【BL】GAME

久遠院 純

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 俺はごくごく平凡な高校2年生。
 ちなみにバスケ部に所属してる。
 実力は⋯⋯2年になってレギュラーにもなれたから、そこそこあるとは思う。
 そしてこのバスケ部には、校内でも知らない者はいないという有名な名物マネージャーがいる。
 マネージャーの名前は鳴海秀斗(なるみひでと)。
 3年生の彼は選手兼マネージャーなので、バスケの腕前もかなりのものだ。
 そんな鳴海先輩が何故有名なのか。
 身長は俺とそう変わらないから175センチ前後だと思うけど、顔は男なのに綺麗っぽくて、性格はすごく優しくて、成績だって良くて、その上バスケの実力もかなりのものとくれば有名になってもおかしくないだろう。
 皆の憧れの的。
 それが鳴海先輩だ。
 先輩が有名なのはそれだけじゃない。
 「難攻不落」としても有名だった。
 ここは男子校なんだけど、鳴海先輩はやたらと男にモテる。
 そして男はもちろん、他校の女子生徒からもモテる。
 だけど「難攻不落」になったのは2年生になってからだ。
 1年生の時は女でも男でも来るもの拒まず去るもの追わずで、1年生とは思えないくらい遊んでたらしい。
 それが、2年生になって急にそれを止めて今度は誰とも遊ばなくなった。
 高2にして女にも男にも飽きたんじゃないかって噂が流れたくらいだ。
 真意はともかく、とにかく今の先輩は「難攻不落」なのだ。
 2年生の時からずっと誰とも付き合ってないんだ。
 振られても簡単に諦めない連中も多いって話だけど。
 そして俺はちょっとした売り言葉に買い言葉が原因で、この先輩を「モノ」にしなければならなくなってしまったのだ。
 それはつまり難攻不落と名高い先輩を「落とす」って事。
 要するに、こ、恋人にするって事だ。
 どうしてそんな事になってしまったのかと言うと⋯⋯。

 あれは3日前。
 他校と練習試合をする事が決まり、部活終了後に部室でミーティングしていた時だ。
 マネージャーでもある鳴海先輩がスタメンを発表した。
 俺はインターハイ予選の出場もほぼ決定だったから、今回の練習試合にもきっと出られると思ってたんだ。
 なのに。
「以上が練習試合のスタメンだ。それじゃ今日はこれで終了」
 鳴海先輩が椅子から立ち上がる。
 俺は先輩の後を追って部室を出た。
「先輩っ、鳴海先輩っ」
「ああ、早瀬か」
 先輩は振り返ると、俺を見てうっすらと笑みを浮かべる。
「どうして俺の名前ないんですか?」
 俺は先輩の笑みにちょっとどきどきしながら、思っていた事を訊いた。
 先輩が発表した練習試合のスタメンの中に、俺の名前はなかった。
 すると先輩はちょっと困った顔で俺を見る。
 男なのにどうしてこんな表情がしっくりくるのかわからないんだけど、困った顔の先輩って何だか可愛い。
 男女の別なくモテるのもわかる気がした。
「もうすぐインターハイだろ?練習試合の相手はラフプレーが多いところだから、もしレギュラーメンバーが怪我でもしたら良くないと思ってね。早瀬は今回、はずさせてもらったんだ」
 先輩が説明する。
 確かに今度練習試合する相手は、ファウルぎりぎりのラフプレーが多い。
 しかも奴らはみんな喧嘩っ早いみたいで、俺は1年の時に奴らに絡まれた事があった。
 かなり嫌な絡まれ方をしてむかついた。
 先輩は俺が奴らと喧嘩でもして問題になるかも知れないって考えたんだろう。
「でも、レギュラーで出ないのって、俺だけじゃないですか」
 だから納得できる訳もなく、俺は口を尖らせた。
 レギュラーで練習試合に出ないのは俺だけなのだ。
 俺だけが問題を起こす可能性があるなんて思ってるんだろうか。
 3年の先輩たちの方がよっぽど喧嘩腰だったのに。
