上 下
61 / 69
高校生編

第61話 決断

しおりを挟む
 うちの高校はステージ発表が全て行われてから、3時間ほどの間にインターネットを通して投票が行われる。

 ちなみに優勝したチームには1人1000円分の学校内で使えるクーポン券が配られる。

 そうして、今は3時間ほどが経過し、結果発表のために全校生徒が集まり生徒会長のお話が始まるところだった。

『例年にも増して盛り上がりまして...』

 そんな言葉が耳に入ることはなく、俺はただ結果を待ち続けた。

 俺にできることは...やったつもりだ。
だから、もし...優勝できたら...俺は。

 そうして、結果が発表が行われる。

『それではステージの出し物から結果発表いたします。まずは1年生ですが...準優勝はクラス一体のダンス発表を行った1年2組です。コメントとして多かったのが...』

 インターネットの投票の際、同時にコメントを書くことが可能であり、こうして順位とともにコメントを読まれるのが恒例となっていた。

『そして、最後に3年生です。3年生が最もコメントが多く、様々な意見が寄せられていました。それでは準優勝から発表いたします。準優勝は...圧倒的な演技力と少し後に引くような物語を見事に劇にまとめた...3年3組です』

「うわー!準優勝か!」「まじか!頑張ったんだけどな!」「くそー!」という中で、拳を潰れんばかりに握りしめる俺。

 勝てなかった。...全力を出しても届かなかった。...なんで...なんで!いけなかったのはなんだ!足りなかったのはなんだ!分かってる!真凜ちゃんの脚本は完璧だった!みんなもミスはなく練習通りにできていた!だとすれば...問題だったのは俺の演技力だ!くそっ!くそっ!

 奥歯を強く噛み締める。

 最近は負けて当たり前、失敗して当然と思っていたのに...。他の子に役を取られた時の...あの時の忘れかけていた悔しさを今更ながらに思い出しながら目には涙浮かんでいた。

 謝らないと。みんなに。
俺のせいで負けたことを。
無理やり劇をやって勝てなかったことを。

「...ッ!...み、みん「みんな頑張ったよ!」と、真凜ちゃんが俺を隠すように皆んなに言った。

「...おう!いや、俺すげー楽しかった!それにやっぱ碧の演技すげーって思った!」
「俺も俺も!あの迫真の演技は普通の人には無理だって!あれがなきゃ絶対準優勝はなかったから!」
「そうそう!碧くんちょーかっこよかった!いろんな人に聞かれたよ!あのかっこいい人は誰ー?って!」

 みんなが俺を庇ってくれた...。
あの時はいつも母さんに泣きついていた。
母さんしかいなかった。
けど、今の俺には...こんなにも認めてくれる人たちがいる。それに...。

「...碧くんは頑張ったよ」と、真凜ちゃんは振り向いてそう笑ってくれた。

「...うん。ありがとう...真凜」

 優勝したのは5つのバンドがそれぞれのジャンルで演奏した隣のクラスである4組だった。

 ◇PM8:15

 湯船に浸かりながら天井を見上げる。
はぁ...。肩の荷がだいぶ降りた気がした。

 ここ最近は演技のこととか、本番のことを想像して緊張して寝られないこともあったが...終わってみればあっという間だった。

 受験まであと3ヶ月...か。
現時点でも東大合格率は25%前後と見込みとしてはかなり低めだった。

 あとは勉強に打ち込むだけ。そうだ。これでいいんだ。
けど...優勝したらなんてカッコつけたのに結局準優勝か...。

 そう思っているとお風呂場の扉が開く。
そこに立っていたのは少し照れた顔をした真凜ちゃんだった。



「...真凜ちゃん!?」

「...一緒にお風呂入っていい?」

「え!?いや、えっと...」

「...入りたいの」

「...ど、どうぞ」

 そうして、真凜ちゃんと一緒にお風呂に入る。

 浴槽の中で正面で向かい合う。
タオルを纏っているとはいえ...ものすごく緊張する。

「...えっと...お疲れ様...。脚本まとめてくれてありがとうね」

「...ううん。未熟な私のせいで...ごめんね」

「何言ってんの!真凜ちゃんは...すごく頑張ってくれた。足りなかったのは俺だったんだよ」

「本気で言ってるの?」

「...え?」

「クラスメイトもみんな言ってたでしょ。葵の演技はすごかったって。それにコメントでも1番多かったのは碧くんのことだったじゃん。...碧くんは完璧だった」

「...そんなことないよ。やっぱり俺は演技とか無理だなって思った」

 すると、真凜ちゃんはいきなり立ち上がって倒れ込むように俺の両肩を掴む。

「...いい加減にしてよ!私には嘘つかないでよ!本当はすごく悔しかったんでしょ!本当は...もっと演技してたいって思ったんでしょ...!なんで素直にそう言わないの!なんでいつも自分のせいにするの!なんで...私にも背負わせてくれないの...」と、タオルが少し緩んでしまうのも気にせず俺の肩を掴みながら泣きながら...そう言った。

