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第一章 旅立ち
08.娼館?
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無事、花嫁修業への扉が開けたミゼアスは、見習いということになったようだった。上役の男を紹介される。
「あら……可愛い子。妬けちゃうわぁ」
上役はやや癖のある赤茶色の髪を背の中ほどまで伸ばした男で、なよなよとしていた。女言葉で喋り、顔には濃い化粧もしている。年齢は二十代前半といったところだろうか。
大丈夫なのだろうかとミゼアスの胸に不安がよぎった。
「フェイと申します。よろしくお願いします」
胸の内の思いは押し込め、とりあえず挨拶をする。
一部では『不夜島のミゼアス』の名前は有名なはずだ。花街ではおそらく知れ渡っているだろう。
誰もが知っているわけではなく、さらに顔と一致させることができる者など少ないだろうが、念のために女性略称の『フェイ』を名乗ることにした。
「フェイちゃんね。よろしく。あたしはベティよ。お仕事だけれど、まずは飲み物や食事を運んでもらうわ。お客様には愛想良くしてね」
「はい」
そういえば仕事内容はよく知らなかった。食堂か酒場あたりの給仕役のようだ。
求人広告で『花嫁修業』という文字が目に入った途端、それしか考えられなくなってしまったので、詳しい内容までは見ていない。
「じゃあ、早速働いてもらうわ。来てちょうだい」
そう言ってベティはミゼアスを店へと案内する。
そこはどうやら酒場のようだった。しかし二人がけの長椅子の席ばかりで、普通の酒場とは雰囲気が違うように思えた。
もっとも、ミゼアスは本物の酒場を見たことがない。書物で読んだくらいだ。もしかしたらこういった酒場も、普通の町にはあるのかもしれないと思うことにする。
ここに着いたときには準備中だったが、すでに開店しているようだ。客もちらほらといて、ミゼアスは早速指定された座席に飲み物や食事を運んでいった。
「おや、新人さんかい? 可愛いねぇ」
客がミゼアスに声をかけてくる。その隣には、しなだれかかっている女がいた。どうも妖しい雰囲気だ。
「は……はあ……」
どういうことだろうと思いながらも、ミゼアスは今までの人生で培ってきた鉄壁の愛想笑いを浮かべ、早々にその場を立ち去る。
それからいくつかの座席に飲み物や食事を運んでいったが、どこも客にしなだれかかっている女もしくは男がいた。
どうもおかしいと思っていると、客と女が連れ立って店の奥に消えるのが見えた。
この雰囲気には覚えがある。
裏に引っ込んで、ベティを捕まえて尋ねてみることにした。きょろきょろと見回すと、幸い、ベティはすぐに見つかった。ミゼアスは早足でベティの元へと寄っていく。
「……ここって、もしかして娼館ですか?」
率直に切り出す。ミゼアスのいた店はもっと格調高かったが、どうも根底にある雰囲気が似ているような気がするのだ。
「あら……可愛い子。妬けちゃうわぁ」
上役はやや癖のある赤茶色の髪を背の中ほどまで伸ばした男で、なよなよとしていた。女言葉で喋り、顔には濃い化粧もしている。年齢は二十代前半といったところだろうか。
大丈夫なのだろうかとミゼアスの胸に不安がよぎった。
「フェイと申します。よろしくお願いします」
胸の内の思いは押し込め、とりあえず挨拶をする。
一部では『不夜島のミゼアス』の名前は有名なはずだ。花街ではおそらく知れ渡っているだろう。
誰もが知っているわけではなく、さらに顔と一致させることができる者など少ないだろうが、念のために女性略称の『フェイ』を名乗ることにした。
「フェイちゃんね。よろしく。あたしはベティよ。お仕事だけれど、まずは飲み物や食事を運んでもらうわ。お客様には愛想良くしてね」
「はい」
そういえば仕事内容はよく知らなかった。食堂か酒場あたりの給仕役のようだ。
求人広告で『花嫁修業』という文字が目に入った途端、それしか考えられなくなってしまったので、詳しい内容までは見ていない。
「じゃあ、早速働いてもらうわ。来てちょうだい」
そう言ってベティはミゼアスを店へと案内する。
そこはどうやら酒場のようだった。しかし二人がけの長椅子の席ばかりで、普通の酒場とは雰囲気が違うように思えた。
もっとも、ミゼアスは本物の酒場を見たことがない。書物で読んだくらいだ。もしかしたらこういった酒場も、普通の町にはあるのかもしれないと思うことにする。
ここに着いたときには準備中だったが、すでに開店しているようだ。客もちらほらといて、ミゼアスは早速指定された座席に飲み物や食事を運んでいった。
「おや、新人さんかい? 可愛いねぇ」
客がミゼアスに声をかけてくる。その隣には、しなだれかかっている女がいた。どうも妖しい雰囲気だ。
「は……はあ……」
どういうことだろうと思いながらも、ミゼアスは今までの人生で培ってきた鉄壁の愛想笑いを浮かべ、早々にその場を立ち去る。
それからいくつかの座席に飲み物や食事を運んでいったが、どこも客にしなだれかかっている女もしくは男がいた。
どうもおかしいと思っていると、客と女が連れ立って店の奥に消えるのが見えた。
この雰囲気には覚えがある。
裏に引っ込んで、ベティを捕まえて尋ねてみることにした。きょろきょろと見回すと、幸い、ベティはすぐに見つかった。ミゼアスは早足でベティの元へと寄っていく。
「……ここって、もしかして娼館ですか?」
率直に切り出す。ミゼアスのいた店はもっと格調高かったが、どうも根底にある雰囲気が似ているような気がするのだ。
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