零の終末

ななちょ

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列炎の傭兵 序章・正義は焔と燃える

Act.1 運命が動き出した日

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辺りに広がる岩の山、天井は重すぎる曇り空。


岩の山の頂上には六人の人影


右腕を失い、右眼は失明しかけ、内臓の一部は傷ついて俺の身体は既に限界


余程の戦闘狂でなければ、誰もが絶望するこの状況に、俺は立たされていた

「諦めろ、貴様はここで果てる運命だ」

岩の上にいる1人の男が語り掛ける、そして直後に岩の山から飛び降り武器を構えて急降下し始めた

接近してくる、迎え撃たなければ
「ぐッ……!!」
全身が痛む、剣を持つ力も入らない


だがここで易々と負ける訳にはいかない!
「うおおぉぉぉぉおおおおおおお!!!!」


叫び声と共に、蒼い光が周囲を包み込んだ────




──────列炎の傭兵───────

数ヶ月前に遡る。

巨大大陸ヴィシャールの中にある大国、ウジュバルと呼ばれる国に住む

久遠くおん れい

と呼ばれる19歳の青年がいた。
港町に妹である久遠 智衣ちいと住んでおり、両親は仕事により長い間家を留守にしている


これは、どこにでもいるような普通の青年が普通じゃなくなる話─────




「待てこらぁぁぁぁぁぁ!!!!」
家中に響く怒鳴り声をあげながら、逃げる少女を追いかける
「だ、だって街を歩いたら期間限定のスイーツがあったし…お兄と食べようと思って…」
逃げながら必死に言い訳しているのは妹の智衣。食い意地がひどくいつもとてつもない量のご飯を食べている
智衣を捕まえた俺はその場に座らせた
「今月これで何度目だ!今月はもう厳しいって何度言ったらわかるんだ!!」
両親がいつも家を空けているので俺が家計を担い、家事もしているのだが…
「だ、だってぇ…お兄いつも忙しそうだし、スイーツでも食べたら少しは疲れも癒せるかなって……」
このバカが食費を圧迫しまくるせいでいつもいつも金銭に余裕が無い
…とはいえ、智衣はまだ16歳だし、まともに働ける技術も持っているわけではないから自分で稼がせる訳にもいかない

「…はぁ。まぁ買ったものは仕方ないし、今から食べるか…」
「ほんと!?お兄いつもありがとう!!」
毎日こんな調子でよく疲れないなぁこいつと思いつつも、妹と一緒にスイーツを食べた

…仕事の量、増やさないとなぁ

我ながら甘やかしすぎかもしれないが、智衣がこうしてわがままでいられるからこそ、2人でも賑やかなんだ

この日常が、ずっと続いていくことをひたすらに願うのみだ



「…お兄、これから仕事?」
仕事の準備をする俺に智衣がそう話しかけた
「どっかのバカがよく食べるからな」
「そ、それって私が食べてばっかりみたいな言い方じゃん!」
「違うか?」
「違わないけど…そうなんだけど…ぐぬぬ…」
そんなやりとりをしている間に支度を終わらせ玄関の扉を開けようとする
「行ってらっしゃい!」
「行ってくるよ」
家を後にして仕事場に向かう



器用貧乏、その言葉が似合っている俺はいつも色々な仕事を任されている
今日は少し遠い場所にある店の厨房係だった
人手が足りないとかで急遽俺が呼ばれることになったのだ
「しかし久遠君が来てくれて助かったよ、店は大繁盛だ」
「いえいえ、俺は大したことをしていませんよ」
仕事を終えて控え室で普段着に着替えている俺に店長が話しかけてきている
「しかし…こんな遠くにわざわざ来て大丈夫かい?」
「妹の事なら大丈夫ですよ、いざと言う時は近所を頼れって言ってあるので」
「いや、違うんだよ」
え?と疑問に思った俺に店長はそのわけを話す
「最近近くで妙な機械音がするって噂があってね、昼なら人が多いからまだいいんだが…」
「夜だと人が少ないから危険。という事ですか?」
そういえば勤務中にもそんな話が聞こえてきた気がする…
「そういうことだ、帰り道は気をつけた方がいい」
「わかりました。気をつけて帰りますね。お疲れ様でした!」
「うむ、お疲れ様」
俺は仕事場を抜けて帰路につく



夜も遅く、人通りが少ない道を歩いていく
先程店長に言われた事を忘れずに早足で帰る

…しかし、不気味なほど静かである
まるで、何かの兆しのような────

「っ!?」
なにかに気づいた俺は咄嗟に伏せる
後ろで巨大な爆発音がした

すぐに後ろを向くとそこには今まで見たこともないような巨大な一つ目の機械が映っていた
「あれは…」
おそらく妙な機械音の正体はこいつの事だろう
その機械が動く度にあちこちが軋む音がする

こいつは危ない。と本能で感じとった俺は即座に立ち上がって逃げ出すがその機械は俺を逃さなかった

目からビームのようなものを発射して俺をピンポイントで狙う
「うわぁぁぁあっ!!」
被弾こそしなかったが、着弾した余波で吹き飛ばされてしまう
幸い大きな怪我はしてないが吹き飛んだ衝撃で身体のあちこちを打ってしまった
おそらく2度目は避けれない、どうする?

機械は2度目のビームを準備した
来る。しかし足が上手く動かない

終わりだ。


と、思われた瞬間
「やぁーっ!!!」
1人の少年が飛び出して機械の頭部を突き刺した
あの少年には見覚えがあった
「天矢…?」
海糖かいとう 天矢てんや
俺の親友であり、お金持ちの家の養子でもある。
明るい性格だが出自に特殊な事情を持っており、あまり深掘りはさせてくれない
「零君!無事かい!?」
「あ、あぁ…」
親友の見たことも無い姿に目を丸くしながらも彼の言葉に応える
「ちっ…しぶといなこいつ!」
天矢が緑色に発光する剣を持って機械と戦う
その姿はまさに戦士のようだった

天矢は軽い身のこなしで機械を圧倒していき、敵は着実に力を削がれている
しかし、どれも決定打に欠け、機械は未だ活動を続ける
「あれは…!?」
機械は自爆を試みようとし、カウントダウンを始めた
機械から光が漏れ出す、あと数秒と言ったところか
「止まれぇぇぇぇぇぇぇ!!」
天矢が巨大な風を巻き起こしながら機械を切りつける。
「止まった…のか……?」
自爆は妨げられ、機械は活動を停止した
天矢は俺の目の前に立ち手を差し伸べる


「零君、立てる?」
月に照らされる親友はまるで別人のようだった
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