不夜島の少年～兵士と高級男娼の七日間～

09．出られる日を夢見て

「ちょっと着やせするのね。結構しっかり筋肉ついていて逞しいわ」

　うつ伏せに寝たアデルジェスの上に乗り、ネリーは背中に香油を垂らした。
　やや酸味のある爽やかな香りが鼻をつき、続いて甘い花のような香りが絡みつく。
　そしてネリーの細い手がしなやかに背中を這い回る。

「痛かったら言ってね。それとしたくなったら、いつでも言ってちょうだい」

「え……いや……その……」

　ネリーは冗談だけれど本気よ、と笑うとマッサージを続ける。
　線の細いネリーからは考えにくい力強さだった。アデルジェスにとっては程よい力加減で、心地よさに身体から力が抜けていく。

「どう？」

「ああ……気持ちいい」

「よかった。少しでも満足してもらわないとね」

　屈託のない声で、ネリーは笑う。

「ネリーは……売られてきたって言っていたよね。それって、ずっとここで働き続けないといけないの？」

　気になり、アデルジェスは尋ねてみる。
　幼馴染のフェイも重なる境遇だ。どういうものなのか、知りたかった。

「借金を返し終わるまではね。借金を返せば後は自由よ。それまでは島から出られないけれどね」

「そっか」

　やはり問題となるのは、借金のようだ。
　おそらく、そう簡単に返せるものではないのだろう。

「あとは、身請けされて出て行くかね。……あたしがまだ見習いだった頃、姉さんの一人がどこかの貴族に身請けされていった姿を今でも覚えているわ」

　ネリーの声に、懐かしさと切なさが宿る。

「金色の髪に鮮やかな真紅の薔薇を編みこんでいて、綺麗だったわ。とても幸せそうに笑っていて、姉さんの笑顔のほうが大輪の薔薇よりもずっと見事だった。そして貴族の男に手を引かれて、島を去っていったのよ。あのとき、いつか自分もああやって幸せに……そう夢見たわ」