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第三十四話
しおりを挟むプラチナ色の光は僕とクリスティンさんの近くを通り抜け、ゴーレムを貫通し城壁を焼いた。
ゴーレムは二つに裂け土煙を上げて倒れた。マクジュル軍の第七部隊は歓声をあげた。だが僕達二人は光の発射地点にいる白いローブの人から目が離せない。
何でプラチナ色光が飛んで来たかなんて愚問だ。誰が射ったかなんて論外だ。今のはわざと外したのか偶然外れたのか…… 何故に僕寄りで飛んで来たか、それが問題だ。
「……ソフィアは相変わらずですね」
敵対心満々でソフィアさんを睨むクリスティンさん。クリスティンさんとソフィアさんの射程ってどっちが長いんだろう。二人の仲が悪くなる事なんてないのに。
「……少し教育した方がいいかも知れませんね」
今日のクリスティンさんは良く喋る。このくらいでだけど、喋ってる方だ。しかも他人に悪い方で興味を持つなんて。
「教育は後で僕がしますから…… それより後方から回復させる魔法使いがくるはずなのに来ませんね」
周りを見渡しても怪我人を治している魔法使いは一人もいない。後方から見ると良くわかるが左翼は突出し過ぎている。中央より前に出てるし中央には投石が続いていて進軍が遅い。
少し出すぎたか。たけどこのまま、僕とクリスティンさんが前線に戻れば敵の右翼は壊滅させる事も出来そうだ。ゴーレムとクリスティンさんの相性は悪いけど僕がカバーしよう。 ……後ろからの狙撃には期待出来ないし。
サインは送っているのに第八部隊からの援軍が遅い。勝手に隊を離れる訳にはいかないのに送られて来る怪我人が多い。ソフィアさんが送られてきても怖い。
運ぶか。 ……やはり嫌です。男を抱き上げるのが嫌なんでは無い。敵を倒さないとお金が入らないからだ。一人倒すとボーナスがもらえるのに人助けなんてしてられない。それでも隊の後方までは運んでやろう。魔法使いが来れば死なないかもしれない。
クリスティンさんを残して僕は前線に戻った。ソフィアさんがあんな大型のゴーレムを倒したからボーナスはかなりの物になるだろうから、後ろでノンビリと一杯引っかけてもいいけど、やっぱりみんなが心配だ。
「プリシラさん状況はどうですか」
人切りしている最中に聞く間ものも僕は人切り真っ最中。オリエッタはホームラン量産中。ルフィナは退屈なのか後ろに下がって休憩中。
「クリスティンを下げたのは正解だ。やつら小型で動きの速いゴーレムを出してきてるぞ」
どうりで変な土山があると思ったよ。第七部隊も小型のゴーレムに対処出来なかったのか怪我人が増えている。撤退の指示は出てないし、このまま押すのか。
人気者の僕は小型のゴーレムに囲まれ神速を使って捌いていた。こいつら腰ぐらいの高さしか無いのに腕が四本も付いてる。全ての手に剣を持ち、低めからの攻撃がウザイ。しかも恐怖心が無いのが悪い。
チラリと第八部隊の方を見ると白いローブ姿と亜人がこちらに走って来ていた。おそらくソフィアさんとアラナだ。今頃になって来るのか。しかも二人きりで。第八部隊の援護は?
