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19、目標への攻撃
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ザビーネは日課の紅茶を楽しんでいた。
先日のある出来事を終えてから気分がいい。ちょっとしたゲームの勝負だった。久しぶりに本気を出した。自分をここまで追い詰める“人間”がいたのも驚きだったが、対等に競える相手が出来たことに喜びを感じている。それは遊び相手ができたようでも友人が出来たようでもあった。
通信が入った。上司からだ
ザビーネはため息をついて通話ボタンを押した。これはあまり楽しくない事だ。
「やあ、ザビー」
相手は音声だけだった。
「……どうも、ボス。何か御用ですか?」
用件は察しがついた。だがザビーネは敢えて言わない。
「待ち焦がれた融合炉が到着してるぞ。状況は把握してるかね?」
ザビーネはタッチパネルを操作して進捗状況を確認する。
「ああ……設置は順調に行われています。ユニットは取り付け済み。オートワーカーによる24時間作業は純情。まもなく本格稼働が可能になりますよ」
「我々は、早い実行を期待する。我々は長く待ちすぎてるのだ」
「そうでしょうね。ですが、今少々問題が起きています」
「どうした?」
「把握していない“何か”がアビスゲート・ワンの周辺宙域に存在しています」
「連邦統制軍の艦隊に対処させればいい」
「何かが存在しているのは、通常の宇宙空間ではないようです。彼らに対処できるかは疑問ですね」
「……というと?」
「11次元の超弦理論はご存知で?」
「回りくどい言い方はよせ。簡潔に言いたまえ」
「簡単に言うとその“何か”は同じ宇宙空間にはいるのですが、存在しているのは別の次元です。連邦統制軍にはそれに対処できる兵器を所持していません。私の知る限り」
「なるほど……で、その“何か”は敵なのか?」
「別の次元からと推測できる攻撃を輸送船団が受けています。これは恐らく同一の“敵”かと思われます」
「なるほど……」
相手はしばらく沈黙していたがやがて話し出す。
「わかった。それはこちらで対処しよう」
「対処? 相手は恐らく新しいシステムを使って別の次元に隠れているのですよ。そんなシステムは連邦統制軍にはない筈ですが」
「君が気にすることではない。それより、システム稼働に全力を注ぎ給え」
「了解……」
通信は終了した。
カップの上の紅茶はとっくに冷めていた。
ザビーネは再び紅茶を入れ直す事にした。
その頃、アビスゲートの周囲の宇宙空間では僅かな歪みが起きていた。
歪みは制度の良い観測装置でもノイズかバグとして検出するものだった。しかしそれは単にプログラムのイレギュラーではない。
別の次元下での移動が宇宙に及ぼす影響だ。
宇宙空間に張り巡らせた監視ユニットの合間を縫って進むが、別次元を進む艦の存在を探知できないでいる。
これが次元潜航艦の性能だった。
「ビッグ・アルファアビスゲートに20kmまで接近」
「監視ユニットの反応なし。順調に航行中」
「次元深度を15まで上げてカメラ・ユニットを浮上」
「アイ・サー」
カメラが宇宙空間に現れた。
レーダー波は探知されるので発することはしない。敵に位置を悟られるわけにはいかないからだ。たとえ手を出せない場所であってもだ。
カメラの望遠レンズがアビスゲートにピントを合わせる。レンズで明確に映らない部分はプログラムは補正された。
「六基のうちの一基だけでの十分なんだが……」
エメリッヒ・トップ大佐はスコープを除きながら言った。
「防壁は頑丈そうだ。二発は撃ち込みたいな」
「情報では強度は航宙空母クラスです。固いには違いないが対艦ミサイルが通用しないほどではありません」
「そうだな」
トップ大佐はスコープから離れた。
「戦術、命中精度は?」
「はっ、ビッグ・アルファアビスゲートの質量が若干の影響を与えるかもしれませんが、計算で調整できる範囲です。いけます」
「ミサイルのアウト・ポイントの距離を開けましょう。ホーミングする範囲ならうまく当たるはずです」
副長のメイソン中佐が付け加えた。
「計算は?」
「発射位置に付き次第、すぐにでも」
「射線軸上に監視ユニット」
ふたたびスコープを除くトップ大佐。
「速度そのまま、取舵10」
「速度そのまま、取舵10、方位3-5-0、アイ・サー」
潜航次元の中でアブデュルハミトは傾きながら監視ユニットを通り過ぎた。
「目標に接近、距離5,000」
「対艦ミサイル発射準備」
「対艦ミサイル発射ミサイル準備、一番管、二番管装填! 照準!」
「照準、ロック!」
通常の宇宙空間に突き出たカメラユニットからの情報が照準システムに送られる。
「ターゲット、ロックオン」
照準は核融合炉の設置されたエリアの外壁にロックされた。
トップ大佐がスコープを覗き込み、射線軸に障害物がいない念押しの確認をする。背後にトライバル級航宙駆逐艦の姿が見えた。気づかれていないのは分かっているが、しばらく駆逐艦の様子を見た。戦闘態勢には入っていない。
よし!
