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第三章 喪服の母
母を襲う弟の素顔
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遺影の中の拓也とは対照的な月のようにのっぺりした表情を巧は浮かべる。真由美からは表情の奥にある深い感情をうかがい知ることはできない。(どうして?ここに巧がいるの?)という疑問と、(聞かれた!!!)という焦燥感で取り急ぎ喪服の裾をなおす。
「母さんでも、オナニーすることがあるんだね?」
巧は淡々と告げる。それは糾弾してるようでもあり、褒めてるようにも聞こえた。あるいは、何も感じていないのかもしれない。
「!!!」
真由美はどういう風に表情を浮かべていいかわからない。表情筋がこわばり、視界の隅に拓也の亡骸がうつる。蝋燭がゆらいでいる。
「すごかったね。あんな風にいつも兄さんのことを思ってしてたんだね。」
目を細めて、小さく指摘する。それは叱責のようでもあり、ある種の嫉妬やあこがれも含んでいた。
「どこから見てたの?」母は小動物のように巧に問うて来てた。それは、機嫌をそこねるのをおそれているようでもあり、痴態をどこまでみられたかの確認をとろうとしてた。
「なにが?」
巧は何の感情もこめずに答える。少年の黒い瞳の奥は深淵であり、何でも見通していそうな深い闇を宿していた。
「だから、どこから?」
真由美は恐る恐る聞き直す。真由美は吸い込まれそうになるその瞳から逃げるように尋ねる。それは迷い子が道をあきらかにしようと模索しているようだった。
「オナニーを?」
真由美はなんとか恥ずかしさをこらえて、かすれる声で尋ねた。先ほどの情熱的な妄想の中の拓也に対する奉仕など忘れたかのように羞恥に悶えている。
「最初から……」
巧は機械のように事実をいった。
「さ、最初から……」
愕然として真由美は身をよじった。
「はっ!恥ずかしい。」
真由美は体をよじる。豊満な体から先ほどの残り香を隠しきれないほど牝の濃厚な匂いを放っており、それが部屋中に充満している。愛蜜のしずくは床にたまり反射していた。
「何を恥ずかしがってるのさ。毎晩、僕が知らないと思って隠れて愛し合っていたくせに……知らなかったの?」
巧が珍しく感情をあらわにした。といっても、真由美にはその微細な差はわからない。自分がなじられ続けていることだけは感じていた。
「ごめんなさい。」
真由美は謝った。それが、正しいことのように思えたからだ。なんとか、今なら取り繕えるかもしれない。
「羨ましいな。兄さんは。こんなに母さんに愛されてて。」
巧は歌うような小さな声で話す。それは、また、感情が0を指し示した声だった。先ほどまでの痴声を放っていた真由美とは対照的にどこか冷めた声だった。あくまでも変わらない周波数であり、感情の振幅が見られない。指先が軽く兄の亡骸にふれる。
「僕が死んでも同じように母さんは悲しんでくれるのかな?」
少年は悲しい声でぽつりとつぶやいた。一瞬だけ、月のようだった表情の上に小さな隕石が落ちて、感情というさざ波に変化を起こしたように見えた。だが、それ自体は、あまりに小さな変化であり、太陽の様な明確な変化とは言いにくかった。
「それは……」
真由美は巧の心を図りあぐねていた。悲しむと答えるのは簡単だった。ただ、この少年はそれ以上の何かを望んでいるように真由美には見えた。
「言ったじゃないか?」
巧が耳元で囁く。濃厚な蜜の様な甘い声だった。真由美は初めて、巧の中に別の何かを見始めていた。
「これからは、僕たちは家族なんだから、支え合っていかなくちゃね。って忘れたの?」
真由美は気づいてきた。拓也のことは深く見てきたが、巧のことは何も意識してこなかったことをそれは自分の母としての愛情の欠落だった。
「もう兄さんは?いないんだよ?」
巧は真由美の見たくない事実をつげる。カーネーションの花に包まれた拓也が棺に安置されている。何度となく確認した事実だ。
「あんなことをしても戻ってこない。母さんがどれぐらい兄さんのことを愛してももう届かないよ。愛とは運動し続けることそのものなのだから、わかる?」
