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【第26章】二つのホテル
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社長室を訪れた『牛嶋』は珍しく興奮した様子で私の前に現れた。
彼の報告によると帯広で調査を行なっている『宮下』より連絡が入り新宿に集合して頂きたいとの事であった。
私は度重なる難解な情報を整理しようと努めたが、
結局ステレオシステムのチューナーにスイッチを入れ逆に新鮮な外音を注ぐ事にした。
ラジオからはソリッドなギターフレーズと共にファンキーなロックサウンドが流れ出した。
その『レニー・クラヴィッツ』が歌う『アー・ユー・ゴナ・ゴー・マイ・ウェイ』は
私の根っからの音楽魂を熱くさせ、懐かしい、
70年代のサイケデリックなロックンロール・シーンを思わせながら心地良い境地へ導いてくれた。
1960年代後半~1970年代の私達は自由だった。
いや、自由を求めただひたすらに自分を信じて生き、
その中で沢山のモノを失い、出会い、政治や権力に対して戦ってきた。
あの、みなぎるパワーの根源が一体何だったのかすら思い出せないが、
確かに我々は必死に生きようとした。
そしてあらゆる勢力と共存してきたのだ。
決して多くの人々と何かを成し遂げる事が目的では無かったが、
何かに向かい目的を達成しようとしたエネルギーと実感だけは、
何事にも変えられない充実感があった。
久しぶりに東京へ戻った『宮下』は以前よりも健康そうに見え私達を驚かせた。
「いや~、帯広は最高ですよ!
空気もいいし、飯も美味い!
何より東京みたいにセカセカしていない!
このまま住み着きたいくらいですよ(笑)。」
相変わらず戯ける彼にメンバー全員が笑みを浮かべた。
彼がまとめたホワイトボードには現在までの人間関係とは全く異なる別の世界が広がっていた。
『牛嶋』は眉間に皺を寄せながら喰い入るように見つめていた。
ネクタイを緩めた『宮下』は報告を始めた。
「本当に驚きました。
かなり興味深い情報を集める事ができました。」
私は両腕を組み大きく頷いた。
「まず、『ホテル・ニュー・カリフォルニア』について報告いたします。
元々このホテルは先代より経営されてきた『佐山荘』と言う家族経営の旅館でした。
その後1972年に息子『佐山健二』(現在の支配人)が引き継ぎ
鉄筋のビジネスホテルへと改築し現在の名称に変更されました。」
私はその父親の写真をしっかりと見つめた。
「家族構成は、父、母、姉、妹の四人家族。
こちらも静岡のホテル同様に姉妹がおります。
母は『佐山美智子』1940年、東京生まれで1982年に静岡のホテルにて殺害され死亡。
当時四十五歳でした。
長女は『陽子』1968年生まれで現在25歳。
Uターンで昨年よりフロント係として勤務。
妹は『麻理子』1973年生まれで現在20歳。
フリーターとしてホテルのレストランに勤務しつつバンド活動に力を注いでおる模様です。」
私はまるでウイッグの様な金髪のボブヘアーの姉とピアスだらけの真っ赤なロングヘアーの妹を交互に見つめ、
その個性さに関心させられるばかりだった。
「母『美智子』が家を出たのは殺害された同年。
離婚届は出されておらずある日突然、
父『健二』を罵倒して出て行った切り戻る事は無かったそうです。
因みに原因は『健二』のED(勃起不全)。
どうも若い頃からヒッピー文化を愛しフリーセックスを唱え続けていた所謂『セックス依存症』だった様です。
『健司』も同様で大学生活を東京で過ごす中、
二人は出会い、1967年に結婚しております。
その翌年に帯広へ戻り長女を出産という流れになります。」
そこまで話すと『宮下』はタバコに火をつけ一口吸い大きく天井へ向けて煙を吐いた。
私は『美智子』が家族を捨てた理由を考えながら以前から思っていた疑問を聞いた。
「でもどうして『美智子』は東京ではなく静岡に住むようになったのかしら?。」
彼は何度も大きく頷いて見せた。
「そうです。まさにそこです!。何故、静岡だったのか?
単純に考えてみれば、知らない場所に越すなんて事もありそうですが、
そこには家族も知り得ない答えがありました。
まずこの姉妹ですが、
以前『牛嶋』が報告した静岡の姉妹同様に何かしら特殊な能力を持っている事が判明いたしました。」
すると『牛嶋』が声を上げた。
「それはもしかして、、、!?。」
「そうです。特に姉『陽子』は、
幼い頃からこのホテルに存在しない部屋を知り訪れていたとの事です。
因みに恐らくその部屋の存在は『美智子』と『健二』も気付いていたとの情報もあります。」
私は驚きを隠す様に冷静に質問をした。
「しかし、それが静岡と何の因果関係があるのかしら?。」
向かいに座る『牛嶋』が飲み込んだ生唾がごクリと鳴った。
『宮下』はボールペンの先を『陽子』の写真の上でコンコンと鳴らしながら話し出した。
「この姉『陽子』は、その部屋で自分と同じ年くらいの少女と出会い遊んでいた様です。」
少女?。
「その少女の名前は『マリエ』ちゃんというらしい。」
マリエ!? 一体誰だ!?
すると『手塚』がカシャカシャとパソコンのキーボードを叩き出し、
検索されたデータの画面を見つめ凍りつきながら静かに読み上げた。
「マリエちゃん、、
『吉田真利江』静岡の『ホテル・ニュー・ホライズン』の次女です!!。」
我々は驚愕し驚きと共に声を失った。
そんな事があるのだろうか!!??
すると『宮下』は凍りついた『手塚』を制し驚く事を話し出した。
「余談ですが、この『佐山陽子』は、
地元・北海道では有名な『澤村英司』の熱烈なファンなのです。
それとこの『吉田真利江』は現在『有限会社マーズ・ミュージック・プロダクション』に勤務するアーティスト・マネージャーであります。」
私は完全に頭が真っ白になってしまっていた。
『牛嶋』も同様に驚きを隠せずに立ち上がっていた。
そんな『牛嶋』をソファーに促しながら『宮下』はドヤ顔で続けた。
「まだまだありますよ。これ位で驚いて頂いちゃ困ります。
これは私の個人的な観点と想像から厳密に調査した事案ですが、
この母『美智子』、1940年・東京生まれ。
この生まれ年にピ~んと頭が働いちゃったものですからついつい余計な事まで調査してしまいました。
彼女は生まれて間も無く里子に出され赤ん坊の頃から施設にて育てられておりました。
戸籍謄本の民法八一七条の二により確認ができます。
そしてその出生を裁判所などから極秘調査したところ、
届出人として記載されていたのは驚くことに両親ではありませんでした。
お分かりですか?。」
私はギリギリの解釈で瞬きをする事も忘れ聞き入っていた。
「そこに記載されていた名前は、、、
『鴫野文子』と言う女性でした。」
私は驚愕してソファーから飛び上がった!
何て事だ!!!!
『鴫野』さん!!
どうして今まで気付かなかったのだろうか!!
私はずっと勝手に思い込みをしていたのだ!!
『牛嶋』らは私の驚愕振りに驚き目と口を見開いていた。
「さぁ、もうお分かりですね、社長。
里子は2人いたという事になりますよね。つまり双子です。」
私は大きく息を吸い込み『宮下』へ口を開いた。
「つまり、、、『佐山美智子』と『時田幸子』は姉妹だった、という事なのね、、、。」
一同も絶叫して驚いた。
『宮下』はネクタイを締め直しゆっくりと我々を見つめた。
「さようでございます。疑問はまだまだあります。
何故、ひっそりと経営していた旅館がある日突然ビジネスホテルへと改築できたのか?
その費用の出所。それと『美智子』が殺害された理由です。
或いは真犯人? など。
今後も引き続き調査を続行いたします。
以上、私からの報告となります。」
私達は全員が立ち上がったまま
その驚く内容の報告に各々で考えを巡らせていた。
「まずは落ち着いて酒でも飲みましょう。」
『宮下』は冷蔵庫から冷えたクアーズを皆んなに渡した。
キリリとした炭酸が胃袋へ到達するのを待ち私は疑問を呈した。
「あなたらが言うスピリチュアルな事案が繋がった事は間違いなさそうね。
しかしそこに『時田美樹子』や『深谷達三』が携わっていると言う事実は
今の所ないに等しいのではないかしら?。」
『牛嶋』は少し考えてから切り出した。
「確かにそうです。しかし『時田美樹子』は事実上、
『佐山』とは血縁上で繋がっている。
それと『深谷三岐子』も。
どこかのタイミングで既に気付いていたか、、、?