トップ大佐は、トライバル級航宙駆逐艦が通り過ぎたの見計らって命令を下す。
「一番管発射、続けて二番管発射。次装填」
「一番発射! 二番発射! 三番管、四番管装填!」
アブデュルハミトから対艦ミサイルが発射された。特殊な光を放ち、潜航次元の中を進むミサイルは目標に近づいた時、宇宙空間に姿を現す。
周辺にいた航宙駆逐艦群と指揮を執るクレムソン級巡洋艦マーブルヘッドのレーダーに突如、ミサイルが映り込んだ。
どの艦のレーダー担当も突如現れたミサイルに驚く。
「ミサイルをレーダーに確認! 距離1,500! アビスゲート直撃コースです!」
距離は1,500。周囲からの迎撃対応を開始するにはあまりにも近接過ぎた。
ミサイルは真っ直ぐ核融合炉めがけて突き進んでいった。
トップ大佐はスコープで様子を見守っていた。
航宙駆逐艦がバーニアを噴出している様子が目視できる。
無駄だ。今更、どうにもできるわけがない。
「距離1,200、1,000、800……」
ミサイル発射担当が目標までの距離を読み上げる。
対艦ミサイルの噴射剤が宇宙空間に線を描きながらアビスゲートに向かっていた。
スコープ越しにそれを見た時、トップ大佐は作戦の成功を確信していた。
だがしかし、次の瞬間、大佐は予想外の光景を目にするのだった。
先日のある出来事を終えてから気分がいい。ちょっとしたゲームの勝負だった。久しぶりに本気を出した。自分をここまで追い詰める“人間”がいたのも驚きだったが、対等に競える相手が出来たことに喜びを感じている。それは遊び相手ができたようでも友人が出来たようでもあった。
通信が入った。上司からだ
ザビーネはため息をついて通話ボタンを押した。これはあまり楽しくない事だ。
「やあ、ザビー」
相手は音声だけだった。
「……どうも、ボス。何か御用ですか?」
用件は察しがついた。だがザビーネは敢えて言わない。
「待ち焦がれた融合炉が到着してるぞ。状況は把握してるかね?」
ザビーネはタッチパネルを操作して進捗状況を確認する。
「ああ……設置は順調に行われています。ユニットは取り付け済み。オートワーカーによる24時間作業は純情。まもなく本格稼働が可能になりますよ」
「我々は、早い実行を期待する。我々は長く待ちすぎてるのだ」
「そうでしょうね。ですが、今少々問題が起きています」
「どうした?」
「把握していない“何か”がアビスゲート・ワンの周辺宙域に存在しています」
「連邦統制軍の艦隊に対処させればいい」
「何かが存在しているのは、通常の宇宙空間ではないようです。彼らに対処できるかは疑問ですね」
「……というと?」
「11次元の超弦理論はご存知で?」
「回りくどい言い方はよせ。簡潔に言いたまえ」
「簡単に言うとその“何か”は同じ宇宙空間にはいるのですが、存在しているのは別の次元です。連邦統制軍にはそれに対処できる兵器を所持していません。私の知る限り」
「なるほど……で、その“何か”は敵なのか?」
「別の次元からと推測できる攻撃を輸送船団が受けています。これは恐らく同一の“敵”かと思われます」
「なるほど……」
相手はしばらく沈黙していたがやがて話し出す。
「わかった。それはこちらで対処しよう」
「対処? 相手は恐らく新しいシステムを使って別の次元に隠れているのですよ。そんなシステムは連邦統制軍にはない筈ですが」
「君が気にすることではない。それより、システム稼働に全力を注ぎ給え」
「了解……」
通信は終了した。
カップの上の紅茶はとっくに冷めていた。
ザビーネは再び紅茶を入れ直す事にした。
その頃、アビスゲートの周囲の宇宙空間では僅かな歪みが起きていた。
歪みは制度の良い観測装置でもノイズかバグとして検出するものだった。しかしそれは単にプログラムのイレギュラーではない。
