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後日談
きみに会えた2
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「まあ、大変ですけれど、せっかく俺をご指名なんだから、受けて立たないと」
「おや、勇ましいね」
思わずミゼアスは感心したような声を漏らす。
「本音を言えば、まとめてほしいんですけれどね。二人同時のほうが楽だし。やっぱり、まとめてもらえないか聞いてみようかな」
「……ずいぶんと勇ましいじゃないか。同時だったら、どうやってこなすつもりなんだい? 口? 手? 足?」
「いやだなー、ミゼアス兄さん。飲み比べに決まってるじゃないですか。一人を相手にするのも、二人を相手にするのも同じですよ……っていうか、同時のほうが楽」
ヴァレンの答えにミゼアスは額を指で押さえる。
ここは娼館ではなかっただろうか。何故、飲み比べなどするのか理解できない。客の側もそれでよいのだろうか。
見習いの頃に散々頭を抱えさせられたヴァレンだが、立派に上級の四花となった今でもときどきミゼアスに頭痛をもたらしてくる。
「……ほんっとに、きみにはがっかりだよ。もう、酒豪王を名乗りなよ」
「あっはっは。まあ、俺のことはどうでもいいんです。それより……良かったですね、ミゼアス兄さん。頑張ってくださいね」
「え……あ、うん……」
虚をつかれ、ミゼアスは怯む。
ヴァレンには監視対象が幼馴染であることなど、何も言っていない。しかし、どうもわかっているかのような口ぶりだ。
普段の行動はとんでもないヴァレンだが、ときおり恐ろしいくらいに物事を見抜く。
「俺にできることがあったら、遠慮しないで言ってくださいね。何でも引き受けますから。いいかげん、ミゼアス兄さんは自分の幸せのことを考えてください。もし、島を出るのだとしたら、見習いの子たちだって引き受けますよ」
「ヴァレン……?」
「俺は四花だから、見習いを複数抱えることだってできます。もし、後のことが心配だなんて思っても、気にしないでください。どうにかなりますから。ミゼアス兄さんは、自分のことだけ考えてください」
驚いて目を見開くミゼアスに構うことなく、ヴァレンは穏やかに言葉を続ける。
「今までミゼアス兄さんは、五花として立派に振る舞ってきました。二花止まりといわれていた俺が四花になれたのも、ミゼアス兄さんのおかげです。だから、もう自分の幸せのために、全部俺に丸投げしちゃっていいですよ」
そう言ってヴァレンは笑う。幼い頃から変わらない、無邪気で眩しい笑顔だ。
ミゼアスは、目の前のヴァレンがとても大きく見えた。
もうとっくに身長は追い抜かされているのだが、ミゼアスの中ではいつまでもヴァレンは小さな子供のような存在だった。それが、いつの間にこれほど成長していたのだろう。
ヴァレンを自分付きとして預かった日から今までの出来事が、ミゼアスの脳裏に蘇っていく。振り回されはしたが、自暴自棄になっていたミゼアスを救ってくれたのはヴァレンだ。
ヴァレンが見習いとして側にあった日々は、極彩色の光を散りばめたような、慌しくも幸福な日々だった。
思わずミゼアスの瞳に涙がこみあげてくる。
「あー、泣いたら化粧がはげますよ? これから幸せをつかまえに行くんだから、笑って、笑って」
「おや、勇ましいね」
思わずミゼアスは感心したような声を漏らす。
「本音を言えば、まとめてほしいんですけれどね。二人同時のほうが楽だし。やっぱり、まとめてもらえないか聞いてみようかな」
「……ずいぶんと勇ましいじゃないか。同時だったら、どうやってこなすつもりなんだい? 口? 手? 足?」
「いやだなー、ミゼアス兄さん。飲み比べに決まってるじゃないですか。一人を相手にするのも、二人を相手にするのも同じですよ……っていうか、同時のほうが楽」
ヴァレンの答えにミゼアスは額を指で押さえる。
ここは娼館ではなかっただろうか。何故、飲み比べなどするのか理解できない。客の側もそれでよいのだろうか。
見習いの頃に散々頭を抱えさせられたヴァレンだが、立派に上級の四花となった今でもときどきミゼアスに頭痛をもたらしてくる。
「……ほんっとに、きみにはがっかりだよ。もう、酒豪王を名乗りなよ」
「あっはっは。まあ、俺のことはどうでもいいんです。それより……良かったですね、ミゼアス兄さん。頑張ってくださいね」
「え……あ、うん……」
虚をつかれ、ミゼアスは怯む。
ヴァレンには監視対象が幼馴染であることなど、何も言っていない。しかし、どうもわかっているかのような口ぶりだ。
普段の行動はとんでもないヴァレンだが、ときおり恐ろしいくらいに物事を見抜く。
「俺にできることがあったら、遠慮しないで言ってくださいね。何でも引き受けますから。いいかげん、ミゼアス兄さんは自分の幸せのことを考えてください。もし、島を出るのだとしたら、見習いの子たちだって引き受けますよ」
「ヴァレン……?」
「俺は四花だから、見習いを複数抱えることだってできます。もし、後のことが心配だなんて思っても、気にしないでください。どうにかなりますから。ミゼアス兄さんは、自分のことだけ考えてください」
驚いて目を見開くミゼアスに構うことなく、ヴァレンは穏やかに言葉を続ける。
「今までミゼアス兄さんは、五花として立派に振る舞ってきました。二花止まりといわれていた俺が四花になれたのも、ミゼアス兄さんのおかげです。だから、もう自分の幸せのために、全部俺に丸投げしちゃっていいですよ」
そう言ってヴァレンは笑う。幼い頃から変わらない、無邪気で眩しい笑顔だ。
ミゼアスは、目の前のヴァレンがとても大きく見えた。
もうとっくに身長は追い抜かされているのだが、ミゼアスの中ではいつまでもヴァレンは小さな子供のような存在だった。それが、いつの間にこれほど成長していたのだろう。
ヴァレンを自分付きとして預かった日から今までの出来事が、ミゼアスの脳裏に蘇っていく。振り回されはしたが、自暴自棄になっていたミゼアスを救ってくれたのはヴァレンだ。
ヴァレンが見習いとして側にあった日々は、極彩色の光を散りばめたような、慌しくも幸福な日々だった。
思わずミゼアスの瞳に涙がこみあげてくる。
「あー、泣いたら化粧がはげますよ? これから幸せをつかまえに行くんだから、笑って、笑って」
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