真由美は頭を左右にふる。何か少年は真実を告げているのだろうが、彼女にはわからない。
「愛とはダンスを踊ることだ。とアドラー心理学はいっている。つまり、運動をしているものが愛し合っているということだ。わかるかい?」
巧は真由美に理解できない話を突然し始めることがある。それはこの少年が博識であり、必要があれば話すということなのだが、多くの博学の人は自分の知性をひけらかしたがるがこの少年は黙った石仏のように自分の知性を発露することはあまりない。必要最小限にとどめる。それは、子供時代からの習性であり、兄との不必要な衝突をさけるために編み出した彼なりの処世術である。もっとも、その処世術は彼を多くの衝突から守るものだったために彼はいつでもその仮面をかぶっていた。母としては理解するためにこの少年の言葉を辛抱強く待たねばならない。
「兄さんは、もう愛し合えないんだよ。わかるだろう?母さん。」
巧は声こそ、何もない様子だが、明らかに勝利の言葉を告げている。そう、どこまでいっても、もう拓也は動かない。それは、真由美の中にくさびを打ち込む。
「母さんが、どれだけ腰を振っても、オナニーをしても、無表情なのさ。つまり、運動しない。反応しない。それは、愛していないということだよ。」
巧は冷静に現象を説明する。真由美は少年の中に何か冷たい氷のような強さと冷たさを感じていた。もっとも、声の大きさ、抑揚などはまったく変わっていない。ただ、事実を告げている。それは、医者が末期の患者に事実を告げるようにだ。
「ほら、よく見てよ。母さん。動いてる?動いてない?温かい?温かくない?止まってる?止まってない?」
巧が真由美のそばで、兄の亡骸を指し示す。ゆらゆらとゆらぐろうそくは熱を帯びているのに、拓也はもうあたたくはない。切り花ですら、今だけは生きているというのに、拓也はもう昔のように花が咲いたような笑顔を浮かべない。そのことが、真由美の胸をうった。
「だから、僕が兄さんのように愛してあげる。だけど、僕は兄さんのように優しくはしないよ。母さんはいつだって兄さんには優しかったのに、僕には冷たかったからさ。」
真由美はここで、瞳孔を大きく開いた。それは、信じられないものを見たというような驚きと真由美のなかの巧に対する急速な関心を表現していた。
巧が真由美を押し倒す。真由美の喪服の裾をわり開くと、女の象徴が奥で息づいていた。巧が真由美の唇を奪う。優しくしないという割には、とてもつもなく繊細な口づけだった。出来上がってしまっていた真由美の油のような体は火を注がれたように熱くなる。
「ううっ……」
真由美は拓也の死に顔を思い出していた。当然、拓也の血流の通ってない顔が死んだことを示している。白い。あまりにも、白い。ただただ、純粋に白かった。
一方、巧は当然肌の色つやがよく、興奮に肌を上気させていた。牡の匂いが強烈に真由美の鼻孔をくすぐる。それは生きていることであり、拓也とは対照的にある一定の不純物が混ざっているということだ。
「はあっ……」
巧の唇が真由美の口を蹂躙し始める。力強い舌の動きは生命の躍動であり、真由美に巧は生きていて拓也は死んだということをつきつける。
「くちゅくちゅ。はあ、はあ、これが母さんの唾液、おいしいよ。」
巧は真由美の唇から交換された唾液をなめると唇をぺろっとなめた。それは、キスの余韻を楽しんでいるようであり、この世のものとは思えない何か甘露を手に入れたようにも映る。
「ああ……」
真由美は舌先に残った官能の味を確かめていた。それは、死んだ旦那ものとも拓也のものとも違う。新しい牡の味だった。
「僕の唾液おいしい?母さん?僕はおいしいよ?教えて?」
甘えた少年のように微笑を浮かべて問う。それは、真由美があまり見たことのない巧の甘えであり、どこまで彼女はそれを享受していいのかにためらいを見せていた。
「それは……」
真由美は逡巡する。
「兄さんは、いつも僕より最初だったからね。いいでしょ。これからは、僕が独占しても……ふふふ」
巧はそう笑うと優しくもう一度、唇を重ねてくる。舌先が歯茎の裏を優しくくすぐる。丁寧でいて、そして大胆だった。舌先から麻薬の様な快楽が真由美の中に流れてくる。
