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覇者の瞳 後編
しおりを挟む唇を離した後、レインはルーシェを寝室に連れて行った。
ベッドにゆっくりと押し倒す。
ルーシェは羞恥からか、顔を赤くしていた。
恥ずかしそうに身じろぐルーシェの体をやんわりとベッドに押しつけ、服を脱がして行く。
日焼けしていない肌が露になった。
れっきとした男であるのに、同じ男のレインとは全く違う。
透けるような白い肌は男のものとは思えないほど滑らかだ。
まだ成長しきっていない体は、その時期特有の艶めかしさを放っている。
レインはルーシェのこの白い肌がたまらなく好きだった。
しっとりと汗ばんで手の平に吸いついてくる感触がレインの欲望を煽る。
肌の感触を味わいながら服を脱がせていくうち、ルーシェの体も段々と熱を持ってきた。
鎖骨から胸に唇を滑らせ、わき腹から下腹を愛撫していく。
やがて、ルーシェの中心へ手を移動させた。
「あっ」
体の中心で硬くなり始めた部分をレインに握られ、思わず声をあげる。
レインの指は巧みに滑って、ルーシェを昂ぶらせていった。
熱を持った中心が更に熱くなり、張り詰めていく。
「やっ、あ、あっ」
ルーシェの体がびくびくと震えた。
レインは手の動きを止めようとしない。
耐え難い快感がルーシェの全身を突き抜ける。
レインはルーシェの乳首に軽く歯を立てた。
ルーシェの体が弓なりに仰け反る。
「あっ、んっ、あぁっ」
ルーシェはレインの手に熱を放った。
脱力する体を支えて身を起こし、レインに口付けする。
レインがルーシェの白い肌を好きなのと同様に、ルーシェもまたレインの肌が好きだった。
健康的な色の肌。
引き締まった筋肉。
自分にないものを持っている。
同じ性別を持っているのにどうしてここまで違うのだろう。
見るだけで劣等感を感じてしまうほどだ。
その肌に、ルーシェは軽く歯を立てる。
レインが小さく声をあげた。
ルーシェは体をずらしていくと、既に熱くなっているその中心部分に唇を当てる。
自分のものよりも大きなそれを口に含んだ。
「無理しなくていいぞ」
レインが苦笑する。
「大丈夫」
ルーシェは顔をあげて言うと、再びレインのものを口に含んだ。
舌で先端を優しく愛撫し、いつもレインがしてくれるようにする。
レインがルーシェの口内に熱を放つまで、ルーシェは愛撫をやめなかった。
「無理するなと言ったのに」
咳き込むルーシェを見てレインは苦笑する。
そしてルーシェの体を引き寄せると、後ろに手を回した。
「は⋯⋯っ」
ルーシェの体がびくりと震え、甘い声が漏れる。
レインはサイドボードの上に置いてある潤滑油を指にまとわせると、ルーシェ後腔へゆっくり挿入した。
中は熱く蕩けていて、指を奥に誘うように蠢く。
ルーシェの体が反応するのを楽しみながら、レインは丁寧にそこを解していった。
「んっ、んんっ、あ、はぁっ」
指が動くたび、ルーシェの喉から声が上がる。
再び体の中心が熱くなってきた。
レインは指の数を増やしながらそこを丹念に解していく。
ルーシェの声を聞くうち、レインも再び体の中心が熱くなっていった。
「レ、イン⋯⋯っ」
ルーシェが掠れる声を出してレインを見た。
切なげな瞳で見られ、レインはすぐにでもルーシェと繋がりたくなる。
「どうしてほしい?」
はやる気持ちを抑え、レインは意地悪くルーシェを見た。
ルーシェは真っ赤になって息を荒くしている。
「レインのを⋯⋯」
「ん?」
「⋯⋯挿れて」
消えるような声で言って、レインを見つめた。
「俺ももう限界だ」
レインは指を引きぬくと、今度はそこに自分のものを当てる。
そしてゆっくりと中に入った。
内壁がレインのものに吸いついて快感を紡ぐ。
レインはゆっくりと腰を動かし始めた。
しかし次第に激しい動きになってくる。
「あっ、レ、レインっ、ああっ」
ルーシェはその動きから生まれる快感にただ翻弄されるだけだった。
そしてルーシェはその後何度もレインにイかされ、最後には意識を手放してしまった。
