きみを待つ

四葉 翠花

文字の大きさ
上 下
59 / 63
後日談

きみに会えた2

しおりを挟む
「まあ、大変ですけれど、せっかく俺をご指名なんだから、受けて立たないと」

「おや、勇ましいね」

 思わずミゼアスは感心したような声を漏らす。

「本音を言えば、まとめてほしいんですけれどね。二人同時のほうが楽だし。やっぱり、まとめてもらえないか聞いてみようかな」

「……ずいぶんと勇ましいじゃないか。同時だったら、どうやってこなすつもりなんだい? 口? 手? 足?」

「いやだなー、ミゼアス兄さん。飲み比べに決まってるじゃないですか。一人を相手にするのも、二人を相手にするのも同じですよ……っていうか、同時のほうが楽」

 ヴァレンの答えにミゼアスは額を指で押さえる。
 ここは娼館ではなかっただろうか。何故、飲み比べなどするのか理解できない。客の側もそれでよいのだろうか。
 見習いの頃に散々頭を抱えさせられたヴァレンだが、立派に上級の四花となった今でもときどきミゼアスに頭痛をもたらしてくる。

「……ほんっとに、きみにはがっかりだよ。もう、酒豪王を名乗りなよ」

「あっはっは。まあ、俺のことはどうでもいいんです。それより……良かったですね、ミゼアス兄さん。頑張ってくださいね」

「え……あ、うん……」

 虚をつかれ、ミゼアスは怯む。
 ヴァレンには監視対象が幼馴染であることなど、何も言っていない。しかし、どうもわかっているかのような口ぶりだ。
 普段の行動はとんでもないヴァレンだが、ときおり恐ろしいくらいに物事を見抜く。

「俺にできることがあったら、遠慮しないで言ってくださいね。何でも引き受けますから。いいかげん、ミゼアス兄さんは自分の幸せのことを考えてください。もし、島を出るのだとしたら、見習いの子たちだって引き受けますよ」

「ヴァレン……?」

「俺は四花だから、見習いを複数抱えることだってできます。もし、後のことが心配だなんて思っても、気にしないでください。どうにかなりますから。ミゼアス兄さんは、自分のことだけ考えてください」

 驚いて目を見開くミゼアスに構うことなく、ヴァレンは穏やかに言葉を続ける。

「今までミゼアス兄さんは、五花として立派に振る舞ってきました。二花止まりといわれていた俺が四花になれたのも、ミゼアス兄さんのおかげです。だから、もう自分の幸せのために、全部俺に丸投げしちゃっていいですよ」

 そう言ってヴァレンは笑う。幼い頃から変わらない、無邪気で眩しい笑顔だ。
 ミゼアスは、目の前のヴァレンがとても大きく見えた。
 もうとっくに身長は追い抜かされているのだが、ミゼアスの中ではいつまでもヴァレンは小さな子供のような存在だった。それが、いつの間にこれほど成長していたのだろう。

 ヴァレンを自分付きとして預かった日から今までの出来事が、ミゼアスの脳裏に蘇っていく。振り回されはしたが、自暴自棄になっていたミゼアスを救ってくれたのはヴァレンだ。
 ヴァレンが見習いとして側にあった日々は、極彩色の光を散りばめたような、慌しくも幸福な日々だった。
 思わずミゼアスの瞳に涙がこみあげてくる。

「あー、泣いたら化粧がはげますよ? これから幸せをつかまえに行くんだから、笑って、笑って」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

闇を照らす愛

モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。 与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。 どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。 抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。

処理中です...