異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第九話

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 実録、恐怖体験。絶賛進行中。
 
 
 ルフィナも腰が抜けたのか、ベッドの上で大股開いて動けなくなっていた。僕はルフィナを正面から見たいと動こうにも足が震えて立っているのがやっとだ。
 
 迫り来る恐怖。オバケや幽霊の恐怖とは違う。プリシラさんの様な暴力的な恐怖とも違う。強いて言うなら……    暑い夏の日に、汗水を垂らして帰って冷蔵庫を開けたら麦茶も無く、冷えた牛乳のみ。とりあえず飲むかと一気に飲めば口の中に漂うブルーチーズ。吐き出す前に飲み込んだ事を後悔し日付を見れば賞味期限が二週間も過ぎ、慌てて流し台に捨てれば固形物が落ちてくる。ぐらいの恐怖だ!
 
 「貴女はまだいるの?」
 
 ゆっくり目線を僕からルフィナへ。それに伴って首から向いた時、ルフィナは凶行状態になったのか四つん這いになってドアから消えて行った。
 
 僕も連れて行って!    逃げろと言ってみたものの、僕を見棄てたルフィナは恨むぞ。あっ、ショーツ忘れて行ってる。後で届けないと。
 
 今度は僕の方をゆっくり振り向き、そのまま回れ右して帰ってもらいたいが、歩みは僕の方へ向かった。
 
 笑顔だ……    限り無く慈愛に満ちた笑顔で僕に向かって来るのに、この恐怖感はなんだ!?    世の中にはいるのだろう、笑って人を殺せるヤツが。
 
 「わたしはミカエルを信じてますよ」
 
 胸に刺さる言葉。疚しい事は何一つしていないのに、突き刺さり方が半端無い。ソフィアさんは僕の胸に顔を埋め、もたれ掛かるが足に力が入らない。僕は押される様に窓の縁に手を掛け踏みとどまった。
 
 「ソ、ソ、ソ、ソ……」
 
 寒くもないのに歯も震えて上手く喋れない。そんな僕を心配してか上目遣いで僕を見るソフィアさんは可愛い。こんな僕にでも見える黒いオーラが禍々しい。
 
 「大丈夫です。ずっと一緒です」
 
 突き刺さしたナイフで胸を切り裂き、骨を砕いて心臓を取り出し、目の前で潰される感じが「ずっと一緒です」に入ってる気がする。
 
 ソフィアさんの顔が胸から離れ下の方へ。止まったのはペティナイフの前。ボトムスを降ろしパンツまで。なされるまま、されるがままの僕に恥じらいは無い。
 
 「可愛くなってますね」
 
 下を見ても見付からない僕のペティナイフ。いつもはあるだろ!    どうした相棒?   トロールの強さは?    ドラゴンの炎は?    鋼鉄の剣はどうした!?
 
 僕のペティナイフは防衛本能が働いたのか、埋まって隠れてしまった。呼んだ所で出てきそうも無い。お前はニートか相棒!    今出てこないと一生出て来れないぞ!
 
 外の空気は上手いぞ、空は綺麗で太陽が輝いてる。今なら目の前に美女がいるんだ、ここで出ない理由は無い。「お前は洞窟のグリーンキャタピラか!」これは、この世界の酒場で言えば大爆笑なんだけどね。
 
 埋もれた相棒を救出する為、ソフィアさんが吸い出し始めた。ここで救出隊に頼るな!    自力で脱出しろと言いたいが、ニートでスライムな相棒はソフィアさんの力でメタルスライムへと進化をとげた。
 
 誰か!    射ってくれ!   今なら窓際で無防備だぞ!    白百合団の団長を討てば功績は高い筈だ。避けないから、誰か……
 
 ソフィアさんが笑う、「ニヒヒッ」と笑う。咥えながら恍惚な表情を浮かべ。僕は見る、ソフィアさんを、怖いもの見たさで。
 
 どれくらい経ったのだろう、一分か一年か。僕はソフィアさんの「ご馳走さまでした」の声を聞きドアから去って行くのを見守ってから気を失った。
     
 

 アラナとオリエッタがどのようにしてソフィアさんを焚き付けたか分からないが、メテオストライクは騎士団に向かって発動され駐屯地には大岩が並び遺跡のようになった。ソフィアさんは、とても怖かったが三百の敵を殲滅した事はスゴイ事だ。
 
