異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第百八十四話

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 結婚式を前にして、親族への紹介はあるよね。これから身内になるのだから。
 
 
 「何で僕はいつまでも裸なんだ?」
 
 「わたしの夫殿の全てを見て欲しいと言う花嫁からの頼みさ、嬉しいだろう」
 
 昔、本で見た事がある奴隷の姿。首に穴の空いた木の板を付けられ、両手も首の横に空いた穴から手首だけを出し、まるでギロチンをする姿。しかも裸で……
 
 「夫殿からの頼みは聞いてもらえないのかな?」
 
 「頼みってなんだい?」
 
 「服を着させてもらいたいのと、この首に付いてる板を外して……」
 
 「却下さね。夫殿の速さは知ってるさ。本当なら鉄の板にしたい所はさね」
 
 「服は?」
 
 「趣味さ」
 
 アルマの夫になる人は苦労しそうだよ。僕はその候補から外してくれ、それとこの首輪も外して服を着させろ。裸族になれるほど、自慢できる物は持ってないんだよ。
 
 アラナと捕虜達を逃がしている時はもう裸族になり、逃げ出す人達に見られたと思うと恥ずかしさで僕の方が逃げたくなる。いったい何人の人が僕のスライムを見たのだろうか。
 
 それ以来、ずっと裸で過ごしている。首輪を付けられたが、股間を通る風が爽やかで、癖になる前に服を着たいものだ。
 
 今はアルマが摂取した屋敷の奥に二人で並んで客人を待っている。魔族だからか、こいつが偉いのか、ひっきりなし魔族や偉そうなオーガが挨拶にやって来た。
 
 「今まで来た魔族は何者なんだ?    人をジロジロ見やがって」
 
 「あれは部下や知り合いさ。結婚祝いに来てくれてるだけさね」
 
 いったい何人いるのだろう。人間と魔族の結婚が珍しいのか、それなりの人数が挨拶に来て僕の裸体を見ていった。
 
 本当に心が折れそうになるよ。ベタベタ触ってくる魔族もいるし笑われもした。この首輪になっている木の板でアルマの頭を割ってやりたくなる。
 
 午前中は立ちっぱなしで挨拶が済んだ。午後からは実験と称して魔力を流されたり切り刻まれたりと、午前中に劣らず大忙しだった。
 
 別に僕から情報を聞こうとはしない。それなら拷問も我慢したけれど、やっている事は実験と観察と実証。斬られても時間が経てば塞がる悪魔の血。問題は魔力を流されて暴走する左手の義手とペティナイフ。
 
 こればかりは自分の自由にならない。魔力を無造作に注がれ奪われ、肉体的にも精神的にも疲労感が襲う。
 
 せめて二人きりならと思うが実験に助手は付き物で、大勢の中でバスターソードを振り回すのは苦痛しかない。救いがあるとすれば振り回す相手が気持ち悪いオーガとかでは無く、相手がアルマだった事か。
 
 「どうだったさ?    わたしは……」
 
 ベットの中で裸の男女。一人は魔族、一人は人間。この世界で、憎み合う種族の架け橋になれたなら……    そう考える事は、この奴隷の首輪を外してくれたら考えてやる!
 
 何でベットの中まで首輪が付いてるんだよ。枕の高さが合ってないから、首輪の板が首に食い込んで痛いし、回りも良く見えない。しかも触ろうにも板に手も一緒に付けられてるものだから手首がクルクル回せるだけだ。
 
 「最高だったよ……」
 
 首輪がなければ……    この事は墓場まで持って行く秘密だ。いつか証拠隠滅の為にこいつを殺そう。手足を切り落とし、首を飛ばして三条河原に晒してやるぞ。
 
 「そうだろう。わたし達の愛称はピッタリなのさ。これからも可愛がってあげるさ」
 
 絶対殺す。秘密がバレる前に殺す。バレたら僕が殺されるから。逃げ出す前に殺してから逃げよう。何だか「殺す」、「殺す」と僕が悪い様に聞こえなくも無いが、これは正当防衛だ。
 
