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第十二話:退学

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 今回の件で、守護をしていた先生たちも怪我した程度であり、一件落着となった。
 しかし、俺とカナは冒険者育成学校の創設者に呼び出された。

「君たちを呼んだ理由が分かるか?」

 創設者は少し偉そうな態度をとりながら、俺たちの方へ質問をしてきた。

「危険なことを分かっていながらゴブリンの群れの方へ行ったこと?」

 俺は心当たりしかないことを質問で返した。

「確かにそれもあるが、それは現場にいたアイン先生の判断で行ったことだから気にする必要はない。問題なのはゴブリンキングを君たち二人で倒したことだ。」

「はぁ。」

 俺はゴブリンキングを倒したことが何の問題があるのかが分からず、変な返事をしてしまった。

「ゴブリンキングはランク5の魔獣なのは知っているな?それを学校の生徒、つまり、見習い冒険者が倒してしまったことが問題なのだ。ランク5の冒険者でもあの数のゴブリンとゴブリンキングを倒すのは難しいことなんだぞ。」

「つまり、見習いのくせにランク5の魔獣を倒すなということ?」

「違う。ランク5の魔獣を倒せるほどの実力があるのに、冒険者育成学校にいる必要がないということだ。」

「なるほど。」

 俺はまだ少し理解しきっていないが分かったような返答をした。
 カナは何を言っているのかさっぱりわからないというような顔をしていた。

「つまり、簡単に言えば冒険者育成学校は退学だ。そして、すぐにギルドへ行き冒険者登録をしてこいということだ。」

「最初からそういってくれよ。俺らはもう冒険者になっていいってことだよね?」

 創設者の言葉に完全に理解した俺は呆れたような、安心したような口ぶりでそう告げた。
 創設者は黙ったまま頷き、一枚の紙を差し出してきた。

「これをギルドに渡せば大丈夫だ。」

 俺たちはその紙を受け取り部屋を後にした。

「カナ、俺たちもう冒険者になっていいみたいだよ。」

「そうみたいね。まだ信じられない。」

 カナはそう言うと自分の頬をつねり夢じゃないことを確認した。
 まだ冒険者育成学校に入学してから半年も経っていないのに冒険者になれるとは思っていなかったので、正直俺も信じられない。

「とりあえず、ギルドに行ってみよう。」

 俺が提案すると、カナはそっと頷いた。
 ギルドというのは、冒険者を管理している所で、依頼を受注出来たり、依頼の報酬を貰えたりする場所で、冒険者のランクを決めたりもする。
 つまり、冒険者にとってギルドは雇い主である。
 俺たちはギルドに着くと受付嬢に創設者から貰った紙を渡した。

「はい。お預かりしますね。では、冒険者登録の方をしますので、まずはランク付けの方をさせて頂きます。」

 受付嬢はそう言うと、奥の部屋へ案内をしてくれた。
 その部屋には、真ん中に大きな結晶が置いてあり、その周りを何重にも防御魔法が張られていた。

「ここは?」

「ここは、ランク付けをするために戦闘力を測る場所になります。あの結晶に最大攻撃を当てて頂くと、結晶の上に数値が出る仕組みになっています。丁度今、他の冒険者が使うみたいなので見ていて下さい。」

 受付嬢が俺の質問に丁寧に答えてくれると、冒険者の一人が防御魔法の中へ入って行った。
 冒険者は剣を思いっきり振り、結晶に当たると凄い音と共に結晶の上に数値が出た。
 数値を見ると、三十と書かれていて、どのくらいの強さなのか分からなかった。

「三十はランク3ですね。十はランク1、二十はランク2、四十はランク4、五十はランク5となります。ランク6に関してはランク6魔獣を倒すことが出来ればなれますので。」

「つまり、最大は五十ということか?」

「いえ、最大は百になりますが、今まで百なんて出たことはありません。百を超えると結晶は壊れてしまいますが。」

 俺が分からないことを知っていたようにスラスラと受付嬢は説明をしてくれた。

「では、実際にやってみましょう。まずは、女性の方から。」

 受付嬢がそう言うと、カナのことを防御魔法の中まで案内をしてくれた。
 他の冒険者も見物が出来るようで、新人が入ってきたから見ようとしている人が多く集まった。
 カナは剣を抜き、勢い良く結晶に斬りかかった。
 すると、結晶は驚くことに綺麗に二つに分かれていた。
 部屋中がザワつき、受付嬢は焦っているように見えた。

「まさか、壊れるとは。すぐに予備を出すので少々お待ち下さい。」

 受付嬢はそう言うと、部屋を出て行ってしまった。

「壊れるってことは百超えたんじゃない?」

「そうなのかな?」

 カナは壊れるとは思っていなかったようで少し驚いたような顔でそう答えた。
 受付嬢が戻ってきて、予備の結晶を設置してくれた。
 受付嬢と共にギルドの関係者らしき人が入ってきて、他の冒険者の反応を見る限り、ギルドマスターであることが分かった。
 結晶が壊れることは異例のことだったためにギルドマスターも焦って見に来たらしい。

「では、次は男性の方どうぞ。」

 受付嬢はカナと同様に防御魔法の中へと案内してくれた。

「これって魔法でもいいの?」

「もちろん大丈夫です。」

 俺の問いに対して、すぐに答えてくれた。
 俺はどんな魔法なら良いのかと考え、想像をした。

「エクスプロージョン!」

 俺が発した言葉通り、左手から魔法陣が出ると同時に結晶が大きな音を鳴らしながら爆発した。
 俺は結晶の上の数値を見ようと黒煙の中に目を向けた。
 すると、驚くことに目の前には何も無いことに気づいた。

「え?結晶がなくなっちゃったよ。」

 俺が驚きながらそう言うと、周りの人たちは唖然としていた。
 すると、すぐにギルドマスターが部屋まで来るように言ってきた。

「君たちは何者だ?今まで結晶が壊れたところなど見たことがない。」

「俺たちはただの見習い冒険者だよ。」

 俺の返答にギルドマスターは頭を抱えてしまった。

「君たちにはランク5のネームタグを渡す。本当なら今すぐにでもランク6のネームタグを渡したい所だけど、それは出来ないからね。」

 ギルドマスターはそう言うと、ダイヤのネームタグを渡してきた。
 晴れて俺たちは冒険者となり、さらに、ランク5まで上がることが出来たのだ。

「そう言えば聞きたいことがあったんだけど、ランク6にユナって人がいるでしょ?その人にはどこに行ったら会える?」

「ユナには、ビョウインに行ったら会えると思うぞ。」

 俺の質問にギルドマスターが答えてくれたが、ビョウインという言葉に動揺が隠せなかった。
 この世界には、怪我や病気をすると医者に見せるのだが、医者はいても施設は存在しないのだ。
 しかし、俺の元いた世界で聞き慣れてる言葉でビョウインと確かに言ったのだ。
 これはユナに直接会って確かめる必要があると思い、ビョウインへと向かうことにした。
 ユナに会って話をすることで、様々な謎について知ることになるとは、この時の俺は考えもしなかった。
 
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