「ううん……」
真由美の唇を巧が貪っていた。巧の口から流し込まれた唾液がやがて真由美の喉をとおり、胃に収められていく。こくこくと飲み下していった。(おいしい。巧。おいしいわ。)真由美は呆然としながら、唾液を味わい、そのことを言葉に出してしまいたいおもった。しかしながら、思いとどまる。なぜなら、
「止めなければいけない」という思いと、「もう少しこのまま」という二つの矛盾する思考のはざまで真由美は悩み続けていたからだ。
「やめて、巧。」
真由美はなんとか、巧の口づけを頭からひきはがす。だが、上気している顔はもはや出来上がっているものだし、何よりも自分でした自慰のほてりが体中に残っている。その官能の残り火に再度火をうまくつけられてしまっていた。
「そうかな。母さんの体はそういってないよ。」
両手で真由美の乳房を揉みこむ。重力に逆らうように突き出た白桃は痛いくらいに張り出していた。服の上から巧は邪魔だとばかりに喪服の襟の中からたわわにみのった砲弾をはだけさせる。ぼんやりと、真由美は(女慣れしている)と女の本能で悟る。それは、初めてではないことをさししめして、真由美の中にうすらぼんやりと巧の中の女性遍歴に対する嫉妬の様なものがもやっとはしる。
乳首を甘く巧に含まれた。舌先で転がす野イチゴはちゅーちゅーとすわれて、快楽の信号を真由美の脳内に送り込む。下側からなぞるようにもまれることで快感がざわめく。真由美の中で、拓也に対したものよりだいぶ小さなものだが、巧に対する母性が芽吹く。
優しく歯で甘噛みされる。真由美の中で、軽い痛みと快楽が同居する。
そのあと、巧は割開いた女淫をにちゅにちゅと弾き語りはじめた。
淫らな愛蜜の音が夜の中を走る。
「ああっ……」
官能の導火線に火を付けられてしまった真由美はひたすらに悶えている。
「なるほどね。」
まるで彼はカエルの解剖をする生物学者のように女淫をなでる。指が真由美の肉壺にゆっくりと侵入していく。
「あはっあん……」
真由美は体をよじって耐えていた。
巧が膣口の入り口の上の部分を刺激し始める。それは、真由美の体の中で拓也に開発された快感の場所だった。
「あっあっあっ」
淫らに動く巧の指先に合わせて管弦楽器のように声を真由美ははっする。指という指揮棒で、巧は文字通り真由美の体を指揮する。
「これかな?それとも?これかな?」
巧はタクトをかき回す。ポイントを探す。
「あああ!!」
真由美の声がひと際上がる。
「なるほど。これだね。」
合点がいったとばかりにタクトをふりなおす。巧は真由美の愛液と声のシンフォニーを構成しだす。
「ふむふむ。なるほど、なるほど。」
淫らな女の交響学の中で彼の真由美に対する研究はつづく。
擦る。揺らす。ひっかく。ありとあらゆる想像の動きを軽やかに試し続ける。
「ああんああん」
真由美は拓也と巧の共通点を理解する。それは、異常なほどに繊細に指が動くというとである。ピアノの練習をつづけた二人の若者の特徴を母は母の膣で感じていた。
「ああ、ああ、ああ」
そして、拓也と巧で大きく違っていることに真由美は一つ気づく。それは、指の長さである。ショパンの曲ばかり小さなころから弾き続けた拓也とリストの曲ばかり弾き続けた巧では指の長さが違った。リストは指が長く12度の音程も軽々と押さえることができたために、10度を超える和音が連続する曲を作曲している。そういう曲を好んで弾いてきたために、巧の指先はまるでリストのように長かった。それは修練のたまものだった。
やがて、いたずらを見つけた子供の様な笑みを巧はうかべる。
「母さん。ここだね。」
それは、子宮口だった。先ほどから散々快感で嬲られてさがってきていたのだ。
自分の指では届かない。場所を刺激される。そして、それは、拓也の指では届かない場所だった。だが、巧の指なら届く。
「ああん、あっあっ……」
たまらない刺激だった。拓也の肉棒で刺激されたことはある。そして、それによって真由美は開発されている。しかしながら、このような動きは味わったことがない。肉棒の動きとは違う指のしなやかな動きと刺激に真由美はだらしなく唇を震わせている。
