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過去と現在、懐かしい友人、彼女は結婚していた、あの男と
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「びっくりしたわ、あのアパートから火事なんて」
「でも、良かったわ、一人暮らしの人もいたし」
「原因はなんだったのかしら」
「それが、電気ストーブらしいの、古かったみたいで」
「あら、家も気をつけなくちゃ」
決して大きくはないアパートだった、全焼はまぬがれなかった、だが、建物自体は古かったこともあり、新しく建て直すかという話もでたが、いい機会だと家主はアパート経営から手を引くことにした。
勿論、住人に十分は補償金が払われたのはいうまでもない。
「そうですか、住人の方に被害はなかったでしょうね」
男は頷いた。
「現在、息子夫婦の家に同居中ということですね」
「実は正幸さんですが、最近になって新しいアパートを探しているようでした、それで連絡をしたわけです」
サングラスをかけているので表情が全てわかるわけではない、だが、カップに伸ばしかけた手が止まったことで、報告した男は、こちらでと小声になった。
低い呟きに男は軽く頭を下げると席を立った。
アパートが火事になったときは驚いて呆然とした、住人は一人暮らしが多くて仕事や留守だったのが幸いだった、建物だけで人災がなかった事は幸いだったと近隣住人がほっとした。
友人が駆けつけてくれて、その後、息子の嫁が自宅に招いてくれたのは本当に嬉しかった。
「実は落ち着いたらアパートを探すつもりだったんだが」
「なんでだ、この部屋、もしかして気に入らないのか」
「まさか、とてもよくしてくれてる」
当たり前だと友人は部屋の中を見ると頷きながら、昔のおまえの部屋とは大違いだと感心したように頷いた。
部屋の掃除だけではない、カーテンや絨毯などが新しくなると、以前はもっと殺風景ではなかったかと思ってしまう。
将来生まれてくる子供の為にという言葉が意味のないものだと知った今となっては、それなら二人の為に金を使ったらいいといっても嫁が好きでしているんだ、遠慮しないでくれと息子から言われては何も言えなくなってしまう。
声をかけられて、物思いに耽っていた事に気づいた。
「明日、資料館に行きませんか」
自分は今、息子の嫁と旅行に来ている、我に返った瞬間、不安を覚えてしまった。
だが、自分に向けられる笑顔を見ていると悩んでどうなるものでもないだろうと思えてしまうのだ。
「手紙を書いていたんですか」
「ああ、文豪気分に浸ってね」
「お友達にですか」
頷きながら、寝る前に風呂に入ってこようと正幸は席を立った。
『忘れたい過去の中、だが、救いはあった』
聞き違いではないだろうかと尾崎は尋ねた。
目覚めた病院のベッドの上だ、自分に何が起こったのかすぐには思い出せなかった、だが、段々と意識がはっきりして起きあがれるようになって、思い出した。
珍しくはない、彼らは遊びのノリでやったのだ、相手も合意だったといえば罪が軽くなると思っているのだ。
許せないと思った、だが反論したところで、相手を問いつめたところでどうすればいいのかわからない。
仲間内でのパーティー、気軽な飲み会、親睦会だと思っていた、自分は疑うこともなかった。
相手を問いつめたところで参加した本人が悪い、知らなかったなんて言い訳だと言われたら終わりだ。
惨めな気持ちになりながら、それでも大学に行く。
「どうしたの、調子が悪かったの、心配したよ」
「楽しかったね、また、飲みに行こうよ」
「それにしても驚いたよ」
笑いながら話しかけてくる男達の顔に尾崎は拳を握りしめた。
怒りをぶつけたいと思ってもできない、仕返しを、そう思っても、どうすればいいのかわからなかった。
自分が味わった以上の痛みをぶつけることができたらいいのに。
「尾崎さん、久しぶり」
声をかけてきたのは孝史、顔もスタイルもよく、女子達からも人気がある男だ。
「この間の飲み会には行けなくてごめんね、今度は俺も参加するから楽しもうよ」
返事の代わりに笑った、精一杯の虚勢だった。
なんだか、学校に行くのが面倒だと思ってしまった、嫌になった、友達と話すことも、遊ぶのも何もかも全てが。
夜道を歩いていて、踏切の前で立ち止まる、ここに飛び込んだら即死だ、肉も骨も、全部がばらばらになってしまって何もかもがなくなって綺麗さっぱり残らなくなってしまう。
楽になれるだろうか、そう思って踏みだそうとした、ところが、腕を掴まれていることに気づいて驚いた。
「やめなさい」
