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14.捕食

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 アデルジェスは混乱していた。
 息がかかりそうなほどミゼアスの顔が近い。というより、実際に息がかかっている。それどころか顔の一部が接触している。さらに言えば、何かに侵入されている。
 息が出来ず、苦しい。

「鼻で息、して?」

 一旦離れたミゼアスが笑いを滲ませた声で囁く。甘ったるい声だった。
 言われたとおり、アデルジェスは鼻に意識を集中する。鼻で息、鼻で息、と呪文のように心の中で繰り返す。
 すると再びミゼアスの顔が近づいてきた。唇を重ね、アデルジェスの唇の隙間を舌でなぞり、からかうような動きで舌を侵入させてくる。鼻で息をするのに精一杯なアデルジェスは抵抗することもできず、舌を受け入れた。

 ミゼアスはアデルジェスの舌を捕らえ、ねっとりと絡めてくる。幾度も角度を変えて貪られ、室内には濡れた音だけが響いた。
 ぞくぞくとした怯え混じりの快感がわき上がり、頭の中が痺れるようだった。身体の中心から熱が広がり、全身を炎に食い荒らされているかのように感じる。
 鼻で息をすることすら忘れそうになる頃、ようやく唇が離れた。

「い……今のは……」

 荒い呼吸を整えつつ、呆然とアデルジェスは呟く。

「今の口づけ? よくなかった?」

 いっそ無邪気な様子で首を傾げるミゼアス。

「よ……よくなかったわけじゃ……ない……けど……」

 真っ赤になりながら俯く。
 唇を重ねるだけの口づけは経験したことがある。しかし、このような舌を絡めあわせ快感を追う、官能的な口づけがあるなど知らなかった。
 しかも相手は同性だ。だが嫌悪感など微塵もなかった。そのことも信じられない。

「あぁ……もしかして、こういう口づけは初めて?」

「え……いや、その……」

「ふうん、じゃあ性交経験は?」

「なっ!?」

 こともなげに尋ねてくるミゼアスに、アデルジェスは目を白黒させることしかできなかった。

「そうか、初物か。よし、わかった。僕に任せなよ。はりきっちゃうよ」

「何を!?」

「大丈夫、きみは突っ込む側だから安心して」

「そ……それなら……って、違う!」

 ミゼアスは抵抗を口にするアデルジェスの膝の上に、まるで子供のような仕草で乗っかってきた。そしてその仕草とは裏腹に蠱惑的な笑みを浮かべ、すでに硬く膨らみかけていたアデルジェスの形に指を這わせる。

「中途半端なままじゃ辛くない? もっと気持ちいいこと、したくない……?」

 まるで身体中を愛撫されているようにすら感じる、ねっとりと絡みつく甘い声。
 アデルジェスはごくりと喉を鳴らし、目の前の美しい顔を眺めることしかできなかった。
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