 「式をあげるの?」
 
 「そうさ。この戦が終わったらさ。でも今、挙げてもいいさ」
 
 「列席者を呼ばないといけないよ。魔王も呼んだりするのかな?」
 
 「魔王陛下はラウエンシュタインだよ。戦が始まってから、あそこから動いて無いからね。式を挙げるならラウエンシュタインもいいさね」
 
 ハルモニアとノルトランドを結ぶ橋があるラウエンシュタイン。最初の侵行以来、魔王はラウエンシュタインを出て無いのか?
 
 ハルモニアの王都であるクリンシュベルバッハには総力を上げて攻めて来ているなら、旗頭である魔王も来ていると思ったのに。
 
 何か考えがあっての事か。それともラウエンシュタインを動けないとか?    魔族がここにいるのに魔王だけが動けない理由も無いか。何か深い理由でも……
 
 「さあ、続きをしよさね。今夜は寝かさないよ夫殿」
 
 正直、とてもヤりずらい。
 
 
 
 朝はモーニングコーヒーが飲みたい。砂糖もミルクも無しで濃いの飲めば目が覚める。例え、一睡もしなくてもだ。
 
 「朝だね。日が登って来たよ」
 
 「あぁ、もう朝か……    あぁ、気持ちいい……」
 
 本来なら枯れ果てているハズの僕は、魔力で強引に引き立てられ、昨日の午後から朝日が登った今もアルマは僕の上にいる。
 
 何が彼女をそこまで駆り立てるのか!?    正直、擦り切れるのではと、心配になる僕のバスターソード。だが魔力のお陰で今も健在だ。
 
 「仕事はいいの?    人間と戦争してるんでしょ」
 
 我ながらアホな質問だと思うが、そろそろ終わりにして欲しい。アルマには仕事に戻ってもらい、僕は逃げる算段をする。
 
 「いいさね。当分はクリンシュベルバッハに待機だろうから……    あぁ……」
 
 仕事しろよ!    人間を滅ぼして来い!   早く上から退いてくれ、首が痛いんだよ。下半身は気持ちいいけど……
 
 「追い討ちをかけるなら今じゃないですかね。それとも伏兵でハルモニア国王を討ったとか……    うっ……」
 
 男の子の下半身は別物ですと、誰かが言っていたような。このアルマ、肌の色は紫っぽいし頭には羊の様な角もあるが僕は気にしないよ。なにせライカンスロープと出来る男の子だからね。美しい女性はいつでもウェルカムさ。
 
 「伏兵なんていないさ。国王はどっかに行っちまったさね。わたしらは魔王陛下の指示に従うだけさ。ちょっとはこっちに集中しなさね」
 
 クリンシュベルバッハの南門から逃げ出した国王やアンネリーゼ嬢や普通の市民達。てっきり伏兵がいると思ったのに、これなら逃げられそうだ。
 
 でも、何故に逃がすのか?    それに追い討ちをかける訳でも無く待機になるとは、いったい魔王の戦略はどうなっているのだろう。
 
 アルマが集中しろと言うならしてやるよ。体力は削られているけど、足の痛みはもう無いし神速も使える。モード・ツー!    下から打ち上げる神速のモード・ツーはアルマをあっさりと撃沈した。
 
