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7.呪われしアルストメリー

正誤の問題ではなく、優先順位の問題

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まあ、そんなことを今考えたところで、結局私が成し遂げなくてはいけないことには辿り着かない。

「落ち着いてください!王子!!」

必死で呼びかけてみたが、全く私の声が届いていないのか

「ノア……殺す……」

エディ王子は、先ほどノアが消えて行った廊下を血走った目で見ている。
こういう状態の人間は、なかなか冷静に話を聞いてくれないということは、残念ながら前世の体験にて理解してしまった。

私の状況については……どこからどこまで関与しているかは分からないものの……ノアという人物が何かしらの影響を与えていることそのものは、事実ではある。

なので、私は一瞬だけ躊躇ってから、腹をくくってこう言った。

「そうです!ノアが悪いんです!」

私の言葉に、ぴたりとエディ王子の動きが止まった。
それから、ゆっくり私の方に振り向いてから

「やはりそうなのだな……!」

と、確認してきた。

(よし、今ならいける……!)

ちゃんと、私の目をエディ王子は見ている。
話を聞いている。
相手に自分の話を聞いてもらうには、まず相手の強い関心ごとに興味があることをアピールするという術を、私は前世で学んでいる。
この場合、エディ王子が最も関心を寄せているのは「ノア」という人間だ。
つまり、例え正解でなかったとしても、一旦はエディ王子のノアに対する考えを、肯定してみることが、目的達成の近道ではないかと私は瞬時に考えた。
そして、その仮説は当たったことに、なる。

かつての私は、このような方法を使った別の人間に対して強い嫌悪感を抱いた。
だって、嘘をつくこととイコールであると本気で思ったから。
しかしその人間は言った。

正誤の問題ではなく、優先順位の問題である、と。

1つ1つの優先順位をミスしなければ、するりするりとうまくいくらしい。
そのために、誰かを傷つけても良いのかと私は言ったが、それもひっくるめての優先順位なのだと、その人は言っていた。
この時の私は、結局その意味をちっとも理解することはできなかったし、したいとも思わなかった。

(こういうことなのか……?)

どんなに正しいことをしても、変化が現れなければ意味はない。
正しいことでも無意味になってしまう。
正しいことをするための土台を作るというのが、この優先順位の考えであるならば……最も必要なのはエディ王子の関心を私に戻すこと。

そして実際に今、エディ王子の視線がこちらに向いた。

(なんか複雑……)

前世での苦労が、死んだ後でようやくこんなところで役立つことに、人生の皮肉を感じながらも、突き進むしかない今の現状を呪いたくなった。
が、それでも。

「私は、ノアによって、この体に憑依させられた幽霊なんです!!助けてください!!!」

突拍子もない展開を、自ら作り出さざるを得なかったとしても、突き進むしかない。
そう。今だけ……。
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