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40.本当の生態

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 裁きを待つエイブの前に、ヴァレンはしゃがみこむ。

「罵られたほうが、あなたは楽なのかもしれないね。でも、ごめん。俺、何も恨み言なんて浮かばないんだ。俺、ちょっと頭おかしいんだよ」

 エイブの肩に手を置くと、うずくまるように跪く身体がびくりと震えた。

「あなた、苦しんだんだね。確かに、ろくでもないことはやったんだろう。でも、まだどうにかなることだってある」

 優しく声をかければ、エイブがおそるおそる見上げてくる。

「商売の邪魔をしたことは、まあ良くないことなんだろうけれど……でも、父さんだっていっぱしの商人だったんだ。商売敵に負けたのなら、それはそれで仕方がないことだよ。おまけに、もう過去のことだ」

 商売の邪魔とはいっても、商売敵などいて当たり前だろう。一人前の大人同士の戦いで、勝者と敗者がいただけのことだ。それも、過ぎたことでしかない。
 巻き添えとなった従業員たちは気の毒だと思うが、自分が売られたことに関しては、最もどうでもよい。この島でヴァレンは今、日々を楽しく生きている。
 ヴァレンには今さらどこに憎しみや恨みを抱く要素があるのか、わからなかった。
 重要なことは、今現在起こっていることだ。

「それよりも、あなたは子供たちをさらったんでしょう? もう必要ないと言っていたけれど、その言葉はもう実行に移したの?」

「い、いえ……まだ、何も……」

「そう。だったら、それはまだ取り返しがつくね。処分するのでも、生贄にするのでもなくて、解放してあげるんだ」

「は……はい……」

 呆けたようにヴァレンを見つめ続けながら、エイブは頷く。

「あとね、あなたにとってはつらい話かもしれない。夕月花の、本当の生態」

 前置きをすると、エイブはヴァレンを見つめたまま、ただ瞬きをした。

「夕月花に生贄を捧げれば栄養になるっていうのは、本当。でも、必須なのは最初だけなんだって。その土地と結びつかせるため、最初に栄養を与える必要があるけれど、人間でなくてもいいらしいよ。その土地に根付いた生き物であればいいみたい」

 エイブはぽかんとした様子で耳を傾けている。

「本当に必要なものは、穏やかな愛情。過剰に期待や望みをかけては芽が出ない。必要なのはただ、穏やかな気持ちで見守ること。たとえ生育が悪くても、焦りは禁物なんだって。心を乱せば育たなくなるという、とても難しい花だそうだよ。多分、前領主はおおらかな性格だったんだろうね」
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