上 下
97 / 174
3章

10。至れり尽くせりでした

しおりを挟む
「はあ……こうなってしまうと、しばらくどちらともマトモな会話は望めませんの。お時間を取らせても悪いですから、お三方ともご自由にお帰り頂いて結構ですわ」

クロエさんがこめかみを押さえながら「身内のジャレ合いをお見せする事になって申し訳ありません」と頭を下げてきた。
どうやら、元夫婦のこの遣り取りはいつものことらしい。

「あの……私、普通に家に戻っていいんでしょうか?」
「ええ、先ほどの噂はこちらも人を使って広めておりますし。あと勝手なこととは思いますが、母の方でソフィアさん達のご自宅の魔法陣に認識阻害の効果を重ね掛けさせたようで」

お戻りいただいても問題ありませんよ、と微笑まれた。
なんていうか、この短時間で根回しが行き届きすぎていて怖い。

ーーでも、帰れるなら良かった。しばらく安全な場所に隠れているように言われるのかと、一応身構えていたのだ。
まだ住み始めて数日だけど、やっぱり自分の家として決まった場所に戻れるのは嬉しい。

本当はエリザとサイラスさんにお礼を言いたいけど。二人ともこっちの会話に戻ってこなさそうなら、クロエさんにお礼を言ってお暇をーー


「待てソフィア! まだ用事が終わっておらんぞ?!」
「あ、エリザ。元旦那様サイラスさんとの話は終わったの?」

席を立ったところで(抜けていた腰は無事に治っていた)、エリザからストップが入る。
意外と復帰が早かったわね。結局デートのお誘いは受けたのかが気になるところだけど……

「あ、あの礼の話は保留じゃ! それより、ソフィア。この前渡したペンダントは今持っておるか?」
「もちろんつけているけど、これがどうしたの?」

以前プレゼントしてもらったペンダント型の魔道具を服の下から取り出して、エリザに見せる。

「それじゃ。一旦わらわに戻してくれ」
「? 別に構わないけどーー」

外したペンダントをエリザの掌に載せると、両手で包むようにしてから胸の前に持っていった。
エリザはそのまま小さく何かを呟いていたが、あわせた掌の隙間からピンク色の光の粒が溢れ出した。

え、えっ?  ひょっとして、何か魔法を掛けてる?

驚いているうちにエリザはペンダントを何やら確認した後で、こちらの掌に載せ返してきた。

見ると雫型のピンクの宝石の中に、星の砂のような、はたまた小さな金平糖のような白い物が入っている。
さっきまでこんなのは入ってなかったはずだけれど、今の魔法みたいなもので入れたんだろうか。
前よりもさらに可愛くはなったけど、多分単なる飾りではないのよね?


「その白い石は認識阻害効果をつけた魔石じゃ。見つかりたくないと思えば見つからん様になる。使う時は声を出さぬようにするのじゃぞ?」

迷い子に試したことはないがまあ効果はあるじゃろ、と言ってペンダントを握らされる。

これはーー神の加護ならぬ女王様の加護ってとこかしら?
なんだかすごく効果がありそう。

「エリザ……ありがとう。大切に使わせてもらうわね」
「良いのじゃ。十分に気をつけるのじゃぞ? ああ、あとここの中は安全じゃからな! これからもたくさん遊びにきておくれ?」

幼女な女王様はそう言ってにっこり笑ってくれた。
本当に、何から何まで頼りっ放しだ。

ーーやっぱり、もう少しだけ夢の中ここにいたいな。
こんなに色々面倒を見てもらっといて、お返しも何もできていないままにエリザのことを忘れるなんて、嫌だもの。

「お返しというなら、なるべく長くこの世界に留まってほしいものじゃの」
「それ、私が頑張ってどうにかなる話なの?」
「もちろんじゃ。この世界の者とたくさん関わって、縁を結んで、ここを好きになってくれれば良い」

そうすれば簡単には戻ることもなかろう、と言われたけど。
昨日マヤさんには、“結構すぐに帰れる”とも言われたはずでーー 一体どっちが正しいんだろう?

やっぱり、もっと迷い子について調べないと。


そう決心している私の横では、サイラスさんがマゼンタとシアンに話しかけていた。

「帰る前に猫くん達に忠告だーー迷い子がソレとバレるのは、大抵が病気や怪我などで病院に担ぎ込まれた時だ。次からは注意するんだよ?」

今回は誤魔化せても、何度も同じ手は通じないからね。

「へいへい、ご忠告どーも?」
「ーー肝に銘じておきますよ」

二匹は今までで一番渋い顔で、嫌そうに頷いたのだった。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【1/23取り下げ予定】あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです

gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると…… 書籍化のため1/23に取り下げ予定です。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

処理中です...