異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第百九十四話

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 「良い名前だ、雪女とは」
 
 
 ラテン系の女の子に付ける名としてはどうだろう。日本人に「美杏夏(びあんか)」とか付ける様な物だ。「真理亜(まりあ)」までは許そう。
 
 「雪女、火の神を解放してくれ。ドワーフが火の神からのマグマを使えなくて困ってるんだ」
 
 「人聞きの悪い事を言うね。あたいはドワーフを助けるんだ」
 
 これだから話が出来ない人って嫌い。ドワーフの火の神を凍らせるほどの魔力の持ち主が何を言うか。火の神が凍ったからマグマが出なくなったんだよ。
 
 「助ける為にも氷を溶かしてくれ。ドワーフに取っては、この鉱山と火の神が必要なんだ」
 
 「ああ、もう……    そのドワーフの為に火の神を凍らせてるんだよ」
 
 「ああ、もう……    ぶっ殺そうぜ」
 
 お前らは気が合うんじゃないか。同じ褐色の肌で僕の好みだしな。ただこの雪女、スタイルはいいが、もう少し身長があれば……    
 
 「プリシラさんもう少し我慢して。ソフィアさんオリエッタ、火の神を見て来て下さい」
 
 言葉には気を付けないといけないが、ここまで言ったら普通、分かるだろ雪女の話を聞くって流れなんだから。
 
 ルフィナは千の剣を漂わせ、アラナは分かり易いくらいガチャリと鳴らせて斬馬刀を抜き。クリスティンさんは僕の真後ろに立った。何故、話の流が分からない。
 
 「皆さん、落ち着いて下さいね。話し合いの最中に、斬り合いは無しですよ」
 
 「面白い!    神を押さえながらも、あたいは戦えるぞ」
 
 誰か面白い事を言ったヤツはいたか?    クリスティンさんか!?   後ろを振り向いても顔色一つ変えない雪女にも負けない氷の女。何だかくやしいからキスしてやる。
 
 神速の使い道は人を殺す為だけにあるんじゃない!    プリシラさんに分からない様に使うんだ!    プリシラさんにもルフィナにもバレなかった、アラナにバレた。斬馬刀の切っ先が僕の伸びてた髭を剃る。止めてシェイビングクリームを付けてからにして。
 
 「どうするんだミカエル。あたいと一緒に氷の世界で暮らすかい?」
 
 「馴れ馴れしい野郎だ。話し合いも終わりだな」
 
 なんの!?    この少ない時間でなんの話し合いをしたの!?    どう考えても平和的解決案が通る感じだったろう。誰が拗らしたんだ!?
 
 「団長。火の神ですが生きてる様です。大きな魔力を感じるんですが……」
 
 空気を読まないソフィアさんが大好きだ。まあ読んだ所でレーザー針の十万発があれば無敵だろうね。
 
 「全員、武器を仕舞え!    雪女、話し合いに来たんだ、争いに来た訳じゃない」
 
 「チッ!    ぶっ殺すって言ったのは、てめぇだろ。つまんねぇなぁ。オリエッタ!    話し合いが終わるまで酒盛りだ」
 
 「はい、はい~」
 
 アイテムボックスは便利な道具だけど許容量が決まってるんだから、必要な物以外は入れないでね。僕は酒盛りを始めたヤツらを無視し雪女と話し合う事にした。
 
 
 「や、やっぱり寒いですね、雪女さんの近くにいると」
 
 「……団長、もっとこちらに……」
 
 雪女と握手をした時に、芯まで凍り付く感じが忘れられない。今の僕には両手に厚着のコート。無理、誰が何と言っても僕はクリスティンさんとソフィアさんを離さないぞ。出来ればその前を開けて中に入れて欲しい、変な事はしないから。
 
 本当ならソフィアさんのエイト・ライトニング・ボールを展開させて暖まりたい所だが、雪女さんが溶けたら話し合いにならないしね。    ……しかし、ラテン系の雪女ってありなのか?
 
