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1。ラミレス公爵家という家

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シルヴィアーナ・ラミレスは筆頭公爵家の長女である。

ラミレス家は古の魔術師の血を引く家系で、先祖は建国の立役者だった。おかげでこの家は現在もとても高い地位を誇っている。

ただ家系に流れる血のせいなのか、ラミレス家の生まれの者は全員が全員、“超“がつくほどの魔法大好き人間だった。


政治や貴族間のやり取りにはほぼほぼ興味を示さず、暇さえあれば、というかなければ睡眠時間を削ってでも、魔導書の解読や魔道具の開発、魔法薬の研究に魔力を高めるための瞑想etc…に精を出す変わり者の集まり。

おかげで城勤めの魔道士は大半がラミレス家の血族か、ラミレス家の者を師に持つものばかり。
しかも宮廷魔道士長はシルヴィアーナの父、兄も副魔道士長だったりする。

つまりラミレス家を敵に回すとその家はーーというかこの国すら潰されかねないので、正面切って喧嘩を打ってくる人間はこの国にはいなかった。

今日この時までは。









「ーーっていうことがあってね? もう今日からアイツらのことは殿下も含めて四バカと呼ぼうと思うの。あと私家出しようと思うから、お父様とお兄様のことよろしくね!」
「よろしくね、じゃありませんよお嬢様?! 何がどうしたらそういう結論になるんですか!」


公爵家の自室で専属執事のウォルターに淹れてもらった紅茶を飲みながら今日の出来事を報告していると、麗しの執事様は胃の辺りを押さえてしゃがみ込んでしまった。

あらら、また胃痛かな。
ウォルターったら慢性胃炎持ちで、しょっちゅう腹痛に悩まされているのだ。

こんな美形でしかも公爵家の執事なんて高給取りの優良物件なのに、いまだ彼女ができないのはこの虚弱体質のせいよねきっと……可哀想に。


私が杖を手に取って回復魔法ヒールをかけると、お礼を言いながら体を起こしたので、そのまま彼を向かいの椅子に座らせた。

「ご配慮痛み入ります。ですが、執事が主人と同じテーブルに着くというのは……」
「細かいことは気にしないで。あなたは私のお兄様のようなものだからいいのよ。ーーそれにしても、毎回こうやって治療しているはずなのに何ですぐに胃炎が再発するのかしら?」
「それ、あなたが言いますか?」


ん? ええそうね、もちろん分かってる。
彼は公爵家の執事だもの。きっと仕事だっててんこ盛りで、毎日多大なるストレスに曝されているに違いない。

あなたも大変よねぇと労ると、ウォルターはあからさまにガックリと肩を落としていた。


「ご理解頂けていないのは分かりました……それで、さっきの質問に答えて頂きたいのですが?」
「え? だから、殿下は私じゃなくて妹のニーナの方がお好みらしいのよ。折角婚約破棄してくださるそうだから、お言葉に甘えても良いわよね?」
「良くありません!」

あれ、ダメ?


「だって、元々ニーナは王太子殿下の婚約者になりたがっていたわよ? この前だって『婚約者を取り替えてくれ』って直談判に来てたの、ウォルトだって見てたでしょ?」

あ、ウォルトっていうのはウォルターのことね。
彼とは幼馴染みでもあるから、自室で二人きりのときはこっちで呼んでいる。

「ニルヴァーナ様のことは存じておりますが、そんなことはどうでも良いのです! 大体、旦那様と坊ちゃまにどうご説明なさるおつもりですか!」
「あ、お父様にはもう説明済み。お兄様にも馬車の中で説明したところよ」
「ーーはい? 説明済みと申されても、お二方ともまだお仕事ですよね? 馬車で一緒にお帰りになったとは聞いておりませんが……」
「ええ、二人ともまだご自分の執務室よ? 帰りの馬車で時間があったから、幻影魔法ホログラムを使って先に報告しておいたの。お父様には泣かれて、お兄様は放心状態になられてしまったけど」

でも最終的には同意して頂けたから少なくとも婚約破棄は確定ではないかしらと言えば、ウォルターはまたお腹に手を当てて、今度は机にばったりと倒れ込んでしまった。


もう、ウォルターったらまた胃が痛むのかな?

そう思った私は、再度回復魔法を掛けてあげたのだった。
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