上 下
5 / 69
高校生編

第5話 距離感がちょっとアレな子

しおりを挟む
「ジリリリリ!!!」といういつもの携帯のアラームで目を覚ます。

 時刻は5:45。
いつもならアラームが鳴る前に起きていたのに...。相当熟睡してしまっていたようだ。

 しかし、まだまだ眠いのであと5分だけと思い、目を閉じて寝返りを打つと、手の甲に「ぽにょん」という感覚が伝わる。

 うっすら目を開けるとそこには薄着の真凛ちゃんが寝ていて、俺の手の甲は彼女の胸に乗っかっていた。

「んにぁっ...」という声とともに真凛ちゃんが目を覚ます。

「...あっ...ごめん」と、手を離そうとすると俺の手をガッチリ掴んで「いいよぉ...?わたしはぁ...」と、寝ぼけた声でそんなことを言った。

「...いや、うん...今日は大丈夫」

「...そう...」というとまた眠るのだった。
それに釣られて俺も眠るのだった。

 ◇

「おーい、遅刻しちゃうぞー」と、お玉で頭をコツンと叩かれる。

「...んぁ?」

 目の前には制服の上にエプロンをした可愛らしい姿の真凛ちゃんが立っていた。

 壁に立てかけてある時計に目をやると時刻は7時を回っていた。

「やべっ!?遅刻!?」

「だいじょーぶだよ?ここから学校は地下鉄ですぐだから!」

 あぁ、そっか。
もうあの家じゃないんだ。
それに朝ごはんや昼ごはんを作る必要もない。

 自分の形に沈むベッドを触る。
何ともいいベッドだ。
ぐっすり眠っていたのもきっとこの柔らかいベッドのおかげだろう。

「朝ごはんはご飯と、お味噌汁と、お魚と、お野菜です!」

「...ありがとう...」

「いえいえ!はい!朝のチュー!」と言いながら、口を近づけてくる真凛ちゃん。

 スルッと、彼女を交わしてリビングに向かう。

「ちっ、寝起きならいけると思ったのに」と、呟くように低いトーンでそう言った。
ちょっとだけ怖かった。

 そうして、朝ごはんを食べて、のんびりと準備をする。
朝とはこんなに余裕があるものなのかと驚きを隠せなかった。
いつもなら朝ごはんと昼ごはんを作ってから学校に行っていたので、5:45分起きがデフォだった俺にとって朝のこの余裕は新鮮そのものだった。

「はい!お昼のお弁当!」

「...ごめん、何から何まで...。やっぱり明日からは自分で「いいって!やりたいからやってるの!」と、ニコッと笑う。

 このままだと本当にダメ人間になってしまいそうだ。

 そうして、真凜ちゃんより先に登校するのだった。

 ◇

「おっ、珍しくクマがないな!それに生気のある目をしてるな!」と、清人に言われる。

「...あぁ。昨日はぐっすり眠れたから」

「そっかそっか。良かったなって、その割になんか疲れた声してんな」

「...うん」

 口が裂けても言えねーよな。あの真凜ちゃんと結婚して、同棲することになったとか...。
そもそも清人は真凜ちゃん狙いだったしな。

 すると、少し遅れて真凛ちゃんが教室に入ってくる。
いつもと全く変わらない様子で。
その姿を目で追ってしまうのはやはり俺も意識をしているということなのだろうか。

「おはよー!みんな!」

「おはよー!まりーん!」

 そんな上級国民の戯れを下民の俺が眺めていると、「相変わらずかわええよなー。真凜ちゃん」と、清人が呟く。

「そうだな」

 確かに改めて見ると本当に可愛い。

「けど、本当なのかな?彼女が結婚したのがAV俳優って話」というトンデモネタに思わず言葉が詰まる。

「...なんだその噂」

「いやー、あくまで噂だけど汐崎さん実はすげー性欲が強いって話でさ、他校のイケメンを食いまくってるって。だから、結婚したのも相当床上手だとかなんとか」

 思い返せば彼女にはいつもこういうくだらない噂が付き纏っていた。実はお金持ちじゃないとか、実は5股してるとか、実は超性格が悪いとか...。信憑性の薄い嫉妬まじりの醜い噂。

 具体的な名前は出ることなく、いつも噂が一人歩きしていたが、そんな噂を信じている人間はごく僅かである。
まぁ、人気になれば人気になるほどアンチも増えて、ありもしない噂が流れてしまうものだ。