或いは今後、何らかの形で接触する事があれば
間違いなく『佐山』家族の徹底マークも必要でしょう。」
すると『宮下』が咳払いをしながら促した。
「え~、ちなみに『佐山』の姉妹は『時田美樹子』との関係は知らない様です。
それと母方の祖父母についても何も聞かされていないとの事でした。」
私達はその言葉に驚くと『牛嶋』が目を細めながら質問した。
「どうやってそんな事まで調べられたんだよ?。」
『宮下』はケラケラと笑った。
「つまりそれは、、、実は『陽子』と付き合ってるんですよ、俺(笑)。
勿論、調査の上でですけどね。
何もバレていませんから安心してください。」
『牛嶋』は呆れながら話題を変えた。
「しかし『深谷達三』が『美智子』の存在に気付いていたとしたら幾分変わってきますね。
『念書』を直接交わした張本人ですから。
殺害現場である近所の『ホテル・ニュー・ホライズン』、
それに『時田幸子』、そして『存在しない部屋』など繋がる要素はいくらでもある。」
私はそれについて考えた。
「いえ、『達三』は『美智子』の存在は知らない筈よ。
生前に『三岐子』の娘の連絡先を教えて欲しいと話があった際は『幸子』の連絡先しか伝えていないし、
そもそもこちらで調べた上でも『美智子』の情報は一切無かった。
それに、、、『鴫野』さんからも双子だったなんて聞かされた記憶もないわ、、。」
私は目を瞑り遠い昔の出来事を思い出そうとした。
何故、その事を私にまで伏せていたのだろうか?
すると『手塚』が不思議そうな顔で話し出した。
「『深谷三岐子』は母親なんだから双子だった事なんて気付いてますよね? 自分が産んだんだし。」
なるほど。それもそうだ、、、。
もしそうだとしたら『達三』も知っていたに違いない。
美味そうにビールを飲みながらタバコを吹かす『宮下』があっけらかんとした様子で語った。
「それは分かりませんよ。
何故なら日本国内で超音波検査、
所謂、エコー検査が研究され始めたのは1950年代に入ってからで、
実用されたのは20年後の1970年代に入ってからです。
もし帝王切開だとしたら母親も気付く事がない可能性もあります。
とにかく全ての謎は『念書』ですよ。
それを見つけるしかないでしょう。
俺の直感のようなものですが、
会長にとって余程重要なものでしょうから。
愛人問題だけならともかく、
もしかしたら娘を殺したりしていたら大変な事件にもなりますからね。」
私と『牛嶋』は薄々気付いてはいたが言葉にする事は無かった。
しかし彼はやはりそれを口にした。
「それはつまり、『杉田』の存在を知った『美智子』が殺されたって事か、、、。」
『宮下』は大きく頷いた。
「そうに決まってますよ。
何かをキッカケに会長の存在に気付いた『美智子』は間違いなく脅して金を巻き上げたに違いない。
改築費用の出所もそれに決まっています。
恐らく再三にじり寄った挙句に殺されたに違いありませんよ。
殺害の証拠も何も無くすなんてうちの組織にしかできないでしょう?
申し訳ありませんが、俺はあの会長は信用できませんね。」
彼の言った事は間違いなく正論に近い内容だった。
「そうね。まずは『念書』を奪還する事に専念しましょう。」
『牛嶋』は小さく溜息を吐いて両腕を組みながら首を縦に振った。
***
事態が急展開したのはその年の年末だった。
『時田美樹子』が遂に東京から帯広へ戻ったのだ。
現地の『宮下』は即座に対応し敏速に彼女の行動を追った。
ところが彼女がまず向かった場所は自宅ではなくビジネス・ホテルだった。
その報告を受け直ぐに『牛嶋』は私の所へ駆け込んだ。
「やはりそうです。間違いありません!
『時田美樹子』は『ホテル・ニュー・カリフォルニア』を訪れました!。」
私は彼女の行動を、もはや単なる偶然とは思えずにはいられなかった。
こんな事が本当にあるのだろうか!?
しかし現実に彼女はそのホテルを訪れたのだ。
携帯電話の向こうから実行班の『高田』は獲物を的に得た様な興奮状態で伝えた。
「いつでも実行いたします。どうかご指示を。」
私は冷静に伝えた。
「まだよ。今じゃない。的確な時期を待ちなさい。」
彼は息を荒げながら了解した。
『宮下』の報告によれば『美樹子』はツインルームである501号室に1人で2泊するとの事だった。
一体何故、わざわざ2人部屋に宿泊したのだろうか?。
誰かと合流する可能性も十分にある。
『高田』は旅行客を装いホテルに侵入、
4階の部屋から彼女の動向をマークした。
5階の廊下に超小型カメラを仕込み遠隔で監視し、同時に隙を見て盗聴器を仕込んだ。
その迅速な対応は驚く程洗練された行動だった。
恐らく彼女の方も相当な警戒をしているに違いない。
予想通り、彼女は食事以外に客室おろかホテルから外出する事も無く、外部との連絡すらする事は無かった。
しかし、初日の真夜中に一度、客室の扉から廊下に現れ周囲を見渡す不可思議な行動が確認された。
すぐに部屋に戻り、その日は目立った行動を確認する事は出来なかった。
迎えた2日目。
朝からやはり2階のレストラン以外に外出する事が無かった彼女は
またしても真夜中に客室の扉から廊下へ出ると言う不可思議な行動が確認された。
ところがその途中で録画していた映像が揺らぎ始め画面は砂嵐へと変わってしまった。
『高田』は直ぐに気付かれぬよう5階へ移動し隠しカメラをチェックした。
廊下には既に彼女の姿は無かった。
しかし長年の研ぎ澄まされた感から、違和感を覚えた彼は彼女の客室を扉越しに入念なチェックし音を立てずに鍵を解錠したところ、彼女の姿は無かった。
直ぐにホテルの外で見張っていた『宮下』に連絡したものの
驚いた事に彼女どころか誰一人も外出した人間は居ないとの報告だった。
客が利用可能な出入り口は正面ただ一箇所。
仮に非常階段を使ったとしても『宮下』が張っていた場所からは十分に確認できる位置であった。
と言うことはホテル内に居ることは間違いない。
『高田』はホテル中を確認し、同時に彼女が滞在している客室を入念に調査した。
しかし何処にも彼女の姿を確認出来る事は無かった。
ところが、次に彼女を確認出来たのは、明朝のチェックアウト時刻前だった。
何事も無かったかの様に支度をした彼女は自身が宿泊していた客室から現れたのだ。
一体、どう言うことだ!。
『高田』の報告によれば、
確かに彼女は一晩中戻る事は無かったとの事である。
隠しカメラの横を通り過ぎ、
彼女は画面から真っ黒なストレートヘアを靡かせ、
スマートに消えていった。
一連の報告は不可思議なものばかりだった。
一体『美樹子』は2日目の夜に何処へ消えてしまったのだろうか?。
そしてどうの様な方法で部屋に戻ることが出来たのだろうか?。
送られたビデオテープの途中でタイミング良く消えた画面にしてもそうだ。
私と『牛嶋』はその画面を何度も繰り返しチェックしてみたが、
やはりしっかりとプロの技術者に託し解析して貰う事とした。
数日後、『牛嶋』はそのビデオテープと共に解析結果の報告に社長室を訪れた。
「残念ながら消えた部分には何も確認する事は出来ませんでした。
恐らく電気系統による一時的な故障だろうと、、。
ただ、ある一部に人影の様なものが確認されました。」
「人影?。」
彼はすぐにビデオテープをセットしその部分を再生させた。
「よろしいですか、よくご覧下さい。
ここにうっすらと彼女の方向に向かう人影が映り込んでいます。
数秒ですが、確かに進んでいる様に見えます。」
私は画面右下に僅かに映り込んだ人影を見て背筋がゾッとし全身に鳥肌が立った。
「これって心霊現象みたいな事なのかしら、、?。」
彼は両腕を組みながら答えた。
「分かりません。ただし、間違いなく誰か、
何者かが居た事には間違いなさそうです。」
私はソファーに深々と座りタバコを大きく吸いながら考えてみたものの、益々混乱するばかりだった。
ミステリー小説の様な現象に心霊現象などなど。
もはや霊能力者の『宜保愛子』氏にでも相談するしかないか?。
など考えていると彼は口を割った。
「現在までの状況や情報によれば、
確かにスピリチュアル的な現実的事柄とは掛け離れた繋がりを感じざるをえません。
しかし、心霊現象とはまた違う観点なのではないかと思います。
その点に於きましては私自身も容認する事は出来ません。
恐らく誰かが『美樹子』と接触し一緒に消えた。
もしくは共に移動した。そうとしか考えられません。」
私は現実の世界をしっかり見据え画面に映り込んだ人影を見つめ続けた。
「彼女と誰かが共謀して『念書』を隠したと言う事なのかしら?。」
その問いに彼は私ににじり寄った。
「確かにそれも考えられます。
しかし、現在まで、彼女が我々の執拗な調査に於いて
数年もの間『念書』を身近に持ち隠しているとは到底、考えられません。」
私は彼の眼差しを真っ直ぐと見つめた。
「と、言うことは、あなたの見解はどうなのかしら?。」
『牛嶋』は呼吸を整えてから私を見据えた。
「恐らく『念書』は『深谷達三』氏が生前に何処かへ隠蔽し、
彼女が遺言によってその在処を知った。
そして長年、私達を掻い潜り探しているのではないかと推測いたします。」
私はその見解に大きく溜息をついた。
「なるほど。その見解は良く理解出来ます。
しかし仮に『美樹子』が第三者の協力により、
その場所を特定できたとしても『深谷達三』が帯広まで訪れて隠蔽した事実など無いのでは?。
理解不能なスピリチュアルな繋がりがあろうと
私が疑問に思うのは、
静岡と帯広と言う距離に於いて現実的な繋がりと、
どの様な手段で『達三』が隠した物を『美樹子』が見つける事が出来るのか?
