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29.似顔絵
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やがてヴァレンが目を覚ました。
「あれ? 俺、寝ちゃってました?」
すっかりけろりとした顔をし、ヴァレンは不思議そうに呟く。まるでいつの間にか昼寝をしてしまったといわんばかりの様子だった。
無事な様子に胸を撫で下ろしながら、ミゼアスは状況を説明する。
「ああ……そういえば、砂糖菓子を食べてからよく覚えていないような……心配かけて、ごめんなさい」
ヴァレンは寝台の上で上半身を起こしながら、ちょこんと頭を下げて謝る。
「きみが謝る必要なんてない。僕の不注意だ。きみを苦しめてしまって、本当にすまない……」
「大丈夫です! 最初は熱かったような気がしますけれど、途中から何だかふわふわと気持ちのいい夢を見ていたように思います」
ミゼアスは自らの不甲斐なさにいたたまれなくなりながら謝罪するが、ヴァレンはあっさりと受け流した。
「……えっと、夢のことは覚えている?」
「え? いえ……何だか、気持ちよかったなーくらいにしか覚えていません」
首を傾げてヴァレンは答える。どうやら、口づけのことは覚えていないようだ。
「どうかしましたか?」
「ん……いや、別に……えっと、それよりもきみが道案内をしたっていう客のことだけれど……」
どうも照れくさくなってしまい、ミゼアスは話題を変える。覚えていないのなら、それはそれでよい。
ヴァレンはややきょとんとした顔をしていたが何も言わず、ミゼアスの話に耳を傾けていた。
予想どおり、ヴァレンは道案内をした客のことをしっかり覚えていた。特徴を聞き出そうとしたら、ヴァレンは似顔絵を描き始めた。迷いなく、筆が動いていく。
まもなく出来上がったのは、とても精巧で緻密な絵だった。人そのものが紙の中に閉じ込められているかのようだ。
さらにヴァレンは『左耳の下にほくろ』などの特徴を記載していく。
「こんな感じですー」
ひととおり記載も終えたようで、ヴァレンは似顔絵をミゼアスに渡す。
これ以上に詳しい似顔絵など、ありえなさそうな出来だ。
「きみ……凄いね……」
ミゼアスも絵画のたしなみはあったが、ここまで精密な絵は描けそうにない。思わず感嘆の吐息を漏らす。
「じゃあ、今晩のお仕事の準備をしないと」
平然とヴァレンは日常に戻ろうとする。
「え? きみ、今日は休んでいていいよ。疲れただろう」
「いえ、大丈夫です! 今日も頑張ります!」
びしっと片手を上げて、ヴァレンは宣言した。
「無理していないかい? 本当に大丈夫?」
「大丈夫です! それに、今日は頑張らなきゃいけません!」
ミゼアスの心配をよそに、ヴァレンは声を張り上げる。
「はあ……」
確かに元気そうだし、本人がここまで言うのなら……とミゼアスも承諾した。
今日の予定は、あの茶色の髪に水色の瞳を持つ客だ。
ヴァレンが何故今日は頑張らなければならないのかは不明だが、もしかしたらあの客のことを気に入っているのかもしれない。
あまり深く考えず、ミゼアスは支度を始めることにした。
「あれ? 俺、寝ちゃってました?」
すっかりけろりとした顔をし、ヴァレンは不思議そうに呟く。まるでいつの間にか昼寝をしてしまったといわんばかりの様子だった。
無事な様子に胸を撫で下ろしながら、ミゼアスは状況を説明する。
「ああ……そういえば、砂糖菓子を食べてからよく覚えていないような……心配かけて、ごめんなさい」
ヴァレンは寝台の上で上半身を起こしながら、ちょこんと頭を下げて謝る。
「きみが謝る必要なんてない。僕の不注意だ。きみを苦しめてしまって、本当にすまない……」
「大丈夫です! 最初は熱かったような気がしますけれど、途中から何だかふわふわと気持ちのいい夢を見ていたように思います」
ミゼアスは自らの不甲斐なさにいたたまれなくなりながら謝罪するが、ヴァレンはあっさりと受け流した。
「……えっと、夢のことは覚えている?」
「え? いえ……何だか、気持ちよかったなーくらいにしか覚えていません」
首を傾げてヴァレンは答える。どうやら、口づけのことは覚えていないようだ。
「どうかしましたか?」
「ん……いや、別に……えっと、それよりもきみが道案内をしたっていう客のことだけれど……」
どうも照れくさくなってしまい、ミゼアスは話題を変える。覚えていないのなら、それはそれでよい。
ヴァレンはややきょとんとした顔をしていたが何も言わず、ミゼアスの話に耳を傾けていた。
予想どおり、ヴァレンは道案内をした客のことをしっかり覚えていた。特徴を聞き出そうとしたら、ヴァレンは似顔絵を描き始めた。迷いなく、筆が動いていく。
まもなく出来上がったのは、とても精巧で緻密な絵だった。人そのものが紙の中に閉じ込められているかのようだ。
さらにヴァレンは『左耳の下にほくろ』などの特徴を記載していく。
「こんな感じですー」
ひととおり記載も終えたようで、ヴァレンは似顔絵をミゼアスに渡す。
これ以上に詳しい似顔絵など、ありえなさそうな出来だ。
「きみ……凄いね……」
ミゼアスも絵画のたしなみはあったが、ここまで精密な絵は描けそうにない。思わず感嘆の吐息を漏らす。
「じゃあ、今晩のお仕事の準備をしないと」
平然とヴァレンは日常に戻ろうとする。
「え? きみ、今日は休んでいていいよ。疲れただろう」
「いえ、大丈夫です! 今日も頑張ります!」
びしっと片手を上げて、ヴァレンは宣言した。
「無理していないかい? 本当に大丈夫?」
「大丈夫です! それに、今日は頑張らなきゃいけません!」
ミゼアスの心配をよそに、ヴァレンは声を張り上げる。
「はあ……」
確かに元気そうだし、本人がここまで言うのなら……とミゼアスも承諾した。
今日の予定は、あの茶色の髪に水色の瞳を持つ客だ。
ヴァレンが何故今日は頑張らなければならないのかは不明だが、もしかしたらあの客のことを気に入っているのかもしれない。
あまり深く考えず、ミゼアスは支度を始めることにした。
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