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第百三十一話
しおりを挟む想い出。コアトテミテスの宿屋で見た白百合団、全員の水着姿。
走馬灯。死ぬ前に見ると言う過去の出来事。
目が覚めると、オーガの剣が二ミリほど首に刺さり掛けていたのを神速で回避し、オリエッタナイフを心臓めがけて突き刺した。
何がどうなってるんだ。今、見えたぞ白百合団の水着姿が。周りを見渡すと乱戦の真っ只中、こんな所で寝転んでいたのか?
「団長、起きたであるか。おはようである」
遥か高みから清んだ声が降りてきた。見上げると二階の窓の縁に腰を下ろしたルフィナが、足を振って見下ろしていた。
「生きてる……」
良かった、生きてた。僕は二階まで飛び、縁に座っているルフィナを押し倒すように部屋の中で抱き締めた。
「良かった。生きていたんだね」
こんな華奢な体で破城槌を受けて無事だったなんて、本当に良かった。僕は涙を堪えるのに必死だった。
「団長! 少し強いである。乙女は優しく扱うのである」
ごめん、ごめん。本当に生きていてくれて良かった。本当に良かったよ。
「ケガは無い? 本当に大丈夫なの?」
「無論である。あの程度、我の魔法でいかようにもなるである」
そうだったんだ。さすがスーパーエリートの娘。エリートはエリートを生んだか。ロッサが消えた時にはルフィナも死んだかと思ったよ。
「ロッサは? 消えたでしょ。ロッサが消えるくらいだからどうなったかと思ったよ」
「ロッサは魔力切れで消えたである。今のロッサは我の魔力と共存しているのである。なあ、ロッサ」
「イエス・マイロード。いつかの同一化のため」
良く分からないが、ルフィナの魔力が無くなればロッサも存在出来なくなるのか…… それなら、なんで今はいるんだ?
「マイロード、賭けは私の勝ちでございます」
待て、待て、何の話をしている? 賭けって何だ? ルフィナの魔力は切れたのにロッサが出てきている理由は?
「ずいぶんと面を喰らったような顔をするである。呆けたか団長」
「は、話の説明を…… 今の状況は……」
僕が眠っている間に何があったんだ? 第一、何で気を失う? 何故に戦場で放置プレイ?
「順を追って説明するのである。ロッサ」
「マイロードに代わりまして私が…… まずマイロードが破城槌を受けた時に出した防御魔法が、最後の魔力となりました。マイロードはその際に予備の血液をも失い魔力補充のためにミカエルさまから多量の血液をもらいました。それがミカエルさまが気を失った理由でございます」
気を失わせるほど血を取るなよ! いつの間に取りやがった! 普段ならそれなりの装置を使って血を取るのに。
「これを見るが良いである」
ルフィナのはち切れそうな笑顔の唇から覗く二本の犬歯。少し長くないか、まるでヴァンパイア。
「それって……」
「ふむ、以前ヴァンパイアから学んだ事である。オリエッタに作ってもらい今回初めて使ってみたが、多少吸い過ぎたである。これがあればいつでも、どこでも、痛みもなく団長から血を吸えるのである」
ヴァンパイアめ! 面倒な事を教えやがって。オリエッタも無駄な物を作るんじゃねぇ。まったく、何て物を作ってくれたんだよ。
「僕がヴァンパイアになるなんて事は……」
「団長はアホであるか。ヴァンパイアは日の下では生きれんである。これはただの「血吸い器」である」
アホでごめんよ! もう少しネーミングを工夫しろよ。これでいつでも寝首を吸えるのね。広域心眼は常時発動しないとヤバいかな。
それにしても気を失った僕をそのまま置いてきぼりか。ケガは治してくれて、今は両足で動けるけど。
「それとケガは少しばかり治っていると思います。矢の方は心配ありませんが、足の方は無理をなさると折れるかと」
治癒は専門じゃないルフィナにしては上出来だよ。神速は試してみないと分からないけど、ここまで飛び上がれたなら大丈夫そうだ。
「ちなみに、治したのは私です」
治癒は専門じゃないロッサにしては…… 吸ったお前が治せ! 魔力は十分にあっただろうが! 吸ってそのままか!? ロッサに治させて放置プレイか! 走馬灯を見たぞ!