目を戻す前に敵の騎兵が走って来るのが見えた。数は三十を越えるか、走る角度的に第七の後方か第八の前方に当たるくらい。
ソフィアさんとアラナがヤバい。僕は小型のゴーレム四体に囲まれ四本づつの腕、計十六本からの斬撃をかわすので精一杯だ。
「ソフィア姉さん、左から騎兵が来るッス。姉さんはこのまま進んで欲しいッス」
そこまで言うとアラナは方向を騎兵に向けて加速していった。
「アラナ!」
ソフィアの声はすでに聞こえずアラナの目が見開き爪が鋭く毛が逆立って猫化特有の戦闘形態になっていた。
アラナは騎兵の方へ走り寄ると、先頭の騎兵は迎え討つべく放った槍を潜り抜け、二頭目の騎兵に跳び移り、アラナの鋭い爪は厚いプレートメイルを突き刺して心臓をえぐった。
アラナは次々と騎兵を跳び移り、心臓をえぐり首を跳ねソフィアの前を通った時には誰として馬上で生きている者はいなかった。その数、三十三。アラナは「騎兵殺し」の二つ名をヌーユでもらう事となった。
アラナは無茶しやがって。このゴーレム達がクソ邪魔だ。手数が多すぎる。プリシラさんは良く倒せたものだ。僕の力だけでは、小型ゴーレムを切り裂く剣先が途中で止まる。普通の人ならこれで終わるがゴーレムは気にせず僕に斬りかかってきた。
それならば神速と、攻撃と避けるので手一杯だが、神速で斬り付ければ斬り落とせない事はない。それでも十六対一は寝不足の僕にはキツイね。
慣れてくれば少しの安堵感と共に余裕が出来た。気合いを入れて一体倒す。土くれになったゴーレムの向こうの城壁から弓矢の一団が現れた。射角的から第七部隊の後方くらいか。嫌、アラナの方か。
アラナは悪い癖が出て、弱っているのを「いたぶる」癖が出て、その場を動かない。倒れて息のある騎士をもて遊んでる。
「アラナ!」
大声で叫ぼうと周りの音にかき消され届かず、三体のゴーレムは執拗に攻撃を加えて包囲を破れない。射手は弓を引き絞り大量の矢が僕の頭上を飛び越えて行った。
クソッ! 神速、全開! 包囲を破る為にゴーレム達の剣を何回か喰らったが、まだ生きてる、まだ走れるぞ。 第七部隊を掻い潜り飛び越えアラナの元まで。
「アラナ!」
ようやく声が聞こえる位置まで届いたが弓の着弾よりか速い。アラナを抱き上げて逃げる。ギりだがキスする時間も充分にある。
アラナはこちらを見たかと思ったら脱兎の如く駆け寄り僕の心臓を目掛けて必殺の爪を伸ばした。咄嗟に盾でガードしたが安物の盾ではアラナの爪を防げるはずもなく、盾を貫き皮の鎧も貫いた。
ギリギリで自慢の筋肉で防ぎ…… ギリギリで贅肉までも貫き胸骨で止まったアラナの爪。痛みを堪えてアラナの足を払って馬乗りになった時に僕達に矢が降り注いだ。
痛てえ、痛てえ。前から後ろからとはこの事を言うんだろう。僕にも矢が刺さりアラナにも何本か刺さる。
だが動ける。何本刺さったか知らないがソフィアさんがいれば何とかなる。問題は今だに爪で胸を抉っているアラナだ。
「アラナ! しっかりしろ! 」
突き刺した爪のる腕を押さえて、ひっぱたいてやろうかと思う前にアラナが、もがき苦しみ始めた。僕はまだ乳も揉んでません。
「アラナ! しっかりしろ! 」
今度は怒りではなく心配の方で…… ガクガクとアラナの体が震えて僕の腕を痛いほど握る。ちょうど鎧の無い所を爪を立てて。
来た時よりも速いんじゃないかと思うくらいの速さでソフィアさんの所に運ぶと、一言「毒です」と。アラナには二本の矢が刺さっていたが、僕の背中には五本も刺さっていた。
毒耐性のスキルをゲット。この世界にあるのだろうか、 痛みと気分が悪いだけで何ともない。アラナの矢を抜き僕のはクリスティンさんに抜いてもらったが体が震えるような事はなかった。
「血です~」
いつの間にかオリエッタが打席を離れてこちらの方に来ている。おい四番バッター、お前の仕事はホームラン打つ事だろ。
「団長に入れた血は特別製ですから、この位の毒なんて平気です~。体も治って来てます~」
おいホームランバッター、誉めてつかわすぞ。今回の血の件は水に流してやる。だがアラナは苦しそうだ。
「ソフィアさんアラナは大丈夫ですか」
「亜人は毒には特別に弱いんです。ちゃんと治さないといけません」
ちょうどその時、撤退の合図が鳴った。
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