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手を繋いで付いて行ったのは水族館だった。
「…」
俺がぽかーんと水槽を見ていると心配そうに伊織が聞いてくる。
「も、もしかしてお気に召さなかったかな…?」
「え!?う、ううん!すっごい楽しい!」
本音は正直驚いた。もっとは?なんだこの金持ちの遊びは!みたいな感じになると思っていたから。けど実際は水族館。…めっちゃ嬉しい…。伊織は知らないだろうけど俺はペンギンが超が付くほど好きだ。
あの可愛いらしいフォルム。黒色の艶々の毛…。それになんてったってあの可愛い口!!!!本当に可愛い…!だから本当に嬉しいのだ。しかもこの水族館は前から気になっていたからありがたい…!
「…でも、なんで水族館?…あ!別に嫌ってわけじゃなくて!本当に嬉しいんです!」
「ふふ…慌てなくてもその顔を見れば分かるよ。んー…好きそうだなって」
「俺そんな水族館好きみたいな感じありました!!?」
いや、別に良いけど!な、なんか恥ずかしい!!
どこで?俺なんかわかるようなもの…
「いや、水族館じゃなくて…ペンギン。好きだよね…?」
「え!?!」
「あ、もしかして違った!?この前名札がペンギンだったからさ…」
「名札…?あっ」
メイド服の時の名札か…!!
「な、なるほど…!」
「どこに出かけるかってなった時に篤くんとの写真を見てたんだ。そしたらペンギンの名札つけてるな~って。それでまぁいちかばちかこの人気な水族館を選んだんだ。」
「な、、、なるほど~!!!!!」
「でも結果喜んでもらえたみたいで嬉しいよ」
「いや…こちらこそ!!めっちゃ嬉しいです!」
俺が興奮したように言うと急に唇に指が触れる。
「敬語に戻ってる」
俺は腰が抜けるかと思った。
こんな良い声で言う事か?このセリフ
「は…はい…」
ちょっと間抜けな声が出てしまった。


「面白かったね!」
ペンギンショーを見終わった俺たちはペンギンが歩いているのが見られるという所に向かっていた。
「うん!とっても可愛いし可愛いし可愛いし…」
俺がにこにこと喋ると伊織もつられたようににこにこと笑う。
た、楽しいんだけどなんか落ちつかねぇ…!!!
「あ!ペンギンが歩いてるよ!」
「え!うわ…可愛い…!!」
よちよちと歩いているペンギンを俺はキラキラと見つめる。
こ、こんな近くで見られるなんて…!
いつもは水とガラスが邪魔してちゃんとお目にかかれたことなんて無かったのに…!来て良かった!!可愛いすぎる!!
「可愛いね」
「うん!!可愛い!」
「ふふっ」
伊織は何故かこちらを向いて言っていたが俺はペンギンの可愛さにすっかりそんな事など目に入らなかった。


「はい。これあげる」
そう言われ出されたのはペンギンのぬいぐるみ。
「え!これ絶対高いよな…!!?お金返す…!」
「ううん。受け取って。この前のお礼だと思って」
これを受け取らなかったらより高い物を渡される気がする…。それと…普通にすごく嬉しい。可愛いし店で見た時本音は欲しかった。けど値段見て諦めた。水族館お値段だったからだ。
「あ、ありがとう…!俺このペンギン気になってたから嬉しい…」
そう言いながらペンギンのぬいぐるみに顔を埋める。
嬉しい…。めっちゃ可愛い…。
「羨ましい…」
「ん?」
「……なんでもないよ」
「…?」
なんだか聞こえた気がするが無視しよう。
俺はペンギンのぬいぐるみを抱き抱えて水族館を出る。
駅に向かっているうちに日は落ちあたりは暗くなっていた。
「別に車で家まで送るのに…」
「大丈夫!!ちゃんと電車で帰れるから!!」
「…わかったよ。気をつけてね…!」
そう言われ俺はうんうんと頷く。
「伊織も気をつけてね。」
そう言うと何故か伊織は少し涙目になり頷く。
「や、優しいね…!ありがとう!」
俺はそう言われつい俯いた。
顔が赤くなってしまったから。
けどそれを誤魔化すように伊織の手を握る。
「これ!」
「…ん?」
伊織の手から自分の手を離す。
伊織が自分の手の中を見る。
手の中には少し小さいペンギンのキーホルダーが入っている。
「こ、これって」
「今日遊んでくれたから…。こいつとは値段の差すごいけど可愛いなぁって」
そう言いながら持っているペンギンをより抱きしめる。
「…あ…ありがとう…!嬉しいよ!」
「喜んでもらえて良かった…!俺も持ってるんだ。お揃い」
そう言いながら俺が微笑むと伊織は真っ赤な顔で笑顔になる。
「より嬉しいよ!ありがとう…!!」
俺はまたにしっと笑うとそのままペンギンを抱き抱え手を振り伊織と別れた。
「ま、またね!篤くん!」
「うん!またな!」
「これ鞄につけるから!!」
そう言っている伊織により笑みを深めまた手を振った。
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