と言う事だけよ。
私はリアリティしか信じる事は出来ないし、
あなた方の言うファンタジーな世界には到底、理解出来ません。
しっかりと現実を見据えなさい。」
彼は幾分、
納得出来ない様な表情だったが、
踵を返して深々と頭を下げた。
年が明けた、1994年。
気が付けば平成に入り6年も過ぎた。
我が国の政治、そしてリーダーも目まぐるしく変わり、
武士家であった細川家の末裔である
現・内閣総理大臣『細川護煕』氏が掲げた「日本党」に於ける政治が筆頭した。
それは「五十五年体制」に幕を下ろすと共に政治改革の実現に邁進し、
衆議院への比例代表並立制の導入を柱とする政治改革を実現させようとしていた。
そんな中で私が最も注視したのは、
1992年に政界へ転身し
『細川』氏と共に衆議院へ鞍替えした元ニュースキャスターで
「兵庫二区」で当選した『小池百合子』であった。
その国民が評した結果に、
私自身も多かれ少なかれ今後の日本に於いての女性の立ち位置をリアルに感じた事は言うまでも無い。
そこには間違いなく、
私の恩師でもある『鴫野文子』が立ち上がった影響と存在があったに違いない。
古い昭和の男性優位が当たり前というこの国内の情勢から、
男女格差をなくし平等な世界が来る事を望んで止まない。
しかし、その現状は『裏と表』の世界がある事には間違いない。
そして私は、
その『裏』の世界を牛じる女帝だと言う事も自他共に良く承知している。
世界を変える。
その手段の始まりは『小池百合子』と私の大きな違いである事は間違いない。
政治を変えるか、経済、業界を変えるか、
そこには各々に必要な人材であり適した人物が必要とされるのだ。
表向きな晴々とした嘘で操る政治家と
血生臭い世界に於いて金と権力で全てをねじ伏せる権力が混じり合った時こそ、
戦後の復興を乗り越えた今、
最強の一つの国家となるのだ。
言うなれば、
誰がリーダーになり国を制したとしても、
今の私を服従させる人間はこの国には誰も居ない。
ただ一人、『杉田富治郎』を除いては、、。
それと彼女が放つ歪な女性的な表面と言動、
そこに垣間見る裏にある彼女は、
きっと何かしらこの世界を変えるだけの恐ろしい爆弾の様な力を持っているに違いない。
私には分かる。
私は、
彼女の爽やかな様相を纏うその目の奥に危険な未来を感じとった。
***
1994年、
『R・S・D』による『時田美樹子』への包囲網は鉄壁なまでの状況で追い詰め、
心身共に彼女への脅迫は多大なダメージを与えていた。
この狭い帯広市に於いて彼女に纏わる周囲からの他勢も完全に排除し
同居する『石塚庸介』すらも我々の手中にあった。
『時田美樹子』は完全に孤立した。
『宮下』の報告によれば、
既にメンタルは崩壊し日々多量の睡眠薬を投与しているとの事だった。
しかしながら、
そんな状況にあっても彼女の確固たる信念が揺るぐ事は無く、
白旗を掲げる事も皆無だった。
昨年12月に『ホテル・ニュー・カリフォルニア』を訪れてからの半年間、
家に籠るだけの生活となり一切、
外部への連絡も動向も無くなった。
あの深夜のホテル内で一体、何が起きたのだろうか?。
間違いなく彼女は計画的に何かを成し遂げたに違いない。
それは我々の執拗な追跡を理解した上での行動だった事も言うまでもない。
『高田』は寸分の狂いも無く確実に
内部、外部への調査を確実に遂行し続けたが、
どんな手段を使っても『念書』に携わる道筋、
そして、その物を見つけ出す事は出来なかった。
『佐山』一家に纏わる動向、
特に長女『陽子』への調査に関わる事例に於いても
一向に浮かび上がる事は無かった。
東京、静岡、帯広を結ぶ三つの地域による不可思議な出来事が
現実的に交わり繋がる答えさへも無い。
もしかして『美樹子』は
これらの難解な繋がりや答えを独自に導き出し
『念書』を手中に入れたのだろうか?。
*『佐山美智子』殺害の理由と、或いは真犯人。
*『深谷達三』が描いたもう一枚の絵画の行方。
*静岡のホテル・ニュー・ホライズン『吉田真利江』と、
帯広のホテル・ニュー・カリフォルニア『佐山陽子』との関係。
*二つのホテルに存在する『部屋』
もしそうであれば、
何故、彼女はこの半年もの間、
何の行動も起こさず過ごしているのだろうか?。
どんなに心身を擦り減らしても彼女が折れる事はないだろう。
それ故に彼女が家に篭り続け計画している壮絶なこの先を考えると
私は恐ろしいまでの震えを抑える事が出来なかった。
この強大な組織に属する鉄壁な闇の組織すら翻弄させ
私自身を追い込ませる『時田美樹子』は
既に驚異と化し、
恐るべく忖度や権力とはかけ離れた
彼女自身が持つ『信念』そのものだった。
青山前周辺の樹々も鮮やかな緑に色付き始め、
蝉が忙しい鳴き声をあげ始めた初夏の7月。
私はこの季節が一番好きだ。
今日は出勤前に明治神宮外苑前周辺を歩いてから出社する事とした。
なんて清々しい朝なのだろう。
面倒臭い何もかもを忘れ、
私はその樹々の息吹を胸一杯に吸い込んだ。
事務所に入り窓を全開にしてからデスクに腰を掛けると、
間も無く『高田』から携帯に一報が入った。
『時田美樹子』が自殺しました。
私はその報告を受け
目の前が真っ白になった、、。
『時田美樹子』が死んだ、、、。
自殺した!!!???。
何故だ!?
どうして!?。
これまでずっと、
あれだけ信念を通して来た彼女が何故、
今になって自ら命をたったのだ!!!???。
私は驚きと失望の中で怒りが込み上げ
手にしていた携帯電話を壁に投げつけた!。
「何故だ! 美樹子! 何故、死を選んだんだ!!!。」
私はしっかりとブローした髪を両手で掻きむしり
デスクの上に散乱するあらゆる物を床に投げつけた。
するとただならぬ騒音に気が付いた『牛嶋』が扉を勢いよく開け駆け寄った。
「社長! 落ち着いて下さい!。」
私は彼の胸ぐらを掴み両手で激しく揺さぶりながら目を見開いた。
「どうして彼女は自殺なんてしたのよ!!。」
彼は私の目を真っ直ぐ見つめただ静かに身を委ねた。
投げつけた片足のハイヒールは窓ガラスに激しく当たり亀裂が走った。
私は身体中が萎縮していくのを感じ、
胃袋から這い上がった熱く酸っぱい胃液を身体中を振り絞るように吐き出した。
リノリウムの冷たい床に顔を押し付けながらそれ以上吐くものが無い程に嗚咽した。
口から滴る胃液と鼻水が混じり合う中で、
私は泣いた。
今迄に無い程の涙が流れた。
『牛嶋』は優しく私の背中を撫でながら冷静な声で伝えた。
「会長がお呼びです。」
私はその現実的な指令で次第に落ち着きを取り戻した。
鏡に映った自身の姿は見るに堪えない形相だった。
髪はボサボサ、化粧も涙ではげ落ち、
マスカラはまるで「アリス・クーパー」の様に目の周りを覆い尽くし流れていた。
何よりも、
その生気を失った顔に
今迄感じた事が無い程の老いを目の当たりにし愕然とした。
高輪の豪邸に到着すると
『牛嶋』はスマートに後部座席のドアを明け、
珍しく仁王立ちし私に伝えた。
「本日は、私も同行致します。」
その来たるべく何かを決心した言葉に私は頷き、
彼と共に開いた門へ足を踏み入れた。
間も無くいつもの若い華奢で巨乳な使用人の女が深々とお辞儀をした。
「お待ちしておりました。」
すると彼女は私の顔をマジマジと伺い不快な言葉を放った。
「浅葱様、随分いつもとお変わりな様ですが、
何かございましたでしょうか?。」
私が睨みつけると、
彼女はクスッと笑い屋内へ導いた。
書斎に入ると『杉田』はいつもの様に
正面の巨大なデスクに座り我々を真正面から静かに見つめた。
しかしながら、
その目の奥にはこれまで感じた事が無い程の冷酷な怒りを垣間見る事が出来た。
「念書の在処を知っていると思われる
『深谷達三』氏の義孫が自殺いたしました。
現在のところ調査は滞り奪還に於いて非常に困難な状況となっております。」
私は冷静に現状を伝えた。
すると『杉田』は静かに立ち上がり、
咳き込みながら私の横に歩み寄り臭い息と共に頬に顔を寄せ肩を掴んだ。
「浅葱くん、君はそんなに仕事が出来ない女だったかのぅ。
失望以外の何物でもありゃしないな。」
私は『杉田』の窪んだ冷酷な眼差しから目を逸らす事が出来なかった。
「引き続き、念書奪還に於ける新たな作戦と遂行を進める次第でございます。」
すると『杉田』は私の両肩を激しく掴み
正面に向かせると同時に激しく右頬を平手打ちした。
「義理の孫が死のうがどうでもいいのじゃ!!