 「団長、ソフィア姉さんやってくれたッスね」
 
 「ああ、怖い思いをしたけど、ソフィアさんには何て言ったんですか?」
 
 「あれッスか。団長に言われた事を少し誇張しただけッスよ」
 
 少しの誇張で大戦果だよ。騎士団以外に僕も殺されるかと思った。実際にはただラブラブしただけだ。それを愛を持ってするか、増悪を持ってするかの違いだ。僕は愛が欲しい。
 
 「そ、それはッスね……」
 
 アラナが言うには戦時団則以外に「仕立てからのドレス」をソフィアさんに作る事が今回のメテオストライクの発動条件だと言われた。
 
 服で済むなら安いものだ。ハールトーク伯爵はこの近くの街であるクレスタを落とすつもりだか、そこで服を作ってもらおう。
 
 数日後……    数日間、砦に缶詰めになって戦時報酬を払いまくり、満員御礼千客万来だよ、バカヤロー。    ……予定通りハールトーク伯爵の軍隊、三百人ほどがマーダ砦に来た。ほとんどが傭兵で伯爵直下の騎士は五十人にも満たないようだった。
 
 この軍隊を率いて来たのがコニー・クワイエット男爵。この人は女性なのに男爵とはこれ如何に?    つまらない事は置いておいて、この事もソフィアさんの逆鱗に触れる事になった。
 
 この隊にはハールトーク伯爵の娘が来るらしい。それらしき位の女性はコニー・クワイエットしかいない。戦果を挙げた者を婿にする、そんな噂が立った。他は民間人は商人か娼婦だからね。  
 
 初めはコニー・クワイエットと言う名前の噂は信じなかったソフィアさんだが、来てみればそれなりに美しく清楚な感じで僕のストライクゾーンだと思ったのだろう。 そうなるとメテオストライクの射線上にいるのがコニー・クワイエット男爵。名前が違ったのは異母とでも思ったのだろうか。
 
 さすがに雇い主に向かって撃つのはマズイからソフィアさんとコニー・クワイエットを引き離す必要が出てきた。そこで思い付いたのがクレスタの街に先に入って情報収集と工作活動をする提案をしてみた。
 
 クワイエット男爵は快諾してくれて白百合団だけで潜入する事になったが、国家騎士団を潰されたばかりのクレスタの街は一般人しかいから楽に入れる。
 
 
 夜になって街には簡単に入れたけど情報収集も工作活動も最初からする気は全くない。この街で一番しないといけない事はソフィアさんの機嫌を取ること。
 
 これさえやっておけば殺される事はないだろうし機嫌を取るには腕の良い仕立て屋を探してソフィアさんのドレスを作らないと。
 
 戦時団則により夜の相手はソフィアさんの輪番と知って僕は張り切った。少しでも機嫌を取れるチャンスがあるなら試したいのと、ヤられっぱなしは好きじゃない。
 
 僕達は朝までお風呂やベッドでラブラブしてたが、たまにソフィアさんが「ニヒヒッ」と笑うと僕は腰の動きの速さを強め、ソフィアさんの喘ぎ声で僕の耳をふさいだ。
 
 クリスティンさんがドアの向こうで立ってる様な気配もした。気になるなら一緒にすればいいのに。ソフィアさんの許可が下りるなら、スライムじゃなくて鋼鉄のペティナイフを喰らわせて……    ソフィアさん、それ気持ちいい。
 
 睡眠不足は昼まで寝るとして、アラナを呼んで全員でソフィアさん為に仕立て屋を探すように指示した。ソフィアさん、人が指示を出してる時は舐めるのを止めて下さい。隠れてしたって、変な声を出したら団長の威厳が消えていきます。
 
 で、指示を出したので寝ていたいです。寝ておかないと頭が回らないから仕方がなく寝てたんだよ。寝かせてくれよソフィアさん。
 
 昼を過ぎて、クリスティンさんから仕立て屋の場所の報告を受けたけど、クリスティンさんも寝不足気味なのか目の下に隈が出来てる。探しに行けって言ったのに聞いてたな……
 
 仕立て屋には多目にお金を払って明後日には作り上げてもらう。ハールトーク軍がいつ攻めて来るか分からないが一般人にとってはあまり関係ないらしい。 市民を追い出した街に利用価値がないから。
 
 国家騎士団がいなくなってクレスタの街には自警団がいるくらい。 ハールトーク軍が来たら門を内側から開けて仕事は終わりだ。
 
 「クレスタの街が終わったらどうすんだ?」
 
 プリシラさんが聞いてきた。クレスタの街までで契約は終わりだからハスハント本社がある王都に向かってもいいかな。
 
 「ハスハントに挨拶も兼ねて王都に行こうと思ってます。契約はクレスタまでですから」
 
 「それはいいかもな。王都まではゆっくり楽しめるし。イヒヒッ」
 
 
 下品な笑い声は止めて下さい、プリシラさん。きつい戦闘ばかりだったからゆっくり楽しみながら行くのもいいかもね。楽しみながらならね、イヒヒッ。
 
 
  
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