「...ごめん。...本当は...すごく悔しかった。はらわたが煮え繰り返るくらい...悔しかった。自分にムカついた。けど、こんな自分を見せるのが恥ずかしくて怖かった。ごめんね」

「...私の前では素直でいいの。ね?」

「...うん」と言いながら俺は真凜ちゃんを抱きしめた。

 そして、子供のようにワンワンと泣いた。
悔しかった、俺は頑張った、でもダメだった。こんな情けない自分が嫌だった。ここで優勝してこそみんなから認められるような、そして俺自身が胸を張って真凜ちゃんの隣に居られる気がしたから。

 そんな稚拙で子供な言葉をただ並べ続けた。

「...うん」と、真凜ちゃんはただ俺の頭を抱き抱えながら静かに頷いてくれた。

「...ありがとう。大好きだよ...真凜ちゃん」

「私も大好きだよ。碧くん」

 そうして、泣き止んだ俺に真凜ちゃんはキスをしてこう言った。

「...大学行くのやめよ?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前。でも……。二人が自分たちの間違いを後で思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになる。

のんびりとゆっくり
恋愛
俺は島森海定(しまもりうみさだ)。高校一年生。 俺は先輩に恋人を寝取られた。 ラブラブな二人。 小学校六年生から続いた恋が終わり、俺は心が壊れていく。 そして、雪が激しさを増す中、公園のベンチに座り、このまま雪に埋もれてもいいという気持ちになっていると……。 前世の記憶が俺の中に流れ込んできた。 前世でも俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前になっていた。 その後、少しずつ立ち直っていき、高校二年生を迎える。 春の始業式の日、俺は素敵な女性に出会った。 俺は彼女のことが好きになる。 しかし、彼女とはつり合わないのでは、という意識が強く、想いを伝えることはできない。 つらくて苦しくて悲しい気持ちが俺の心の中であふれていく。 今世ではこのようなことは繰り返したくない。 今世に意識が戻ってくると、俺は強くそう思った。 既に前世と同じように、恋人を先輩に寝取られてしまっている。 しかし、その後は、前世とは違う人生にしていきたい。 俺はこれからの人生を幸せな人生にするべく、自分磨きを一生懸命行い始めた。 一方で、俺を寝取った先輩と、その相手で俺の恋人だった女性の仲は、少しずつ壊れていく。そして、今世での高校二年生の春の始業式の日、俺は今世でも素敵な女性に出会った。 その女性が好きになった俺は、想いを伝えて恋人どうしになり。結婚して幸せになりたい。 俺の新しい人生が始まろうとしている。 この作品は、「カクヨム」様でも投稿を行っております。 「カクヨム」様では。「俺は先輩に恋人を寝取られて心が壊れる寸前になる。でもその後、素敵な女性と同じクラスになった。間違っていたと、寝取った先輩とその相手が思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになっていく。」という題名で投稿を行っております。

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

学校の空き教室へ仕掛けた防犯カメラにマズい映像が映っていた

したらき
恋愛
神坂冬樹(かみさかふゆき)はクラスメイトに陥れられて犯罪者の烙印を押されてしまった。約2ヶ月で無実を晴らすことができたのだが、信じてくれなかった家族・幼なじみ・友人・教師などを信頼することができなくなっていた。 ■作者より■ 主人公は神坂冬樹ですが、群像劇的にサブキャラにも人物視点を転換していき、その都度冒頭で誰の視点で展開しているのかを表記しています。 237話より改行のルールを変更しております(236話以前を遡及しての修正は行いません)。 前・後書きはできるだけシンプルを心掛け、陳腐化したら適宜削除を行っていきます。 以下X(Twitter)アカウントにて作品についてや感想への回答もつぶやいております。 https://twitter.com/shirata_9 ( @shirata_9 ) 更新は行える時に行う不定期更新です。 ※《小説家になろう》《カクヨム》にて同時並行投稿を行っております。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

君と僕の一周年記念日に君がラブホテルで寝取らていた件について~ドロドロの日々~

ねんごろ
恋愛
一周年記念は地獄へと変わった。 僕はどうしていけばいいんだろう。 どうやってこの日々を生きていけばいいんだろう。

処理中です...