異世界に来たって楽じゃない

コウ

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エピローグ 二

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 僕達はノルトランド王都に侵攻する。魔王が死に新しい魔王が国を統べると有力な魔族に手紙を出したら「俺が新魔王だ」とか「私が元祖魔王だ」とか「開店以来、変わらぬ味」とか言い出し始めやがって、ノルトランドは群雄割拠の状態だ。
 
 和を持って国を制するのは新魔王佐々木小春に任せるとして、それまでの露払いは白百合団の仕事だ。汚い仕事はいつの時代も傭兵と決まってる。
 
 ハルモニアを含めノルトランドに手を出して来る国はもう無い。アンネリーゼは乳母として新しい国王と国を再建しているし、元魔族の男フリートヘルムは爵位を返上し執事として仕え始めた。
 
 ユーマバシャール君はあれ以来、顔も見せず感謝の言葉も無い。それどころかアンハイムオーフェンの領主になりやがった。後で隕石の一つでも落としてやりたいが、妹の顔に免じて止めておこう。
 
 妹のセリーナ・ハッセは四肢の健を斬られ義手にするか、魔法で厳しいリハビリをするか迫られ魔法で治す事を選んだ。
 
 それは世界最高峰の魔法使いがいるノルトランドで治療を行ったが、やはりリハビリは厳しく僕も手伝いに何度も顔を出した。
 
 今はもう普段の生活に苦労はしなくなった。やはり僕の手伝いが効いたらしい。特に下半身が先に良く動き出したのは、相棒にも感謝をしなければならない。
 
 「あぁあ…あぁあっは……ぁん…んは…ぁ」
 
 僕は執務室で、書類仕事に追われている。もちろん一人では無理だ。ハスハントから白百合団に移ってくれたマノン・ギーユさんの手腕が公私共に助かっている。
 
 「あぁん…ん……  そ…ぉお…んな……っあぁ」
 
 ドアをノックする音が聞こえる。重厚なドアを何度も叩き居留守は効かない様だ。もう少し時間があればお互いに納得が出来るものの。
 
 「ちょ、ちょっと待ってて!  マノンさん人が来たので終わらせますよ」
 
 「あぁ……  そんなぁ……」
 
 僕は神速で打ち出し、マノンさんは安らかに眠った。最後の大きな声が廊下まで聞こえていない事を祈るよ。僕はマノンさんを隣の仮眠室に寝かせて、執務室の偉そうな椅子に座った。
 
 「どうぞ……  どうぞって言ってから入れよ!」
 
 「何をしてたさ?  結構、待ったさ」
 
 元魔族の女、アルマ。こいつも新魔王の元に付きやがった。早く危ない戦線に投入して戦死してもらいたい。
 
 「女の臭いがするんだよぉ」
 
 鼻の効く女、サキュバスのリア。こいつもサキュバス軍団を引き連れ僕の元を離れない。なにせ、僕はサキュバスにとっては神様扱いだからね。最近の扱いはちょっと酷いけど。
 
 「報告に参りました」
 
 ダークエルフ六姉妹のイリス。この戦が終わったら解放を約束していた。ルファナに言って解放をさせると言ったら「男女が付き合ったら、結婚をするのである。子を成せば身体が腐る事は無くなるのである」  その言葉を信じてか、僕に従いノルトランドに残ってくれた。現在、レイナちゃんは妊娠中。
 
 「ご苦労様。誰の?」
 
 白百合団、殲滅旅団は各戦線に投入中。オーベルシュタイン城は手薄になるが、ネーブル橋を守るだけでいいし、入ってくるのは無許可の冒険者くらいだ。
 
 「誰の、の前に!  アルマ!  何を作ってくれてるんだ!  戦闘用って言ったろ。誰が愛玩用って言ったんだよ!」
 
 アルマは魔族の中でも研究に特化したタイプだ。オリエッタの魔族番と言った所で、黒光りするアンデッドナイトを作ったのもアルマだ。
 
 僕達には戦闘で死傷者が出ても補充が出来る人員が無い。だけど、黒光り君はゴキブリを連想させる。だから作ってもらった、人造人間ホムンクルスを。
 
 「気に入ってもらえたかさ。中々の出来映えさ」
 
 睡眠時間を仕事と輪番に取られ、久しぶりに自分のベッドに戻ったら、裸のホムンクルスが待っていた。てっきり戦闘用と思っていたのに、表情の無い顔で迫って来た。僕は「仕方がない、身体の強度を見る実験だ」と自分に言い聞かせ服を脱いだ。
 