 「それで……    話をしに来たんだろ」
 
 無理、足元から凍りそう。お腹は冷えてこれ以上はヤバい気がする。僕は背中をクリスティンさんに押し付け、ソフィアさんを前から引き寄せた。まるで美女のハンバーガー。具材の僕は冷えきっているけど。
 
 「大丈夫ですか団長?」
 
 無理っす。歯がガチガチ震えている。話し合いに来て話を出来ないなんて、何をしに来たんだか。プリシラさんからお酒を別けてもらおうか。酒を飲んでの話し合いもいいだろう。酔えば腹を割って話せると言うしね。
 
 「……寒いですね」
 
 背中のバンズが前を開けて中に迎い入れてくれた。コートの外からより暖かい、素肌に近い服の上からコートを二人で被るように。
 
 ああ背中が暖かい。コートの上からでは限界が有ったね。素肌に近い分、伝わる熱量が違う、暖かい……    歯の震えはまだ止まらないけど、これで少しは話せそうだ。
 
 「あら、クリスティンさんだけズルい」
 
 ソフィアさんも振り返り前を開け抱き付く。これでお腹も暖かい。下痢にならないで済みそうだよ。せっかくなのでギュッと抱き締め熱量を別けてもらう。暖かい……
 
 「お前らは何しに来たんだ?」
  
 すまん、寒いんだ。見た目、頭の三つ着いた「てるてる坊主」に見えるだろうけど、それは我慢してくれ。
 
 「は、話し合いに、き、来たんだ……」
 
 無理だ、もう少し時間とお酒と二人からの温もりをくれ。あれ?   ソフィアさん少し痩せたかな。苦労を掛けてるからね。これは誉めていい痩せ方じゃないだろうな。僕は前を向いてるクリスティンさんに難しい話を任せ、僕の方を向いているソフィアさんからは暖を取った。
 
 「羨ましいねぇ。温もりを感じ会えるのって……」
 
 僕の震えが止まる頃、話し合いも終わった。もちろんクリスティンさんだけに話をさせていた訳では無い。僕だって震えながらも話をしたんだ。
 
 「その温もりが欲しくて神になるんですか」
 
 「まあ、そうかもな。スノーレディは一人でしか生きられない」
 
 少し悲しい話を聞いてしまった。雪女には悲恋が似合うのかな。嫌だねぇ、せめてハッピーエンドで終わらせたい。
 
 
 
 「プリシラさん!    プリシラ!    飲んでないでこっちに来い!    戦闘準備だ、神を殺すぞ!」
 
 「何で神を殺すんだぁ、雪女を殺しに来たんだろぅ」
 
 説明してやるから良く聞け。それとも囁く様に耳の側で話してやろうか。それの方が暖かくていいからね。    ……そんな事はソフィアさんがいる前では許される事もなく、僕は事情の知らない四人に話した。ソフィアさんを抱っこしながら。
 
 「この雪山さんは……     お名前は何でしたっけ?」
 
 「ビオレタ・ロサレス。スノーレディと呼ばれているが見た目は人と変わらないだろ」
 
 「えぇっと、この雪女のロサレスさんが火の神を氷付けにしたのは訳がある。ドワーフ達の火の神の世代交代はもっと早かったんだ。火の神が世代交代をする時に魔力を爆発的に解放する。ロサレスさんはそれを少しでも遅らせる為に火の神の力を押さえ付けていたんだ」
 
 「なるほどな、それでこいつを殺せば火の神ってヤツは解放されて万々歳な訳だ」
 
 僕は人に説明するのが苦手な様だ。ここまでの説明で分からなかったのはプリシラさんだけみたいだけど、一番殺気を出してるのもプリシラさんだ。
 
 この状況で殺気を止められるのは僕しかいない。これが団長の役目、役得と言ったら無いね本当に。僕はせっかく暖まってきたソフィアさんのコートの中を離れ、殺気で暖まってるプリシラさんをコートの外側から優しく抱き締めた。
 
 「何しやがる!?」
 
 別に襲ったりはしませんよ。寒いんですから、暖まりたいだけです。二人で一緒に暖かい所に行きたいですよ。僕も寒いのは苦手な様です、短パンの足の方から冷えますよ。とても熱さが身に染みま…… 
 
 「熱っ!」
 
 すね毛が焦げる、ケツが燃える。ソフィアさんは僕が冷えないように高温を発する光の玉を出してくれた。一家に一台、光の玉を。火事にならない様に気を付けてねって、くらい熱いんだよ!
 