  が、撃沈した先にあったのは僕の首輪になっている板。頭をぶつけて正気に戻りやがったのは計算違いだった。
 
 「本当に夫殿は良い物をもっているさね。死ぬかと思ったさ」
 
 死ね、死んでくれ。出来れば僕を自由にしてから死んでくれ。僕のモード・ツーは魔族にも通用するのが分かっただけでも良しとするか。
 
 「そんな事を言わないで。アルマの事は大事にしたいと思ってますよ。だからこの首輪を取って……」
 
 「さあ、朝だし仕事をするさね。連戦続きで疲れた軍を建て直さないといけないさ」
 
 仕事に行く前に死んでくれ。これを外して死んでくれたら、どれほど良いか。まあ、いつもの事だが僕の望みは叶わないのだろう。
 
 「アルマ!」
 
 ノックもせずに女性の寝室に入るヤツの末路は、ここでも同じようだ。聞きなれない男の声と、派手に開けるドアに続いて悲鳴も続く。
 
 僕の上に乗ったままのアルマ・ロンベルグは身体を捻って高温の魔法を繰り出したらしい。首輪のせいで足の方は見えないし、身体を捻るなバスターソードが千切れるだろうが!
 
 「お前、何しに来た!」
 
 人を焼き殺そうとしても聞いてると言う事は、人では無いのか?    僕がいくら首を持ち上げても見えるのはアルマの捻った細い腰付き。誰と話しているの?    僕がお邪魔なら退席するよ。
 
 「相変わらずだな。人と婚姻するとは本当か?    何故、人などと!」
 
 やっぱり僕は退席した方がいいよね。難しい話は二人で話し合って下さい。その時は首輪を外して欲しいなぁ。
 
 「こやつは普通では無いのさ。だから、わたしが貰う事にしたのさね。誰にも邪魔はさせないさ」
 
 うん。やっぱり僕はいらないよ。いつまでも人の上に乗って話しているんじゃねえ。捻るな!    千切れる!
 
 「そいつが何者なのか知っているのか?」
 
 「知っているさ、わたしの夫殿さ。それ以上でも以下でもないさね。そこで見ていればいいさ」
 
 アルマは僕に背中を向けるとまた始めだした。上下に早くゆっくりと艶やかな声をあげて。って、人前ですんなよ。大事な話をしてるんだろ!
 
 「こいつはコアトテミテスで俺の正体を見破ったヤツだ。側に置いてもロクな事にならん」
 
 あんたもこの状況を見て空気読めよ。仮にも男女がベッドで愛し合っているんだからさ……    コアトテミテス!?    
 
 コアトテミテスが襲われた原因は魔族に操られた魔物の暴走。それを操ったヤツはクリスティンさんをも操り僕の心臓を止めさせた。あの後、クリスティンさんは泣いてたんだぞ!
 
 「てめえ!」
 
 万歳の首輪の格好から鍛え上げられた腹筋のみで上半身を引き上げ睨み付けようとも、アルマが邪魔で前が見えないし。いい加減どけよ。
 
 その勢いに感じきったアルマが反り返ると、魔族の頭に付いた硬く丈夫な角が、僕の鼻先にヒットして僕はベッドにダウンした。
 
 「くそがぁ!」
 
 カッコ悪い。首輪で万歳で鼻血なんて、白百合団のメンバーに知られたら半月は笑い者にされる。が、こいつはクリスティンさんを泣かした元凶だ!    いつか殺ってやると思っていた野郎が目の前……    アルマを挟んで目の前にいる!
 
 「最高だったさ。いつでも最高さね」
 
 どいつもこいつも空気を読まない野郎ばかりだ。こんな事をしている場合じゃないんだよ。
 
 「てめぇは、殺してやるからな!」
 
 「ああ、いつでも殺すくらいやっておくれさ。楽しみで仕方ないさね」
 
 話に入るな!    お前に言ってる訳じゃないんだ。いや、お前も殺すけど先にそっちの男だ。
 
 「この男は危険だ。早々に処理した方がいい」
 「まだまだ元気そうさね。続きをするさ」
 「てめぇ、名を名乗れ!」
 
 皆で一度に喋るなよ、話が出来ないだろ。俺の話を聞け!   
 
 「あぁ、気持ちいい。とろけそうさ……」
 「お前は必ず殺す!」
 「アルマ、いい加減にしておけ」
 
 
 こんな感じで一時間。今までで一番疲れた。
 
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