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第十八札 びじっと!! =訪問=
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まえがき
「お義父さん!静流さんと椎佳さんを僕に下さい!!」
「なんだと!?片方の娘だけではなく両方の娘を奪おうというのか!!」
「お義父さんに決闘を申し込みます!」
そう言って利剣は白い手袋をお義父さんに投げつけた。
はたして、静流と椎佳を手に入れる事は出来るのか…!!!
※嘘です。
チョロチョロ………カポーン。
音がした方―――開かれた障子の向こうに見える庭に鹿威しが置かれている。
こんなんぶっちゃけテレビでしか聞いた事ねえわ。
俺は今、十畳の広さの和室に正座をしている。
ガチガチに緊張してな!!
椎佳は俺をここに通すなりお茶と菓子だけ置いて退室した。
何でやねん。
何かさぁ! 床の間には何か達筆で字が書かれた掛け軸が掛かってるし、違い棚には高価そうな雰囲気の壺が置かれているしさぁ!
ハッキリ言おう。二十歳そこらの若造には場違いだ。
「何でこんな事になってるんだ…?」
腿の上に置いた掌をグッと握りしめた俺は目の前の座卓に目を落として誰に言うでもなく呟きを漏らす。
静流と椎佳がフローリングワイパーでチャンバラをしたのが昨日。
そして今日。
俺は葉ノ上家の和室に通されていた。
――――――
今朝の話だ。
イイン♪
Iineの音がしたので開いて確認すると椎佳からだった。
(これ、ウチの実家の住所な♪)
タップして開くと、マップアプリが起動して目的地が表示された。
静流の履歴書に書かれていた住所が確かそうだったので間違いはないだろう。
「これは……やっぱり昨日の話で、かぁ…」
俺はポリポリと尻を掻く。
昨日の椎佳と静流のやり取りはいまいち理解が出来ないし、俺自身の話をどう誤魔化して話したらいいか悩む。
そもそもフローリングワイパーよ、お前は一体どうしてしまったんだ。
「……やっぱ世界と世界の狭間をくぐった影響…だよなぁ……」
結局俺の相棒は椎佳によってお持ち帰りされてしまった。
並行世界を共に渡ってきた俺としては悲しい限りだ。
ぐぅ……
悲しくても腹は減る。
「さてさて食堂に行くかねえ、っと…」
俺は寝巻を脱いで普段着に着替えると、早々に自室を後にした。
「おはようございます、利剣さん」
いつもと変わらぬ雰囲気で静流がペコリと頭を下げる。
「おはよう、静流」
俺もいつもと同じ感じで挨拶を交わす。
「……えっと」
静流が視線を外して口ごもる。
それもそうか。
昨日は結局静流と椎佳のやりとりの末「父に会って下さい」と言われてから、その件について詳しい話をしないまま一日が終わってしまったからだ。
「昨日の件ですが…」
「静流」
「は、はい」
俺の呼びかけに言葉を切って返事をする静流。
「何か色々訳が分からないけど、俺は静流にこのまま家事をしてほしいし流那もそう思ってると思う」
「利剣さん……」
「そうですよーっ!」
いつの間にいたのか、俺の背後で牛乳の入ったポットを持った流那が同意の声を上げた。
「流那さん…」
「流那は何のお話なのか全然さっぱり分かりませんけどっ…」
そうだよな。流那なんか部屋からも追い出されて全然分からないよな。
ホントすまん。
「それでもこのお家で静流さんとのお仕事はとっても楽しいです!」
「ありがとうございます…」
静流の顔が心なしか赤い。
「今回の件で色々ご迷惑をお掛けしてしまいましたが…私もそうであればいいなと思います」
「そうだな」
俺はまだ葉ノ上家のお家事情が分からないからな。
ひとまず同意だけしておこう。
「あ…椎佳からIineが来たんだけど、これって今日来いって事だよな?」
俺は椎佳から来たメッセージと地図が表示されか画面を静流に見せながら尋ねる。
「本日のご予定はいかがでしょうか?」
「残念ながら……予定は白紙だな」
――――――
ってなやり取りを今朝にしたんだけどさ。
何で静流がお留守番でさぁ、俺が単身で来る事になる訳?
