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第二百六十話
しおりを挟むユーマバシャールはアンハイムの街を取り戻すために騎士団を動かした。勝手な行動は軍務規定に反して死刑が妥当だろう。介錯なら任せろ!
僕はメリッサ嬢に別れを告げ、引き止められ、説得し、拒否され、押し倒し、五分で寝かし付け、ユーマバシャールの跡を追った。
追ったと言ってもユーマ君が出たのは昨日の朝方。一日半の遅れがあるが、八百の行軍スピードと単騎の速駆けなら追い付けない事もない。
プリシラさん達がいるシュレイアシュバルツの街で休憩でもしていてくれたら追い付ける可能性はあるし、不信に思ったプリシラさんが引き止めていてくれたらシュレイアの街で追い付ける。
イリスが居てくれたら連絡も取れるのに、ドゥイシュノムハルトに行かせてしまったのは僕。他のイリスは前線で情報収集に行ってしまっている。
タイミングが悪いとはこの事だろう。何とか追い付いて、出来るなら戦が始まる前に追い付ければ八百の騎士の犠牲も無くなる。
でも、もし罠が無ければ…… アンハイムオーフェンの街はゴブリンが主力だしユーマ君が持ち出した騎士団で落とせる。
そのままラウエンシュタインまで攻め込んで、補給路を断てればハルモニアに入り込んだ魔王軍を干上がらせる事も出来る。
そうなれば、この戦の早期終結も可能だ。早く終わらなくても、疲弊した魔王軍となら勝てる確率は格段に上がる。
……そうなれば武功一番はユーマ君になるのか。勇者を差し置いて目立つなんて許せねぇ。アンハイムを落としたら事故に見せかけて殺してしまおうか。
でも、アンネちゃんから連れて帰る事を頼まれているし、生かして帰さないと。生きてれば手足が無くても構わないかな? それでは無事に帰す事にはならないか? ユーマ君の勝手な行動で、何でこんなにも悩まなければならないのだろう。禿げたらどうしよう。
「う~ん…… う~ん…… うっ! はぁ~」
三日ぶりだ。最近、ストレスからか勇者のプレッシャーからか貯まるんだよね。でも、出る物は出たし、ポッコリお腹も引っ込んだ。体重も少しは軽くなって馬速も早くなるだろう。
僕は「実」の入った穴を埋め、シュレイアシュバルツに急いだ。
「来て、行かせたって!」
「来たぞ。うちらの物資を持って北に向かったぞ。アンハイムにでも行くつもりか?」
やっぱりシュレイアを通ってアンハイムに向かったか。しかもシュレイアの物資を持って行くなんて、僕がこっそり貯めた横流し品は大丈夫だろうか。
「不自然と思いませんでしたか!? 止めてくれても良かったのに……」
「あぁん!? あたしゃ酒を飲んでて、ご機嫌だったんだよ。命令書もあったし問題ねぇだろ!」
不自然だろ。もう少し疑ってかかってくれよ、酒なんて飲んでないでさ!
「大変な事なんですか? 私は治療で居なかったですから……」
ソフィアさんはいい。人助けをしていたんだから。これからも善行を積んで下さい。
「僕は寝てたッス」
寝る娘は育つからね。最近、お胸が育っていないかな? 後で確かめさせてね。
「我は知らんのである」
お前は隠れて何をやっていたんだ!? 後で報告書を出せよ! 出せない報告は握り潰しておいてね。
「オリちゃんは、義手とか作ってました~。団長の義手の調子が気になります~」
あの触手義手。最初は使えないと思ったけれど、意外な所で使い道を見付けたよ。
「…………」
……はい。
「ユーマバシャールは勝手に騎士団を動かしアンハイムオーフェンを落とすつもりです。ゴブリンが主力とは言え、罠の可能性が高い。僕はこれから止めに行ってきます」
「行ってこい!」
「頑張って下さい」
「二度寝するッス」
「死んだらアンデッドにしてくれるのである」
「その前に義手の調整です~」
「…………」
一人として「手伝う」と言う言葉は出て来なかった。所詮はこんなものさ。寂しくなんかないからね。どうせ勇者なんて孤高の存在なんだよ。焦げた餃子なんて大っ嫌いさ。
「あっ、そうだ…… 行く前にヤってけ!」
僕は扉が壊れるぐらいの勢いで、そっと閉めた。
間に合うのか、間に合わないのか、徹夜で馬を走らせた僕に、慰労の言葉も少なく追い出される様に飛び出た僕は、トイレに寄ってから走り始めた。
今度は出なかった……