 「強度なんて無かったぞ!  あれの皮膚が裂けて筋肉が見えてドロドロに溶けていったんだ。抱き締められて逃げられないし、目の前でグロだぞ!  ノルトランドではグロ禁止!」
 
 「今度はちゃんと作るさ。アンデッドナイトの二千は作り終わっているさ」
 
 あんなのが二千もいるのか!?  キモい、グロい、囲まれたら気を失いそうになる。敵じゃ無くて良かったよ。
 
 「それなら、さっさとプリシラさんの支援に向かって!  ナントカ峠を行くんだろ」
 
 「それがプリシラの第一軍団が止まったさ」
 
 「……なんで!?」
 
 「それに付いては私から報告があります。その前に他の報告を先にしても宜しいでしょうか?」
 
 ま、まあ、イリスが言うなら仕方がない。他に急用な報告があったかな?  あるとすれば、どちらもいい報告だな。
 
 「クリスティン様の殲滅旅団ですが、ヴァンパイヤとの条約を締結しました」
 
 いい報告だ。東に住むヴァンパイヤの領主とは話が付いていて条約にサインをするだけだったからね。僕達の魔王を認めてくれたし、人工血液は気に入ってくれたし、不可侵条約に名前を書くだけだった。
 
 「いいね。クリスティンさんには戻って……」
 
 「続きがあります。一緒に行ってるイリスからの報告なんですが……  条約締結後にパーティーがありまして、そこで領主様のご子息がクリスティン様を気に入りまして……」
 
 雲行きが怪しくなる報告だ。これ以上は聞きたくないけど、僕も国の偉い人だ。最後まで聞いてみよう。
 
 「ご子息がクリスティン様に求婚され……  その……」
 
 「その?」
 
 「クリスティン様の唇を奪いました!  クリスティン様は館にいるヴァンパイヤを塵に変え、領地に居る全てのヴァンパイヤを捉え日に一人づつ日光にさらしております!」
 
 「えっ!?  ……殺しちゃってるの?  不可侵を結んだ相手を……」
 
 「男のヴァンパイヤだけです!  女のヴァンパイヤは殲滅旅団が……」
 
 あのバカ野郎。キスくらい挨拶の範疇に入れておけよ。いきなり殺戮か!  和を持って国を統べりたいのに。
 
 「クリスティンさんは何て……」
 
 「あ、あの、良き人の清らかな口付けがあるまで、毎日生け贄を捧げると……」
 
 誰に捧げる生け贄だよ!?  僕になら遠慮したいぞ!  しかし、ヤバいな。早く行って止めさせないと。キスくらいなら幾らでもしてやるよ!
 
 「分かりました。直ぐにクリスティンさんの所に向かいます」
 
 僕が椅子から立とうとすると、イリスの報告が止める。本当に止めないといけないのはクリスティンさんの方なのに。
 
 「オリエッタ様、ルファナ様からの報告ですが……」
 
 僕は椅子に座り直した。あの二人にはレッドドラゴンとの交渉を任せていたんだっけ。レッドドラゴンには以外と知性があって話が出来た。それだからか、交渉は上手く進まなかった。
 
 ドラゴン達が住まう山には純度の高い魔石が取れる事が分かっていた。僕達の収入源の確保の為、ドラゴン達には場所を譲って欲しかった。もちろん、今の所よりいい場所を探しあてたし、そこへの移住となるのだが……  まるで地上げだね。
 