「ロッサ、ありがとうね。それで賭けってなに?」
「はい。ミカエルさまが目覚めるまでに首が落とされるかどうかを賭けました。落ちなかったので私の勝ちです」
「いや、待つのである。団長の首には刃の傷がある。これは落ちたも同然である」
「マイ・ロードと言えども譲れません。首が落ちるかどうかでの賭けですので」
「だから傷があると言う事は……」
賭けの対象の僕の話は聞く気もないだろうから、僕はスッと席を離れ窓際に寄った。窓から外を眺めると、ネーブル橋の最後の防壁である城門は破られ中庭は大混戦を極めている。
あの中にポツンと死んだように投げ捨てられたら、確かに気にも止めないかもしれない。面白い賭けをしたもんだ。みんな頑張れよ。僕は少なからず中庭で戦ってる冒険者にエールを送った。
……そんなんじゃねえ! 僕は振り替えってまだ言い合ってる二人に近付くと神速のデコピンを喰らわせた。
「そろそろ撤退の時間ですかね」
僕は指をポキポキとならし威嚇するように見つめて言った。
「そ、そうであるな。時間も頃合い、撤退しようである。賭けは引き分けでいいである」
「仕方がありませんね。引き分けでよろしいです。ミカエルさま、マイ・ロードをよろしくお願いします」
ロッサはそう言うと静かに消えていった。さて、僕達も逃げないと。ネーブル橋の城門は落ち中庭の混戦も持ち堪える事は出来ないだろう。
時間は予定より一時間もオーバーしているから、みんなも先に行ったはずだ。残された僕達も急いで逃げないと。
僕はルフィナを抱き上げて中庭の反対になる方から建物を出てラウエンシュタインの南門を目指した。が、その前に一度下ろし、ルフィナのローブを巻くって中の水着姿を見直してから改めて南門を目指した。
ラウエンシュタインの城や城下町に魔物が進攻している事は無かったが、街中には今だに逃げ出さない人達が騒いでいるだけだった。
南門には僕の指示を守った白百合団は撤退を始めてるだろう。少し寂しい気もしたが、指示を出したのは僕だから仕方がない。
「皆は先に行ったである。これで団長と二人きり、楽しい道中になるのである、ククククッ」
不気味な笑いをするネクロマンサーを抱き上げて僕は南に向かって風の如く疾走する。やっぱりルフィナは軽くていいね。
一時間の差はルフィナを抱いていると言え、神速を使えば追い付けない時間ではない。僕は南に向かう街道の近くにあった森の中へ、ルフィナを抱いて入っていった。
「団長、まだ日が明るいうちに暗い森の中であるか」
一時間の差があればプリシラさんに邪魔される事も無いからね。せっかくの水着姿、次がいつになるか分からないのに、このチャンスを逃す手は無い。
僕は鬱蒼とした森の中でも少し開けている所に抱き抱えたままルフィナを下ろし、そのまま寝かせた。
僕はルフィナの頭に掛かっているローブを取って顔を近付けていく。ルフィナもそれを思ってか目を閉じて小さく震えているようだ。
いつもなら遠慮もなく刺してくるのに、こちらから行けば仔猫の様に震えるなんて可愛いね。僕の唇はルフィナの唇を避けてルフィナの耳元で、
「夜に仕掛けます。それまでは体力温存で」
と、言ってからルフィナの横で、夜まで休む事にした。
「……何をするのである!」
何って休むんですよ。夜襲を掛けるから今のうちに寝ておかないと体が持ちません。今日は徹夜になりますよ。
「せっかく邪魔もなく二人きりで、何もないのであるか!?」
当たり前でしょ。今、体力を使ってどうするんですか。魔王軍はラウエンシュタイン城を落とすのは必定で、これを機に乗じてハルモニアに雪崩れ込む。
ハルモニアとして今ほしいのは時間。各地に散っている騎士や傭兵、冒険者を集めて魔王軍に反撃を喰らわさなければ。
おそらく魔王軍は明日にでも進撃を始めるだろう。ハルモニアは騎士を集めるどころか後手に回って戦う事も満足に出来ないかもしれない。
それを少しでも回避する為に僕達は夜襲を仕掛ける。進撃を遅らせれれば、それだけハルモニアの準備が整う。少し仕掛けてやるだけで構わない。僕はその間に馬を盗んで来るからね。
僕は目を瞑りながらルフィナに説明をして、ルフィナは黙って聞いていた。実際に仕掛けるのは僕とロッサだ。
ルフィナだと逃げ足が遅くなるが、ロッサなら消えればいいだけだ。こんな時はノーライフクイーンて便利だね。
ラウエンシュタインの街に入りロッサは陽動、僕は馬泥棒、ルフィナは待機、みんな徹夜で忙しくなるよ。少しは寝ておいた方がいい。
賢いルフィナは全てを納得してくれたようで、自分の役割を分かってる。僕も休むとしよう。
魔王のお陰でこの夏の予定が全てふっ飛んだ。少なくとも今日の予定がキャンセルされた事を僕は許す気が無い。
せっかくのプリシラさんのマイクロビキニを見れないなんて、この貸しは魔王の首で帳消しにしてやる。そんな風に思っていると、ルフィナは僕の胸にもたれかかって来た。
「本当に魔王なんて者がいるのであるな」
改めてネーブル橋での戦闘を思い出す。魔物が隊列を成して橋を渡る姿。あれだけの事が有るなんて、神話が現実になるなんて。
「はい……」
僕の返事に力は入っていただろうか。未来を知っている僕はこれから起こる戦争に、どうやって戦っていけばいいのだろう。
「少し怖い……」
「……」
寄せてくるルフィナの唇に僕も合わせた…… と、思ったら交わされて首筋をチューっと吸われ、
「千なら千、万なら万、殺せば良いだけである。全てを滅ぼすのである。ククククッ」
本日、二度目のブラックアウトの微かな意識の中で、悪魔のようなルフィナの言葉を聞いた。
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