いや、玄関の呼び鈴を鳴らしたら椎佳が出てきてここへ案内してくれたから良かったけどさ。
これで椎佳もいないとかだったら完全アウェーだぞ。
シャッ……
と、襖が開いて見知った顔が入ってくる。
「おお、しい…か…?」
「お待たせー♪」
入ってきた椎佳に俺は言葉を失った。
そこに居た彼女は普段見るような洒落た雰囲気はなく、桃色を基調に金の花柄の刺繍が入った着物を纏った姿だったからだ。
「どう? 綺麗やろ?」
そう言って笑う椎佳の唇に薄く引かれた紅が、普段感じさせない女性らしさを強調している。
「そ、そうだな…」
いつもなら軽口の一つでも叩くのだが……これは卑怯だ。
俺は椎佳の顔を凝視出来ずにすぐ目を逸らすと、適当な話題を引っ張りだした。
「そ、そういえばさぁ! 今日は何でいきなり椎佳の家に呼び出しなんてしたんだよ…?」
俺の問いに、椎佳はキョトンとした顔になる。
「え? ウチと利剣のお見合いやんか」
「ええっ!!?」
ガタッと立ち上がろうとして座卓の縁に思いっきり腿をぶつける。
「ぐ…おお……!!」
「あっはははは!!」
あまりの痛さに腿を抑えて転がる俺を見て、椎佳は面白そうに笑っている。
「はーっ、おもろー…」
笑いすぎて涙目になっている椎佳をよそ目に、俺が痛みを堪えてうずくまっていると…。
シャッ…
再び襖が開き、一人の男がヒョイと顔を覗かせた。
「何やら楽しそうだな、椎佳」
「あ、父さん」
何だと!?
俺は痛みを我慢して起き上がると、すぐに正座をし直した。
年の頃は四十歳中盤だろうか?
和装に身を包み、静流達と同じく面長で目は細め。
髪は後ろに固めているが数本ちょっと前に垂れている。
口髭とやや長めの顎髭を生やしたダンディー系の男性だった。
緊張する俺を見てから渋い中にも優しさのある微笑みを浮かべ、
「利剣君、楽にしてくれて構わんよ。儂も椎佳に似て堅苦しいのは苦手でなぁ」
そう言ってドシッっと向かいの座卓に腰を下ろした。
「ウチに似て、って言うか父さんに似たんはウチの方やで…」
そう訂正した椎佳は俺の隣に腰を下ろした。
「はっは、それもそうか」
そう言って笑う椎佳のお父さんは、至って普通のお父さんに見えるんだが…。
とてもじゃないけど椎佳が言っていた「怒らせたら殺されてまうわ」のその人に見えない。
「ええっと…。今日はその、俺…いえ、僕が呼ばれた理由は…」
「うん、それはだね」
と。
(失礼します)
襖の向こうからくぐもった女性の声が聞こえた。
「うむ」
椎佳のお父さんが短く返事をすると、スッと襖が開く。
「……ぇ?」
思わず俺の口から声が漏れてしまった。
部屋に入ってきたのは……狐の忍者だ。
いや動物って訳じゃない。
身に着けている衣装が忍者が着ているような黒装束。
そして狐のお面。
声からして女性だと思うんだけど。
背丈は150センチより低そうな狐忍者は、椎佳のお父さんと椎佳の前にお茶をテキパキと置いていく。
「有難う」
「さんきゅ、縁♪」
「……では」
それだけ言うとちょこんと頭を下げて襖を閉めて行った。
すげえ気になる。
でも彼女は一体?とか聞ける雰囲気じゃないし。
後で椎佳に聞いてみよう…。
「さて…利剣君、今日は遠い所からわざわざ来てもらって申し訳なかった」
言って頭を下げるお父さんに、俺は慌てて両手を振る。
「あぁ、いえいえ! そういうのは全然いいんで! 俺暇ですし…」
ついうっかり慌てて「俺」と言ってしまった事に心中でしまった、と後悔する。
だが今更訂正するのも不自然だ。
ここはしれっと流して、無かった事にしてしまおう。
「僕の方こそこんなに、ええと…ご丁寧にお迎え頂いて…?」
二十歳の限界、極まれり。
こういう時どういう言葉を返せばいいんだ?
スマホを開く訳にもいかないし。
「利剣、変やで?」
横にいる椎佳が眉をひそめて肘でつついてくる。
大丈夫、分かってる。
「あぁ…すいません。こういう場は不慣れなもんで…」
「そうか。奇遇だな、儂もだよ」
言って歯を見せて笑うお父さん。
「おっと、自己紹介が遅くなってしまった。葉ノ上家が当主、葉ノ上漣と言う」
「あ……僕は逢沢利剣と言います」
かくして、ぎこちないながらも二人の対談が幕を開けたのだった。
あとがき
いよいよ始まりました。
葉ノ上家本拠地でも対談です。
次回、色々明らかになるかと思います。
変な所で区切ってすみません。
そして何とか本日の更新に間に合いました。
「お義父さん!静流さんと椎佳さんを僕に下さい!!」
「なんだと!?片方の娘だけではなく両方の娘を奪おうというのか!!」
「お義父さんに決闘を申し込みます!」
そう言って利剣は白い手袋をお義父さんに投げつけた。
はたして、静流と椎佳を手に入れる事は出来るのか…!!!
