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第三章 巡り会い
97.高嶺の花
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アデルジェスはイーノスに連れられて、荷物運びの手伝いをしていた。
まさか竪琴を求めてやってきた雑貨屋の店主がミゼアスの知り合いだとは、思いもしなかった。しかも、不夜島で先輩の白花だったという。そう言われれば、思わず目を奪われそうになった艶のある美貌も納得だ。
マリオンを目にしたときのミゼアスの様子は、ただ古い知り合いに会ったというだけではないように見えた。
まるで長年背負い続けていた荷物をやっと降ろしたかのような、安堵の滲んだ表情だった。
二人の間にいったい何があったのだろうか。
気にはなるが、先ほどの二人のやり取りを見ればひとまず心配はいらないようだ。
後で、きっとミゼアスが話してくれるだろう。
「あの二人のことが気になるのかな?」
アデルジェスの思いを見透かしたように、イーノスが問いかけてくる。
「そう、ですね……」
「詳しいことは、後で直接話してくれるだろう。あの二人は不夜島で白花だった頃、いろいろとあってね。マリオンにとっては、失意のうちに決別しなくてはならなかった相手だ。月日が流れ、今ならきっと溝を埋めることができるだろう。あなたには悪いが、少しの間、二人だけにしてあげてほしい」
穏やかに話すイーノスの瞳には、深く、静かな愛情がたたえられている。マリオンのことを本当に想っているのだろう。
詳しいことはよくわからないが、おそらくミゼアスのためにもなるように思えた。アデルジェスはゆっくりと頷く。
「さて、奥から竪琴を持ってこようか。あなたがもし来たとしたら出す予定だった竪琴は、きっと使わないだろうからね」
「え?」
つい、疑問の声が漏れてしまった。いったい、どういうことだろうか。
「当代一の花月琴の名手であるミゼアスにふさわしい楽器など、店先に置いてはおけないよ。竪琴の腕だって、相当なものだろう。奥にある高級品でも、はたして納得できるものがあるかどうか……」
イーノスは軽く眉根を寄せ、考え込みながら呟く。
普通に売っている楽器など、ミゼアスにはふさわしくないということか。アデルジェスが手に入れることができるような品では駄目なのだろう。
またもミゼアスとの隔たりを思い知らされたようで、アデルジェスの心に重たい影が落ちてくる。
「……ミゼアスって、やっぱり凄いんですね」
沈んだ声がアデルジェスの口から漏れた。
「何をいまさら。あなたはミゼアスの夫だろう?」
不思議そうなイーノスの声を聞きながら、アデルジェスは床を見つめる。
「……俺、一介の兵士だったんです。今はもっとひどい無職ですけれど……。不夜島にだって、本来なら行けるような身分じゃなかった」
本来であれば、ミゼアスはアデルジェスなど口もきけないような高嶺の花なのだ。
ミゼアスが降りてきてくれたからこそ今の関係があるわけで、アデルジェスが高みにのぼったわけではない。
まさか竪琴を求めてやってきた雑貨屋の店主がミゼアスの知り合いだとは、思いもしなかった。しかも、不夜島で先輩の白花だったという。そう言われれば、思わず目を奪われそうになった艶のある美貌も納得だ。
マリオンを目にしたときのミゼアスの様子は、ただ古い知り合いに会ったというだけではないように見えた。
まるで長年背負い続けていた荷物をやっと降ろしたかのような、安堵の滲んだ表情だった。
二人の間にいったい何があったのだろうか。
気にはなるが、先ほどの二人のやり取りを見ればひとまず心配はいらないようだ。
後で、きっとミゼアスが話してくれるだろう。
「あの二人のことが気になるのかな?」
アデルジェスの思いを見透かしたように、イーノスが問いかけてくる。
「そう、ですね……」
「詳しいことは、後で直接話してくれるだろう。あの二人は不夜島で白花だった頃、いろいろとあってね。マリオンにとっては、失意のうちに決別しなくてはならなかった相手だ。月日が流れ、今ならきっと溝を埋めることができるだろう。あなたには悪いが、少しの間、二人だけにしてあげてほしい」
穏やかに話すイーノスの瞳には、深く、静かな愛情がたたえられている。マリオンのことを本当に想っているのだろう。
詳しいことはよくわからないが、おそらくミゼアスのためにもなるように思えた。アデルジェスはゆっくりと頷く。
「さて、奥から竪琴を持ってこようか。あなたがもし来たとしたら出す予定だった竪琴は、きっと使わないだろうからね」
「え?」
つい、疑問の声が漏れてしまった。いったい、どういうことだろうか。
「当代一の花月琴の名手であるミゼアスにふさわしい楽器など、店先に置いてはおけないよ。竪琴の腕だって、相当なものだろう。奥にある高級品でも、はたして納得できるものがあるかどうか……」
イーノスは軽く眉根を寄せ、考え込みながら呟く。
普通に売っている楽器など、ミゼアスにはふさわしくないということか。アデルジェスが手に入れることができるような品では駄目なのだろう。
またもミゼアスとの隔たりを思い知らされたようで、アデルジェスの心に重たい影が落ちてくる。
「……ミゼアスって、やっぱり凄いんですね」
沈んだ声がアデルジェスの口から漏れた。
「何をいまさら。あなたはミゼアスの夫だろう?」
不思議そうなイーノスの声を聞きながら、アデルジェスは床を見つめる。
「……俺、一介の兵士だったんです。今はもっとひどい無職ですけれど……。不夜島にだって、本来なら行けるような身分じゃなかった」
本来であれば、ミゼアスはアデルジェスなど口もきけないような高嶺の花なのだ。
ミゼアスが降りてきてくれたからこそ今の関係があるわけで、アデルジェスが高みにのぼったわけではない。
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