「...噂は噂だろ」

「まぁな。てか、お前が誰かを庇うなんて珍しいなwさてはお前も天使様に惚れたんだな!それとも人妻好きか?」

「そんなんじゃないっての。そういう根も葉もない噂が嫌いなだけだ」

「そっかそっかw碧は昔から女には興味ねーもんなー」

「清人は女にしか興味ないもんな」

「おい、人聞きわりーこと言うな!」

 そんな一つの事象を除き、いつもと変わらない日常を...送るはずだった。

 ◇

「修学旅行の班を決めるぞ!」と、担任の国岡先生がハキハキとそんなことをいう。

 そう言えばそんな話をしてたっけ。
文化祭とか体育祭とか修学旅行とか、インキャの俺にとってはただただ嫌なイベントに過ぎなかった。

「グループは男女2人ずつの4人のグループを作ってくれ!高校生とは青春するためにあるからな!これを機にみんな恋愛をしようぜ!恋愛はいいぞー!生きる活力になる!先生も最近彼女ができてだな...」と、先生の恋愛話が始まる。

 俺からしてみれば最悪の流れだった。
それは女子と組まないといけないということと、それを真凜ちゃんに見られることの二つの理由で最悪であった。

「碧は当然俺と組むよな?」と、清人が声をかけてくる。

「...いいのか?」

「何が?」

「いや、清人はいろんなやつから誘われるだろ。本当に俺でいいのかって」

「うへぇ...いつにも増してネガティブ発言...。なんか嫌なことでもあったのか?」

「いや...別に」

「俺はお前がいいんだよ。んじゃ、さっさとペアになる女の子を1人選んでくれー。俺はちなみに天使様を誘ってくるぜ!」

「...相手は既婚者だけど大丈夫か?」

「ばっか、既婚者だから諦めるなんて本物の愛じゃないぜ!」

 こいつ将来、本物の愛というやつのせいで捕まりそうだな。

「んじゃ行ってくるぜ!さらば!」と、見事に去っていく清人。

 恐らく真凜ちゃんが清人の誘いに乗ることはないだろう。

 参ったなー...。俺女子に話しかけるのとか苦手なんだけど...。と思っていると後ろからかすかに声が聞こえた。

「...あの」

 振り返るとそこにいたのは七谷海さんだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前。でも……。二人が自分たちの間違いを後で思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになる。

のんびりとゆっくり
恋愛
俺は島森海定(しまもりうみさだ)。高校一年生。 俺は先輩に恋人を寝取られた。 ラブラブな二人。 小学校六年生から続いた恋が終わり、俺は心が壊れていく。 そして、雪が激しさを増す中、公園のベンチに座り、このまま雪に埋もれてもいいという気持ちになっていると……。 前世の記憶が俺の中に流れ込んできた。 前世でも俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前になっていた。 その後、少しずつ立ち直っていき、高校二年生を迎える。 春の始業式の日、俺は素敵な女性に出会った。 俺は彼女のことが好きになる。 しかし、彼女とはつり合わないのでは、という意識が強く、想いを伝えることはできない。 つらくて苦しくて悲しい気持ちが俺の心の中であふれていく。 今世ではこのようなことは繰り返したくない。 今世に意識が戻ってくると、俺は強くそう思った。 既に前世と同じように、恋人を先輩に寝取られてしまっている。 しかし、その後は、前世とは違う人生にしていきたい。 俺はこれからの人生を幸せな人生にするべく、自分磨きを一生懸命行い始めた。 一方で、俺を寝取った先輩と、その相手で俺の恋人だった女性の仲は、少しずつ壊れていく。そして、今世での高校二年生の春の始業式の日、俺は今世でも素敵な女性に出会った。 その女性が好きになった俺は、想いを伝えて恋人どうしになり。結婚して幸せになりたい。 俺の新しい人生が始まろうとしている。 この作品は、「カクヨム」様でも投稿を行っております。 「カクヨム」様では。「俺は先輩に恋人を寝取られて心が壊れる寸前になる。でもその後、素敵な女性と同じクラスになった。間違っていたと、寝取った先輩とその相手が思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになっていく。」という題名で投稿を行っております。

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

学校の空き教室へ仕掛けた防犯カメラにマズい映像が映っていた

したらき
恋愛
神坂冬樹(かみさかふゆき)はクラスメイトに陥れられて犯罪者の烙印を押されてしまった。約2ヶ月で無実を晴らすことができたのだが、信じてくれなかった家族・幼なじみ・友人・教師などを信頼することができなくなっていた。 ■作者より■ 主人公は神坂冬樹ですが、群像劇的にサブキャラにも人物視点を転換していき、その都度冒頭で誰の視点で展開しているのかを表記しています。 237話より改行のルールを変更しております(236話以前を遡及しての修正は行いません)。 前・後書きはできるだけシンプルを心掛け、陳腐化したら適宜削除を行っていきます。 以下X(Twitter)アカウントにて作品についてや感想への回答もつぶやいております。 https://twitter.com/shirata_9 ( @shirata_9 ) 更新は行える時に行う不定期更新です。 ※《小説家になろう》《カクヨム》にて同時並行投稿を行っております。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

君と僕の一周年記念日に君がラブホテルで寝取らていた件について~ドロドロの日々~

ねんごろ
恋愛
一周年記念は地獄へと変わった。 僕はどうしていけばいいんだろう。 どうやってこの日々を生きていけばいいんだろう。

処理中です...