一体、何年経ったと思ってるんじゃ!!
さっさと念書を奪い返せと言ってるんじゃっ!!。」
『杉田』は床に倒れ込んだ私に馬乗りし
ブラウスのボタンを剥ぎ取り激しく乳房を掴んだ。
すると血相を変えた『牛嶋』が駆け寄った。
「会長! お辞め下さい!。」
その両腕は瞬間的に『杉田』を私の身体から勢いよく引き離した。
瞳孔が見開いた『杉田』はけたたましい笑い声を上げ激しく罵倒した。
「浅葱! お前なんかそのイヤラシイ身体で親父を唆してここまで登り上げた、
ただのスケベな女だろうが!!
どうなんだ!!
毎晩、股を開いては、その薄汚い中に金を溜め込んだのじゃろ!!!。」
私は顔をあげる事も出来ずにただ唇を噛み締める事しか出来なかった。
完全に本性を剥き出しにした『杉田』は
私のスカートを捲り上げ力付くでパンティを剥ぎ取ると、
両足を広げ激しく陰部を舐めまわした。
『牛嶋』はその上から覆い被さるように必死に引き離そうとした。
「もう、辞めて下さい! 会長! お辞め下さいっ!!!。」
しかし『杉田』の高齢にしても漲る恐ろしいまでの怨恨は凄まじい力だった。
抵抗も出来ない私は次第に意識が遠のく中で、
激しい『杉田』の舌へ『牛嶋』が叫び上げる声と共にオルガズムへ達し、
恥ずかしいまで勢いよく体液を吹き上げ痙攣した。
気が付くと『牛嶋』が小刻みに震えながら私の身体を抱きしめてくれていた。
ぼんやりとした目にはソファにゆったりと座る『杉田』の姿が見えた。
「戻りましょう、社長。」
震えた声で『牛嶋』は私の衣類を優しく整えた。
書斎を出ようとした時『杉田』は半笑いで私に言い放った。
「昔は、親父同様にお前とよくヤッたもんだが、
歳をとってもスケベな女は変わらんもんじゃな。(笑)」
すると使用人の女が部屋に現れた。
「どうされました? 杉田様。
こんなに汚くて臭いマン汁を浴びせられて可哀想ですわ。」
彼女は『杉田』を抱擁しその巨乳を横顔に押し付けた。
私は激しい侮辱と羞恥心の中で憤りを何処へぶつける事も出来ず、
ただ『牛嶋』が支える肩に寄り添い車に戻る事しか出来なかった。
帰路の車中、『牛嶋』は何も問う事はなかった。
感の良い男だ。
きっと私の何もかもを知った事は言うまでもない。
先代との関係に於いては、
愛人とは言え心から愛されていた実感があった。
そして私にしても、心から彼を愛し続けた。
その優しさは、
それまで感じた事が無い程の愛情だった。
その結果、彼が私に残してくれたのは、
このレコード会社の全ての権限と株、及び財産の相続だった。
たまたま銀座の高級クラブで出会い関係が始まった年の差のある不倫な愛人関係。
しかしそのキッカケは、
互いに見据えたその先の日本に於けるエンターテイメントの未来だった。
今思えば、
もしかしたら、
そんな未来を築き上げて行く人材を彼は見据え、
私に託してくれたのでは無いかと思ったりもした。
それがたまたま銀座で出逢った愛人だとしても。
しかし、そのバカ息子である『杉田富治郎』は
全ての権利と財産を失う事を知りつつ、
その後、代表取締役に就任した私に対し、
ありとあらゆる権限の下に於いて、私を奴隷同然として服従させてきた。
面倒なアーティスト契約を始め、
様々なスキャンダル隠蔽など、
それは法を飛び越え、あってはならない隠滅まで、
ありとあらゆる刑事事件を含めるものだった。
そして何よりも私自身、
彼の性奴隷の様な身分として、
あらゆる『杉田』の性癖への対応を求められた。
都合の良い時に呼び出されては、
その熱り立ったペニスから口内へ射精された精液を飲まされ、
何度となく書斎でセックスを要求され、
子宮へと射精された私は中絶手術さえも受けた。
しまいに、ピルを服用させられ薬漬けになっても尚、
『杉田』の性奴隷として彼の欲望は私の体内へ勢いよく精液を注ぎ続けた。
きっとその思いは、
『深谷三岐子』も同じだったに違いない。
自宅に到着した私は廃人と化していたが、
『牛嶋』の介抱もあり熱い湯舟へ浸かった。
彼は何も問わず、語らず、
ただ一心に私を優しく接してくれた。
全身をタオルで隅々まで拭き上げてくれた彼は、
私をリヴィングのソファに降ろし、
冷蔵庫からハイネケンを取り出しグラスに注いだ。
その冷え切ったビールが胃袋へ達した時、
やっと私は自分を取り戻す事が出来た。
何て美味しいビールなんだ!!。
ベッドに横たわると、その側に『牛嶋』の心配そうな表情が伺えた。
彼は私の髪を優しく撫で続けながら静かに涙を流した。
「許せません。私は、
やはり、杉田を許す事が出来ません、、。」
私は彼の唇に指を触れた。
「時代は変わってゆくもの。
そして誰かが変えなくてはならない、のね。」
私はかつて『鴫野』が伝えた言葉を思い出し口にした。
『好むと好まざるとは無関係な事。』
私は今、
改めて自分自身が進むべき道を確信した。
それは真実と正義。
そして何よりもこの日本に於ける最高のエンターテイメントだ。
命を捨ててまで守ろうとした『時田美樹子』が残したもの。
それはきっと、
間違いなくこの腐り切った音楽業界、
世界を変えられる物に違いない。
そして私は身体中が泥に呑み込まれる様な感覚の中で深い眠りについた。
***
その日、私は、新宿の事務所に『R・S・D』の全メンバーを集結させた。
恐らくどのメンバーも『美樹子』の自殺に対して思う事があったに違いないが、
誰一人として言葉を発する者はおらず、
ただ私の言葉を静かに待っていた。
「計画を変更いたします!。」
メンバー全員の眼光が鋭く輝くのが私には見えた。
「本日より、ターゲットを
株式会社ジミー・ミュージック・エンタテイメント現会長である
『杉田富治郎』とし、
念書奪回により現在迄の全ての悪行を暴露、
及び刑事告発する事といたします。」
全員が目を見開いてコクリと頷いた。
「これにより、
我々は『杉田』に対し反旗を翻す事となります。
もし、賛同出来ない者がいれば退室して頂いて結構。
今後一切の関わりを断ち現在までの全ての行動を私が責任を取ります。」
すると『牛嶋』が代表して口を割った。
「我々は社長と共に新たな計画を遂行する所存であります!。
事前にメンバーとも話し合い、
むしろその計画を我々の方から提案するつもりでした。」
全メンバーがその言葉に大きく頷いた。
『宮下』は握りしめた拳を胸の前に高々と突き出し叫んだ。
「よっしゃー! 杉田を打ちましょうっ!!。」
他のメンバーらも気合を入れ直し賛同した。
こんなに感激したのは実に久しぶりな事だった。
『牛嶋』は冷静な表情で私に伝えた。
「我々は正義の為に念書を奪回いたします。
社長は『美樹子』の代わりに誰かをお考えでしょうか?。」
私はホワイトボードに歩み寄り貼られた写真を指さした。
「彼よ。『澤村英司』しか居ないわね。
彼なら必ず見つけ出してくれるに違いない。
私の直感の様なものよ。」
その言葉に誰もが驚いた。
「社長が感で計画を進めるとは驚きましたね~。」
『宮下』は戯けた。
『牛嶋』も少し和らいだ感じで新たな計画の出だしを語った。
「まずは『澤村』を帯広のホテル・ニュー・カリフォルニアに導く必要があります。
間違いなく『時田美樹子』が亡くなられた事は存じていないと思われますので、
知られる前に着手するのがよろしいかと。」
私が同意すると
彼はある人物の写真をコンコンと叩いた。
「彼女が何かしらの鍵になるかもしれません。
間違いなく存在しない部屋で繋がっていますから。」
私は彼女の写真を見つめていると『牛嶋』が驚く事を伝えた。
「『時田美樹子』の葬儀に供花を手配しておきました。」
私は眉間に皺を寄せて彼を見つめた。
「勿論、社長や我々の存在を明かす様な事は致しません。
『澤村』の名義で届けました。」
「『澤村』の名義で?。」
私は彼の行動に些か疑問を感じた。
「これも計画のうちです。既に進行しております。」
私は彼の速やかな行動に改めて感心した。
「よろしい。」
かつて『鴫野』が口にはする事が無かった、
私への引き継ぎと希望は、
今まさに決断したこの新たな計画に違いない。
私は必ずやり遂げてみせる。
そして素晴らしいこの国のエンターテイメントを実現させるのだ。
きっと先代の『杉田様』も望んでいるに違いない。
私は、
彼の生前の優しい笑みを思い出した。
彼の報告によると帯広で調査を行なっている『宮下』より連絡が入り新宿に集合して頂きたいとの事であった。
私は度重なる難解な情報を整理しようと努めたが、
結局ステレオシステムのチューナーにスイッチを入れ逆に新鮮な外音を注ぐ事にした。
ラジオからはソリッドなギターフレーズと共にファンキーなロックサウンドが流れ出した。
その『レニー・クラヴィッツ』が歌う『アー・ユー・ゴナ・ゴー・マイ・ウェイ』は
私の根っからの音楽魂を熱くさせ、懐かしい、
70年代のサイケデリックなロックンロール・シーンを思わせながら心地良い境地へ導いてくれた。
1960年代後半~1970年代の私達は自由だった。
いや、自由を求めただひたすらに自分を信じて生き、
その中で沢山のモノを失い、出会い、政治や権力に対して戦ってきた。
あの、みなぎるパワーの根源が一体何だったのかすら思い出せないが、
確かに我々は必死に生きようとした。
そしてあらゆる勢力と共存してきたのだ。
決して多くの人々と何かを成し遂げる事が目的では無かったが、
何かに向かい目的を達成しようとしたエネルギーと実感だけは、
何事にも変えられない充実感があった。
久しぶりに東京へ戻った『宮下』は以前よりも健康そうに見え私達を驚かせた。
「いや~、帯広は最高ですよ!