 すると先輩はまた困ったような顔で俺を見る。
「実を言うと、結構私情入ってるんだよね。ようするに俺の個人的な理由で、今回早瀬は出したくないの」
 そしてそう言って先輩はにこりと笑った。
「なっ、私情って何なんですかっ」
 俺はその言葉に納得がいかなくて声を荒げる。
 それはつまり、やっぱり先輩は俺が問題を起こす可能性があるって考えてるって事で。
「教えない。とにかく今回は、早瀬はしっかり相手の動きを観察するんだ。予選では必ずぶつかる相手だから」
「そんなのじゃ納得できないですよ!納得のいく説明してください!」
「う~ん、それは困るなあ」
 俺の言葉に先輩は少しも困ってない顔でつぶやいた。
 何となく、今のこの状況を楽しんでるみたいに見える。
「だったら俺も練習試合に出させてくださいよ」
「それはダメ」
「じゃあ納得のいく説明してください」
「そうだね⋯⋯じゃあ、こういうのはどうかな。俺をモノにしてごらん。そしたら早瀬の言う“納得のいく説明”ってやつしてあげる。どっちにしろ試合に出るのは諦めてもらうけどね」
 口を尖らせる俺を見て、先輩は楽しそうに言った。
「は?モノって、ええっ?」
 予想外の先輩の言葉に、俺はどう反応していいわからず混乱する。
 モノって⋯⋯それってもしかして。
「だから、俺を口説いて落としてごらん。もし俺を恋人にする事ができたら、納得のいく説明してあげるよ。簡単だろ?」
 混乱する俺に、先輩は笑みを浮かべてそう言った。
 簡単か?どっちにしても、試合に出るのは諦めろって事。
 うまく言いくるめられたような。
 でも何でいきなりそんな事を言い出したんだろう。
 俺はそれが不思議だった。
 しかも俺も先輩も男なのに、何で?
 まあ先輩は男にも好かれるくらいだからこういうのは慣れてるかも知れないけどさ。
 男女関係なく遊びまくってたんだから、当然男とも経験があるだろうし。
 でも、憧れでしかも難攻不落の先輩に「モノにしてみろ」って言われた俺ってどうよ?
 俺が告白できる訳ないって考えてるのかな。
 それともただ単にからかってるだけなんだろうか。
 色んな事がぐるぐると頭の中を回る。
 もちろん、いくら考えても答えが出る訳がなかった。

 という訳で、俺は鳴海先輩をモノにするために色々と頭の痛い日々を送る事になってしまったのだ。
 俺が先輩からの説明を諦めれば済む事なんだけど、どうしても納得のいく説明がしてほしかったし、何より俺は負けず嫌いなんだ。
 練習試合には結局出させてもらえないんだし、それならどうして出させてもらえないのかきちんと知りたい。
 諦めるって事は負けを認めるって事みたいで悔しい。
 だから引き下がる訳にはいかないんだ。
 でもはっきりいって、周囲の目が痛い。
 だって、鳴海先輩は校内だけでなく他校生だってその存在を知ってる有名人だ。
 そんな先輩が俺に「モノにしてみろ」なんて言ったって話はすぐに広まって。
 俺は至って平凡な生徒に過ぎないから、羨望よりはやっかみが多くて。
 部活の先輩は「ヒデも一体、何考えてんだかな~」なんて軽く笑い飛ばしてくれるし、同級生や後輩は訳知り顔で「頑張って」なんて言ってくるけど。
 だけど味方っぽいのはバスケ部の連中だけで。
 他の生徒は皆、俺を敵意に満ちた眼差しで睨んでくる。
 あからさまに何か言われるような事はないんだけど、何ていうか気まずい。
 先輩はこうなる事をわかっててあんな事言ったんだろうか。
 うう、先輩ならあり得る⋯⋯。
 とにかく、学校で心休まる場所ははっきりいってなかった。
 でも先輩をモノにするって言ったって、告白して先輩がOKくれない限り無理って事じゃないか。
 普通に告白したって簡単にOKくれる訳がない。
 難攻不落の先輩の心を動かすような口説き文句で告白をしなきゃいけないって事だ。
 絶対無理!!
