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錬金術士と黄昏の自動人形
錬金術士
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「誰?」
ミッシェルは思わず聞き返した。大企業の影のCEOが危険を感じている相手が錬金術士だと言ってるのだ。さすがに耳を疑う。
「言葉のとおり。錬金術士よ」
「錬金術くらいは分かるよ。それよりも、現代にまだそんなものが残っているの?」
「吸血鬼がいるくらいだからね」
ヴィオレタの言葉にミッシェルはムッとする。この娘はなにかと一言多い。
「とにかく、その“死の錬金術士”と呼ばれる輩が私を狙ってる。そいつから守ってほしい」
「依頼は受けてる。仕事はこなすさ」
「結構」
「でも、なぜその錬金術師ってのが、あんたを狙うんだ? 何か恨みでも買ったのか?」
ヴィオレタは首を横に振った。
「“死の錬金術士”が欲しいのは私の心臓《ハート》よ」
「心臓《ハート》?」
答えになってないな、とミッシェルは思った。
「正確には私の中にある賢者の石をね」
「賢者の石……?」
ミッシェルは小首をかしげた。
「知ってる?」
「聞いたことはあるけどよく知らない」
「ハリー・ポッターは?」
「ファンタジー小説は読まないし、ビデオゲームで好きなのはコール・オブ・デューティよ」
「賢者の石は、その昔、名だたる錬金術師たちが作り出そうとして成し得なかった物質よ。それを私の父が生成に成功した」
「あんたの父親ってのは役者を使った偽物なんでしょ?」
「今言っているのは本当の父のこと。正しくは創造主」
「まるで作られた物かのような言い方ね。それともキリスト教的な意味合いで言ってる?」
「教えてあげる」
ヴィオレタはどこに隠し持っていたのかナイフを持ち出すと、自分の腕を切り裂いた。
「おい! 何してる!」
ミッシェルが慌てて、ヴィオレタの手を掴んだ。だが、傷口からは血は出ていない。しかも傷口はすぐに塞がっていく。
「お前、何なんだ?」
この少女は吸血鬼ではない。
それは分かっている。もし吸血鬼ならばミッシェルもすぐに気づくはずだ。
ヴィオレタは違う何かだ。
「超常的存在は自分だけだと思った? とんでもない。見ての通り私は人間ではない。しかも、あなたよりずっと長く生きてる」
ミッシェルはコンタクトレンズを外し赤い瞳を晒した。その眼でヴィオレタを睨みつけた。
「お前は何者だ?」
「それが噂のレッドアイね。見れてよかった。ああ……そうか、私から本当の言葉を引き出そうとしてるってわけね? でもその能力は私には無効よ。言ったでしょ? 人間ではないって。それに私は本当の事を言っている」
ヴィオレタは薄ら笑いを浮かべた。
「そうだ、いいもの見せてあげるわ」
ヴィオレタは本棚の方に行くと一冊の本を傾けた。すると本棚が扉のように横に動き出す。隠し棚だ。壁から棚の中に置かれていたのは人の手足や胴体だった。
「お前、猟奇殺人でもしてるのか?」
「よく見て。全部作り物だから」
言われてみれば死体の手にしては生気がありすぎる肌の色艶だった。やはり精巧な作りものなのかとミッシェルは棚に近づいて確かめた。
「これは私のスペア。使うことは殆どないけど、念の為ストックしてあるの」
「作り物……人工物?」
ミッシェルは、ヴィオレタの顔をまじまじと見た。
生きているとしか思えない瞳や肌だった。瞬きもしているし微細な唇の動きも人間そのものだ。ヴィオレタの写真を見てからずっと感じていた違和感はこれだったのかとミッシェルは思った。
「あんたっ、本当に作り物なの?」
「好きな呼び方ではないが、そんなものだな。できれば自動人形と呼んでもらえた方が、まだましだけど?」
自動人形は数世紀前から作られ続けた機械人形のことだ。そういった研究に没頭した錬金術士もいる。
「あるいはゴーレムと呼んでもいい」
「誰かに操られているの?」
「失礼ね。私は自分で考え、選択し、行動する」
