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第三章 巡り会い
131.四通の手紙
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懐かしい姿が、ミゼアスに抱きついてくる。もう小さな子供ではないのだから、全力でやってこられると倒れそうだと苦笑しながらも、ミゼアスはヴァレンを抱きしめてやった。
「ヴァレン……よかった、間に合ったみたいだね」
「ミゼアス兄さん……」
腕の中のヴァレンは感極まった様子で、ミゼアスの名を呼ぶだけだ。
「夜明け前に目が覚めたんだけれど、しばらくしてきみがいないことに気づいてね。昔からきみは海岸が好きだったし、もしかしたら……と思って来てみたんだ。でも、もう島に戻るんだね」
無事に会えたことにほっとしながらも、ヴァレンは帰る間際だったのだろうと見当をつけて、ミゼアスは語りかける。
「はい……ご挨拶に行かなきゃいけなかったのに、申し訳ありません……」
「いいんだよ。きみには、何か事情があるんだろう? きみのほうが大変なんだから、僕に気を遣う必要なんてないよ。僕は、きみにお礼を言うべき立場であって、文句など何も言えやしないよ」
わざと不義理をしたわけではないことくらい、容易に想像がつく。
おそらく、ヴァレンはミゼアスのこと以外にも、何かするべきことがあったのだろう。白花が島を出るくらいなのだから、何があっても不思議ではなかった。
今、するべきことは詮索ではなく、ヴァレンを抱きしめてやることだ。
ヴァレンはしばしミゼアスの腕の中に浸っていたが、やがて時間も近づいてきたのか、身を離す。
「ああ……そうだ。アルン、ブラム、コリンに手紙を書いたんだ。渡しておいてもらえるかい?」
ミゼアスは四通の手紙を取り出してヴァレンに渡した。
「はい、わかりました。でも、一通多くないですか?」
受け取りながら、ヴァレンは首を傾げる。自分宛てを考えもしないヴァレンの姿に、ミゼアスはくすりと笑いを漏らす。
「ひとつは、きみ宛てだよ。まあ、たいしたことは書いていないけどね」
「……ありがとうございます」
驚いたように手紙を眺めた後、ヴァレンは服のかくしにそっとしまう。
「さて、そろそろよいか?」
重々しい声が響いた。他に人がいたらしいことにミゼアスは驚くが、何も言わずに見守る。
「ヴァレン……よかった、間に合ったみたいだね」
「ミゼアス兄さん……」
腕の中のヴァレンは感極まった様子で、ミゼアスの名を呼ぶだけだ。
「夜明け前に目が覚めたんだけれど、しばらくしてきみがいないことに気づいてね。昔からきみは海岸が好きだったし、もしかしたら……と思って来てみたんだ。でも、もう島に戻るんだね」
無事に会えたことにほっとしながらも、ヴァレンは帰る間際だったのだろうと見当をつけて、ミゼアスは語りかける。
「はい……ご挨拶に行かなきゃいけなかったのに、申し訳ありません……」
「いいんだよ。きみには、何か事情があるんだろう? きみのほうが大変なんだから、僕に気を遣う必要なんてないよ。僕は、きみにお礼を言うべき立場であって、文句など何も言えやしないよ」
わざと不義理をしたわけではないことくらい、容易に想像がつく。
おそらく、ヴァレンはミゼアスのこと以外にも、何かするべきことがあったのだろう。白花が島を出るくらいなのだから、何があっても不思議ではなかった。
今、するべきことは詮索ではなく、ヴァレンを抱きしめてやることだ。
ヴァレンはしばしミゼアスの腕の中に浸っていたが、やがて時間も近づいてきたのか、身を離す。
「ああ……そうだ。アルン、ブラム、コリンに手紙を書いたんだ。渡しておいてもらえるかい?」
ミゼアスは四通の手紙を取り出してヴァレンに渡した。
「はい、わかりました。でも、一通多くないですか?」
受け取りながら、ヴァレンは首を傾げる。自分宛てを考えもしないヴァレンの姿に、ミゼアスはくすりと笑いを漏らす。
「ひとつは、きみ宛てだよ。まあ、たいしたことは書いていないけどね」
「……ありがとうございます」
驚いたように手紙を眺めた後、ヴァレンは服のかくしにそっとしまう。
「さて、そろそろよいか?」
重々しい声が響いた。他に人がいたらしいことにミゼアスは驚くが、何も言わずに見守る。
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