 「あら、暖めようと思って」
 
 僕は逃げる様にプリシラさんを抱き上げて走った。相変わらず容赦が無いねぇ。おかげでプリシラさんの殺気は無くなったけど僕のすね毛も無くなった。脱毛にはちょうどいいかな。
 
 「人とは面白いね。本当に羨ましいほど面白い」
 
 それなら代わってやるよ。雪女だってソフィアさんの光の玉の熱を喰らってみるといい。あっと言う間に溶けて無くなるぞ。
 
 それとも抱き締めて欲しいのか!?    温もりをあげるよ、一度付いたら離れなくなっちゃいそうだけど。それとも僕が凍傷になるかな。
 
 「とにかく、火の神を倒すんですよ。ロサレスさんに手を出しちゃダメ!」
 
 僕はぐるりと一周回って元いた場所に。今度は燃やされ無いようにプリシラさんの温もりの中で。やっぱりプリシラさんの中が一番いいな。
 
 「お前はやっぱりバカか?    火の神が居なくなったらマグマの事はどうするんだ?    そんな事をしたらドワーフはここを離れるぞ」
 
 「それに付いて問題はありません。次世代の火の神にはロサレスさんになってもらいますから」
 
 驚きと呆れた表情で僕を見るなよ。僕だって聞いた時には驚いたさ。火の神に雪女がなるなんて話し、聞いた事が無いからね。水と油みたいな混じり合わない関係?
 
 「火の神になる条件は一つしか無いんです。魔力が強い事。ロサレスさんの魔力はソフィアさんやルフィナ以上です。細かい交代方法はロサレスさんが知ってますし、僕達は全力で火の神を倒せばいいだけです」
 
 「ちょっと待て!    こいつの言う事を信じるのか!?    ウソを付いていたらどうする!?」
 
 ウソとか言う前に声がデカいんだよ!    抱き合ってるんだから耳元で怒鳴るな!    ウソとか付いてればいつもの通りでいいんだよ。
 
 「次の魔力の高い火の神を探している時間はありません。魔力の高いロサレスさんが火の神をやって頂けるなら、これほど有難い事はありませんし、ウソを付いてる様なら団則に則って行動するだけです」
 
 「殺ったら殺っていいんだな……」
 
 「少し違います。殺って、ウソを付いてたら殺っていいです」
 
 「人間とは面白いね。わたしも、そんな楽しく……    わ、わたしの事はビオレタと呼んで欲しい……」
 
 ビオレタさんでもロサレスさんでもいいから、次の火の神になってマグマを出してくれ。その為に全力で現役の火の神を倒すから。
 
 「それじゃ、戦闘配置、横隊。オリエッタは装甲服は使えるかな?」
 
 「この寒さでは間接が凍っちゃいそうです~」
 
 「それなら装甲服は無しで。僕を先頭、プリシラさんとアラナが両脇を固めて、最左翼にルフィナが付いて、右翼にはソフィアさんとガードにオリエッタ、クリスティンさんは後方へ」
 
 もうこの寒さは嫌だ!    プリシラさんの温もりは役得だけど、いつまでこうしていたい……    いつまでこうしてる訳にはいかない。
 
 「よし!    始めよう!」
 
 
 
 雪女狩りから火の神狩りに変更した僕達は、失敗したら神殺しの汚名を着させられるのだろうか。雪女が火の神になるなんて、出来るのだろうか。
  
 
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