 何かいい考えないかな。
 そして俺はある事を思いついた。

 部活が終わって帰る前、俺は鳴海先輩を呼び止めた。
 そして、思いついた事を話す。
「勝負?」
 先輩は怪訝そうな表情を浮かべた。
「はい」
 俺は真面目な顔で先輩を見つめる。
「それはまたどうして?」
「だって先輩、モノにしてごらんなんて言ったけど、俺が告白したとして素直にOKくれますか?」
「うーん。それは告白されてみないとわからないな」
 俺の言葉に、先輩はわざとらしく腕を組んだ。
 顔にはうっすらと笑みが浮かんでいる。
 もしかして先輩、この状況楽しんでるんじゃ⋯⋯。
 俺ってそんなにからかいやすいのかな。
 ってそんな事考えてる場合じゃないや。
「だからです。それに俺、そういう理由で告白とかしたくないんです。だから俺とフリースローで対決してください。俺が勝ったら納得のいく説明をするって事で」
「なるほどね。それで、俺が勝った時はどうするの?」
「説明を求めるのはやめます。それと、先輩の言う事ひとつだけ何でも聞きます。これじゃダメですか?」
 俺は先輩の様子を伺った。
 かなり都合のいい話だとは思う。
 でも、先輩が何を考えて俺に「モノにしてみろ」なんて言ったのか理解できないし、だからって「ああそうですか」ってうなずいて告白するのも馬鹿げてる。
 俺は純粋に憧れてるだけで、先輩に対して恋愛感情を持った事なんてないから。
 そして色々と考えて思い浮かんだのがこのフリースロー対決だったんだ。
 先輩をモノにする事無く、納得のいく説明をしてもらう方法。
 まあ、先輩が「そんな勝負しない」って言ってしまえばそれまでなんだけど。
 先輩の返答は。
「いいよ。それじゃ勝負しよう。今からでもいいかな」
 先輩はにっこり笑って了承してくれた。
 良かった。
 とにかく勝っても負けてもこれでやっかみから逃れられる。
 やっかみから逃げたくてこういう勝負をする俺も俺だよな。
 でもまあ、それでもいい。
 勝った時はもちろん、納得のいく説明をしてもらう。
 負けた時は⋯⋯。
 俺はちょっとした決意を固めていた。
「お願いします」
「じゃあ行こう」
 そして俺たちは、人気のなくなった体育館に向かう。
「5回中、入った本数の多いほうが勝ちって事でいいですか?」
「うん。それでいいよ。どっちが先攻?」
「俺から行きます」
「じゃあどうぞ」
 先輩がボールを渡す。
 俺はセンターサークルの中に立った。
 集中集中。
 小さく息を吐いて、ボールを放る。
 ボールは綺麗に弧を描いてゴールポストに吸い込まれた。
「お見事。やっぱり早瀬は上手いな」
 鳴海先輩はぱちぱちと手を叩いて褒める。
 めちゃくちゃ余裕たっぷりじゃん。
 自信なくなってきた。
 次は先輩の番だ
 俺がじっと見つめる中、先輩は危なげなくボールを放った。
 綺麗にポストに入る。
 先輩の方が上手いと思う。
 でも負ける訳にはいかないぞ。

 そしてそれぞれ5回投げた結果。
 ⋯⋯負けた。
「俺の勝ちだね」
 鳴海先輩がにっこりと笑う。
「⋯⋯俺の負けです」
 イカサマなしの勝負で負けたんだから仕方ない。
「それじゃ約束通り、俺の言う事何でもひとつ聞いてくれる?」
 先輩は嬉しそうだ。
「はい。けどその前に、俺バスケ部辞めます」
 俺はそう言って先輩を見た。
「え?」
 先輩は目を丸くして俺を見る。
 俺が何を言ったのか、一瞬わからなかったようだ。
「だから、バスケ部辞めます」
「どうして?俺が理由話さないから?」
 先輩はあからさまに動揺した様子で訊いてきた。
「スタメンから外された理由って、ようするに俺が相手校の連中と喧嘩するかも知れないって思ってるからですよね?」
「それは⋯⋯」
 先輩は言葉を詰まらせる。
