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4.王子の葛藤

カサブランカ誕生の悲劇

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カシーからは、母親の話はほとんど聞いたことがない。
ただ、1度だけ、こんなことを聞かれた。

「お母さんがいるって、どういう感じなの?」

と。

「どうしてそんなことを聞くの?」

俺が聞くと、カシーはとても寂しそうな顔で

「私を産んですぐ死んじゃったんだって。だから……お母さんがいるって、どういう感じなんだろうって思って……」

と言った。
俺はカシーが悲しむ顔を見たくなかった。
その日、以来カシーの母親の話は一切しないようにしていた。
だから

「……知りません……」

俺は父親の問いに、そう答えるしかなかった。

「カサブランカは、母親を殺して生まれてきた子だ」
「……は……?」

(母親を殺して生まれた……?カシーが?)

「それ……は……お産の時の事故……ということですか?」

お産の時は、何があるか分からず、不運にも命を落とす妊婦がいるというのは、知識としては知っていた。
カシーの母も、不幸な医学的な事故に見舞われたのではないか……と考えた。
しかし父親は、すぐさま首を横に振った。

「元々あの一族は、王族の魔力を高めるために、密かに女児を産む使命を秘密で担っていた」
「それはつまり……」
「そうだ。セックスの相手として、必要な時、いつでも王に捧げることができる娘を生み出すことだ」
「待ってください。確かに、カサブランカの一族の娘が王家に入ってきた歴史があるのは知っています。ですが……彼女たちは皆、正妃として嫁いできたという記録が残っています」
「……この国がかつて崩壊の危機にあった時、あの一族の娘を正妃にし、セックスを毎日のように行ったことで、どうにか王の魔力を増幅させ、国が救われた……。そう言われている……。だいぶ昔の話では……あるがな……」
「……祖母も……正妃も……そして……俺の母も……カシーの家の出ではないはずですが……それは一体……」
「その必要が、なかったからだ」
「必要が……ない?」
「平穏な時代では、カサブランカの一族を利用して王族の魔力を増幅させる必要はなかったからな……。王族が持つ最低限の魔力で十分だった。最後の崩壊の危機も、カサブランカの一族の娘と王族の先祖のおかげで、今日まで平穏な日々が続いてきた。だが……」

父親は、息を整えるかのように間を置き、そのまま言葉を続けた。

「白紙の子であるノアの出現。これは恐怖の予兆であると、先ほど教えた。覚えているな?」
「はい」

(何がどういうことなのかはさっぱりわかっていないが……)

「そのタイミングで、カサブランカのような娘が生まれた。これは、何らかの天啓のようにしか、思えないのだ」
「……天啓……ですか?」
「カサブランカが先天的に持つ魔力は、普通の人間とはかけ離れたものを持っている。おそらく、お前よりもずっと潜在能力としては高い。その魔力が、最初に暴走したのが、カサブランカの母親の体から出ようとした、まさにその時だった」
「何が起きたんですか」
「カサブランカは、ほんの少し泣き声を発しただけで、自分の母親の体を引き裂いたのだ」
「何ですって……!?」
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