 「交渉は上手くいったかな?」
 
 「交渉ですが……  同行したイリスの報告では「退け」「断る」以降、戦闘が始まりました」
 
 「退けの一言が交渉なの……」
 
 「そのようです。レッドドラゴン一頭、サンダードラゴン十二頭、全てを殲滅し鉱山を手に入れました」
 
 僕が行けば良かったのか。そんな簡単に殺ってしまうなんて動物保護法は何処にいったんだよ。貴重な動物だったのに、分かり合えたかも知れないのに。
 
 「そ、そうなんだ……  仕方がないかな。シャイデンザッハのドワーフの入植チームを鉱山に送ってあげてね」
 
 「それなんですが……  戦いは激化の一方で……  その……  人が住まうには……」
 
 「住めなくなったの!?」
 
 「はい。あの辺りは汚染され、人が住めなくなってます。それで……  それでなのか、お二人が「ここを我らの実験場にする」と言い出しまして……」
 
 バカが増えやがった。僕達の収入源はどうなる?  お前達の実験場を作る為に行かせた訳じゃねぇんだよ。
 
 「と、とりあえず、入植チームは止めて。僕が行って話を付けてくるから」
 
 僕は席を立った。これ以上の勝手は神が許しても僕が許さん。早く王都に攻め込んで、佐々木小春ちゃんを魔王と周りに認めさせないといけないのに!
 
 そんな僕の足を止めたのはリアが机に放った一つの箱だった。もしかしてプレゼントかな?  それより何故ここに居る?  リアには全サキュバスの統括をさせて各魔王を名乗る者の偵察と懐柔をお願いしてるのに。
 
 「プリシラの第一軍団が止まった理由だよう」
 
 そうだった。最初にプリシラさんが侵攻を止めたんだっけ。そして理由がこの箱とは如何に?  ま、まさかプリシラさんの首が入っているとか!?  それは無いね。箱が小さ過ぎる。
 
 僕は箱を開けると、ため息を一つ付いた。やっぱりプリシラさんだ。僕の嫁だけはある。他のヤツは見習え!  僕の為に進軍を止めてまでキノコ狩りをしてくれたのか。
 
 この形からして松茸だね。この世界にもあったんだ松茸。香り松茸、味しめじ。僕は松茸を一本取って香りを嗅ぐ。とても大きな松茸だが、時間が経ってしまったのか香りがしなかった。
 
 それならお吸い物にして、味を染み出すのがいいかな。土瓶蒸しも捨てがたい、そのまま焼いて塩を振り掛け食べるのもいいか。あぁ、米が食べたい。
 
 「キノコ狩りに軍団を使ったの?  良くは無いけど、許してあげてね。イリス、プリシラさんに受け取ったから進軍する様に言っておいてね」
 
 「プリシラに軍団を預けた時、何て言ったか覚えているかよう」
 
 はて?  「頑張って」かな?  別れ際、嫁の乳の感触とその後の股関への強打は未だに忘れられないけどね。人前で揉んだのが悪かったのかな?
 
 「忘れちゃった」
 
 「それを見ても思い出せないのかよう。インキュバスの話はどうしたよう」
 
 そうだ!  思い出した!  インキュバス!  サキュバスの男版。確か白百合団も含めて男日照りになるから僕が一緒に来るように言われたっけ。
 
 僕は摂政の仕事があるから代わりになる男性をリアに探してもらったんだ。精力絶倫インキュバス。彼等なら僕の代わりになるって……
 
 「もしかして……  この……」
 
 「インキュバスのモノだよう」
 
 触った、嗅いだ、少し舐めた!  インキュバス、男の相棒を!  デカい!  さすがにデカいぞインキュバス。
 
 「いきさつは良く分からないよう。かなりの腕利きのインキュバスなのによう。満足が出来なかったのか、逆鱗に触れたのかよう」
 
 バカ共が!  欲しいって言うから寝取られ覚悟でインキュバスを投入したんだろうが!  確か十人も雇ったんだよな。松茸は五本、残りの松茸は?
 
 「そ、それで報告ですが、プリシラ様より「ミカエルが来なければ第一軍団は一歩も動かねぇ」だそうです」
 
 行ってやる!  全員、首を洗って待ってろよ!  僕を怒らせたらどうなるか教えてやる!  首以外にも全身を洗っておいてね。
 
 「オーベルシュタイン城を留守にします。あいつらに言ってやらなきゃ気がすまん!  指揮はソフィアさんに任す!  邪魔するヤツは殲滅しろ!  ……あ、いや、和を持って仲良くね」
 
 僕は出立の件を魔王陛下に報告に向かった。こんな時に限ってソフィアさんと託児室に居るなんて、あそこに入るのは少し気が重い。
 
 託児室のドアを開ける前に一呼吸。気合いを入れて入らなければ危険な託児室。僕はドアをノックして、ゆっくり開けた。
 
 迫る黒い影。神速で抱き抱え優しく床にリリース。僕とアラナの子供、長女アリス。挨拶の仕方は母親譲りで容赦がないタックル。僕は頭を撫でる暇も無く、次に次女マリスも床にリリースした。
 
