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第26話 魔法で操る世の理攻撃(The world of physical attacks that manipulate magic.)

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 微かな魔力反応を感知。すぐ後にハッキリとした、害意を察知。しかも無数に。こんなに至近距離に現れるまで探知出来ないとは、傀儡・・の如き、感情の無い処理動作か。魔法発動を感知し、咄嗟に超古代魔法を発動する。

 “反射障壁”

 全ての魔法をそのまま唱えた者に跳ね返す障壁だ。如何様な魔法も愚かな攻撃者を返り討ちにしよう。すると同時に捉えていたコボルド達が倒れ伏した。睡眠系か? われを生け捕りにするつもりか。笑止。

 目の前に躍り出て来た人の形をした砂粒の塊が目に止まる。こんな小さな傀儡如き……。舐めるな!

“超音速衝撃波"

 虫ケラ傀儡が生意気にも魔素で構成した盾で衝撃波を散らしていく。前列の虫ケラ傀儡は粉々になったが散らされた所為で第2列の虫ケラ傀儡は破壊出来なかった。なに。直ぐに其奴らも連続で壊してやる。

 なんだ? 二重結界? 吾を閉じ込めようと言う腹か? 奴らの魔法はどうせ効かないからな。悪足掻きか? くだらぬ。こんなものこの"空気の槍"で……なんだ? 外側の結界が迫ってくる? 内側が解呪され……!!

 空気が耳から鼻から勝手に入ってくる!! 肺が膨らむでなく抑えつけられる!? 目と耳の奥が痛み出した!! 不味い! 

「あぁああああ!」

 何かが破裂する音と共に耳の奥が激しく痛みだし、思わず声をあげた。

 “身体物理強化!”

 ぐう!? 耐え切れぬ……だと!?

 “耐圧力身体状態維持物理強化!”

「かは!?」

 抜かった……。吐血と共に吐き気とダルさで一気に戦意が失われるのを感じた。急ぎ空気の槍を作成して高濃度の空気を薄める。結界を壊そうとした瞬間に、今度は結界が広がった。虚しく空を掠める私の槍。肺から強制排出されていく空気が、絶望感が、私の意識を奪い去った。

 ◆

 入口のゴブリン達の悲鳴を合図に、広場床下に待機させていたサンド・グレインがコボルド達を強制睡眠で眠らせる。

『なんで、眠らせるコボ?』
『予測出来ないイレギュラーを防ぐ為にだ。お前たちだけ頭が良くなったのに家族が元のままだと不公平だろ? それにまだ終わってない。むしろここからが本番だ』

 広場に一箇所に集められていたコボルド達は一斉にヘタリ込む。しかし、ただなかで立って・・・いる・・人物が一人。

 ゴブリンと同じ肌。しかし見た目は人の子供。小さなツノもなく、耳も多少縦長だが尖っていない。ゴブリンと人の中間の種族に女の子は見えた。

『なんだ、あのゴブ……メス……コボ?』
『弱そうコボ』
『あんなの俺のヴェアヴォルフで一発コボ』
『見た目では判断出来ない、皆! 待機だ』

コボルド達が感想を漏らすが、コルベルトが制す。

『ありがと。コルベルト。皆、アイツに生半可な魔法は効かない。家族が攻撃されない様一人につきサンド・グレインを一体つけている。臨機応変に対応するためにも家族の近くのサンド・グレインに指示を出せる様にしてくれ。これから大規模な連携魔法を使う』

 コボルド達に言いながらも戦慄していた。こちらの魔法が一切効かない。向こうの魔法は得体が知れない。こんな小さな女の子が最大の障害なのかと。もっと恐ろしげな格好の悪魔族かと思っていた。そのギャップが、底なし沼か底の見えない谷の際に立たされた様な恐怖で、全身から嫌な汗が吹き出した。

 女の子の瞳が一体のサンド・グレインを捉える。超高速の衝撃波ショック・ウェーブが陣形を取った最前列のサンド・グレインを襲う。何らかの攻撃は予測していたのだが"音"とは少し想定外だ。しかし問題ない。対処自体には何の支障もない。コボルドが倒れて良かった。

 衝撃波を多重結界ラミネート・シールドでシールド粉砕と共に相殺させた。にも関わらず、物理強化させてあるサンド・グレインの最前列は砂つぶに亀裂が入って行動不能になった。コボルド達を殺しても構わないと言わんばかりの威力だ。

 咄嗟にコボルド達には結界を張って音を遮断させたが次々に結界に亀裂が入るので、衝撃波が無くなるまで内側から結界を張り続ける。

 大したデータは無いが、前列のサンド・グレインのデミルアのコピー・スピリットも物理的に破壊された所為で再起不能にされた。それらに対して『すまない。後でまた作り直してやるからな』と思いを手向ける。やはりこんな魔法を使うだけあって化け物と認識しなおす。