「あはっあはっあはっすごい。巧!気持ちいい。」母は先ほどから押し寄せる快楽の波に目をちかちかさせている。真由美の中で快楽を貪ろうと本能が動く。
「ふふふ、これかな?これかな?」
淫水がさきほどからどぱどぱと巧の指を伝い、床におちている。ろうそくのあかりがゆらゆらと淫水に反射してゆらぐ。真由美は快感に口をしめる。だが、どうこらえても声が漏れてしまう。
「あああ、くう~!!ふ~、はは。」
髪を緩やかに振り乱して、黒い喪服の熟女は陶酔の中にいる。だが、その陶酔は先ほどのようなむなしいものではない。妄想の中の自分の指ではなくたしかに、動いているものであり、愛を子宮で直接感じていた。
「あひっあひっあひっ……」真由美の呼吸が快楽でおかしい。必死に口をあけて魚のようにぱくぱくと上下させる。それにあわせて、大きな紡錘形の胸も上下する。快楽ゆえにある種の酸欠状態に陥った真由美はふたつのことが頭のなかで闘う。
「もっと大きな快楽がほしい」という思いと、「これ以上の快楽をあじわってしまったら引き返せない」という二つの矛盾する思考のはざまで真由美は悩み続けていたからだ。
「ここだね?母さん?兄さん以上に気持ちいい?いかせてあげようか?」
真由美は大きく双眸を開く。不意に拓也の遺影とそれに映る自分と巧が見える。巧の中の兄さんという言葉とイクという言葉に真由美は反応した。そう、真由美は巧ではなく拓也を愛していたはずだ。それに、拓也ではない男でいってはいけない。(だめ、このままでは、だめ。拓也の死んだばかりの日に他の男でいくなんてゆるされない。)必死に真由美は情欲にとりつかれた頭を払い理性を取り戻し、頭を左右にふって拒絶した。
「辞めて!!!」
真由美は大きな声で叫んだ。それは残っていた理性をふり絞り総動員した叫びだった。
「ふふふ、そっか、わかった。でも、残念だよ。母さん。イケたのにね。もし、今度欲しくなったらいつでもいってよ。もっとも、今みたいに優しくしてあげるとは限らないけど。」
巧は微笑みさえ浮かべながらそう答える。そして、しばらく嬲った母の愛液につつまれた指先を嘗めた後、笑いながらその場を後にした。残された真由美は、あの世に逝ってしまった兄とこの世に残った弟のはざまで生きてるような死んでるような瞳を浮かべて棺をみつめている。
「母さんでも、オナニーすることがあるんだね?」
巧は淡々と告げる。それは糾弾してるようでもあり、褒めてるようにも聞こえた。あるいは、何も感じていないのかもしれない。
「!!!」
真由美はどういう風に表情を浮かべていいかわからない。表情筋がこわばり、視界の隅に拓也の亡骸がうつる。蝋燭がゆらいでいる。
「すごかったね。あんな風にいつも兄さんのことを思ってしてたんだね。」
目を細めて、小さく指摘する。それは叱責のようでもあり、ある種の嫉妬やあこがれも含んでいた。
「どこから見てたの?」母は小動物のように巧に問うて来てた。それは、機嫌をそこねるのをおそれているようでもあり、痴態をどこまでみられたかの確認をとろうとしてた。
「なにが?」
巧は何の感情もこめずに答える。少年の黒い瞳の奥は深淵であり、何でも見通していそうな深い闇を宿していた。
「だから、どこから?」
真由美は恐る恐る聞き直す。真由美は吸い込まれそうになるその瞳から逃げるように尋ねる。それは迷い子が道をあきらかにしようと模索しているようだった。
「オナニーを?」
真由美はなんとか恥ずかしさをこらえて、かすれる声で尋ねた。先ほどの情熱的な妄想の中の拓也に対する奉仕など忘れたかのように羞恥に悶えている。
「最初から……」
巧は機械のように事実をいった。
「さ、最初から……」
愕然として真由美は身をよじった。
「はっ!恥ずかしい。」
真由美は体をよじる。豊満な体から先ほどの残り香を隠しきれないほど牝の濃厚な匂いを放っており、それが部屋中に充満している。愛蜜のしずくは床にたまり反射していた。
「何を恥ずかしがってるのさ。毎晩、僕が知らないと思って隠れて愛し合っていたくせに……知らなかったの?」
巧が珍しく感情をあらわにした。といっても、真由美にはその微細な差はわからない。自分がなじられ続けていることだけは感じていた。
