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3,学習用AI

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 設定から始めてくださいと言われた。
 名前の設定、性別、得意教科、好きな教科、自認する性格。心理テストみたいなのも出てきて、苦手なものも聞かれた。

「体型から合ってるファッションとかは教えてもらえないの?」
『私は教育用AIですので、ファッションは得意ではありません。しかしファッションデザインへ進む学生に向けた学習補助機能はございます。これを使った体型診断からの適したファッション診断は可能です。しかしあくまでもステレオタイプなアドバイスとなります』

「へええ、そうなんだ。私みたいなのには十分だよ。あとで頼らせてもらうね」
『かしこまりましたお嬢様。お力になれるよう努力致します』
「ふふふ。本当に執事みたい」
『デフォルトでは私、老執事が設定されておりますが、他にもいくつかパターンがございます。確認致しますか?』
「そうなんだ。ちょっと見せて」
『こちらでございます』

 ヴヴと立体執事が消えて、六つの画像に分かれた。
 アナウンサーのようなキリッとした女性、優しいお母さんのようなエプロンを着た女性、小さな妖精のような女の子、先生っぽいメガネと白衣の男性、優しいお父さんっぽい男性、そして白髪の老執事。

「ば、バリエーション豊か……」
『飽きのこない仕様になっております』
「芸が細かい」
『性格設定もそれぞれ2パターンございます。厳しい方が良い方には厳しい口調でご利用いただけます』
「執事さんの厳しい口調バージョンちょっとやってみて」
『かしこまりました。お嬢様、機能で遊ぶのはおやめになり、そろそろ学習の話をいたしましょう。私は学習用AIです』
「はいすみません」

 つい謝ってしまって、ハッとなる。

『分かればよろしいのです。それでは、お嬢様に向いた講義について説明致しましょうか。それとも穏やかな執事バージョンに戻しましょうか』
「もどして」
『かしこまりました。お嬢様、なんなりとお申し付けくださいませ。いかがいたしましょう』

 老執事はにこりと微笑んで待機している。

「腹黒っぽく感じる……」
『私は設定で動きますのでそのようなことはございません。ご安心ください』
「うん、そうだね……」
『お嬢様のご要望をお待ち致します』
「えっと、それじゃあ、これからの大学のありかたについて聞いて良いかな。もう講堂とかは使わないの?」
『希望により可となります。しかし今後も様子を見て仕様を変えていくことになります。今はすべてが試運転でございます』
「そっか。変わるんだ」
『はい。はじめから完璧にできるとは総理も党員達も考えておりません』
「うん。ねぇ、講義ってオンラインで大丈夫なのも多いとは思うんだけど、実習があるものも多いでしょ。そういうのはどうするの?」

『実習が必要な場合は、近隣の大学施設を借りることになります。すべての大学講義を可能な限りオンライン化し、遠隔えんかく実習の形がとれるようにしていきます。設備が整っている大学に受講申請を出せば、どこに住んでいても受講が可能になります』
「つまり大学の施設はそのまま残しておいて、必要なときだけ近所の学生が利用するようになるってこと? じゃあ旅行しつつ他県の大学に受講申請すればそこも使えるってこと?」

 ぱちぱちと執事が拍手をする。音もちゃんと聞こえた。

『さすがお嬢様。ご明察です。その通りでございます』
「えへへ。ありがとう。面白いね。かなり変わるんだね。近所の大学が混みすぎるって心配はないのかな?」
『それは実際に行ってみなければ分かりませんが、現在は場合により公民館の活用や、小さな専用施設を各地に設営することが検討されております』
「ちゃんと考えてるんだ。でもそれだと毒親育ちの人とかさ、実家から逃げる口実が無くなっちゃって可哀想じゃない? それは何か考えてる?」

『オンライン化は進めていきますが、自宅学習では集中できないことも考えられますので、大学に来て学ぶという形も残せるようにしていく方針です。このため大学の近くにあえて引っ越し一人暮らしをする、という言い訳は可能です』
「お金がかかるからダメって言われたら?」
『奨学金制度がございます。一人暮らし費用は出ませんが、学費が無料や半額などになります。それを交渉材料にできるかもしれません』

「半額? 奨学金って今までの返すやつとは違うの?」
『はい。今までよりも狭き門にはなりますが、完全寄付型奨学金制度を導入予定です。奨学金試験を受けた上位者のうち、毎年百人が学費無料、それ以下の三百人が半額、その次の千人が学費三分の二となります。奨学金は十年以上継続しての日本国籍者に限ります。これとは別に、既存の奨学金は奨学生ローンと名が変わりますが、利用可能です』
「うーん。ちょっと厳しそうだね。医学生ばかりにならないかな?」
『奨学生に偏りが出た場合、希望学部により上限をつけることも検討にございます。医学の発展は望まれるものですので、医学部の奨学生制度は別枠にすることも検討されています。また、社会人になってから入学し、少しずつ長い時間をかけて学び、卒業することも可能です。現在の、大学に専修する形式は減っていくのではないかとも予想されています。親が子の害となる場合、就職して親元を離れてからの入学はどうでしょうか』

「働きながらって体力的に大丈夫なの?」
『労働環境の改善も新首相は着手されます。その結果次第だと思われます』
「全部これからがんばりますって感じなんだね」
『申し訳ございません。システムの黎明れいめい期であることをお詫び申し上げます』
「せめてる訳じゃないの。でもそっか、遠くの先生のところの実習をやりたいからって引っ越すのはありか」
『名案ですね。毒親から逃げる方法として有効だと思います』

 執事と話していると、講堂に教授がやってきた。


「皆さん、新しいシステムは理解できたでしょうか。これからさっそく実習を始めます。まだすべてができるわけではないですが、我が校で今すぐ実習できるのはこれです」

 さっきまで総理が映っていたスクリーンに、実習可能な授業が表示されている。コミュニケーション実習とリーダーシップ実習だ。起業演習だけないのか。

「各々自分の希望する実習を選ぶように」

 コミュニケーション実習に参加してみることにした。
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