※嘘です。
チョロチョロ………カポーン。
音がした方―――開かれた障子の向こうに見える庭に鹿威しが置かれている。
こんなんぶっちゃけテレビでしか聞いた事ねえわ。
俺は今、十畳の広さの和室に正座をしている。
ガチガチに緊張してな!!
椎佳は俺をここに通すなりお茶と菓子だけ置いて退室した。
何でやねん。
何かさぁ! 床の間には何か達筆で字が書かれた掛け軸が掛かってるし、違い棚には高価そうな雰囲気の壺が置かれているしさぁ!
ハッキリ言おう。二十歳そこらの若造には場違いだ。
「何でこんな事になってるんだ…?」
腿の上に置いた掌をグッと握りしめた俺は目の前の座卓に目を落として誰に言うでもなく呟きを漏らす。
静流と椎佳がフローリングワイパーでチャンバラをしたのが昨日。
そして今日。
俺は葉ノ上家の和室に通されていた。
――――――
今朝の話だ。
イイン♪
Iineの音がしたので開いて確認すると椎佳からだった。
(これ、ウチの実家の住所な♪)
タップして開くと、マップアプリが起動して目的地が表示された。
静流の履歴書に書かれていた住所が確かそうだったので間違いはないだろう。
「これは……やっぱり昨日の話で、かぁ…」
俺はポリポリと尻を掻く。
昨日の椎佳と静流のやり取りはいまいち理解が出来ないし、俺自身の話をどう誤魔化して話したらいいか悩む。
そもそもフローリングワイパーよ、お前は一体どうしてしまったんだ。
「……やっぱ世界と世界の狭間をくぐった影響…だよなぁ……」
結局俺の相棒は椎佳によってお持ち帰りされてしまった。
並行世界を共に渡ってきた俺としては悲しい限りだ。
ぐぅ……
悲しくても腹は減る。
「さてさて食堂に行くかねえ、っと…」
俺は寝巻を脱いで普段着に着替えると、早々に自室を後にした。
「おはようございます、利剣さん」
いつもと変わらぬ雰囲気で静流がペコリと頭を下げる。
「おはよう、静流」
俺もいつもと同じ感じで挨拶を交わす。
「……えっと」
静流が視線を外して口ごもる。
それもそうか。
昨日は結局静流と椎佳のやりとりの末「父に会って下さい」と言われてから、その件について詳しい話をしないまま一日が終わってしまったからだ。
「昨日の件ですが…」
「静流」
「は、はい」
俺の呼びかけに言葉を切って返事をする静流。
「何か色々訳が分からないけど、俺は静流にこのまま家事をしてほしいし流那もそう思ってると思う」
「利剣さん……」
「そうですよーっ!」
いつの間にいたのか、俺の背後で牛乳の入ったポットを持った流那が同意の声を上げた。
「流那さん…」
「流那は何のお話なのか全然さっぱり分かりませんけどっ…」
そうだよな。流那なんか部屋からも追い出されて全然分からないよな。
ホントすまん。
「それでもこのお家で静流さんとのお仕事はとっても楽しいです!」
「ありがとうございます…」
静流の顔が心なしか赤い。
「今回の件で色々ご迷惑をお掛けしてしまいましたが…私もそうであればいいなと思います」
「そうだな」
俺はまだ葉ノ上家のお家事情が分からないからな。
ひとまず同意だけしておこう。
「あ…椎佳からIineが来たんだけど、これって今日来いって事だよな?」
俺は椎佳から来たメッセージと地図が表示されか画面を静流に見せながら尋ねる。
「本日のご予定はいかがでしょうか?」
「残念ながら……予定は白紙だな」
――――――
ってなやり取りを今朝にしたんだけどさ。
何で静流がお留守番でさぁ、俺が単身で来る事になる訳?