「ごめんなさい。」
真由美は謝った。それが、正しいことのように思えたからだ。なんとか、今なら取り繕えるかもしれない。
「羨ましいな。兄さんは。こんなに母さんに愛されてて。」
巧は歌うような小さな声で話す。それは、また、感情が0を指し示した声だった。先ほどまでの痴声を放っていた真由美とは対照的にどこか冷めた声だった。あくまでも変わらない周波数であり、感情の振幅が見られない。指先が軽く兄の亡骸にふれる。
「僕が死んでも同じように母さんは悲しんでくれるのかな?」
少年は悲しい声でぽつりとつぶやいた。一瞬だけ、月のようだった表情の上に小さな隕石が落ちて、感情というさざ波に変化を起こしたように見えた。だが、それ自体は、あまりに小さな変化であり、太陽の様な明確な変化とは言いにくかった。
「それは……」
真由美は巧の心を図りあぐねていた。悲しむと答えるのは簡単だった。ただ、この少年はそれ以上の何かを望んでいるように真由美には見えた。
「言ったじゃないか?」
巧が耳元で囁く。濃厚な蜜の様な甘い声だった。真由美は初めて、巧の中に別の何かを見始めていた。
「これからは、僕たちは家族なんだから、支え合っていかなくちゃね。って忘れたの?」
真由美は気づいてきた。拓也のことは深く見てきたが、巧のことは何も意識してこなかったことをそれは自分の母としての愛情の欠落だった。
「もう兄さんは?いないんだよ?」
巧は真由美の見たくない事実をつげる。カーネーションの花に包まれた拓也が棺に安置されている。何度となく確認した事実だ。
「あんなことをしても戻ってこない。母さんがどれぐらい兄さんのことを愛してももう届かないよ。愛とは運動し続けることそのものなのだから、わかる?」
真由美は頭を左右にふる。何か少年は真実を告げているのだろうが、彼女にはわからない。
「愛とはダンスを踊ることだ。とアドラー心理学はいっている。つまり、運動をしているものが愛し合っているということだ。わかるかい?」
巧は真由美に理解できない話を突然し始めることがある。それはこの少年が博識であり、必要があれば話すということなのだが、多くの博学の人は自分の知性をひけらかしたがるがこの少年は黙った石仏のように自分の知性を発露することはあまりない。必要最小限にとどめる。それは、子供時代からの習性であり、兄との不必要な衝突をさけるために編み出した彼なりの処世術である。もっとも、その処世術は彼を多くの衝突から守るものだったために彼はいつでもその仮面をかぶっていた。母としては理解するためにこの少年の言葉を辛抱強く待たねばならない。
「兄さんは、もう愛し合えないんだよ。わかるだろう?母さん。」
巧は声こそ、何もない様子だが、明らかに勝利の言葉を告げている。そう、どこまでいっても、もう拓也は動かない。それは、真由美の中にくさびを打ち込む。
「母さんが、どれだけ腰を振っても、オナニーをしても、無表情なのさ。つまり、運動しない。反応しない。それは、愛していないということだよ。」
巧は冷静に現象を説明する。真由美は少年の中に何か冷たい氷のような強さと冷たさを感じていた。もっとも、声の大きさ、抑揚などはまったく変わっていない。ただ、事実を告げている。それは、医者が末期の患者に事実を告げるようにだ。
「ほら、よく見てよ。母さん。動いてる?動いてない?温かい?温かくない?止まってる?止まってない?」
巧が真由美のそばで、兄の亡骸を指し示す。ゆらゆらとゆらぐろうそくは熱を帯びているのに、拓也はもうあたたくはない。切り花ですら、今だけは生きているというのに、拓也はもう昔のように花が咲いたような笑顔を浮かべない。そのことが、真由美の胸をうった。
「だから、僕が兄さんのように愛してあげる。だけど、僕は兄さんのように優しくはしないよ。母さんはいつだって兄さんには優しかったのに、僕には冷たかったからさ。」
真由美はここで、瞳孔を大きく開いた。それは、信じられないものを見たというような驚きと真由美のなかの巧に対する急速な関心を表現していた。
