがなかったので、どうも感覚がよくつかめない。

 アデルジェスも学校に通ったことはある。可もなく不可もなくといった普通の生徒だった。おそらくここの学校ではついていけそうにない。
 自分が学校に通っていた頃のことを思い出し、ミゼアスの顔をじっと見る。これくらいの年齢のときには学校に通っていたような気がする。

「……もしかして、僕は何で学校に行かないんだって思っていたりする?」

 アデルジェスの視線に気づいたのか、ミゼアスはやや顔をひきつらせながら問いかけてきた。少々気後れしたものの、アデルジェスは頷く。

「……五花の僕に対し、面白い疑問だね……。とっくに卒業しているし、僕が教えてやれるよ……」

 苦笑しながら、低い声でミゼアスが言う。
 思えば、見習いのアルンがミゼアスの知性と教養を称えていた。五花になるには相当高い知性と教養が必要だとも。
 それならば当然、ミゼアスは今さら学校に行くような身分ではないだろう。
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