 話の通じない強者ヤツは、やはり厄介だな。第二陣にラミネート・シールドを展開するサンド・グレインでショック・ウェーブの引き起こした乱反響にヴォイドハウリング効果を使って、いなし、吸収出来るかどうか観察しながら、散らす。

 音速の波に対してラミネート・シールドを何枚も高速形成するなど、思考加速が常時発動可能で最大思考速度クロックまであげられるデミルス、デミルアでなければ出来ない芸当だ。

 サンド・グレイン本体は物理限界動作なのでソニック・ブームをバンバン食らってるけど、超振動域を第一陣のサンド・グレインがラミネート・シールドと共に食らって防波堤の役割をしてくれたみたいだ。

 こいつを警戒して形成した陣形を一瞬でこうも乱されるとは。簡易的に組んだ多重円陣の第三陣形に緑の女の子を中心に直径6mの結界を貼らせ、第四陣形の一番外側のサンド・グレインに広場の地面から50cm上で密閉結界を広場の大きさに合わせて形成させる。これでコボルド達は安全だ。ツギハギ結界だが、テレパスでシンクロ出来るからこそ可能な密閉度だった。

 その広場の大きさから一気に小さくして空気を圧縮させ、その状態で第三陣形の結界を解く。緑の女の子に一気に空気の高圧力をかけた。

 身体強化なりの対策は取っていたようだから、死にはしないだろう。が、魔法攻撃ではない気圧攻撃は予測しなかった事だろう。魔法が効かないなら世のことわりを利用するのは当然だと思うが身体強化以外の対策をして来ないとは幸いだ。

 一気に片を付けさせて貰おう。地味に地上から深海への気分を味わってもらうだけだ。効果の程は直ぐに現れた。崩折れ、膝をつく。息苦しそうだ。胃液を吐き、頭痛に耐えている。流石、悪魔族。人間なら死んでいる。魔法で下駄を履いて、気圧差攻撃に耐えてみせた。

 結界の範囲を少し広げ気圧を少し緩めて、結界の一部を振動させて呼びかけた。

「降伏しろ。魔法だけで攻撃するお前と違ってこちらはあらゆる手段を備えている。もはや、お前一人だ、マーカーをつけた位でお前に俺をどうこう出来る術はないぞ」

 ヤツの目や耳、鼻から血が垂れてきた。毛細血管にダメージが入ったのだろう。血液の中の気圧はそのままだから血管が圧力に耐えられなかったのだろう。おそらく目眩や頭痛に襲われているはずだ。

 もしかしたら聞こえてなかったかもしれない。返事はない。ヤツは化け物と認識しているからには、油断はしない。次の手として、試してみたかった魔法の一つを発動する準備も行って置く。

「聞こえてるか? 降伏しろ」

 やはり返事はない。耳に異常をきたしたか? 身体についても勉強する必要があるな。テレパスするべきか? マーカーに上乗せで魔法をかけられても敵わない。と考えてると空気が揺らぎ氷の様な塊がヤツの右手に集まって細長い形に成長していくのを認め、直感的に空気を超圧縮して個体にまでしたものと認識した。

 折角の深海と同じ気圧が減圧して元に戻ろうとしている。これだから超技術保持者は困る。ならばと。結界を元よりも広い範囲に広げていく。サンド・グレインを飛ばしながら。深海から高所へ一気に減圧し、対処を逆手に取ったのだ。

 案の定気絶した。どんなに屈強な戦士でも鍛え辛い場所がある。気圧攻撃は全身くまなく攻撃出来る魔法では無い物理攻撃だ。便利極まりない。

「悪いが、お前の勉強不足だ。心理とか色々学んで来て貰うぞ。"強制睡眠学習"」

 ◆

 昏睡……それから……致死にゆっくりと向かう体内の各所が壊れていくもののはずだった。

 その崩壊が止まり、回復傾向にある。

 いったいどれほどの時が流れたろう。自分が何者かさえ忘れるくらいの悠久の時の中でゆっくりと夢絵を眺めていた。実体験に感じられない。それで中々記憶に入ってこない夢。なのに、またこの夢……。唯々、とある少年が繰り返し勉強をしている。

「だからそこはそうじゃないって。ほら失敗した」

 思わず声に出してしまう。それを延々眺めている。物語的には既に飽きが来ているが、その勉強内容までリアルタイムで見せられているのでいい加減覚え始めている。しかも結構興味深い勉強内容だった。

「この子頭良いのに、何でこんなにバカなんだろう」

 脳の使い方や怒りのコントロールに見下すことによるデメリットまで考えたこともないことが思慮深く考えられていたやり取り。何百、何千、何万回も繰り返される夢で覚えていく高度な知識。

「え、前こんなの書いてあったっけ? へぇ……」

 いつしかこの物語の少年に少なからず好意的なものを持ちながら、知識を自分のものにしていった。
 あれは誰だろうか。甘ちゃんで我儘でそれなのに強い意志で生きていく為に貪欲に魔法だけでなくあらゆる知識から生き残るヒントを得ようとする。