空気もいいし、飯も美味い!
何より東京みたいにセカセカしていない!
このまま住み着きたいくらいですよ(笑)。」
相変わらず戯ける彼にメンバー全員が笑みを浮かべた。
彼がまとめたホワイトボードには現在までの人間関係とは全く異なる別の世界が広がっていた。
『牛嶋』は眉間に皺を寄せながら喰い入るように見つめていた。
ネクタイを緩めた『宮下』は報告を始めた。
「本当に驚きました。
かなり興味深い情報を集める事ができました。」
私は両腕を組み大きく頷いた。
「まず、『ホテル・ニュー・カリフォルニア』について報告いたします。
元々このホテルは先代より経営されてきた『佐山荘』と言う家族経営の旅館でした。
その後1972年に息子『佐山健二』(現在の支配人)が引き継ぎ
鉄筋のビジネスホテルへと改築し現在の名称に変更されました。」
私はその父親の写真をしっかりと見つめた。
「家族構成は、父、母、姉、妹の四人家族。
こちらも静岡のホテル同様に姉妹がおります。
母は『佐山美智子』1940年、東京生まれで1982年に静岡のホテルにて殺害され死亡。
当時四十五歳でした。
長女は『陽子』1968年生まれで現在25歳。
Uターンで昨年よりフロント係として勤務。
妹は『麻理子』1973年生まれで現在20歳。
フリーターとしてホテルのレストランに勤務しつつバンド活動に力を注いでおる模様です。」
私はまるでウイッグの様な金髪のボブヘアーの姉とピアスだらけの真っ赤なロングヘアーの妹を交互に見つめ、
その個性さに関心させられるばかりだった。
「母『美智子』が家を出たのは殺害された同年。
離婚届は出されておらずある日突然、
父『健二』を罵倒して出て行った切り戻る事は無かったそうです。
因みに原因は『健二』のED(勃起不全)。
どうも若い頃からヒッピー文化を愛しフリーセックスを唱え続けていた所謂『セックス依存症』だった様です。
『健司』も同様で大学生活を東京で過ごす中、
二人は出会い、1967年に結婚しております。
その翌年に帯広へ戻り長女を出産という流れになります。」
そこまで話すと『宮下』はタバコに火をつけ一口吸い大きく天井へ向けて煙を吐いた。
私は『美智子』が家族を捨てた理由を考えながら以前から思っていた疑問を聞いた。
「でもどうして『美智子』は東京ではなく静岡に住むようになったのかしら?。」
彼は何度も大きく頷いて見せた。
「そうです。まさにそこです!。何故、静岡だったのか?
単純に考えてみれば、知らない場所に越すなんて事もありそうですが、
そこには家族も知り得ない答えがありました。
まずこの姉妹ですが、
以前『牛嶋』が報告した静岡の姉妹同様に何かしら特殊な能力を持っている事が判明いたしました。」
すると『牛嶋』が声を上げた。
「それはもしかして、、、!?。」
「そうです。特に姉『陽子』は、
幼い頃からこのホテルに存在しない部屋を知り訪れていたとの事です。
因みに恐らくその部屋の存在は『美智子』と『健二』も気付いていたとの情報もあります。」
私は驚きを隠す様に冷静に質問をした。
「しかし、それが静岡と何の因果関係があるのかしら?。」
向かいに座る『牛嶋』が飲み込んだ生唾がごクリと鳴った。
『宮下』はボールペンの先を『陽子』の写真の上でコンコンと鳴らしながら話し出した。
「この姉『陽子』は、その部屋で自分と同じ年くらいの少女と出会い遊んでいた様です。」
少女?。
「その少女の名前は『マリエ』ちゃんというらしい。」
マリエ!? 一体誰だ!?
すると『手塚』がカシャカシャとパソコンのキーボードを叩き出し、
検索されたデータの画面を見つめ凍りつきながら静かに読み上げた。
「マリエちゃん、、
『吉田真利江』静岡の『ホテル・ニュー・ホライズン』の次女です!!。」
我々は驚愕し驚きと共に声を失った。
そんな事があるのだろうか!!??
すると『宮下』は凍りついた『手塚』を制し驚く事を話し出した。
「余談ですが、この『佐山陽子』は、
地元・北海道では有名な『澤村英司』の熱烈なファンなのです。
それとこの『吉田真利江』は現在『有限会社マーズ・ミュージック・プロダクション』に勤務するアーティスト・マネージャーであります。」
私は完全に頭が真っ白になってしまっていた。
『牛嶋』も同様に驚きを隠せずに立ち上がっていた。
そんな『牛嶋』をソファーに促しながら『宮下』はドヤ顔で続けた。
「まだまだありますよ。これ位で驚いて頂いちゃ困ります。
これは私の個人的な観点と想像から厳密に調査した事案ですが、
この母『美智子』、1940年・東京生まれ。
この生まれ年にピ~んと頭が働いちゃったものですからついつい余計な事まで調査してしまいました。
彼女は生まれて間も無く里子に出され赤ん坊の頃から施設にて育てられておりました。
戸籍謄本の民法八一七条の二により確認ができます。
そしてその出生を裁判所などから極秘調査したところ、
届出人として記載されていたのは驚くことに両親ではありませんでした。
お分かりですか?。」
私はギリギリの解釈で瞬きをする事も忘れ聞き入っていた。
「そこに記載されていた名前は、、、
『鴫野文子』と言う女性でした。」
私は驚愕してソファーから飛び上がった!
何て事だ!!!!
『鴫野』さん!!
どうして今まで気付かなかったのだろうか!!
私はずっと勝手に思い込みをしていたのだ!!
『牛嶋』らは私の驚愕振りに驚き目と口を見開いていた。
「さぁ、もうお分かりですね、社長。
里子は2人いたという事になりますよね。つまり双子です。」
私は大きく息を吸い込み『宮下』へ口を開いた。
「つまり、、、『佐山美智子』と『時田幸子』は姉妹だった、という事なのね、、、。」
一同も絶叫して驚いた。
『宮下』はネクタイを締め直しゆっくりと我々を見つめた。
「さようでございます。疑問はまだまだあります。
何故、ひっそりと経営していた旅館がある日突然ビジネスホテルへと改築できたのか?
その費用の出所。それと『美智子』が殺害された理由です。
或いは真犯人? など。
今後も引き続き調査を続行いたします。
以上、私からの報告となります。」
私達は全員が立ち上がったまま
その驚く内容の報告に各々で考えを巡らせていた。
「まずは落ち着いて酒でも飲みましょう。」
『宮下』は冷蔵庫から冷えたクアーズを皆んなに渡した。
キリリとした炭酸が胃袋へ到達するのを待ち私は疑問を呈した。
「あなたらが言うスピリチュアルな事案が繋がった事は間違いなさそうね。
しかしそこに『時田美樹子』や『深谷達三』が携わっていると言う事実は
今の所ないに等しいのではないかしら?。」
『牛嶋』は少し考えてから切り出した。
「確かにそうです。しかし『時田美樹子』は事実上、
『佐山』とは血縁上で繋がっている。
それと『深谷三岐子』も。
どこかのタイミングで既に気付いていたか、、、?
