零の終末

ななちょ

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列炎の傭兵 序章・正義は焔と燃える

Act.4 戦うことの意味

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入団試験が終わり、歓迎会が始まる
1000人を超える受験者のうち、合格者は数十人程度しかおらず、会場はかなり寂しい光景になってしまった

少し待った後、一人の男がステージの上に立った
「炎の傭兵団、副団長の雷魔 風介だ。今回はお前達がここの入団が決まった事を嬉しく思う」
「だがここに入った以上、一人一人がしっかりと戦力になるように厳しい訓練を受けてもらう。」
厳しい人だな…と思いつつも、ここに入るということはそれだけの覚悟が必要なのだろうとも思った
「まぁ…ひとまずはこの歓迎会で同期の者や先輩達との交流をしていってほしい」


歓迎会が始まって、ここに所属している人が俺に話しかけて来た
1人は俺の知っている人で、もう1人は知らない人だった
「あ、零君!ここにいたんだ!」
「彼が…君の親友かい?」
天矢と、帽子を被った知らない人だった
「天矢!そっちの人は?」
「あぁ、自己紹介が遅れたね。私は竜崎りゅうざき しゅう。天矢君は私の貴重な実験サンプルだ」
「なっ…!!僕の事そんな風に思ってたのか!」
「当然だろう?だって君抵抗しないし、毎回毎回実験結果が面白い事になるし」
「仲良いんだな…」
「これのどこが良いって言うのさ!」
天矢の方が組織内の立場が上らしいが、全然そう思わせないほどに竜崎さんの態度がでかく見えるのは気のせいだろうか

「…そうだ、君!特殊な血液を持っているんだってね!」
「そうなんですか…?」
「あれ、知らなかったのかい?上層部は君の話題で持ち切りなんだが…」
知らなかった、一体俺の身体にどんな秘密があるのだと言うのか
「もしかして、俺の身体に何か異変が…?」
「異変という訳では無いんだが…まぁその辺りの話はリーダーに任せよう」
「リーダー…?」
火野さんの事だろうか。しかし何故急にそんな話になるのだろう
「あぁ、リーダーが君を呼んでいるんだ。話をしたいんだと、団長室に向かおうか」
「僕が案内するよ、竜崎君が案内すると絶対自分の実験室に連れていくし」
「そんな事はあるが…少し私に失礼じゃないか?」
「あるんだ…」
「それとこれとは話が別だからね」
二人の会話に完全においてけぼりにされている
しかし団長室にわざわざ呼び出されるってことはろくでもない話になるだろうな…

「はぁ…まぁ僕が連れていくよ」
「じゃ、私は実験室に戻って研究の続きだな」
「あ、お疲れ様です」
俺は天矢と共に団長室へ向かった


特にこれといった会話はなく、団長室に着いた
天矢が扉をノックする
「火野さん~、零君連れてきましたよ~」
「わかった、天矢は戻っていいぞ」
「は~い」
俺は団長室の扉を開けた
「失礼します」
「君が久遠君だな。先の試験、見事だった」

団長室の奥に座っている男が火野さん。ここからでもかなりの重厚感を感じる…
これが団長の貫禄とでも言うのだろうか
「ありがとうございます…あの、話ってなんでしょうか…?」
「その前に。立っているままじゃなんだ、そこにソファーがある、座ってくれて構わない」
「はい、失礼します…」
俺は近くにあるソファーに腰かけた
それを見た火野さんは反対側のソファーに座った

「そうだな…どこから話をするか…」
「君はアヴァウド帝国の噂を知っているか?」
「いえ…ですが天矢から近々戦争を起こすかもしれない。という話は聞きました」
「それなら話が早いな。結論から言えば、もうじき戦争になる」
「なっ…!?」
この世で最も聞きたくない情報を聞いてしまった。戦争、戦争だと?
「今現在どの国も帝国とは緊張状態にある、遅かれ早かれそうなるのは避けられないんだ」
「つまり…その戦力が欲しいということですか?」
「正直に言えばそう言う事になるな。だが君達もある程度は覚悟しているはずだ」
「それはそうですが…いくらなんでも戦争って…」
「俺だって避けたいさ。でも起こるとわかっているなら対策しなければならない」
火野さんの言っていることは正しい。俺だってそういう状況に陥ってしまったら間違いなく戦う選択肢を取るだろう

「そこで本題だ。君は即戦力になりうる才能がある、正直他に類を見ないタイプだ」
「こんな事を新人である君に言うのも心苦しいが…俺達と同じ最前線で、帝国と戦ってくれないか?」
「…戦います。それが妹を、家族を守る事に繋がるなら」
即答だった。勿論偽善や自己満から来るものではなく、ただ帰る家を守りたい。それだけの理由だった
「いい返事だ、だけど…」
火野さんが右手を挙げると火炎と共に剣を召喚し、それを俺の喉元ギリギリに突き立てた

「君は人を殺す覚悟があるか?敵は先程の兵器だけじゃない、人間だっているんだぞ」
突然の出来事に頭が動かない
人を殺す。戦争に出るなら当たり前のことだけど、普通の人からすれば絶対に感じることのない感覚だ
「君は燃えるような正義感を持っている、それはいい事だとは思う」
「だがその正義の下に剣を振り下ろしても、人を殺した事実に変わりはない。違うか?」
火野さんはいまにも俺を殺しそうな表情でこちらを睨みつける。恐らく火野さんは経験しているのだろう
「それは……」
言葉に詰まる。相手の幸せを奪うことも、自分の幸せを奪われる事も。どっちもあってはならないからだ

しかし世の中はそこまで綺麗にできていない…それがわかっているからこそ何も言えないのだ
「君がそうやって迷う間に、敵が君を殺す準備が出来たらどうする?大人しく死ぬのか?」
「…!!」
「非情になれとも、黙って死ねとも言わない。だが、戦う以上はそういう事を肝に銘じて欲しい」
「はい…わかった…とは言えませんが…理解したいとは思います…」
「それでいいんだ、すまないな。急にこんな事を聞いて」
火野さんの顔は穏やかな表情に変わり、剣を下ろした
本物の殺気と、とてつもない威圧感で全く息ができなかったが、今は少し落ち着き出している
「まだその時まで時間は残されている。決心がついたらまた聞かせて欲しい」
「はい…わかりました」
俺は団長室を後にした、今どんな顔をしているだろうか…本気で殺されるのかと思ってしまってすこし吐きそうだ


しかし、人を殺す。か…
自分の命を守る為にそんなことが出来た時には
俺は一体どんな人間に変わっているんだろうか
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