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33.子供

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「ああ、ご安心ください。妻を娶れなどとは申しません。あなたはただ種をまいてくださるだけでよいのです。芽吹いたものに関しては、こちらが責任を持って面倒を見てまいります」

「えっと……俺、正直言ってかなり混乱している。とりあえず種をまく云々は置いておいて、もし子供ができたとして、その子もお家騒動に巻き込まれるっていうことは?」

 いろいろと突っ込みたいところはあったが、まずは問題点からだ。

「若様の子として育てるか、そうでなければ若様の子と将来娶わせればよいのです。そうですね……たとえば、夕月花を育てる才は女系に出やすいとでもでっちあげるのはいかがでしょう。これなら若様が育てられないのを正当化しつつ、あなたの娘を嫁がせる良い口実になります」

「俺の、娘……」

 呆然とヴァレンは呟く。
 ヴァレンは幼い頃、親に可愛がってもらった記憶がない。
 父はまるでヴァレンを避けるかのように、いつも忙しかった。母は物心つく前に亡くなってしまっている。
 使用人たちはヴァレンを可愛がってくれたが、やはり主人の子ということで一歩引いた態度を取っていた。近所の人たちも似たようなものだ。

 家族の愛情、と呼べるようなものをヴァレンに与えてくれたのは、上役だったミゼアスだけである。
 自らの子など想像したこともないが、もし子を授かったと無理やり考えれば愛情を与えてやりたい。道具になどしたくはなかった。

「もし、子供が生まれたとして……その子は、幸せになれるのかな……?」

「何不自由のない生活をお約束いたします」

 何不自由のない生活を送ることが幸せとは言い切れない。
 幼い頃、何不自由なく育っていたヴァレンが、売られてから初めて愛情をもらえたように。
 そして、愛情を与えてくれた存在、長年白花の頂点に君臨し続けていたミゼアスが、贅沢な品では満たされていなかったように。
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