「それなのに先輩、理由を適当にはぐらかして俺に“モノにしてみろ”なんて、からかってるとしか思えませんよ」
 黙り込む先輩に、俺は尚も言った。
「からかうって⋯⋯。そんなつもりないよ」
 先輩は焦ったように俺を見る。
 じゃあどんなつもりなんだよって思ったけど、口には出さないでおく。
「喧嘩の可能性を考えてスタメンから外したんだろうっていうのはわかります。でも、それならちゃんとそう言ってくれればいいじゃないですか。結局、俺って先輩に信用されてないのかなって思って⋯⋯悲しかったです」
「何言ってるんだ。信用してない訳ないだろ?」
「じゃあ、どうして話してくれなかったんですか?」
「⋯⋯違うんだ」
 俺の言葉に、先輩は弱りきった顔でうつむいた。
「違う?」
「スタメンから外した理由。喧嘩の可能性なんて考えてなかった」
「じゃあどうしてっ?」
 先輩が何を言いたいのか理解できなくて、俺は思わず声を荒げてしまう。
 喧嘩の可能性が理由じゃないなら、何が理由だってんだ。
 俺がじっと見つめていると、先輩は観念したように肩を落とした。
「⋯⋯ほんと早瀬って自覚ないよね」
 そしてそう言ってため息をつく。
「はい?」
 突然の先輩の言葉に、俺は目を丸くした。
 自覚って何の自覚?
 レギュラーとしての自覚ならしっかり持ってるぞ。
「あのさ、早瀬。俺がちゃんと理由話せば、バスケ部辞めるなんて言わない?」
 先輩はそう言って俺を見つめた。
 男なんだけど、綺麗な顔に何だかドキドキする。
「う⋯⋯はい」
 そして俺は、ドキドキしてるのを悟られないようにうなずいた。
「それじゃ話すよ。俺、早瀬の事が好きなんだ。初めて早瀬を見た時からずっと」
「⋯⋯は?え、先輩、今何て?」
「だから。俺は、早瀬の事が好き」
「俺の事が好きって⋯⋯ええっ?」
 マジかよっ?
 俺の事好きって。
 先輩が?
 もしかして、2年生になって「難攻不落」になったのって、俺を好きになったからとか?
 そんなまさか。
「もちろん、恋愛感情だよ」
「もちろんって、え、え、ええっ?」
 俺はまだ信じられず、先輩を見つめたまま口をぽかんと開ける。
 本当に俺の事好きなんだ⋯⋯。
 ていうか、それが理由ってどういう事?
 俺の事が好きだから、スタメンから外したって?
「あーあ。本気じゃなくても、早瀬から告白されてみたかったのにな~」
 先輩はため息をついてそうつぶやいた。
 はあっ?
 一体どういう事だろう。
 俺に告白されたかったって?
「あの、訳わかんないんですけど」
「今回の練習試合の相手なんだけどさ、あいつら早瀬に目を付けてるんだよね。早瀬、自分が狙われてるって全然気付いてないんだもん。本当の理由なんて言えないから適当にはぐらかしてたんだよ」
「えっと、それって?」
 ちょっと待て。
 それじゃ、俺は奴らに喧嘩売られてる訳じゃなくて、気に入られて目を付けられてるって事か?
 だからあんなにやたらと絡んで来てたのか?
 “早瀬ちゃん可愛い~”とか“メッセージID教えてよー”とか“電話番号交換しようよ~”とか。
 あと、あのくそむかつく“一発ヤらせろよ~”とか言ってたのもそうなのか?
 俺をからかって言ってた訳じゃなくて、本気でヤりたいとか思ってたって事か?
「だから、せめて練習試合くらいはあんな獣(ケダモノ)みたいな奴らの前に早瀬を出したくない訳。これが早瀬をスタメンから外した理由だよ。例え早瀬が納得できなくてもね」
 まだ混乱気味の俺に、先輩はとくとくと語る。
 納得はできた。
 先輩は俺の事が好きで、他校の連中に俺が目を付けられてるって知って、そいつらから隠したくてスタメンから外した、と。
 ていうか、納得はできたけど信じられる訳がないよ。
 あの難攻不落と名高い先輩が、平凡で何も取り柄のない俺を好きだなんて。
 もしかして、やっぱりからかってんのかな?