いや、玄関の呼び鈴を鳴らしたら椎佳が出てきてここへ案内してくれたから良かったけどさ。
これで椎佳もいないとかだったら完全アウェーだぞ。
シャッ……
と、襖が開いて見知った顔が入ってくる。
「おお、しい…か…?」
「お待たせー♪」
入ってきた椎佳に俺は言葉を失った。
そこに居た彼女は普段見るような洒落た雰囲気はなく、桃色を基調に金の花柄の刺繍が入った着物を纏った姿だったからだ。
「どう? 綺麗やろ?」
そう言って笑う椎佳の唇に薄く引かれた紅が、普段感じさせない女性らしさを強調している。
「そ、そうだな…」
いつもなら軽口の一つでも叩くのだが……これは卑怯だ。
俺は椎佳の顔を凝視出来ずにすぐ目を逸らすと、適当な話題を引っ張りだした。
「そ、そういえばさぁ! 今日は何でいきなり椎佳の家に呼び出しなんてしたんだよ…?」
俺の問いに、椎佳はキョトンとした顔になる。
「え? ウチと利剣のお見合いやんか」
「ええっ!!?」
ガタッと立ち上がろうとして座卓の縁に思いっきり腿をぶつける。
「ぐ…おお……!!」
「あっはははは!!」
あまりの痛さに腿を抑えて転がる俺を見て、椎佳は面白そうに笑っている。
「はーっ、おもろー…」
笑いすぎて涙目になっている椎佳をよそ目に、俺が痛みを堪えてうずくまっていると…。
シャッ…
再び襖が開き、一人の男がヒョイと顔を覗かせた。
「何やら楽しそうだな、椎佳」
「あ、父さん」
何だと!?
俺は痛みを我慢して起き上がると、すぐに正座をし直した。
年の頃は四十歳中盤だろうか?
和装に身を包み、静流達と同じく面長で目は細め。
髪は後ろに固めているが数本ちょっと前に垂れている。
口髭とやや長めの顎髭を生やしたダンディー系の男性だった。
緊張する俺を見てから渋い中にも優しさのある微笑みを浮かべ、
「利剣君、楽にしてくれて構わんよ。儂も椎佳に似て堅苦しいのは苦手でなぁ」
そう言ってドシッっと向かいの座卓に腰を下ろした。
「ウチに似て、って言うか父さんに似たんはウチの方やで…」
そう訂正した椎佳は俺の隣に腰を下ろした。
「はっは、それもそうか」
そう言って笑う椎佳のお父さんは、至って普通のお父さんに見えるんだが…。
とてもじゃないけど椎佳が言っていた「怒らせたら殺されてまうわ」のその人に見えない。
「ええっと…。今日はその、俺…いえ、僕が呼ばれた理由は…」
「うん、それはだね」
と。
(失礼します)
襖の向こうからくぐもった女性の声が聞こえた。
「うむ」
椎佳のお父さんが短く返事をすると、スッと襖が開く。
「……ぇ?」
思わず俺の口から声が漏れてしまった。
部屋に入ってきたのは……狐の忍者だ。
いや動物って訳じゃない。
身に着けている衣装が忍者が着ているような黒装束。
そして狐のお面。
声からして女性だと思うんだけど。
背丈は150センチより低そうな狐忍者は、椎佳のお父さんと椎佳の前にお茶をテキパキと置いていく。
「有難う」
「さんきゅ、縁♪」
「……では」
それだけ言うとちょこんと頭を下げて襖を閉めて行った。
すげえ気になる。
でも彼女は一体?とか聞ける雰囲気じゃないし。
後で椎佳に聞いてみよう…。
「さて…利剣君、今日は遠い所からわざわざ来てもらって申し訳なかった」
言って頭を下げるお父さんに、俺は慌てて両手を振る。
「あぁ、いえいえ! そういうのは全然いいんで! 俺暇ですし…」
ついうっかり慌てて「俺」と言ってしまった事に心中でしまった、と後悔する。
だが今更訂正するのも不自然だ。
ここはしれっと流して、無かった事にしてしまおう。
「僕の方こそこんなに、ええと…ご丁寧にお迎え頂いて…?」
二十歳の限界、極まれり。
こういう時どういう言葉を返せばいいんだ?
スマホを開く訳にもいかないし。
「利剣、変やで?」
横にいる椎佳が眉をひそめて肘でつついてくる。
大丈夫、分かってる。
「あぁ…すいません。こういう場は不慣れなもんで…」
「そうか。奇遇だな、儂もだよ」
言って歯を見せて笑うお父さん。
「おっと、自己紹介が遅くなってしまった。葉ノ上家が当主、葉ノ上漣と言う」
「あ……僕は逢沢利剣と言います」
かくして、ぎこちないながらも二人の対談が幕を開けたのだった。
あとがき
いよいよ始まりました。
葉ノ上家本拠地でも対談です。
次回、色々明らかになるかと思います。
変な所で区切ってすみません。
そして何とか本日の更新に間に合いました。
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