機嫌を損ねたのかヴィオレタは頬を膨らませてみせた。演技なのかもしれないが子供らしい仕草だった。
「信じられない……」
ミッシェルはヴィオレタの顔に自分の顔を近づけた。
「ちょ、ちょっと近すぎよ。それに信じられないのはお互い様でしょ? あなたも百年以上を生きる吸血鬼なんだから」
「まあね」
「古来、人形に魂が宿るというのは東西問わずに信じられた事だわ。私の創造主は、それを前提に私を製造した優秀な錬金術士だった。他の錬金術士も私のような自動人形の完成を目指したが成功していない。同じ様なボディは作れても魂までは作れなかったのよ。創造主はそれを“賢者の石”という物質を生成する事によって実現させた最高の錬金術士よ」
「つまり、あんたの魂ってのは錬金術で作ったICチップってこと……かな?」
「その言い方も気に入らないけど、そんなところね」
「で、“死の錬金術士”は、あんたの体の中にある魂……つまり賢者の石を狙っているとなのね?」
「あいつも長年、心を持った自動人形を研究しているのよ。だけど賢者の石がどうしても生成できないくて私のような極めて人間に近い自動人形を完成することができないでいる。そこでズルをすることにしたというわけ」
彼女の説明によると、どうやらヴィオレタを狙う“死の錬金術士”という輩は、ヴィオレタの体から賢者の石を取り出してそれを手本に同じものを作ろうと目論んでいるらしかった。
だが果たしてそれだけだろうか? ミッシェルは錬金術には詳しくない。けれど賢者の石というのが重要な物質だというのは分かる。それなのに賢者の石を手に入れて実現するのは精巧な自動人形を作り出す頃? 確かに目の前の少女は感情の起伏が薄いのを除けば、人間にしか見えないが、目的は本当にそれだけなのだろうか?。ミッシェルは疑問に思う。
「で、どうなの? 私が人間ではないと知ってやる気が失せた? なんなら契約を解除してもいいわよ。別の奴を探すだけのこと。あなたみたいな逸材が中々見つからないのは悔しいところだけど」
「いや……」
ミッシェルはコンタクトレンズをつけ直す。瞳は再びブルーの色に隠された。
「護衛は続ける。あんたは私が守ってみせるわ」
そう言ってミッシェルは、片目をつむってみせた。
ミッシェルは思わず聞き返した。大企業の影のCEOが危険を感じている相手が錬金術士だと言ってるのだ。さすがに耳を疑う。
「言葉のとおり。錬金術士よ」
「錬金術くらいは分かるよ。それよりも、現代にまだそんなものが残っているの?」
「吸血鬼がいるくらいだからね」
ヴィオレタの言葉にミッシェルはムッとする。この娘はなにかと一言多い。
「とにかく、その“死の錬金術士”と呼ばれる輩が私を狙ってる。そいつから守ってほしい」
「依頼は受けてる。仕事はこなすさ」
「結構」
「でも、なぜその錬金術師ってのが、あんたを狙うんだ? 何か恨みでも買ったのか?」
ヴィオレタは首を横に振った。
「“死の錬金術士”が欲しいのは私の心臓《ハート》よ」
「心臓《ハート》?」
答えになってないな、とミッシェルは思った。
「正確には私の中にある賢者の石をね」
「賢者の石……?」
ミッシェルは小首をかしげた。
「知ってる?」
「聞いたことはあるけどよく知らない」
「ハリー・ポッターは?」
「ファンタジー小説は読まないし、ビデオゲームで好きなのはコール・オブ・デューティよ」
「賢者の石は、その昔、名だたる錬金術師たちが作り出そうとして成し得なかった物質よ。それを私の父が生成に成功した」
「あんたの父親ってのは役者を使った偽物なんでしょ?」
「今言っているのは本当の父のこと。正しくは創造主」
「まるで作られた物かのような言い方ね。それともキリスト教的な意味合いで言ってる?」
「教えてあげる」
ヴィオレタはどこに隠し持っていたのかナイフを持ち出すと、自分の腕を切り裂いた。
「おい! 何してる!」
ミッシェルが慌てて、ヴィオレタの手を掴んだ。だが、傷口からは血は出ていない。しかも傷口はすぐに塞がっていく。
「お前、何なんだ?」
この少女は吸血鬼ではない。
それは分かっている。もし吸血鬼ならばミッシェルもすぐに気づくはずだ。