 他の先輩たちも同級生も後輩も、バスケ部の連中はみんな訳知り顔だったし。
 俺をハメようとしてるんじゃないのか?
「納得はできますけど、信じられません」
「どうして?俺が嘘ついてると思うの?」
「それは⋯⋯」
 先輩に真剣な顔で見つめられて、俺はたじろいだ。
 嘘を言ってるようには見えないけど、でも⋯⋯。
「俺の事、からかってるんじゃないんですか?」
 そう言うと。
 先輩は急に無表情になった。
 もしかして、怒った?
 普段にこにこしてる先輩は、怒ると表情がなくなる。
 きっと、先輩は今かなり怒ってる。
「早瀬、来て」
 先輩はそう言って俺の腕を掴むと、さっさと歩き始めた。
 急に引っ張られてよろけてしまう。
 それでも先輩が俺を掴む手は緩まない。
 意外と力あるんだよな、先輩。
 身長も体重も俺と大差ない筈なのに、俺よりも体格っていうか骨格はしっかりしてる。
 力じゃ敵わないかも。

 そして俺が連れて行かれたのはバスケ部の部室だった。
 もうみんな帰った後で、残っている奴はいない。
 俺を部室に押し込むと先輩は後ろ手にドアを閉めた。
「俺が早瀬をからかうつもりで告白したって思う訳?初めて見た時から好きだったって言うのも信じられない?」
 先輩は低い声で訊いてきた。
 怒ってる先輩は怖い。
 でもどうして怒ってるのかわからなかった。
「じゃあ、本気だって言うんですか?そっちの方が信じられません」
 怖くて震えそうになるのをこらえて、俺は先輩を見つめる。
「信じなくてもいいよ。早瀬が信じなくても、俺の気持ちは嘘じゃないから」
 先輩はそう言うと、俺の肩を掴んだ。
 そして。
「っ⋯⋯」
 気付くと、唇を塞がれていた。
 先輩が俺にキスしてる⋯⋯。
 驚いてもがくけど、逃げる事ができない。
 それどころか、先輩の舌が口内に入ってきて俺の舌を絡め取る。
 段々と力が入らなくなってきた。
 すっかり腰砕けになる頃、ようやく解放された。
 俺はその場にずるずると座り込む。
 キス自体が初めてなのに、いきなりあんなすごいのされたら当然だって。
 先輩はへたり込んだ俺の前に膝をついた。
「俺が勝ったら、俺の言う事何でもひとつ聞くって言ったよね」
「⋯⋯はい」
「じゃあ、俺のものになって」
「は?」
「だから俺のものになって。俺の事、別に好きじゃなくてもいいから。絶対に好きにさせてみせるから」
「⋯⋯先輩?」
 俺は先輩の言いたい事が理解できずに首を傾げた。
 確かに、何でもひとつ聞くって言ったけど。
「早瀬が俺の気持ちを信じようと信じまいと俺は嘘ついてないし、好きな奴と2人きりで正常でいられるほど、俺は理性的じゃないんだ」
「それって⋯⋯?」
 先輩、もしかして俺に欲情してる?
 マジで?
「本気だよ。こんなに本気になったの、早瀬が初めてだ」
 先輩は真剣な顔で俺を見た。
 多分、本気なんだろう。
 先輩は本当に俺の事好きなんだ⋯⋯。
 俺だって別に、先輩の事は嫌いじゃない。ただ、恋愛感情での好きとは違うけど。
 でも、告白されてもそれほど嫌じゃなかった。嫌悪感は湧かない。
「先輩の事は嫌いじゃないですけど。でも、恋愛感情で見れるかどうかは自分でもわかりません」
 俺はうつむいてそう言った。
 先輩の事を嫌いになれない時点で答えは半分出てるんだけど。
 だけどそれまでは落ちてやらない。
 勝負には負けたけど、先輩には勝った。
 そんな気分だった。
「今はそれでいいから。先に体だけ頂戴」
 色々と考えている俺にそう囁くと、先輩はにっこりと微笑んだ。
「はぁっ?」
 俺は素っ頓狂な声を上げてしまう。
 先輩、今何てった?