 三女、ネルス。キャッチして、リリー……、キャッチしたネルスが手の中で消え失せ、僕の脇腹に遠慮の無い頭突きが食い込む。
 
 「ネ、ネルス。ざ、残像を使える様になったんだね……」
 
 「お母ちゃんに教わったッス」
 
 余計な事を教えやがって。そのうち分身も覚えるのか?  末恐ろしい娘だ。お父さんには手加減してね。
 
 「そ、それは、ほどほどにしてね。痛いから。それと、ラファエル!  大人用のハルバートを振り回すんじゃない!  危ないでしょ」
 
 僕とプリシラさんの子供、ラファエル。大人でも重いハルバートを軽々と振り回す、ハーフライカンスロープ。中々の美男子。僕に似たのかな。
 
 「父上!  僕も早く父上のお役にたちたいです」
 
 偉いねぇ。誰に似たんだろう。間違いなく僕だな。大きくなったら一緒に酒を酌み交わしたいね。その時までには、お前が戦わなくてもいい世界にしておくよ。
 
 僕はラファエルの頭をなで魔王陛下とソフィアさんの元に向かった。ソフィアさんとも子供が出来た。名前はリアーヌ、ソフィアさんのお姉さんの名前をもらった。
 
 「リアーヌ、城の壁にレーザーで落書きしたらダメだよ。リヒャルダちゃんが消すのが大変だって言ってたよ」
 
 この年でレーザーを撃てるなんて、彼氏が出来た時、お父さんは違う意味で心配だよ。みんなが神速で避けれる訳じゃないからね。
 
 「ミカエル、何かあったのですか?」
 
 年齢的には女子高生だが、見た目は中学生の魔王、佐々木小春。この託児室で子供の世話をしソフィアさんから愛を学び、そして僕と共に治世を学ぶ、将来はノルトランドを背負ってもらわないといけない。
 
 「少々、トラブルです。少しの間、城を空けますがソフィアさんに指揮を取ってもらおうと思ってます」
 
 「そ、それは来月の十日までには帰って来れるのですか?」
 
 「十日ですか?  少し厳しいかと……」
 
 「急いで終らせて帰って来てください」
 
 「何かありましたか?」
 
 「十日頃が危険日なので仕込んでもらおうかと……」
 
 「行ってきます!」
 
 この国は大丈夫だろうか……
 
 
 
 馬車に揺られてノンビリもしていられない旅。一人で行くつもりだったが、隣には護衛の名目でアラナが座ってる。
 
 護衛なんてとも思うが、左手、右足、右目は作り物で普通の人から見たら引退していてもおかしくないね。人気者は忙しいんだよ。
 
 「こんな二人きりも、久しぶりッスね」
 
 忙がしい時間の安らぎの一時。アラナが僕の太ももに手を置き、こちらを見て少し恥ずかしそうだった。
 
 始めて異世界で、ゴブリンに追い掛けまわされ、白百合団に助けられたのが遠い昔のようだよ。アラナには馬車で轢かれそうになったりもしたね。
 
 遥か昔の様な、昨日の様な。長かった様な、あっという間の様な……  ノルトランドにも、もうすぐ春がやってくるのも忘れていたよ。季節の変わり目が微妙な南国だからかな。草木は芽吹き、また戦いの日々が続くのか……
 
 神よ。この醜きも素晴らしい世界に祝福を。世界が暗闇に包まれても、我らの前に一筋の光を与えて下さい。
 
 神への望みは大手販売サイトよりも早く伝わった。目の前に降る一筋の光はアラナの手を貫通し、僕の太ももを貫通し、御者席を貫通して地面を貫いた。
 
 「にゃぎゃ!」
 「痛っ!」
 
 聞こえる、風に乗って聞こえる「馬車の中ではいちゃラブ禁止」と。ここがどのくらい城から離れていると思ってるんだ!?  しかも直下からのレーザーだなんて魔王も力を貸したな!
 
 
 ああ……
 
 ああ、異世界に来たって楽じゃない。
 
 
 完

 
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