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30.ヴァレンの決断

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 翌朝、見習いたちが学校に行った後、来訪者の姿があった。

「おまえがこんな朝からうろつくなんて、どういった風の吹き回しだ?」

「早急にお尋ねしたいことがありましてね」

 微笑を絶やさず、ゆったりとエアイールは答える。口元こそ穏やかだが、目は笑っていない。

「……ティム君か?」

 眉をひそめてヴァレンは問うが、エアイールは否定も肯定もせず、ただ微笑みを浮かべるだけだ。

「あー、もう……秘密を漏らすなんて、見習いとして失格だ」

 大きなため息を漏らす。
 もともとヴァレン付きだったティムは、まだヴァレン付きとなって日が浅い。良い子ではあるが、少々抜けているところもある。
 おそらく、昨日のエイブとの話をエアイールに漏らしてしまったのだろう。

「わたくしが悪いのですよ。五花に命令されたら、従わざるを得ないでしょう」

「おまえが悪いのはわかっている。うん、全部おまえが悪いんだ」

「八つ当たりですか。珍しいですね」

 今日のエアイールは落ち着いているようだ。あっさりと受け流される。

「はあ……いいや、もう……。それで、何をしにきたわけ?」

「あなたがこれからどうするのかを聞きにきました。ローダンデリアに行くのですか?」

「ああ、行こうかと思っている」

 エアイールの表情が曇った。一瞬、悲しげに目が伏せられるが、すぐに元どおりヴァレンを見つめる。
 泣くのをこらえるように口元を歪ませるが、まっすぐにヴァレンから視線をそらさない。

「そう、ですか……」

「でも、まだ白花をやめる気はない」

 続くヴァレンの言葉に、エアイールが訝しげに眉を寄せる。

「一時的にローダンデリアを訪れて、また戻ってこられるよう、領主様に訴えてみるつもり」

 歪んでいたエアイールの口元がわずかに開く。ヴァレンを見つめる瞳が驚愕の色に染まった。

「……白花のまま島を出ることなど、過去に例がありませんよ」

「訴えるだけ、訴えてみるさ」

「許してもらえなかったら?」

「そのときにまた考える」

「……あなた、本当にいいかげんですねぇ」

「仕方ないだろ」

 あっけらかんとヴァレンが答えると、張り詰めていたエアイールの表情がふっと和らぐ。
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