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第二章 南へ
58.思わぬ人物
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再び、二人で様々な店を見て歩く。
「あ、夕月花の飴なんて売ってる」
ふとミゼアスは足を止める。
「夕月花の飴?」
「うん、食べると身体からほのかな花の芳香がするっていう飴。でも……」
ミゼアスは言葉を区切り、背伸びをしてアデルジェスの耳元に顔を近づける。
「値段が安すぎる。偽物かもしれないね」
「そうなんだ……」
それきり飴には興味を失い、また別の品を見て行く。
怪しい品からよくある日用品、異国の珍しい品までいろいろな物があり、見て回るのは楽しい。しかし、さすがにだんだんと疲労がのしかかってくる。空腹も覚えてきた。
「ああ、食べ物の屋台がある。何か食べようか」
アデルジェスが屋台の並ぶ通りを指す。食べ物の屋台がいくつかあって、食事ができる場所も設けられているようだ。酒を飲んで盛り上がっている人々もいた。
「そうだね。こういうところで食べるのも面白そうだね」
屋台で肉と野菜が挟まれたパンと果実茶を買って、二人は空いている座席を探す。
食べ物や酒などを持った売り子たちが、座席の間を軽やかに歩き回っている。席を探す二人に気付いた売り子の一人が、向こうが空いていますよと声をかけてくれた。二人は礼を言ってそちらに向かう。
南方の人々は陽気だといわれるのがわかるようだった。あちこちで乾杯の叫びが起こり、少し離れた広めの場所では踊っている人たちもいる。
「あれ?」
ところが、陽気な人たちに交ざってぽつんとたたずむ姿があった。一人で席に腰掛け、頬杖をついてぼーっと宙を眺めている。
ミゼアスはアデルジェスの腕をつかんで、たたずむ人に視線を移した。
「ん? あ……」
首を傾げてアデルジェスはミゼアスを優しく見るが、次にミゼアスの視線が指し示す先を追って声を漏らす。
「確かロシュ、だったよね?」
「うん、あれはロシュだ」
以前、街道沿いの宿屋で会ったアデルジェスの同級生、ロシュが一人でたたずんでいた。
「あ、夕月花の飴なんて売ってる」
ふとミゼアスは足を止める。
「夕月花の飴?」
「うん、食べると身体からほのかな花の芳香がするっていう飴。でも……」
ミゼアスは言葉を区切り、背伸びをしてアデルジェスの耳元に顔を近づける。
「値段が安すぎる。偽物かもしれないね」
「そうなんだ……」
それきり飴には興味を失い、また別の品を見て行く。
怪しい品からよくある日用品、異国の珍しい品までいろいろな物があり、見て回るのは楽しい。しかし、さすがにだんだんと疲労がのしかかってくる。空腹も覚えてきた。
「ああ、食べ物の屋台がある。何か食べようか」
アデルジェスが屋台の並ぶ通りを指す。食べ物の屋台がいくつかあって、食事ができる場所も設けられているようだ。酒を飲んで盛り上がっている人々もいた。
「そうだね。こういうところで食べるのも面白そうだね」
屋台で肉と野菜が挟まれたパンと果実茶を買って、二人は空いている座席を探す。
食べ物や酒などを持った売り子たちが、座席の間を軽やかに歩き回っている。席を探す二人に気付いた売り子の一人が、向こうが空いていますよと声をかけてくれた。二人は礼を言ってそちらに向かう。
南方の人々は陽気だといわれるのがわかるようだった。あちこちで乾杯の叫びが起こり、少し離れた広めの場所では踊っている人たちもいる。
「あれ?」
ところが、陽気な人たちに交ざってぽつんとたたずむ姿があった。一人で席に腰掛け、頬杖をついてぼーっと宙を眺めている。
ミゼアスはアデルジェスの腕をつかんで、たたずむ人に視線を移した。
「ん? あ……」
首を傾げてアデルジェスはミゼアスを優しく見るが、次にミゼアスの視線が指し示す先を追って声を漏らす。
「確かロシュ、だったよね?」
「うん、あれはロシュだ」
以前、街道沿いの宿屋で会ったアデルジェスの同級生、ロシュが一人でたたずんでいた。
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