或いは今後、何らかの形で接触する事があれば
間違いなく『佐山』家族の徹底マークも必要でしょう。」
すると『宮下』が咳払いをしながら促した。
「え~、ちなみに『佐山』の姉妹は『時田美樹子』との関係は知らない様です。
それと母方の祖父母についても何も聞かされていないとの事でした。」
私達はその言葉に驚くと『牛嶋』が目を細めながら質問した。
「どうやってそんな事まで調べられたんだよ?。」
『宮下』はケラケラと笑った。
「つまりそれは、、、実は『陽子』と付き合ってるんですよ、俺(笑)。
勿論、調査の上でですけどね。
何もバレていませんから安心してください。」
『牛嶋』は呆れながら話題を変えた。
「しかし『深谷達三』が『美智子』の存在に気付いていたとしたら幾分変わってきますね。
『念書』を直接交わした張本人ですから。
殺害現場である近所の『ホテル・ニュー・ホライズン』、
それに『時田幸子』、そして『存在しない部屋』など繋がる要素はいくらでもある。」
私はそれについて考えた。
「いえ、『達三』は『美智子』の存在は知らない筈よ。
生前に『三岐子』の娘の連絡先を教えて欲しいと話があった際は『幸子』の連絡先しか伝えていないし、
そもそもこちらで調べた上でも『美智子』の情報は一切無かった。
それに、、、『鴫野』さんからも双子だったなんて聞かされた記憶もないわ、、。」
私は目を瞑り遠い昔の出来事を思い出そうとした。
何故、その事を私にまで伏せていたのだろうか?
すると『手塚』が不思議そうな顔で話し出した。
「『深谷三岐子』は母親なんだから双子だった事なんて気付いてますよね? 自分が産んだんだし。」
なるほど。それもそうだ、、、。
もしそうだとしたら『達三』も知っていたに違いない。
美味そうにビールを飲みながらタバコを吹かす『宮下』があっけらかんとした様子で語った。
「それは分かりませんよ。
何故なら日本国内で超音波検査、
所謂、エコー検査が研究され始めたのは1950年代に入ってからで、
実用されたのは20年後の1970年代に入ってからです。
もし帝王切開だとしたら母親も気付く事がない可能性もあります。
とにかく全ての謎は『念書』ですよ。
それを見つけるしかないでしょう。
俺の直感のようなものですが、
会長にとって余程重要なものでしょうから。
愛人問題だけならともかく、
もしかしたら娘を殺したりしていたら大変な事件にもなりますからね。」
私と『牛嶋』は薄々気付いてはいたが言葉にする事は無かった。
しかし彼はやはりそれを口にした。
「それはつまり、『杉田』の存在を知った『美智子』が殺されたって事か、、、。」
『宮下』は大きく頷いた。
「そうに決まってますよ。
何かをキッカケに会長の存在に気付いた『美智子』は間違いなく脅して金を巻き上げたに違いない。
改築費用の出所もそれに決まっています。
恐らく再三にじり寄った挙句に殺されたに違いありませんよ。
殺害の証拠も何も無くすなんてうちの組織にしかできないでしょう?
申し訳ありませんが、俺はあの会長は信用できませんね。」
彼の言った事は間違いなく正論に近い内容だった。
「そうね。まずは『念書』を奪還する事に専念しましょう。」
『牛嶋』は小さく溜息を吐いて両腕を組みながら首を縦に振った。
***
事態が急展開したのはその年の年末だった。
『時田美樹子』が遂に東京から帯広へ戻ったのだ。
現地の『宮下』は即座に対応し敏速に彼女の行動を追った。
ところが彼女がまず向かった場所は自宅ではなくビジネス・ホテルだった。
その報告を受け直ぐに『牛嶋』は私の所へ駆け込んだ。
「やはりそうです。間違いありません!
『時田美樹子』は『ホテル・ニュー・カリフォルニア』を訪れました!。」
私は彼女の行動を、もはや単なる偶然とは思えずにはいられなかった。
こんな事が本当にあるのだろうか!?
しかし現実に彼女はそのホテルを訪れたのだ。
携帯電話の向こうから実行班の『高田』は獲物を的に得た様な興奮状態で伝えた。
「いつでも実行いたします。どうかご指示を。」
私は冷静に伝えた。
「まだよ。今じゃない。的確な時期を待ちなさい。」
彼は息を荒げながら了解した。
『宮下』の報告によれば『美樹子』はツインルームである501号室に1人で2泊するとの事だった。
一体何故、わざわざ2人部屋に宿泊したのだろうか?。
誰かと合流する可能性も十分にある。
『高田』は旅行客を装いホテルに侵入、
4階の部屋から彼女の動向をマークした。
5階の廊下に超小型カメラを仕込み遠隔で監視し、同時に隙を見て盗聴器を仕込んだ。
その迅速な対応は驚く程洗練された行動だった。
恐らく彼女の方も相当な警戒をしているに違いない。
予想通り、彼女は食事以外に客室おろかホテルから外出する事も無く、外部との連絡すらする事は無かった。
しかし、初日の真夜中に一度、客室の扉から廊下に現れ周囲を見渡す不可思議な行動が確認された。
すぐに部屋に戻り、その日は目立った行動を確認する事は出来なかった。
迎えた2日目。
朝からやはり2階のレストラン以外に外出する事が無かった彼女は
またしても真夜中に客室の扉から廊下へ出ると言う不可思議な行動が確認された。
ところがその途中で録画していた映像が揺らぎ始め画面は砂嵐へと変わってしまった。
『高田』は直ぐに気付かれぬよう5階へ移動し隠しカメラをチェックした。
廊下には既に彼女の姿は無かった。
しかし長年の研ぎ澄まされた感から、違和感を覚えた彼は彼女の客室を扉越しに入念なチェックし音を立てずに鍵を解錠したところ、彼女の姿は無かった。
直ぐにホテルの外で見張っていた『宮下』に連絡したものの
驚いた事に彼女どころか誰一人も外出した人間は居ないとの報告だった。
客が利用可能な出入り口は正面ただ一箇所。
仮に非常階段を使ったとしても『宮下』が張っていた場所からは十分に確認できる位置であった。
と言うことはホテル内に居ることは間違いない。
『高田』はホテル中を確認し、同時に彼女が滞在している客室を入念に調査した。
しかし何処にも彼女の姿を確認出来る事は無かった。
ところが、次に彼女を確認出来たのは、明朝のチェックアウト時刻前だった。
何事も無かったかの様に支度をした彼女は自身が宿泊していた客室から現れたのだ。
一体、どう言うことだ!。
『高田』の報告によれば、
確かに彼女は一晩中戻る事は無かったとの事である。
隠しカメラの横を通り過ぎ、
彼女は画面から真っ黒なストレートヘアを靡かせ、
スマートに消えていった。
一連の報告は不可思議なものばかりだった。
一体『美樹子』は2日目の夜に何処へ消えてしまったのだろうか?。
そしてどうの様な方法で部屋に戻ることが出来たのだろうか?。
送られたビデオテープの途中でタイミング良く消えた画面にしてもそうだ。
私と『牛嶋』はその画面を何度も繰り返しチェックしてみたが、
やはりしっかりとプロの技術者に託し解析して貰う事とした。
数日後、『牛嶋』はそのビデオテープと共に解析結果の報告に社長室を訪れた。
「残念ながら消えた部分には何も確認する事は出来ませんでした。
恐らく電気系統による一時的な故障だろうと、、。
ただ、ある一部に人影の様なものが確認されました。」
「人影?。」
彼はすぐにビデオテープをセットしその部分を再生させた。
「よろしいですか、よくご覧下さい。
ここにうっすらと彼女の方向に向かう人影が映り込んでいます。
数秒ですが、確かに進んでいる様に見えます。」
私は画面右下に僅かに映り込んだ人影を見て背筋がゾッとし全身に鳥肌が立った。
「これって心霊現象みたいな事なのかしら、、?。」
彼は両腕を組みながら答えた。
「分かりません。ただし、間違いなく誰か、
何者かが居た事には間違いなさそうです。」
私はソファーに深々と座りタバコを大きく吸いながら考えてみたものの、益々混乱するばかりだった。
ミステリー小説の様な現象に心霊現象などなど。
もはや霊能力者の『宜保愛子』氏にでも相談するしかないか?。
など考えていると彼は口を割った。
「現在までの状況や情報によれば、
確かにスピリチュアル的な現実的事柄とは掛け離れた繋がりを感じざるをえません。
しかし、心霊現象とはまた違う観点なのではないかと思います。
その点に於きましては私自身も容認する事は出来ません。
恐らく誰かが『美樹子』と接触し一緒に消えた。
もしくは共に移動した。そうとしか考えられません。」
私は現実の世界をしっかり見据え画面に映り込んだ人影を見つめ続けた。
「彼女と誰かが共謀して『念書』を隠したと言う事なのかしら?。」
その問いに彼は私ににじり寄った。
「確かにそれも考えられます。
しかし、現在まで、彼女が我々の執拗な調査に於いて
数年もの間『念書』を身近に持ち隠しているとは到底、考えられません。」
私は彼の眼差しを真っ直ぐと見つめた。
「と、言うことは、あなたの見解はどうなのかしら?。」
『牛嶋』は呼吸を整えてから私を見据えた。
「恐らく『念書』は『深谷達三』氏が生前に何処かへ隠蔽し、
彼女が遺言によってその在処を知った。
そして長年、私達を掻い潜り探しているのではないかと推測いたします。」
私はその見解に大きく溜息をついた。
「なるほど。その見解は良く理解出来ます。
しかし仮に『美樹子』が第三者の協力により、
その場所を特定できたとしても『深谷達三』が帯広まで訪れて隠蔽した事実など無いのでは?。
理解不能なスピリチュアルな繋がりがあろうと
私が疑問に思うのは、
静岡と帯広と言う距離に於いて現実的な繋がりと、
どの様な手段で『達三』が隠した物を『美樹子』が見つける事が出来るのか?
