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おまけ
ヴァレンの冒険2
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「ん……」
ゆっくりとヴァレンは目を開ける。飛び込んできたのは、一面の青い世界だ。
自分は何をしているのだろうと考え、ヴァレンは先ほどの出来事を思い出す。
岩によじ登ったら、その岩が海に向かっていって、さらには海中に潜ってしまったのだ。
もしかして、自分は死んだのだろうか。
こんなわけのわからない死に方をしてしまっては、きっと遺体も見つからず、ミゼアスに心配をかけてしまうだろうな、とぼんやり浮かんでくる。
「これ、子供。おまえはあの島の『葉』か?」
しわがれた声が響く。
何事かとヴァレンが視線を向けると、ヴァレンの身体よりもはるかに巨大な亀が青い世界に漂っていた。
「……亀?」
思わず呟き、ヴァレンはぽかんと口を開ける。
死後の世界には亀が待っているのだろうか。いや、それともここはどこか別の世界なのだろうか。
「驚くのも無理はない。が、まずはわしの質問に答えよ」
威厳のある声で亀が再び尋ねてくる。
ヴァレンは今の状況がさっぱり理解できないが、まずは目の前の問題に向かい合う。
「えっと、そうです。俺は『葉』です。ヴァレン、十歳です」
『葉』というのは、あの島における見習いを指す。
普段はあまり使用しない言葉だが、実は正式な呼び方はこちらなのだ。
「そうか。おまえは島から逃げ出したいのか?」
「え? いいえ、夕食までには戻らないと」
首を横に振りながらヴァレンは答える。夕食のことを思えば、空腹を覚えてきた。そっと腹に手を当てて、自らをごまかすように撫でる。
「ならば、何故ここにいる?」
「何故って言われても……砂浜にあった岩に登ったら、その岩が動き出して海に突っ込んでいって、気がついたら……」
「あぁ……わしの甲羅にくっついてきたか……。しかし、何故登った?」
「そこに岩があったから、としか……」
目の前に岩があれば、普通は登ってみたくなるものだろう。ヴァレンにとっては、本能である。
「……まあ、嘘は言っておらんようだな。戻しに行ってやるとするか」
亀はどことなく、疲れたような様子だった。大きな息を吐いたようで、世界が揺れたように見えた。
ヴァレンは亀をぐるりと見回す。甲羅には六角形の模様が見える。先ほどの岩と同じだ。あれは岩ではなく、亀の甲羅だったのか。
もしかしてここは、海の中なのだろうか。辺りを見回せば、小さな魚が泳ぐ姿や、ゆらゆらと漂う海草が見える。
「ここはどこですか?」
「海の中だ」
尋ねてみれば、すぐに答えが返ってきた。あまりにも予想どおりだったが、それはそれで別の疑問がある。
「どうして息ができるんですか?」
「そういうものだからだ」
「はあ……」
よくわからないが、そういうものだというのだ。そういうものなのだろう。ヴァレンは深く考えることはやめた。
考えても仕方のないことは、考えるだけ時間と労力の無駄だ。
「あの……あなたは、どういった方ですか?」
喋る亀など、見たことがない。きっとここは別世界か夢の中か、とにかく日常とはかけ離れた空間だろう。ヴァレンはいちおう、尋ねてみる。
すると亀は、ゆったりとした動作で首を振った。
「わしは、トゥルーテスと呼ばれておる。この辺りの海を守護しておる者だよ」
ゆっくりとヴァレンは目を開ける。飛び込んできたのは、一面の青い世界だ。
自分は何をしているのだろうと考え、ヴァレンは先ほどの出来事を思い出す。
岩によじ登ったら、その岩が海に向かっていって、さらには海中に潜ってしまったのだ。
もしかして、自分は死んだのだろうか。
こんなわけのわからない死に方をしてしまっては、きっと遺体も見つからず、ミゼアスに心配をかけてしまうだろうな、とぼんやり浮かんでくる。
「これ、子供。おまえはあの島の『葉』か?」
しわがれた声が響く。
何事かとヴァレンが視線を向けると、ヴァレンの身体よりもはるかに巨大な亀が青い世界に漂っていた。
「……亀?」
思わず呟き、ヴァレンはぽかんと口を開ける。
死後の世界には亀が待っているのだろうか。いや、それともここはどこか別の世界なのだろうか。
「驚くのも無理はない。が、まずはわしの質問に答えよ」
威厳のある声で亀が再び尋ねてくる。
ヴァレンは今の状況がさっぱり理解できないが、まずは目の前の問題に向かい合う。
「えっと、そうです。俺は『葉』です。ヴァレン、十歳です」
『葉』というのは、あの島における見習いを指す。
普段はあまり使用しない言葉だが、実は正式な呼び方はこちらなのだ。
「そうか。おまえは島から逃げ出したいのか?」
「え? いいえ、夕食までには戻らないと」
首を横に振りながらヴァレンは答える。夕食のことを思えば、空腹を覚えてきた。そっと腹に手を当てて、自らをごまかすように撫でる。
「ならば、何故ここにいる?」
「何故って言われても……砂浜にあった岩に登ったら、その岩が動き出して海に突っ込んでいって、気がついたら……」
「あぁ……わしの甲羅にくっついてきたか……。しかし、何故登った?」
「そこに岩があったから、としか……」
目の前に岩があれば、普通は登ってみたくなるものだろう。ヴァレンにとっては、本能である。
「……まあ、嘘は言っておらんようだな。戻しに行ってやるとするか」
亀はどことなく、疲れたような様子だった。大きな息を吐いたようで、世界が揺れたように見えた。
ヴァレンは亀をぐるりと見回す。甲羅には六角形の模様が見える。先ほどの岩と同じだ。あれは岩ではなく、亀の甲羅だったのか。
もしかしてここは、海の中なのだろうか。辺りを見回せば、小さな魚が泳ぐ姿や、ゆらゆらと漂う海草が見える。
「ここはどこですか?」
「海の中だ」
尋ねてみれば、すぐに答えが返ってきた。あまりにも予想どおりだったが、それはそれで別の疑問がある。
「どうして息ができるんですか?」
「そういうものだからだ」
「はあ……」
よくわからないが、そういうものだというのだ。そういうものなのだろう。ヴァレンは深く考えることはやめた。
考えても仕方のないことは、考えるだけ時間と労力の無駄だ。
「あの……あなたは、どういった方ですか?」
喋る亀など、見たことがない。きっとここは別世界か夢の中か、とにかく日常とはかけ離れた空間だろう。ヴァレンはいちおう、尋ねてみる。
すると亀は、ゆったりとした動作で首を振った。
「わしは、トゥルーテスと呼ばれておる。この辺りの海を守護しておる者だよ」
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