レインもルーシェの体を手早く綺麗にすると、ルーシェを抱きしめて眠りについた。
「んん⋯⋯」
先に目を覚ましたのはルーシェだった。
ゆっくりとレインの腕から這い出してベッドを下りる。
どうやらレインが後始末をしてくれたらしい。
レインを受け入れていた部分に多少の違和感はあったが、体はさっぱりしていた。
テーブルにある水差しからコップに注いで一口飲む。
「もう起きたのか」
声がして振り向くと、レインが半身を起こしていた。
引き締まった上半身を惜しげもなくさらしている。
ルーシェは少しうつむき加減でレインに近付いた。
レインが再びルーシェをベッドに引っ張り込む。
「レイン」
ルーシェはレインを軽く睨んだ。
「不安を感じているか?」
レインはルーシェを見つめる。
自分がどれだけ愛しても、ルーシェの不安が無くならないと意味が無い。
「わからない。でも多分、大丈夫だと思う。自然体でいればいいってヨール先生も言ってくれたし。レインも、僕はこのままでいいと思う?」
ルーシェもレインを見つめ返した。
「俺はルーシェが傍に居てくれるならそれでいい」
レインはルーシェを抱き締める。
自分の側にいてくれるなら他には何も望まないつもりだった。
覇者の相など関係無い。
「じゃあもう、覇者の相の事は気にしないよ」
「ああ、そうしてくれ。覇者の相なんてどうでもいいんだ」
レインはゆっくりとルーシェに口付けを落とす。
ルーシェもそれに応えた。
朝食を終えた後、レインは執務室へ行く。
ルーシェは再びヨールの元を訪れていた。
「今日は何のご用かな?」
お茶を差し出しながらヨールが訊く。
「覇者の相についてです。ヨール先生はどこまで知っているのですか?」
ルーシェはお茶の入ったカップを受け取った。
ヨールは少し考え込む。
「私の父が覇者の相を持っていたのですよ」
そして顔をあげてそう言った。
「え?」
ルーシェは目を丸くする。
「私が生まれたのはこの国ではありません。私の故郷はランゼンブルグ。父はそこの王でした」
「ランゼンブルグは確か⋯⋯」
「ええ。10年ちょっと前に滅びました。国土の半分はここシェルード王国に統合され、残りの半分は隣国の領土となりました。私は第1王子で王太子でした。本来なら処刑されているところですが、前陛下の温情と言いますか、まあ色々ありまして助けられまして。今はこうして医者として仕えさせてもらっている訳です」
「そうだったんですね。でも、覇者の相を持っていたのにどうして滅びてしまったのですか?」
ルーシェはヨールを見た。
ヨールは静かな瞳でルーシェを見る。
「力の使い方を誤ったとでも言いましょうか」
「力の、使い方?」
「自分が覇者の相の持ち主だと知った父は、その力で世界を支配しようと目論んだ。そして邪悪な考えに捕らわれたせいで我が身を滅ぼす事になってしまった」
「それはどうしてですか?」
「覇者の相とは、他人の運勢を強める力の象徴です。あくまでも他人に向ける力なのです。その力を自分自身に向けようとすると破滅の相に変わる。父はその事を知らなかった。当時の私もその事は知りませんでしたが」
「破滅の相⋯⋯」
ルーシェはつぶやいた。
母フェイシアが死んだ後、占い師がレインに告げたと言う。
破滅の相を持つ人間がいると。
それは自分ではなかった。
自分ではないのなら一体誰だったのだろう。
ルーシェの脳裏にある女性の顔が浮かんだ。
「もしかして⋯⋯?」
「わかったようですな。陛下の後妻ディーネ様は覇者の相を持っていた。しかし自分の欲望に勝てず、力を知らず知らずの内に自分に向けてしまったせいで破滅の相に変わってしまった。覇者の相の持ち主本人は、その力に耐え切れないのです。だから、力が自分に向かうと破滅する。覇者の相を持つ者が少ないのはこのためです。そして、未だに私にもわかりませんが、覇者の相を持つ女性はみな短命であるとも言われています。女性ではその力に耐えられないと。王妃様は悲運でしたが、ディーネ様も、死罪になっていなかったとしても若くして亡くなる可能性は高かったでしょう。既に破滅の相に変わってしまっていたのですから」