知らない人、男性だ、だが、その声は震えていた。
大学だけではない、バイトも辞めた、この際、何もかも新しくやり直そうと思ったのだ。
海外旅行は気分転換の為だ、長く滞在するつもりはなかった、だが、日本とは違う習慣や人々、常識に驚かされて再び日本に戻ったが、また離れた。
生きていたら、色々なことがあるよ、楽しいこと、嫌なこと、色々だ。
思い出すのは、あのとき自分を引きとめてくれた男性の言葉だ。
そんなときは財布の中を見て男性に貰った一枚の紙幣を見る、多分、自分は、あのとき情けなくて惨めな顔をしていたのだろうと思う、でなければ、こんな事してくれないだろう。
見知らぬ男性から貰った、一枚の紙幣、あのとき、何か美味しいものでも食べて元気を出して、そんな事を言っていたような気がする。
これは、お守りだ、あの時の自分は最悪な気分だった、だが、結局のところ引き止められてしまった。
そして、生きている、考えた、あそこで死んだら終わりだ、いや、負けてしまうと。
大学の人間は噂するだろう、どうしたんだろうね、オザキさんと不思議がるだろう、だが、それだけだ。
そして、あんなことでと思うだろう、(理由を知っている人間は)
もしかしたら、人って見かけによらないねと笑うかもしれない。
日本に帰って何がやりたいかと思いながら、様変わりした街中を歩いていると、偶然にも学生時代の友人の姿を見かけて驚いた、数年たっているが彼女の姿、声は変わらない。
声をかけたい衝動に駆られたが、驚くだろう、自分は変わってしまった。
こっそりと追いかけて、表札を見て結婚したと気づく、よかった、子供は、もういるのだろうか、相手の男性と幸せな生活を送っているのだろうか。
だが、気になって、ただ、近状を知るだけのつもりだった。
「孝史、そうですか」
名前を聞いて、体中の血、指先が冷たくなっていくのを感じた、何故、その名前を今、ここで聞くのだと。
友人が結婚した相手が、あの男だと知って信じられなかった。
「どんな男性ですか」
「仕事のできる男ですね、見た目もいい、奥さんは普通の主婦なんですが、多分、いや、知ら
ないでしょうね」
気の毒にという、小さな呟き、だが、わかってしまった、浮気ですね、オザキの言葉にご名答と報告者は肩を竦め、ご存知だったんですかと不思議そうな顔をした。
「それもね、一人とかではなくて、知りたいですか、結婚前と現在の」
オザキは頷いた。
「教えてください、知りたいですよ、そう、詳しくね」
「でも、良かったわ、一人暮らしの人もいたし」
「原因はなんだったのかしら」
「それが、電気ストーブらしいの、古かったみたいで」
「あら、家も気をつけなくちゃ」
決して大きくはないアパートだった、全焼はまぬがれなかった、だが、建物自体は古かったこともあり、新しく建て直すかという話もでたが、いい機会だと家主はアパート経営から手を引くことにした。
勿論、住人に十分は補償金が払われたのはいうまでもない。
「そうですか、住人の方に被害はなかったでしょうね」
男は頷いた。
「現在、息子夫婦の家に同居中ということですね」
「実は正幸さんですが、最近になって新しいアパートを探しているようでした、それで連絡をしたわけです」
サングラスをかけているので表情が全てわかるわけではない、だが、カップに伸ばしかけた手が止まったことで、報告した男は、こちらでと小声になった。
低い呟きに男は軽く頭を下げると席を立った。
アパートが火事になったときは驚いて呆然とした、住人は一人暮らしが多くて仕事や留守だったのが幸いだった、建物だけで人災がなかった事は幸いだったと近隣住人がほっとした。
友人が駆けつけてくれて、その後、息子の嫁が自宅に招いてくれたのは本当に嬉しかった。
「実は落ち着いたらアパートを探すつもりだったんだが」
「なんでだ、この部屋、もしかして気に入らないのか」
「まさか、とてもよくしてくれてる」
当たり前だと友人は部屋の中を見ると頷きながら、昔のおまえの部屋とは大違いだと感心したように頷いた。
部屋の掃除だけではない、カーテンや絨毯などが新しくなると、以前はもっと殺風景ではなかったかと思ってしまう。
将来生まれてくる子供の為にという言葉が意味のないものだと知った今となっては、それなら二人の為に金を使ったらいいといっても嫁が好きでしているんだ、遠慮しないでくれと息子から言われては何も言えなくなってしまう。
声をかけられて、物思いに耽っていた事に気づいた。
「明日、資料館に行きませんか」
自分は今、息子の嫁と旅行に来ている、我に返った瞬間、不安を覚えてしまった。
だが、自分に向けられる笑顔を見ていると悩んでどうなるものでもないだろうと思えてしまうのだ。