トイレで寝落ちする所だった……
落ちたら汚物にまみれる所だった……
バカな事でも考えないと馬落ちする……
馬落ちしたら死ぬのかな……
ユーマバシャールには二つの道を用意している。一つは僕の説得に応じてクリンシュベルバッハに帰る事。一つは罠が無ければアンハイムの街を落とさせ、ユーマ君に納得してもらってから帰る事。一つは問答無用で、ぶった斬る事。
三択だったら最後のを選ぶけど、アンネリーゼ女王陛下に頼まれている以上、二択しか選びようが無い。
朝から走り始め、昼頃には目通しが付いて来た。予定通りなら明日の朝には着く。ユーマ君が遅めの朝御飯を食べてくれたなら、デザートは一緒に食べれそうだ。毒を盛る時間も取れそうだ。
夜になると危なくて走れないし、馬も休ませてあげないと動物虐待で訴えられる。先の事を考えても仮眠を取ろう。三時間は寝れる筈だ。それから馬を歩かせても間に合う。
僕は羊を数えるより早く睡魔に襲われ、寝息を立てる前に鞭の一撃を受けた。
「何事!?」
目の前に立つ、久しぶりに見る白い裸体は月の光に輝く様に美しく、見る者の心を蹄で蹴飛ばす衝撃を与える。
「久しぶりだな」
「久しぶりですね、アイシャさん。馬を続けてくれててもいいんですけど……」
僕の愛馬は、白百合団の馬車を引く馬と決まっている。白馬に乗ってるなんて格好いいから、が目的な訳では無く、他に借りるのにお金が掛かるからだ。
それに他の馬に比べて速いし、丈夫だし、命令には絶対服従するし、言葉を理解してくれるから、意思の疎通が楽だからだ。
そして馬では無く、本当はユニコーン。頭から伸びる一本の角は本人の意思で出し入れが自由だそうだ。僕も持ってるよ、本人の意志が無くても伸びるのをね。
「この後の予定を知っていますか? 二時間の仮眠の後にユーマバシャール君を追い掛けるんですよ。夜道を移動してもらわないといけないので、今はゆっくりと休んで下さい。おやすみなさい」
連打! 鞭の連打は掛けたブランケットを通しても痛い。この野郎、シンちゃんマジキレするぞ。いや、コイツに付き合うとロクな事が無いのは知っている。
「待って! 待って! 本当に待って…… 待てと言ってるだろ! てめぇ!」
さすがにキレそう。カルシウム不足は否めない。僕は神速のモード・シックスを使って鞭を押さえた。
「アイシャさん。本当に忙しくなるんです。アイシャさんも昨日から走り続けて疲れているでしょ。僕も疲れているんです。続きは時間の有る時に…… ね」
僕の強い意志が分かったのかアイシャは後ろを振り返ってしまった。もしかして怒らせてしまったのかも知れないが、僕にはやるべき事がある。
後ろ姿のアイシャは角が無ければ普通の亜人にしか見えない。手足には毛が生え、身体の中心は普通の女の子だ。アラナも同じ様な感じの毛並みだけど、美しいかと言えばアイシャの方が上だろう。
美しさはクリスティンさんに匹敵する。やはり聖獣だけあって、その周りに漂う雰囲気からして違う。見ているだけで、その人の心を清く正しく美しくしてしまいそうだ。
僕としては、そんな聖獣を怒らせる気はなかった。ちょっと断っただけで、本当に悪い事をした気になるのは聖獣たるゆえんか。
「アイシャさん…… ぐえっ!」
誰かが言っていた。馬の後ろに立ってはいけないと。蹴られるから立ってはいけないと。寝ていたけれど食い込む蹄は、僕を五メートルは飛ばし転げさせ土まみれにさせるには充分だった。
「さっさとヤらないからだ!」
色んな起こし方がある。目覚まし時計や踵落とし、心臓麻痺にレーザーで撃たれたりとあるが、蹄で蹴られたのは初めてだよ。僕としては、こっそりベッドの中に入って来て「おはようのチュ」がいい。そのまま続きをするのも、休みの日なら構わない。
「てめぇ…… 鞭なら乗ってる時に入れてるだろうが!」
僕はあまり鞭を使いたく無い派だ。手綱だけでも普通の馬は動いてくれるのに、僕の愛馬は鞭を入れ、たまに罵倒しないと動いてくれない。それ以外はいい馬だ。
「最近、ぬるくなってきておる。必死さが足りん、鞭を打つ殺気が足りん、発する言葉には増悪が足りん。貴様は何故に我に乗っているつもりだ!」
殺気を込めて乗馬をするヤツが何処にいる!? 打ちたくないんだよ。動物とは愛情を持って接したいの。言葉だってメンタルの弱い人なら自閉症になるぞ!
