深淵から来る者たち

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24、謎の敵

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 火星から約2万kmの宇宙空間。
 演習中の自由同盟艦隊を牽制する為に集結していた連邦統制軍の艦隊はアビスゲートの事態に関する連絡を受けていた。
 艦隊司令部の命令により艦隊の3割を残し、全てをアビスゲートに向かわせる事となった。

 艦隊から複座タイプの91式戦闘攻撃機が先行偵察に向かう。
 ブースターを装着した91式は航宙艦の速度をはるかに超え、アビスゲートに接近していた。

「こちらオスカー・ワン。ビッグアルファをレーダーに捉えた。これよりステルスモードに切り替える」

 熱源を抑える為、推進出力が下げられる。
 作動した光学式カメラが望遠でアビスゲートを映し出す。
 警備のための航宙艦は駆逐艦グルカを除き、周辺に展開している。どの艦も動きはなかった。

「敵艦の姿は確認できない。これより友軍艦に接近する」

 接近した91式のパイロットが目にしたのは変わり果てた友軍艦隊の姿だった。

「船体の外観に異常あり。通信にも応じない」

 シルエットは面影を残すもののその表面は醜く、焼けただれた肉のような姿だった。所々に昆虫の脚にも似た突起部が見える。
 いすれも元々の装備にはないものだ。
 さらに接近すると艦が動きを見せる。
 船体の表面から何かが伸び、91式を捕えようとしたのだ。

「なんだ??」

 大きく旋回してそれを回避する91式
 パイロットは起きている状況を把握できなかった。
 それは偵察機からの映像を受信していた艦隊本隊も同じであった。
 
          §
                                                                                                                                                    
 火星の衛星要塞トブルクから急遽、出航したデアフリンガー級航宙戦艦キリシマは、アビスゲートを目指していた。
 物資の補給を中断できなかった為、出発は大幅に遅れている。集結した艦隊より到着は遅れる見込みだ。
 ブリーフィングルームでは主要乗組員が集められ状況説明がおこなわれようとしていた。

 キーラ・アストレイ中佐が前に立ち説明を始める。
「急遽休息を返上して出航したわけだが状況は複雑だ」
 普段は比較的女性らしい穏やかな口調の中佐も今は口調がきつい。それが緊急事態である事を集まったクルーに感じさせた。                                                                                                                    
「アビスゲートでテロ行為があったのでは?」
 士官のひとりが質問した。
「当初はそう考えられていたが、それだけでは説明できな事態が起きている。護衛任務に就いいた艦隊も現在は機能していないらしい。艦隊は諸君も知っている巡洋艦マーブルヘッド、駆逐艦モホーク、タタール、サラセン。航海の終盤、我々と行動を共にした艦だ」
「もう一隻いたと思いましたが」
「グルカは、撃沈し火星に墜落した。報告によると艦隊同志で撃ち合ったらしい」
 クルーたちが騒めく。
「クーデターですか?」
 アストレイ中佐は次に使う言葉を選ぼうとしたが適当な言葉が思いつかない。
 結局、艦隊司令部から通達の来た内容そのままを使う事にした。
「クーデターではない。偵察機の報告、傍受した通信内容、アビスゲートで生き残っているクルーからの報告によると敵は初めて遭遇する宇宙生物と結論付けた」
 さらにブリーフィングルームが騒めいた。
「宇宙人ってことですか?」
「知性があるかどうかは分からない。だがその宇宙生物は航宙艦や機械に付着すると増殖して自身のコントール下に置くことが分かっている」
「つまり、巡洋艦や駆逐艦が宇宙生物に乗っ取られたって事ですか?」
「専門的な事は私にも説明しかねるが、要約するとそんなところね」

「だってよ……ニック。信じられるか?」
 隣同士で席についていたマック・ビレイ大尉が隣のニック・ウォーカー大尉に耳打ちする。
 にわかに信じがたい事だったがウォーカー大尉には思い当たる事があった。
 同時刻に倒れたフェルミナ・ハーカー少尉の言葉だ。
 「何かが……何かが宇宙で起きてる」
 彼女はそう言って意識を失った。
 これは果たして偶然だろうか?

「対応策は艦隊司令部が検討中だが結論はまだ出ていない。本艦は、ひとまず艦隊への合流を目指す。追って作戦内容を知らせる事になるが、その内容がどんな突飛のないものでも諸君なら完遂できるものと信じている。以上だ」

 ブリーフィングはアストレイ中佐のその言葉で締めくくられた。
 次々と席を立つクルーであったが動揺は収まらないでいた。
 当然だ。
 人類は初めて遭遇した宇宙生命体と交戦する事になったのだから。
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