ヴィオレタは違う何かだ。
「超常的存在は自分だけだと思った? とんでもない。見ての通り私は人間ではない。しかも、あなたよりずっと長く生きてる」
ミッシェルはコンタクトレンズを外し赤い瞳を晒した。その眼でヴィオレタを睨みつけた。
「お前は何者だ?」
「それが噂のレッドアイね。見れてよかった。ああ……そうか、私から本当の言葉を引き出そうとしてるってわけね? でもその能力は私には無効よ。言ったでしょ? 人間ではないって。それに私は本当の事を言っている」
ヴィオレタは薄ら笑いを浮かべた。
「そうだ、いいもの見せてあげるわ」
ヴィオレタは本棚の方に行くと一冊の本を傾けた。すると本棚が扉のように横に動き出す。隠し棚だ。壁から棚の中に置かれていたのは人の手足や胴体だった。
「お前、猟奇殺人でもしてるのか?」
「よく見て。全部作り物だから」
言われてみれば死体の手にしては生気がありすぎる肌の色艶だった。やはり精巧な作りものなのかとミッシェルは棚に近づいて確かめた。
「これは私のスペア。使うことは殆どないけど、念の為ストックしてあるの」
「作り物……人工物?」
ミッシェルは、ヴィオレタの顔をまじまじと見た。
生きているとしか思えない瞳や肌だった。瞬きもしているし微細な唇の動きも人間そのものだ。ヴィオレタの写真を見てからずっと感じていた違和感はこれだったのかとミッシェルは思った。
「あんたっ、本当に作り物なの?」
「好きな呼び方ではないが、そんなものだな。できれば自動人形と呼んでもらえた方が、まだましだけど?」
自動人形は数世紀前から作られ続けた機械人形のことだ。そういった研究に没頭した錬金術士もいる。
「あるいはゴーレムと呼んでもいい」
「誰かに操られているの?」
「失礼ね。私は自分で考え、選択し、行動する」
機嫌を損ねたのかヴィオレタは頬を膨らませてみせた。演技なのかもしれないが子供らしい仕草だった。
「信じられない……」
ミッシェルはヴィオレタの顔に自分の顔を近づけた。
「ちょ、ちょっと近すぎよ。それに信じられないのはお互い様でしょ? あなたも百年以上を生きる吸血鬼なんだから」
「まあね」
「古来、人形に魂が宿るというのは東西問わずに信じられた事だわ。私の創造主は、それを前提に私を製造した優秀な錬金術士だった。他の錬金術士も私のような自動人形の完成を目指したが成功していない。同じ様なボディは作れても魂までは作れなかったのよ。創造主はそれを“賢者の石”という物質を生成する事によって実現させた最高の錬金術士よ」
「つまり、あんたの魂ってのは錬金術で作ったICチップってこと……かな?」
「その言い方も気に入らないけど、そんなところね」
「で、“死の錬金術士”は、あんたの体の中にある魂……つまり賢者の石を狙っているとなのね?」
「あいつも長年、心を持った自動人形を研究しているのよ。だけど賢者の石がどうしても生成できないくて私のような極めて人間に近い自動人形を完成することができないでいる。そこでズルをすることにしたというわけ」
彼女の説明によると、どうやらヴィオレタを狙う“死の錬金術士”という輩は、ヴィオレタの体から賢者の石を取り出してそれを手本に同じものを作ろうと目論んでいるらしかった。
だが果たしてそれだけだろうか? ミッシェルは錬金術には詳しくない。けれど賢者の石というのが重要な物質だというのは分かる。それなのに賢者の石を手に入れて実現するのは精巧な自動人形を作り出す頃? 確かに目の前の少女は感情の起伏が薄いのを除けば、人間にしか見えないが、目的は本当にそれだけなのだろうか?。ミッシェルは疑問に思う。
「で、どうなの? 私が人間ではないと知ってやる気が失せた? なんなら契約を解除してもいいわよ。別の奴を探すだけのこと。あなたみたいな逸材が中々見つからないのは悔しいところだけど」
「いや……」
ミッシェルはコンタクトレンズをつけ直す。瞳は再びブルーの色に隠された。
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