「手紙を書いていたんですか」
「ああ、文豪気分に浸ってね」
「お友達にですか」
頷きながら、寝る前に風呂に入ってこようと正幸は席を立った。
『忘れたい過去の中、だが、救いはあった』
聞き違いではないだろうかと尾崎は尋ねた。
目覚めた病院のベッドの上だ、自分に何が起こったのかすぐには思い出せなかった、だが、段々と意識がはっきりして起きあがれるようになって、思い出した。
珍しくはない、彼らは遊びのノリでやったのだ、相手も合意だったといえば罪が軽くなると思っているのだ。
許せないと思った、だが反論したところで、相手を問いつめたところでどうすればいいのかわからない。
仲間内でのパーティー、気軽な飲み会、親睦会だと思っていた、自分は疑うこともなかった。
相手を問いつめたところで参加した本人が悪い、知らなかったなんて言い訳だと言われたら終わりだ。
惨めな気持ちになりながら、それでも大学に行く。
「どうしたの、調子が悪かったの、心配したよ」
「楽しかったね、また、飲みに行こうよ」
「それにしても驚いたよ」
笑いながら話しかけてくる男達の顔に尾崎は拳を握りしめた。
怒りをぶつけたいと思ってもできない、仕返しを、そう思っても、どうすればいいのかわからなかった。
自分が味わった以上の痛みをぶつけることができたらいいのに。
「尾崎さん、久しぶり」
声をかけてきたのは孝史、顔もスタイルもよく、女子達からも人気がある男だ。
「この間の飲み会には行けなくてごめんね、今度は俺も参加するから楽しもうよ」
返事の代わりに笑った、精一杯の虚勢だった。
なんだか、学校に行くのが面倒だと思ってしまった、嫌になった、友達と話すことも、遊ぶのも何もかも全てが。
夜道を歩いていて、踏切の前で立ち止まる、ここに飛び込んだら即死だ、肉も骨も、全部がばらばらになってしまって何もかもがなくなって綺麗さっぱり残らなくなってしまう。
楽になれるだろうか、そう思って踏みだそうとした、ところが、腕を掴まれていることに気づいて驚いた。
「やめなさい」
知らない人、男性だ、だが、その声は震えていた。
大学だけではない、バイトも辞めた、この際、何もかも新しくやり直そうと思ったのだ。
海外旅行は気分転換の為だ、長く滞在するつもりはなかった、だが、日本とは違う習慣や人々、常識に驚かされて再び日本に戻ったが、また離れた。
生きていたら、色々なことがあるよ、楽しいこと、嫌なこと、色々だ。
思い出すのは、あのとき自分を引きとめてくれた男性の言葉だ。
そんなときは財布の中を見て男性に貰った一枚の紙幣を見る、多分、自分は、あのとき情けなくて惨めな顔をしていたのだろうと思う、でなければ、こんな事してくれないだろう。
見知らぬ男性から貰った、一枚の紙幣、あのとき、何か美味しいものでも食べて元気を出して、そんな事を言っていたような気がする。
これは、お守りだ、あの時の自分は最悪な気分だった、だが、結局のところ引き止められてしまった。
そして、生きている、考えた、あそこで死んだら終わりだ、いや、負けてしまうと。
大学の人間は噂するだろう、どうしたんだろうね、オザキさんと不思議がるだろう、だが、それだけだ。
そして、あんなことでと思うだろう、(理由を知っている人間は)
もしかしたら、人って見かけによらないねと笑うかもしれない。
日本に帰って何がやりたいかと思いながら、様変わりした街中を歩いていると、偶然にも学生時代の友人の姿を見かけて驚いた、数年たっているが彼女の姿、声は変わらない。
声をかけたい衝動に駆られたが、驚くだろう、自分は変わってしまった。
こっそりと追いかけて、表札を見て結婚したと気づく、よかった、子供は、もういるのだろうか、相手の男性と幸せな生活を送っているのだろうか。
だが、気になって、ただ、近状を知るだけのつもりだった。
「孝史、そうですか」
名前を聞いて、体中の血、指先が冷たくなっていくのを感じた、何故、その名前を今、ここで聞くのだと。
友人が結婚した相手が、あの男だと知って信じられなかった。
「どんな男性ですか」
「仕事のできる男ですね、見た目もいい、奥さんは普通の主婦なんですが、多分、いや、知ら
ないでしょうね」
気の毒にという、小さな呟き、だが、わかってしまった、浮気ですね、オザキの言葉にご名答と報告者は肩を竦め、ご存知だったんですかと不思議そうな顔をした。
「それもね、一人とかではなくて、知りたいですか、結婚前と現在の」
オザキは頷いた。
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