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おまけ
ヴァレンの冒険1
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眩しい日差しの下、ヴァレンは海岸を一人で歩いていた。
この島にやってきてから、季節は一巡りした。海岸を歩くのも、もう慣れたものだ。
わずか一年程度の間に、裕福な商家の息子だったヴァレンは、実家の事業が失敗して不夜島に売られ、そこで最高位の五花であるミゼアス付きの見習いとなるという変遷を遂げた。
さらにミゼアスが病に倒れ、島の医者全員に匙を投げられたのも記憶に新しい。
幸いにも、ミゼアスはウインシェルド侯爵の連れてきた魔術医によって、一命を取りとめた。様々な後遺症は残ったようだが、もうすっかり体調もよくなったようで、以前のような生活が戻っている。
変わったことといえば、ミゼアスの仕事のやり方が以前と違ってきたことと、日々ミゼアスがふてぶてしく、凄みを増していくことくらいだろうか。
ヴァレンにはきちんとご飯やお菓子を与えてくれ、可愛がってくれるので問題はない。
ミゼアスがまだ病み上がりだった頃は、栄養のあるものを求めてよく海岸にやってきたものだ。
残念なことにミゼアスは新鮮な海産物が好みではなかったらしく、持ってこなくてよいと止められてしまった。
がっかりしたヴァレンは、しばらく海岸から足が遠のいていたのだが、学校帰りにふと思い立って寄ってみることにしたのだ。
「青いうみー、青いそらー」
鼻歌を歌いながらヴァレンは歩き続ける。砂に足を取られるので、ゆっくりと進んでいく。
「あれ?」
ヴァレンは首を傾げ、足を止める。
砂浜に見上げるような大きさの岩があったのだ。何回もこの海岸を歩いているが、このような岩はなかった。
岩の前まで歩いていき、ヴァレンはそっと岩に触れてみる。
手触りは硬いが、どことなく温かみがあった。
よく見てみれば何らかの模様が刻まれているようだ。六角形をいくつも繋ぎ合わせているような模様がうかがえた。
もしかして、ただの岩ではないのだろうか。気になったヴァレンは、岩によじ登ってみることにした。模様の隙間にある溝に手をかけ、慎重に高みを目指す。
途中で何度か滑りそうになりながらも、どうにかヴァレンは頂上にたどりついた。
建物だと二階くらいの高さだろうか。達成感に高揚を覚え、這うように進んでいたヴァレンは立ち上がる。
「うわぁ……」
海がいつもより遠くまで見渡せるようだった。
日差しを受けてきらきらと輝く海が眩しい。あの海の果てには、見たこともないような美味しいものがあるのだろうか。
遠い世界に心を奪われていると、ぐらり、と足下が揺れた。ヴァレンはあわてて伏せ、岩にしがみつく。
いったい何だというのだろう。伏せたまま顔を上げると、景色が動いていくのが見えた。どうやら岩が動いているようだ。
「え? 何? これ、何?」
ヴァレンは混乱して辺りを見回すが、岩は海に向かってどんどん進んでいく。
目の前の出来事についていけず、身動きが取れないまま、岩はとうとう海に入ってしまった。
そこからは急速に陸が遠ざかっていく。岩はヴァレンを乗せたまま、沖へと向かっていってしまった。
島から大分遠ざかると、ついに岩は海中へと沈んでいく。海面が間近に迫ってくるのを見ながら、ヴァレンはあまりの恐怖で目を塞ぐことすらできなかった。
「……やっ……やぁーっ! 助けてっ、ミゼアス兄さん!」
悲痛なヴァレンの叫びは、海の中へと消えていった。
この島にやってきてから、季節は一巡りした。海岸を歩くのも、もう慣れたものだ。
わずか一年程度の間に、裕福な商家の息子だったヴァレンは、実家の事業が失敗して不夜島に売られ、そこで最高位の五花であるミゼアス付きの見習いとなるという変遷を遂げた。
さらにミゼアスが病に倒れ、島の医者全員に匙を投げられたのも記憶に新しい。
幸いにも、ミゼアスはウインシェルド侯爵の連れてきた魔術医によって、一命を取りとめた。様々な後遺症は残ったようだが、もうすっかり体調もよくなったようで、以前のような生活が戻っている。
変わったことといえば、ミゼアスの仕事のやり方が以前と違ってきたことと、日々ミゼアスがふてぶてしく、凄みを増していくことくらいだろうか。
ヴァレンにはきちんとご飯やお菓子を与えてくれ、可愛がってくれるので問題はない。
ミゼアスがまだ病み上がりだった頃は、栄養のあるものを求めてよく海岸にやってきたものだ。
残念なことにミゼアスは新鮮な海産物が好みではなかったらしく、持ってこなくてよいと止められてしまった。
がっかりしたヴァレンは、しばらく海岸から足が遠のいていたのだが、学校帰りにふと思い立って寄ってみることにしたのだ。
「青いうみー、青いそらー」
鼻歌を歌いながらヴァレンは歩き続ける。砂に足を取られるので、ゆっくりと進んでいく。
「あれ?」
ヴァレンは首を傾げ、足を止める。
砂浜に見上げるような大きさの岩があったのだ。何回もこの海岸を歩いているが、このような岩はなかった。
岩の前まで歩いていき、ヴァレンはそっと岩に触れてみる。
手触りは硬いが、どことなく温かみがあった。
よく見てみれば何らかの模様が刻まれているようだ。六角形をいくつも繋ぎ合わせているような模様がうかがえた。
もしかして、ただの岩ではないのだろうか。気になったヴァレンは、岩によじ登ってみることにした。模様の隙間にある溝に手をかけ、慎重に高みを目指す。
途中で何度か滑りそうになりながらも、どうにかヴァレンは頂上にたどりついた。
建物だと二階くらいの高さだろうか。達成感に高揚を覚え、這うように進んでいたヴァレンは立ち上がる。
「うわぁ……」
海がいつもより遠くまで見渡せるようだった。
日差しを受けてきらきらと輝く海が眩しい。あの海の果てには、見たこともないような美味しいものがあるのだろうか。
遠い世界に心を奪われていると、ぐらり、と足下が揺れた。ヴァレンはあわてて伏せ、岩にしがみつく。
いったい何だというのだろう。伏せたまま顔を上げると、景色が動いていくのが見えた。どうやら岩が動いているようだ。
「え? 何? これ、何?」
ヴァレンは混乱して辺りを見回すが、岩は海に向かってどんどん進んでいく。
目の前の出来事についていけず、身動きが取れないまま、岩はとうとう海に入ってしまった。
そこからは急速に陸が遠ざかっていく。岩はヴァレンを乗せたまま、沖へと向かっていってしまった。
島から大分遠ざかると、ついに岩は海中へと沈んでいく。海面が間近に迫ってくるのを見ながら、ヴァレンはあまりの恐怖で目を塞ぐことすらできなかった。
「……やっ……やぁーっ! 助けてっ、ミゼアス兄さん!」
悲痛なヴァレンの叫びは、海の中へと消えていった。
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