と言う事だけよ。
私はリアリティしか信じる事は出来ないし、
あなた方の言うファンタジーな世界には到底、理解出来ません。
しっかりと現実を見据えなさい。」
彼は幾分、
納得出来ない様な表情だったが、
踵を返して深々と頭を下げた。
年が明けた、1994年。
気が付けば平成に入り6年も過ぎた。
我が国の政治、そしてリーダーも目まぐるしく変わり、
武士家であった細川家の末裔である
現・内閣総理大臣『細川護煕』氏が掲げた「日本党」に於ける政治が筆頭した。
それは「五十五年体制」に幕を下ろすと共に政治改革の実現に邁進し、
衆議院への比例代表並立制の導入を柱とする政治改革を実現させようとしていた。
そんな中で私が最も注視したのは、
1992年に政界へ転身し
『細川』氏と共に衆議院へ鞍替えした元ニュースキャスターで
「兵庫二区」で当選した『小池百合子』であった。
その国民が評した結果に、
私自身も多かれ少なかれ今後の日本に於いての女性の立ち位置をリアルに感じた事は言うまでも無い。
そこには間違いなく、
私の恩師でもある『鴫野文子』が立ち上がった影響と存在があったに違いない。
古い昭和の男性優位が当たり前というこの国内の情勢から、
男女格差をなくし平等な世界が来る事を望んで止まない。
しかし、その現状は『裏と表』の世界がある事には間違いない。
そして私は、
その『裏』の世界を牛じる女帝だと言う事も自他共に良く承知している。
世界を変える。
その手段の始まりは『小池百合子』と私の大きな違いである事は間違いない。
政治を変えるか、経済、業界を変えるか、
そこには各々に必要な人材であり適した人物が必要とされるのだ。
表向きな晴々とした嘘で操る政治家と
血生臭い世界に於いて金と権力で全てをねじ伏せる権力が混じり合った時こそ、
戦後の復興を乗り越えた今、
最強の一つの国家となるのだ。
言うなれば、
誰がリーダーになり国を制したとしても、
今の私を服従させる人間はこの国には誰も居ない。
ただ一人、『杉田富治郎』を除いては、、。
それと彼女が放つ歪な女性的な表面と言動、
そこに垣間見る裏にある彼女は、
きっと何かしらこの世界を変えるだけの恐ろしい爆弾の様な力を持っているに違いない。
私には分かる。
私は、
彼女の爽やかな様相を纏うその目の奥に危険な未来を感じとった。
***
1994年、
『R・S・D』による『時田美樹子』への包囲網は鉄壁なまでの状況で追い詰め、
心身共に彼女への脅迫は多大なダメージを与えていた。
この狭い帯広市に於いて彼女に纏わる周囲からの他勢も完全に排除し
同居する『石塚庸介』すらも我々の手中にあった。
『時田美樹子』は完全に孤立した。
『宮下』の報告によれば、
既にメンタルは崩壊し日々多量の睡眠薬を投与しているとの事だった。
しかしながら、
そんな状況にあっても彼女の確固たる信念が揺るぐ事は無く、
白旗を掲げる事も皆無だった。
昨年12月に『ホテル・ニュー・カリフォルニア』を訪れてからの半年間、
家に籠るだけの生活となり一切、
外部への連絡も動向も無くなった。
あの深夜のホテル内で一体、何が起きたのだろうか?。
間違いなく彼女は計画的に何かを成し遂げたに違いない。
それは我々の執拗な追跡を理解した上での行動だった事も言うまでもない。
『高田』は寸分の狂いも無く確実に
内部、外部への調査を確実に遂行し続けたが、
どんな手段を使っても『念書』に携わる道筋、
そして、その物を見つけ出す事は出来なかった。
『佐山』一家に纏わる動向、
特に長女『陽子』への調査に関わる事例に於いても
一向に浮かび上がる事は無かった。
東京、静岡、帯広を結ぶ三つの地域による不可思議な出来事が
現実的に交わり繋がる答えさへも無い。
もしかして『美樹子』は
これらの難解な繋がりや答えを独自に導き出し
『念書』を手中に入れたのだろうか?。
*『佐山美智子』殺害の理由と、或いは真犯人。
*『深谷達三』が描いたもう一枚の絵画の行方。
*静岡のホテル・ニュー・ホライズン『吉田真利江』と、
帯広のホテル・ニュー・カリフォルニア『佐山陽子』との関係。
*二つのホテルに存在する『部屋』
もしそうであれば、
何故、彼女はこの半年もの間、
何の行動も起こさず過ごしているのだろうか?。
どんなに心身を擦り減らしても彼女が折れる事はないだろう。
それ故に彼女が家に篭り続け計画している壮絶なこの先を考えると
私は恐ろしいまでの震えを抑える事が出来なかった。
この強大な組織に属する鉄壁な闇の組織すら翻弄させ
私自身を追い込ませる『時田美樹子』は
既に驚異と化し、
恐るべく忖度や権力とはかけ離れた
彼女自身が持つ『信念』そのものだった。
青山前周辺の樹々も鮮やかな緑に色付き始め、
蝉が忙しい鳴き声をあげ始めた初夏の7月。
私はこの季節が一番好きだ。
今日は出勤前に明治神宮外苑前周辺を歩いてから出社する事とした。
なんて清々しい朝なのだろう。
面倒臭い何もかもを忘れ、
私はその樹々の息吹を胸一杯に吸い込んだ。
事務所に入り窓を全開にしてからデスクに腰を掛けると、
間も無く『高田』から携帯に一報が入った。
『時田美樹子』が自殺しました。
私はその報告を受け
目の前が真っ白になった、、。
『時田美樹子』が死んだ、、、。
自殺した!!!???。
何故だ!?
どうして!?。
これまでずっと、
あれだけ信念を通して来た彼女が何故、
今になって自ら命をたったのだ!!!???。
私は驚きと失望の中で怒りが込み上げ
手にしていた携帯電話を壁に投げつけた!。
「何故だ! 美樹子! 何故、死を選んだんだ!!!。」
私はしっかりとブローした髪を両手で掻きむしり
デスクの上に散乱するあらゆる物を床に投げつけた。
するとただならぬ騒音に気が付いた『牛嶋』が扉を勢いよく開け駆け寄った。
「社長! 落ち着いて下さい!。」
私は彼の胸ぐらを掴み両手で激しく揺さぶりながら目を見開いた。
「どうして彼女は自殺なんてしたのよ!!。」
彼は私の目を真っ直ぐ見つめただ静かに身を委ねた。
投げつけた片足のハイヒールは窓ガラスに激しく当たり亀裂が走った。
私は身体中が萎縮していくのを感じ、
胃袋から這い上がった熱く酸っぱい胃液を身体中を振り絞るように吐き出した。
リノリウムの冷たい床に顔を押し付けながらそれ以上吐くものが無い程に嗚咽した。
口から滴る胃液と鼻水が混じり合う中で、
私は泣いた。
今迄に無い程の涙が流れた。
『牛嶋』は優しく私の背中を撫でながら冷静な声で伝えた。
「会長がお呼びです。」
私はその現実的な指令で次第に落ち着きを取り戻した。
鏡に映った自身の姿は見るに堪えない形相だった。
髪はボサボサ、化粧も涙ではげ落ち、
マスカラはまるで「アリス・クーパー」の様に目の周りを覆い尽くし流れていた。
何よりも、
その生気を失った顔に
今迄感じた事が無い程の老いを目の当たりにし愕然とした。
高輪の豪邸に到着すると
『牛嶋』はスマートに後部座席のドアを明け、
珍しく仁王立ちし私に伝えた。
「本日は、私も同行致します。」
その来たるべく何かを決心した言葉に私は頷き、
彼と共に開いた門へ足を踏み入れた。
間も無くいつもの若い華奢で巨乳な使用人の女が深々とお辞儀をした。
「お待ちしておりました。」
すると彼女は私の顔をマジマジと伺い不快な言葉を放った。
「浅葱様、随分いつもとお変わりな様ですが、
何かございましたでしょうか?。」
私が睨みつけると、
彼女はクスッと笑い屋内へ導いた。
書斎に入ると『杉田』はいつもの様に
正面の巨大なデスクに座り我々を真正面から静かに見つめた。
しかしながら、
その目の奥にはこれまで感じた事が無い程の冷酷な怒りを垣間見る事が出来た。
「念書の在処を知っていると思われる
『深谷達三』氏の義孫が自殺いたしました。
現在のところ調査は滞り奪還に於いて非常に困難な状況となっております。」
私は冷静に現状を伝えた。
すると『杉田』は静かに立ち上がり、
咳き込みながら私の横に歩み寄り臭い息と共に頬に顔を寄せ肩を掴んだ。
「浅葱くん、君はそんなに仕事が出来ない女だったかのぅ。
失望以外の何物でもありゃしないな。」
私は『杉田』の窪んだ冷酷な眼差しから目を逸らす事が出来なかった。
「引き続き、念書奪還に於ける新たな作戦と遂行を進める次第でございます。」
すると『杉田』は私の両肩を激しく掴み
正面に向かせると同時に激しく右頬を平手打ちした。
「義理の孫が死のうがどうでもいいのじゃ!!
