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第十一話:実戦授業

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 冒険者育成学校は学校というだけあって、雑学の授業ばかりで正直つまらない。
 魔獣にはそれぞれランクが1~8まであり、1~6は冒険者ランクと同じでそのランク同士で戦うと冒険者が勝てるというものだった。
 7は冒険者ランク6が十人でやっと勝てるほどの魔獣で、8は百人集まっても勝てるかどうか分からない強さで、現在ランク6の冒険者は八人しかおらず、ランク8の魔獣が出ると逃げるしか方法がないそうだ。
 このようなことは、この世界で暮らしてる人たちにとって常識的なことであり、そんな雑学ばかりを学ばされてもつまらないものだ。
 カナは文字の読み書きが出来ないものの、シルヴァと共にいた時に、冒険者について様々な事を教えられていたため、俺と同様つまらなそうだ。
 なので俺は、カナに授業中に文字の読み書きについて教えていた。
 早く実戦の授業がないものかと考えながら同じような毎日を過ごしていた。

「今日はこれから王都の外へ出て実戦の授業をする。」

 ある日の朝、先生はそう告げるとすぐに準備をするようにと言ってきた。
 俺は心の底から喜び、やっとの実戦にワクワクが止まらなかった。
 しかし、王都の外といっても冒険者育成学校が所有する土地であり、ランク1の魔獣が出るくらいの場所だった。

「はぁ。期待してたのに、ランク1の魔獣なんて何度も倒してるからつまらないよ。」

「ダメだよ、ヤミ。油断したら危ない。」

 俺が落ち込みながら呟くと、カナが注意してきた。
 毎日一緒にいるようになってから、少しずつではあるがカナが俺に心に開いてくれるようになっていた。
 そうは言われてもつまらないのは事実であり、あまり乗り気ではなかった。

「ランクが低い魔獣だからといって油断することなくしっかりとチームで対処するんだぞ!」

 先生が皆に聞こえるように話すと、生徒達はそれぞれのチームに分かれ、バラバラになっていった。
 俺は周囲に探知魔法を使い、魔獣の場所を把握しようとした。
 そして、探知魔法を使うと驚きの事実が発覚し、血相を変え先生の元へ走った。

「大変だ、周りを守護している先生たちが倒れている!それだけじゃない!かなりの数の魔獣がこちらへ向かってきているぞ!」

 俺は息を切らしながらその事実を先生へと話した。

「それは本当か?今すぐ先生たちに確認をとる!」

 先生はそう言うと何かの道具を出し、他の先生たちに確認をとっていた。

「本当だ。応答がない。すぐに生徒たちを避難させなくては。」

「先生はすぐに生徒たちを避難させてくれ!俺たちは魔獣を足止めする!」
 
「危険だ!君たちが生徒を集め、避難させてくれ!」

「俺たちの言葉をここの生徒たちは信じない!貴族だかなんだか知らないが、あいつらには俺たちの言葉より先生の言葉の方が届く。」

 俺は拳を握り締め歯を食いしばり、そう答えた。
 事実、俺とカナは生徒の中でかなり浮いている存在であり、他の生徒は全員貴族の人間であった。

「分かった。ただし、無理だけはするな!すぐに先生もそちらへ向かう!」

 先生はそう言うとすぐに散り散りになった生徒を集めに行った。

「カナ、そういうことだ。大丈夫か?」

「うん、大丈夫。」

 俺はカナに確認を取ると魔獣を探知した方へと向かった。
 俺は心の何処かでこんな展開を期待していたんじゃないかと思えるほどワクワクした気持ちになった。
 魔獣の近くに着くと、探知した魔獣はゴブリンであることがわかった。
 ゴブリンはランク1の魔獣ではあるが、ほとんどのゴブリンは群れで行動していて、群れを率いているリーダーが存在する。
 群れを率いるリーダーにもランクがあり、群れが多ければ多いほど高ランクのゴブリンが率いている可能性が高い。
 俺が探知した限りだと百を超えていて、相当強いゴブリンが率いているのだと感じた。

「かなり強いゴブリンが率いている群れだぞ、これは。」

「そうみたいだね。どうする?」

「俺が魔法で一気にゴブリンの群れを倒し、ゴブリンのリーダーを二人で倒す。」

「分かった。」

 俺たちの作戦は決まり、空間魔法の中から刀を取り出した。
 俺は左手を前に出し、試験の時と同じよう最大の魔法を想像した。

「メテオ!」

 俺が言葉を発すると同時に空に大きな魔法陣が現れ、その中から大きな隕石が降ってきた。
 その隕石はゴブリンに向かって飛んでいき、一気に蹴散らした。

「ふぅ。これでほとんどのゴブリンは倒せたとは思うが。」

「試験会場を破壊した魔法よね、これ。凄い威力ね。」

 地面にはまだ少し火が残る中、奥の方からかなり大きなゴブリンが歩いてくるのが見えた。

「あれって、もしかしてゴブリンキングか?」

「首飾りを見る限りそうね。初めて見たわ。」

 ゴブリンキングは首飾りにゴブリンの頭蓋骨を大量に付けていて、ゴブリンと比べるとかなり大きく、ランクは5である。
 俺とカナは迷うことなく、剣と刀を抜き、ゴブリンキングへと斬りかかった。
 ゴブリンキングは大きな咆哮をすると同時に、持っていた棍棒でこちらへと殴りかかってきた。
 それを避け、二人で両側の脇腹を斬りつけた。
 ゴブリンキングは、それに対して怒った様に俺を殴り飛ばした。

「ヤミ、大丈夫?」

「ああ、問題ない。強化魔法と防御魔法でダメージを減らしてる。」

 俺はそう言うと、左手を出し魔法を使った。

「アイススピア!」

 俺の左手から魔法陣が出ると同時に、氷の槍が複数ゴブリンキングへと向かい、刺さった。
 ゴブリンキングは奇声をあげながら倒れ、悶えていた。

「今だ!」

 俺の合図で、カナと俺は一斉にゴブリンキングの首を目掛けて斬りつけた。
 ゴブリンキングは小さく声を発し、動かなくなった。
 どうにか全て倒すことが出来たが、周りを見るとかなりの数のゴブリンが倒れていた。
 俺は少し疲れたので、座り込むとカナがこちらの方へ歩いてきた。

「怪我してるじゃない。」

 カナはそういうと、俺の頬を舐めた。
 カナが舐めるとすぐに怪我が治り、治癒魔法でもこの回復速度は見たことがなく驚いた。

「ありがとう。カナ、普通の治癒魔法か?」

「そうだよ?私それしか使えないし。」

 カナは不思議そうに俺を見つめたが、普通の治癒魔法の回復速度ではないことだけは確かであった。
 その後、すぐに先生が駆けつけてきたが、もう戦闘は終わっていることに驚いていた。
 この一件により、俺たちは冒険者育成学校の生活が終わることになるとは思ってもいなかった。
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