巧が真由美を押し倒す。真由美の喪服の裾をわり開くと、女の象徴が奥で息づいていた。巧が真由美の唇を奪う。優しくしないという割には、とてもつもなく繊細な口づけだった。出来上がってしまっていた真由美の油のような体は火を注がれたように熱くなる。
「ううっ……」
真由美は拓也の死に顔を思い出していた。当然、拓也の血流の通ってない顔が死んだことを示している。白い。あまりにも、白い。ただただ、純粋に白かった。
一方、巧は当然肌の色つやがよく、興奮に肌を上気させていた。牡の匂いが強烈に真由美の鼻孔をくすぐる。それは生きていることであり、拓也とは対照的にある一定の不純物が混ざっているということだ。
「はあっ……」
巧の唇が真由美の口を蹂躙し始める。力強い舌の動きは生命の躍動であり、真由美に巧は生きていて拓也は死んだということをつきつける。
「くちゅくちゅ。はあ、はあ、これが母さんの唾液、おいしいよ。」
巧は真由美の唇から交換された唾液をなめると唇をぺろっとなめた。それは、キスの余韻を楽しんでいるようであり、この世のものとは思えない何か甘露を手に入れたようにも映る。
「ああ……」
真由美は舌先に残った官能の味を確かめていた。それは、死んだ旦那ものとも拓也のものとも違う。新しい牡の味だった。
「僕の唾液おいしい?母さん?僕はおいしいよ?教えて?」
甘えた少年のように微笑を浮かべて問う。それは、真由美があまり見たことのない巧の甘えであり、どこまで彼女はそれを享受していいのかにためらいを見せていた。
「それは……」
真由美は逡巡する。
「兄さんは、いつも僕より最初だったからね。いいでしょ。これからは、僕が独占しても……ふふふ」
巧はそう笑うと優しくもう一度、唇を重ねてくる。舌先が歯茎の裏を優しくくすぐる。丁寧でいて、そして大胆だった。舌先から麻薬の様な快楽が真由美の中に流れてくる。
「ううん……」
真由美の唇を巧が貪っていた。巧の口から流し込まれた唾液がやがて真由美の喉をとおり、胃に収められていく。こくこくと飲み下していった。(おいしい。巧。おいしいわ。)真由美は呆然としながら、唾液を味わい、そのことを言葉に出してしまいたいおもった。しかしながら、思いとどまる。なぜなら、
「止めなければいけない」という思いと、「もう少しこのまま」という二つの矛盾する思考のはざまで真由美は悩み続けていたからだ。
「やめて、巧。」
真由美はなんとか、巧の口づけを頭からひきはがす。だが、上気している顔はもはや出来上がっているものだし、何よりも自分でした自慰のほてりが体中に残っている。その官能の残り火に再度火をうまくつけられてしまっていた。
「そうかな。母さんの体はそういってないよ。」
両手で真由美の乳房を揉みこむ。重力に逆らうように突き出た白桃は痛いくらいに張り出していた。服の上から巧は邪魔だとばかりに喪服の襟の中からたわわにみのった砲弾をはだけさせる。ぼんやりと、真由美は(女慣れしている)と女の本能で悟る。それは、初めてではないことをさししめして、真由美の中にうすらぼんやりと巧の中の女性遍歴に対する嫉妬の様なものがもやっとはしる。
乳首を甘く巧に含まれた。舌先で転がす野イチゴはちゅーちゅーとすわれて、快楽の信号を真由美の脳内に送り込む。下側からなぞるようにもまれることで快感がざわめく。真由美の中で、拓也に対したものよりだいぶ小さなものだが、巧に対する母性が芽吹く。
優しく歯で甘噛みされる。真由美の中で、軽い痛みと快楽が同居する。
そのあと、巧は割開いた女淫をにちゅにちゅと弾き語りはじめた。
淫らな愛蜜の音が夜の中を走る。
「ああっ……」
官能の導火線に火を付けられてしまった真由美はひたすらに悶えている。
「なるほどね。」
まるで彼はカエルの解剖をする生物学者のように女淫をなでる。指が真由美の肉壺にゆっくりと侵入していく。
「あはっあん……」
真由美は体をよじって耐えていた。
巧が膣口の入り口の上の部分を刺激し始める。それは、真由美の体の中で拓也に開発された快感の場所だった。
「あっあっあっ」
淫らに動く巧の指先に合わせて管弦楽器のように声を真由美ははっする。指という指揮棒で、巧は文字通り真由美の体を指揮する。
「これかな?それとも?これかな?」
巧はタクトをかき回す。ポイントを探す。