ヨールはそう言ってお茶を飲んだ。
覇者の相を持つ女性が何故みな短命なのか、それはヨールにもわからなかった。
文献にもただ短命であるとしか記されておらず、その詳細は未だ解明できていない。
「僕も、破滅の相に変わる恐れがあるという事ですね⋯⋯」
ヨールの話に、ルーシェは暗い顔でうつむく。
自分はこの城にいないほうがいいのではないか。
レインの側にいるべきではないのではないか。
そんな事を考えていると。
「心配いらないと言ったでしょう」
「ですがもし力が覚醒して、それが破滅の相に変わったら?」
「大丈夫。力が覚醒すると言っても、何かが起こる訳ではありませんし、目に見えるものでもありません。自分に対してしっかりと自信と信念を持った時、それが自分を含め周囲に良い運を呼ぶというだけです」
ヨールはそう言って微笑んだ。
ルーシェが破滅の相に変わる訳がない事はよくわかる。
自分よりも他人の事を思いやるルーシェが破滅の相に変わる訳がないのだ。
しかしその事をルーシェ本人は全く知らない。
「自然体でいれば良いと言ったでしょう。ルーシェ殿が陛下を愛する限り、破滅の相に変わる事など有り得ません」
ヨールは力強くそう言った。
ルーシェは少し考えて、ヨールを見る。
「覇者の相の事は気にしなくても?」
「忘れてしまってよろしい。権力が欲しいと思った事などないでしょう?」
「ええ、それはありません」
「それならば心配いりません。権力に対する欲がなければ破滅の相に変わる事は絶対にありませんからな。私が保証します」
「はい」
ヨールの言葉に、ルーシェは力強い笑みを浮かべた。
それを見てヨールは少し目をみはる。
「おや、瞳からかげりが消えましたな」
「え?」
ルーシェは驚いた顔でヨールを見た。
「その瞳のように澄んだ気持ちでいればいいのです」
ヨールはにっこりと笑う。
「わかりました。僕は僕のままでいれば良いのですね」
ルーシェもにっこり笑った。
「そういう事です。陛下が愛しているのはルーシェ殿であって、決して覇者の相ではありませんからな」
「はい」
もう不安はなくなっていた。
覇者の相の事で悩む事ももうないだろう。
それでもやはり、危険がなくなった訳ではない。
いつどこの国から刺客が送られて来るかわからない。
しかしそれでも、ルーシェは自然体でいれば良いのだと思った。
ルーシェはヨールに礼を言って、ヨールの私室を出た。
自分にどんな力があっても、自分は自分のままでいればいい。
レインを愛する気持ちに変わりはない。
今まで不安に駆られていたのが嘘のようだった。
ルーシェは安心感に浸りながら、ルークの部屋へ行った。
すやすやと眠る赤子は、幸せそうな顔をしていた。
母親を知らないで育つ事を思うと胸が痛むが、自分が母の分まで愛そうと誓う。
乳母に断って、抱かせてもらった。
まだ小さな赤子は、これからルーシェとレインに愛されて育つのだろう。
「ルーク」
愛しげに目を細めてその名を呼ぶ。
母フェイシアが、ルーシェと似た名前を付けた事は知っていた。
この子は間違い無く、ルーシェの弟だ。
そしてルーシェは、ルークを抱いたまま乳母と一緒にお気に入りの場所へ向かった。
綺麗な花で彩られている中庭。
中庭へ出ると、ルーシェは草の上に座り込んだ。
腕にはルークを抱いたままだ。
母の死はこの上なく悲しかったが、いつまでも悲しんではいられない。
母の分まで幸せにならなければきっと母は悲しむだろう。
それに、自分を必要としてくれる人がいる。
自分が必要としている人がいる。
ルークにもやがてそんな人物が現れるだろう。
その時は笑顔で祝福してやりたい。
ルーシェはそう願いながら、温かい眼差しでルークを見つめていた。
終。
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読んで頂きありがとうございます。
感想など頂けると喜びます。
ツッコミはご容赦くださいm(_ _)m
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