別の次元下での移動が宇宙に及ぼす影響だ。
宇宙空間に張り巡らせた監視ユニットの合間を縫って進むが、別次元を進む艦の存在を探知できないでいる。
これが次元潜航艦の性能だった。
「ビッグ・アルファアビスゲートに20kmまで接近」
「監視ユニットの反応なし。順調に航行中」
「次元深度を15まで上げてカメラ・ユニットを浮上」
「アイ・サー」
カメラが宇宙空間に現れた。
レーダー波は探知されるので発することはしない。敵に位置を悟られるわけにはいかないからだ。たとえ手を出せない場所であってもだ。
カメラの望遠レンズがアビスゲートにピントを合わせる。レンズで明確に映らない部分はプログラムは補正された。
「六基のうちの一基だけでの十分なんだが……」
エメリッヒ・トップ大佐はスコープを除きながら言った。
「防壁は頑丈そうだ。二発は撃ち込みたいな」
「情報では強度は航宙空母クラスです。固いには違いないが対艦ミサイルが通用しないほどではありません」
「そうだな」
トップ大佐はスコープから離れた。
「戦術、命中精度は?」
「はっ、ビッグ・アルファアビスゲートの質量が若干の影響を与えるかもしれませんが、計算で調整できる範囲です。いけます」
「ミサイルのアウト・ポイントの距離を開けましょう。ホーミングする範囲ならうまく当たるはずです」
副長のメイソン中佐が付け加えた。
「計算は?」
「発射位置に付き次第、すぐにでも」
「射線軸上に監視ユニット」
ふたたびスコープを除くトップ大佐。
「速度そのまま、取舵10」
「速度そのまま、取舵10、方位3-5-0、アイ・サー」
潜航次元の中でアブデュルハミトは傾きながら監視ユニットを通り過ぎた。
「目標に接近、距離5,000」
「対艦ミサイル発射準備」
「対艦ミサイル発射ミサイル準備、一番管、二番管装填! 照準!」
「照準、ロック!」
通常の宇宙空間に突き出たカメラユニットからの情報が照準システムに送られる。
「ターゲット、ロックオン」
照準は核融合炉の設置されたエリアの外壁にロックされた。
トップ大佐がスコープを覗き込み、射線軸に障害物がいない念押しの確認をする。背後にトライバル級航宙駆逐艦の姿が見えた。気づかれていないのは分かっているが、しばらく駆逐艦の様子を見た。戦闘態勢には入っていない。
よし!
トップ大佐は、トライバル級航宙駆逐艦が通り過ぎたの見計らって命令を下す。
「一番管発射、続けて二番管発射。次装填」
「一番発射! 二番発射! 三番管、四番管装填!」
アブデュルハミトから対艦ミサイルが発射された。特殊な光を放ち、潜航次元の中を進むミサイルは目標に近づいた時、宇宙空間に姿を現す。
周辺にいた航宙駆逐艦群と指揮を執るクレムソン級巡洋艦マーブルヘッドのレーダーに突如、ミサイルが映り込んだ。
どの艦のレーダー担当も突如現れたミサイルに驚く。
「ミサイルをレーダーに確認! 距離1,500! アビスゲート直撃コースです!」
距離は1,500。周囲からの迎撃対応を開始するにはあまりにも近接過ぎた。
ミサイルは真っ直ぐ核融合炉めがけて突き進んでいった。
トップ大佐はスコープで様子を見守っていた。
航宙駆逐艦がバーニアを噴出している様子が目視できる。
無駄だ。今更、どうにもできるわけがない。
「距離1,200、1,000、800……」
ミサイル発射担当が目標までの距離を読み上げる。
対艦ミサイルの噴射剤が宇宙空間に線を描きながらアビスゲートに向かっていた。
スコープ越しにそれを見た時、トップ大佐は作戦の成功を確信していた。
だがしかし、次の瞬間、大佐は予想外の光景を目にするのだった。
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