「てめぇなぁ、こっちは滅茶苦茶痛いんだよ! 頭に当たったらどうするつもりだ!」
「心配いたすな。そうなったら代わりを探せば良いだけ。そうならぬ様に励め!」
コイツ…… コイツは身体に教え込むのが一番の様だが、シンちゃん暴力キライ。傭兵の講釈はしないが、無抵抗の人間に鞭を打つなんて……
メリッサ嬢の時と同じ様にバスターソードとリングカリで何とか成らないだろうか。飴と鞭の教育より、飴と相棒の教育の方が二人にとっていいと思うのに。
「どうした? その鞭は振るわんのか?」
だ・か・ら、暴力反対なの! 合意があったとしても心が痛むの! シンちゃんメンタル弱いの! かと言って、これだけの馬を手放すのは惜しい。
「振るうさ。その前にこれでも喰らってね」
僕は近付いてから触手義手を伸ばした。五本の指は僕の意志とは関係無く、アイシャを亀甲縛りにして全力で握り締めた。
アイシャの身体はサラブレッドの様に引き締まっている。だが触手に縛られた身体からは、女体特有の柔らかい肉がはみ出し、特にお胸がワンダホーだ…… 特にお胸が素晴らしく盛り上がる。
「こ、これは!?」
ビックリしたろ。普通の人間には無いもんね。僕も初めはビックリしたけど、使い道があって良かったよ。さぁ、もう少し握ってみようか!
「はうぅっ……」
溢れる肉が、ほんのりと桃色に染まっていく。鞭が無くたって大丈夫さ。秘部を通っている中指に、濡れた感じを確認して、さらに力を込めた。
「はぁん…… 良い、良いぞ、ミカエル! 知らぬ間にここまで出来る様になったのか! だが、満足はせん! は、早く、その鞭を……」
だ・か・ら、鞭は嫌なの! 叩くのも叩かれるのもキライなの! 鞭を無しで何とか凌げないだろうか? ……そうだ!
僕は強くアイシャを握ったまま、全力で指を引き抜いてみた。身体中に、まとわりつく指は全身を刺激しつつ元の指に戻った。
「はあぁぁんんん…」
アイシャは全身が性感帯にでもなっているのだろうか。亀甲縛りが、その全身を力を込めて這われた感覚にアイシャは雄叫びを上げて崩れ落ちた。馬だけど「ヒヒ~ン」ではないのね。
「アイシャさん。これで満足してもらえましたか? 鞭は生理的にちょっと問題があるのですが、縛るのなら…… これくらいは……」
これで満足してくれ。縛るのなら何回でもしてあげるから。縛るので満足してくれ。
「素晴らしいではないか。やはりミカエルを主に持って良かったぞ。続きを…… その前に満足させてやろう」
どうやら鞭は無しで済みそうだ。触手を伸ばして縛り、それを元に戻す。その繰り返しなら魔力のある限り続けられる。
僕はホッと一安心して、アイシャのしたい様にさせた。どうやら僕のパンツを下ろして舐めてくれる様だ。聖獣に舐めてもらえるなんて、光栄な事だ。
いや、殺す事だ。アイシャは僕の相棒を口に咥えた。一気に、ガッツリと喉の奥まで。自分の額に付いた一角を僕の腹に突き刺して。
「待て、待て、待て! 刺さってるから! 額の角が腹に刺さってますから!」
喉の奥まで刺さって相棒は気持ちいいが、「おへそ」が増えるのは困る。僕はアイシャの血塗れの角を渾身の力を込めて掴んだ。
「ほほう、聖獣の角を血を付けて握るとは…… その気概、気に入った!」
何か気に入られる事をしたかな? 自分の命を守る事と新しい発見はしたけどね。ユニコーン同士にフェラは無い事を。
「アイシャさん…… もう少し考えてしてもらえませんかね?」
「そうであるな…… 月夜の晩が良いであろう。来月の満月の夜にいたすか……」
「角が当たるのを知りませんか? 見て下さい、これ…… 結構、深いですよ……」
「その時は、全身全霊を持って攻め苦を与えてもらわんとな」
「……人の話を聞いてます?」
「お主こそ、我が話を聞いておるか? 来月には婚姻じゃぞ」
「何でそうなるのかなぁ~」
「ユニコーンの角を自らの血をもって握ったであろう。握られた者はその身を捧げるのじゃ」
世の中には色々な求婚の仕方があるんだね。勉強になったよ。 ……じゃねぇよ! 知るか! そんなの! 自分の身を守りたかっただけ! おへそを増やしたく無かっただけ!
「アイシャさん、この話は戦が終わってからじっくりと話し合いましょう」
「我が命は永遠に近い。いくらでも待つとしよう。ただし! 今後の満月の夜には我が物となってもらう」
僕はガッチリと触手義手を全身に廻して、今の記憶が薄れるくらいバスターソードを振るった。
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