 あれは……

 ◆

 強制睡眠学習自体はオートで繰り返される。勝った。取り敢えずはこれで邪魔する最大勢力を傘下に入れられるか。まだ確定ではないが少なくとも敵対はしないようにしてくれるだろう。

 サンド・グレイン複数体で近付き傷を癒す。毛細血管の裂傷多数か。内臓ダメージも相当負荷がかかるな。これはこのクラスの圧力より弱くしなきゃ即死確定だ。このレベルの圧力は封印だな。もう少し弱い圧力に調整が必要だ。

『アイルス。どうだ? やったか?』
『多分、生捕り成功だ』
『生捕り!? どこまで甘ちゃんなんだよ! しっかりトドメをさせ!』
『コイツは、僕がここから離れた時のためのリーダーをやって貰う』

 魂と記憶は別で存在する。相手の記憶を擬似記憶によって阻害する。無垢な魂でこの記憶を何度も見てもらう。先入観や差別的な概念を取り除いた上で見て貰えば理解される事だろう。例え融合出来ず実体験として経験出来なくても。

『呆れたぞ、そんなことが可能だって思う事も、もうなんか、甘ちゃんにもほどがあるぞ!』
『まぁ、記憶を切り離した魂に繰り返し夢を見せてるから大丈夫だよ』
『なに?……今、さらりと恐ろしい事言わなかったか?』

『? だって、先入観とか記憶として僕等には邪魔だからね。一旦理解してもらってから決めてもらっても良いかなって。多分理解してくれると思うけど』
『ねぇ、それ洗脳じゃないの?』
『え? ……そうかも? でも何方も知った上で判断させる。のだから」
『はっ? 何言ってんの?』

『んー。ヘルを見てると基本的な行動も習性も感情の揺らぎも変わらない。で、あるなら、さ。悪魔族の課せられた使命って何?』
『お前、……

 ヘルが怖い顔になった。やはり、教会の作り話には無いが悪魔は人に一定間隔で戦争を仕掛けると言う使命って事らしい。その真の目的が解らない。
 それには、人も悪魔族と呼ばれる種族も精神的な成長が必要なんだと思う。

“吾が自信作を魔法如きで倒してくれるとはな。中々、面白い奴よ”

 その時、突然慣れ親しんだ魔法のテレパスと全く異なる感覚で声が頭の中に響いた。
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 アイルスがやらかしてる事や本筋には出にくい情報。

 ◆パッケージ・マジック読込再度停止中。
 ※パッケージ・マジック詳細等は割愛。

 ・オリジナル・マジック
   空気遮断結界と形態自在結界がもたらす事
   気圧の変化により、風が起こる。そのことに興味を
  持ったアイルスは気圧の事を調べた。そして高所での
  減圧による人体に及ぼす影響が、『高山病』と呼ばれ
  気圧変化による体調を崩す現象を知った。減圧によっ
  て起こる体調変化なら、高圧になる場合もあると予想。
  それに沿って調べた結果、『潜水病』なるものを知り、
  気圧攻撃などとトンデモナイ事を思いつくに至った。

  ・シーン説明
   今回はちょっと分かり辛いなと力量不足を認識して
  います。説明させて下さい。
   高圧力による体への負荷は、毛細血管が多く集まる
  箇所で、皮膚の薄い箇所から症状が現れます。血管内
  は1気圧のままで身体物理強化したとしてもそれは、
  1気圧の環境下での運用想定です。圧力により毛細血
  管はペシャンコになり、集まった逆流血液により内部
  弁が破壊され、その亀裂部分が押し潰されながら広が
  り、破れたところから空気が侵入します。これだけで
  大分ヤバいですが。

   彼女は辛うじて更に強化出来てない肺、目や耳や鼻
  と言った内部に通じる箇所を重点的な強化を行い、潰
  されるのを免れました。更に1気圧に戻す為に空気を
  圧縮し常温で存在させる無茶なことこの上ない空気の
  氷で槍を創り出します。その際に出てしまう熱を魔力
  変換させて物理強化でガリガリ減っていく魔力を補填
  しながら。

   ところがそれを見て結界を広げられた為、1気圧以
  下になってしまい、一気に毛細血管から空気を押し出
  し血が吹き出します。彼女は、いきなり体内の耐加圧
  から耐減圧のベクトル変化に対処出来ず貧血を起こし
  て気を失いました。目が飛び出なかったのは第二強化
  の肉体維持機能のお陰です。
   因みに一発目の加圧で鼓膜が破れている為に、彼女
  には降伏勧告は届いていません。その為彼女のパート
  には降伏勧告がありません。



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 【ステータス】
※変更なしの為、割愛。



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 お読みいただき、ありがとうございました。
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