 先に体だけって?
 それってどういう⋯⋯。
 なんて混乱してる内に、俺は床に押し倒されていた。
 マジ!?
 俺の気持ちは関係ナシですか!!
「先輩、ちょっと待って」
「やーだ。待たない」
 焦る俺に、先輩は可愛らしく舌を出す。
 可愛い⋯⋯。
 なんてぼうっとしてたのがいけなかった。
 敏感な所を触られて、思うように抵抗できなくなって、そうこうしているうちにすっかり脱がされてしまい。
「やだっ、あ、ああっ」
 しっかりと元気にさせられた股間のモノは先輩の巧みな手の動きに翻弄されて、あっけなく熱を解放してしまった。
 体の力が抜けたところで、今度は後孔をつつかれる。
「や、そこダメっ、先輩っ」
 俺が放ったもので濡れた指がゆっくりと侵入してきて、思わず全身が震えた。
 気持ちいいような悪いような、変な感じ。
「何言ってるの。早瀬のココ、すごく熱くてひくひくしてるよ」
「そんな、あっ、やだ、気持ち悪い⋯⋯っ」
 口では嫌だとか気持ち悪いとかしっかり抵抗してるんだけど、体はちっとも言う事を聞かない。
 それどころか、少しでも快感を求めようとしてしまう。
 これでもかってくらいに解されて先輩のモノが入って来た時には、言葉で抵抗する気もなくしていた。
 ゆっくりとした動きに、変な感覚が段々と快感に変わる。
 やばいよ俺⋯⋯。
 こんな事が気持ちいいって感じるなんて。
 こんな事されてもやっぱり先輩の事が嫌いじゃないなんて。
 やっぱり、俺の負けかな。
 段々と激しくなる動きに自分でも信じられないような喘ぎ声をあげながら、俺はそんな事を考えていた。
 解放が近付いたのか、先輩が俺の股間のモノに手をやった。
 ゆるゆると扱かれて再び元気を取り戻し始める。
 前の快感と、後ろからの内臓をかき混ぜるような感覚に俺は半分意識を飛ばしていた。
 既に思考能力ゼロって感じ。
 そして、解放と同時に本当に意識を飛ばしてしまった。

 気付いたら体は綺麗に拭かれてて、ジャージもきちんと着せられていた。
「気がついた?早瀬って凄く感じやすいんだね」
 すぐ傍に先輩が座っていて、気付いた俺を見て嬉しそうに微笑んだ。
「⋯⋯はい?」
 だるい体を先輩の方に向けて、首を傾げる。
 感じやすい、って?
「意識飛ばしちゃうくらい感じたって事でしょ?俺が上手いっていうより、早瀬が敏感なんだと思うけど」
 先輩はそう言ってにっこり。
 何だか、問題は別の所にある気がするんだけど。
 どうしてこんな事になったのか考えるだけで頭痛い。
 もう訳わかんない。
 わかってるのは、先輩は俺の事が好きで、俺も先輩の事は嫌いじゃないって事。
 俺もそのうち、先輩と同じ意味で先輩の事、好きになっちゃうんだろうな。
 ていうか、好きにさせられちゃうんだろうな⋯⋯。
「はぁ⋯⋯。俺の負けです。先輩には敵いませんよ」
 俺はそう言ってゆっくりと立ち上がった。
 腰が重い⋯⋯。
 ふらつく体を先輩が軽々と支えてくれる。
 俺と体格そんなに変わらないのにどうしてこんなに力あるんだろう。
「違うよ。負けたのは俺の方だよ」
 立ち上がった俺に、先輩はそう言ってにっこり笑った。
「え?」
「先に惚れた時点で、俺の負けなんだよ」
 きょとんとする俺に、先輩は笑みを深くしてそう言う。
 そんな先輩に魅入られて、虜にされそうなあたり俺も負けだと思うんだけど。
 でもそれは言わないでおこう。
 とりあえず、練習試合に出られない理由は聞けた訳だし、当初の目的は果たせたって事で。
 だけど。
 結局この勝負、どっちが勝ったんだろう?

 終。
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