「あああ!!」
真由美の声がひと際上がる。
「なるほど。これだね。」
合点がいったとばかりにタクトをふりなおす。巧は真由美の愛液と声のシンフォニーを構成しだす。
「ふむふむ。なるほど、なるほど。」
淫らな女の交響学の中で彼の真由美に対する研究はつづく。
擦る。揺らす。ひっかく。ありとあらゆる想像の動きを軽やかに試し続ける。
「ああんああん」
真由美は拓也と巧の共通点を理解する。それは、異常なほどに繊細に指が動くというとである。ピアノの練習をつづけた二人の若者の特徴を母は母の膣で感じていた。
「ああ、ああ、ああ」
そして、拓也と巧で大きく違っていることに真由美は一つ気づく。それは、指の長さである。ショパンの曲ばかり小さなころから弾き続けた拓也とリストの曲ばかり弾き続けた巧では指の長さが違った。リストは指が長く12度の音程も軽々と押さえることができたために、10度を超える和音が連続する曲を作曲している。そういう曲を好んで弾いてきたために、巧の指先はまるでリストのように長かった。それは修練のたまものだった。
やがて、いたずらを見つけた子供の様な笑みを巧はうかべる。
「母さん。ここだね。」
それは、子宮口だった。先ほどから散々快感で嬲られてさがってきていたのだ。
自分の指では届かない。場所を刺激される。そして、それは、拓也の指では届かない場所だった。だが、巧の指なら届く。
「ああん、あっあっ……」
たまらない刺激だった。拓也の肉棒で刺激されたことはある。そして、それによって真由美は開発されている。しかしながら、このような動きは味わったことがない。肉棒の動きとは違う指のしなやかな動きと刺激に真由美はだらしなく唇を震わせている。
「あはっあはっあはっすごい。巧!気持ちいい。」母は先ほどから押し寄せる快楽の波に目をちかちかさせている。真由美の中で快楽を貪ろうと本能が動く。
「ふふふ、これかな?これかな?」
淫水がさきほどからどぱどぱと巧の指を伝い、床におちている。ろうそくのあかりがゆらゆらと淫水に反射してゆらぐ。真由美は快感に口をしめる。だが、どうこらえても声が漏れてしまう。
「あああ、くう~!!ふ~、はは。」
髪を緩やかに振り乱して、黒い喪服の熟女は陶酔の中にいる。だが、その陶酔は先ほどのようなむなしいものではない。妄想の中の自分の指ではなくたしかに、動いているものであり、愛を子宮で直接感じていた。
「あひっあひっあひっ……」真由美の呼吸が快楽でおかしい。必死に口をあけて魚のようにぱくぱくと上下させる。それにあわせて、大きな紡錘形の胸も上下する。快楽ゆえにある種の酸欠状態に陥った真由美はふたつのことが頭のなかで闘う。
「もっと大きな快楽がほしい」という思いと、「これ以上の快楽をあじわってしまったら引き返せない」という二つの矛盾する思考のはざまで真由美は悩み続けていたからだ。
「ここだね?母さん?兄さん以上に気持ちいい?いかせてあげようか?」
真由美は大きく双眸を開く。不意に拓也の遺影とそれに映る自分と巧が見える。巧の中の兄さんという言葉とイクという言葉に真由美は反応した。そう、真由美は巧ではなく拓也を愛していたはずだ。それに、拓也ではない男でいってはいけない。(だめ、このままでは、だめ。拓也の死んだばかりの日に他の男でいくなんてゆるされない。)必死に真由美は情欲にとりつかれた頭を払い理性を取り戻し、頭を左右にふって拒絶した。
「辞めて!!!」
真由美は大きな声で叫んだ。それは残っていた理性をふり絞り総動員した叫びだった。
「ふふふ、そっか、わかった。でも、残念だよ。母さん。イケたのにね。もし、今度欲しくなったらいつでもいってよ。もっとも、今みたいに優しくしてあげるとは限らないけど。」
巧は微笑みさえ浮かべながらそう答える。そして、しばらく嬲った母の愛液につつまれた指先を嘗めた後、笑いながらその場を後にした。残された真由美は、あの世に逝ってしまった兄とこの世に残った弟のはざまで生きてるような死んでるような瞳を浮かべて棺をみつめている。
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