一体、何年経ったと思ってるんじゃ!!
さっさと念書を奪い返せと言ってるんじゃっ!!。」
『杉田』は床に倒れ込んだ私に馬乗りし
ブラウスのボタンを剥ぎ取り激しく乳房を掴んだ。
すると血相を変えた『牛嶋』が駆け寄った。
「会長! お辞め下さい!。」
その両腕は瞬間的に『杉田』を私の身体から勢いよく引き離した。
瞳孔が見開いた『杉田』はけたたましい笑い声を上げ激しく罵倒した。
「浅葱! お前なんかそのイヤラシイ身体で親父を唆してここまで登り上げた、
ただのスケベな女だろうが!!
どうなんだ!!
毎晩、股を開いては、その薄汚い中に金を溜め込んだのじゃろ!!!。」
私は顔をあげる事も出来ずにただ唇を噛み締める事しか出来なかった。
完全に本性を剥き出しにした『杉田』は
私のスカートを捲り上げ力付くでパンティを剥ぎ取ると、
両足を広げ激しく陰部を舐めまわした。
『牛嶋』はその上から覆い被さるように必死に引き離そうとした。
「もう、辞めて下さい! 会長! お辞め下さいっ!!!。」
しかし『杉田』の高齢にしても漲る恐ろしいまでの怨恨は凄まじい力だった。
抵抗も出来ない私は次第に意識が遠のく中で、
激しい『杉田』の舌へ『牛嶋』が叫び上げる声と共にオルガズムへ達し、
恥ずかしいまで勢いよく体液を吹き上げ痙攣した。
気が付くと『牛嶋』が小刻みに震えながら私の身体を抱きしめてくれていた。
ぼんやりとした目にはソファにゆったりと座る『杉田』の姿が見えた。
「戻りましょう、社長。」
震えた声で『牛嶋』は私の衣類を優しく整えた。
書斎を出ようとした時『杉田』は半笑いで私に言い放った。
「昔は、親父同様にお前とよくヤッたもんだが、
歳をとってもスケベな女は変わらんもんじゃな。(笑)」
すると使用人の女が部屋に現れた。
「どうされました? 杉田様。
こんなに汚くて臭いマン汁を浴びせられて可哀想ですわ。」
彼女は『杉田』を抱擁しその巨乳を横顔に押し付けた。
私は激しい侮辱と羞恥心の中で憤りを何処へぶつける事も出来ず、
ただ『牛嶋』が支える肩に寄り添い車に戻る事しか出来なかった。
帰路の車中、『牛嶋』は何も問う事はなかった。
感の良い男だ。
きっと私の何もかもを知った事は言うまでもない。
先代との関係に於いては、
愛人とは言え心から愛されていた実感があった。
そして私にしても、心から彼を愛し続けた。
その優しさは、
それまで感じた事が無い程の愛情だった。
その結果、彼が私に残してくれたのは、
このレコード会社の全ての権限と株、及び財産の相続だった。
たまたま銀座の高級クラブで出会い関係が始まった年の差のある不倫な愛人関係。
しかしそのキッカケは、
互いに見据えたその先の日本に於けるエンターテイメントの未来だった。
今思えば、
もしかしたら、
そんな未来を築き上げて行く人材を彼は見据え、
私に託してくれたのでは無いかと思ったりもした。
それがたまたま銀座で出逢った愛人だとしても。
しかし、そのバカ息子である『杉田富治郎』は
全ての権利と財産を失う事を知りつつ、
その後、代表取締役に就任した私に対し、
ありとあらゆる権限の下に於いて、私を奴隷同然として服従させてきた。
面倒なアーティスト契約を始め、
様々なスキャンダル隠蔽など、
それは法を飛び越え、あってはならない隠滅まで、
ありとあらゆる刑事事件を含めるものだった。
そして何よりも私自身、
彼の性奴隷の様な身分として、
あらゆる『杉田』の性癖への対応を求められた。
都合の良い時に呼び出されては、
その熱り立ったペニスから口内へ射精された精液を飲まされ、
何度となく書斎でセックスを要求され、
子宮へと射精された私は中絶手術さえも受けた。
しまいに、ピルを服用させられ薬漬けになっても尚、
『杉田』の性奴隷として彼の欲望は私の体内へ勢いよく精液を注ぎ続けた。
きっとその思いは、
『深谷三岐子』も同じだったに違いない。
自宅に到着した私は廃人と化していたが、
『牛嶋』の介抱もあり熱い湯舟へ浸かった。
彼は何も問わず、語らず、
ただ一心に私を優しく接してくれた。
全身をタオルで隅々まで拭き上げてくれた彼は、
私をリヴィングのソファに降ろし、
冷蔵庫からハイネケンを取り出しグラスに注いだ。
その冷え切ったビールが胃袋へ達した時、
やっと私は自分を取り戻す事が出来た。
何て美味しいビールなんだ!!。
ベッドに横たわると、その側に『牛嶋』の心配そうな表情が伺えた。
彼は私の髪を優しく撫で続けながら静かに涙を流した。
「許せません。私は、
やはり、杉田を許す事が出来ません、、。」
私は彼の唇に指を触れた。
「時代は変わってゆくもの。
そして誰かが変えなくてはならない、のね。」
私はかつて『鴫野』が伝えた言葉を思い出し口にした。
『好むと好まざるとは無関係な事。』
私は今、
改めて自分自身が進むべき道を確信した。
それは真実と正義。
そして何よりもこの日本に於ける最高のエンターテイメントだ。
命を捨ててまで守ろうとした『時田美樹子』が残したもの。
それはきっと、
間違いなくこの腐り切った音楽業界、
世界を変えられる物に違いない。
そして私は身体中が泥に呑み込まれる様な感覚の中で深い眠りについた。
***
その日、私は、新宿の事務所に『R・S・D』の全メンバーを集結させた。
恐らくどのメンバーも『美樹子』の自殺に対して思う事があったに違いないが、
誰一人として言葉を発する者はおらず、
ただ私の言葉を静かに待っていた。
「計画を変更いたします!。」
メンバー全員の眼光が鋭く輝くのが私には見えた。
「本日より、ターゲットを
株式会社ジミー・ミュージック・エンタテイメント現会長である
『杉田富治郎』とし、
念書奪回により現在迄の全ての悪行を暴露、
及び刑事告発する事といたします。」
全員が目を見開いてコクリと頷いた。
「これにより、
我々は『杉田』に対し反旗を翻す事となります。
もし、賛同出来ない者がいれば退室して頂いて結構。
今後一切の関わりを断ち現在までの全ての行動を私が責任を取ります。」
すると『牛嶋』が代表して口を割った。
「我々は社長と共に新たな計画を遂行する所存であります!。
事前にメンバーとも話し合い、
むしろその計画を我々の方から提案するつもりでした。」
全メンバーがその言葉に大きく頷いた。
『宮下』は握りしめた拳を胸の前に高々と突き出し叫んだ。
「よっしゃー! 杉田を打ちましょうっ!!。」
他のメンバーらも気合を入れ直し賛同した。
こんなに感激したのは実に久しぶりな事だった。
『牛嶋』は冷静な表情で私に伝えた。
「我々は正義の為に念書を奪回いたします。
社長は『美樹子』の代わりに誰かをお考えでしょうか?。」
私はホワイトボードに歩み寄り貼られた写真を指さした。
「彼よ。『澤村英司』しか居ないわね。
彼なら必ず見つけ出してくれるに違いない。
私の直感の様なものよ。」
その言葉に誰もが驚いた。
「社長が感で計画を進めるとは驚きましたね~。」
『宮下』は戯けた。
『牛嶋』も少し和らいだ感じで新たな計画の出だしを語った。
「まずは『澤村』を帯広のホテル・ニュー・カリフォルニアに導く必要があります。
間違いなく『時田美樹子』が亡くなられた事は存じていないと思われますので、
知られる前に着手するのがよろしいかと。」
私が同意すると
彼はある人物の写真をコンコンと叩いた。
「彼女が何かしらの鍵になるかもしれません。
間違いなく存在しない部屋で繋がっていますから。」
私は彼女の写真を見つめていると『牛嶋』が驚く事を伝えた。
「『時田美樹子』の葬儀に供花を手配しておきました。」
私は眉間に皺を寄せて彼を見つめた。
「勿論、社長や我々の存在を明かす様な事は致しません。
『澤村』の名義で届けました。」
「『澤村』の名義で?。」
私は彼の行動に些か疑問を感じた。
「これも計画のうちです。既に進行しております。」
私は彼の速やかな行動に改めて感心した。
「よろしい。」
かつて『鴫野』が口にはする事が無かった、
私への引き継ぎと希望は、
今まさに決断したこの新たな計画に違いない。
私は必ずやり遂げてみせる。
そして素晴らしいこの国のエンターテイメントを実現させるのだ。
きっと先代の『杉田様』も望んでいるに違いない。
私は、
彼の生前の優しい笑みを思い出した。
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