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【スタ特14】サンドイッチの中身はね

名前は何にしよう?

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「ただいま」

 じんが帰宅してきた気配に、天莉あまりは料理の手を休めて、いそいそと鍋の火を止めた。

「お帰りなさい」

 パタパタとスリッパの音を響かせて玄関まで迎えに出たと同時、フカフカしたものを顔に押し当てられて。

「ひゃっ」

(いきなり何っ?)

 一歩後ろに下がったら、じんに大きな食パン型のクッションを差し出された。

 クッションは二枚あって、真ん中が不自然に膨らんでいて。

「サンドイッチ?」

 見たままをつぶやいた天莉に、「ああ。中身が何か、確認してみて?」と尽がどこか楽し気に誘い掛ける。

 天莉が、尽の手に乗っかったままのサンドイッチからそぉっと上側の一枚パンを剥ぎ取ってみたら、横っちょにポツポツと穴の空いた段ボール箱が挟まっていた。

「段ボール?」

 つぶやいた途端、箱の中から「ニィー」とか細い声がする。

「えっ」

 その声に、天莉が慌てて箱のふたを開けてみたら、白黒の毛玉がぴょこんと顔を覗かせた。

 いきなり明るくなったことに驚いたみたいに目を細めた小さな毛玉が、真っ赤な口を開けて「ニィー!」と鳴く。

「やんっ。尽くん、子猫だよっ!?」

 突然大好きな猫が目の前に現れてやや前のめり。
 興奮気味に声を上げたら、
「ああ、今日出先でね、こいつに追いかけられたんだ」
 尽が優しい顔をして子猫を撫でた。


***


 どこからともなく現れた白黒の小さな毛玉にすり寄られた時、じんは近くに親猫や兄弟猫がいるんじゃないかと周りを見回したのだが、この子以外に猫の姿はなかった。

 例によって一緒に行動していた直樹が、道端で倒れた段ボール箱を見つけて、「どうやら捨て猫のようです」と告げてくる。

 生後一ヶ月くらいとおぼしき子猫は、いわゆるハチワレと呼ばれる毛色で。
 もともと人懐っこいのか、尽の猫たらしぶりに感化されたのかは分からないけれど、尽の足元を離れる様子がなかった。

 しばしすり寄らせるに任せていた尽だけれど、ややしてその場にしゃがみ込むと、足元の子猫を抱き上げて。

「なぁ直樹なお、悪いが……」

「連れ帰れるよう手配いたしましょう」

 皆まで言わなくても察してくれた直樹が、そこからは尽とは別行動をして、動物病院へ連れて行ってくれた。
 そのまま健康診断などを済ませてきてくれた直樹が、ついでに手頃な箱も手配してくれて、今に至る。


***


「離乳も済んで、乳歯も生えてる。自力で排泄も可能な、生後一ヶ月の男の子だそうだよ」

「……可愛い」

 箱の中へ天莉あまりが手を差し伸べると、子猫はクンクンと匂いを嗅いで、スリリと頬を指先にすり寄せてくれた。

じんくん、この子……」

「天莉に相談なく連れ帰って来てしまったけど、うちで飼わないか?」

 言われて、天莉はコクコクとうなずいた。

 天莉は理由わけがあって、今はしばらく会社を休んでいる。

 尽が良いと言うまでは休んでいて欲しいと言われているのだけれど、実際傷付いた心と身体にそれは有難い提案だった。

 ただ、実際家事などをしていると時間はあっという間に経ちはするものの、尽が帰って来るまでの数時間、一人でいると不安にさいなまれて寂しくてたまらなかったから。

「天莉が家へいる時に出会えたのも縁だと思うんだ。子猫は何かと手を取るからね」

 尽の言葉に、天莉は「うん」とうなずいた。

「名前は何にしよう?」

 ワクワクとした顔で箱の中の子猫を抱き上げた天莉を、尽が真正面からそっと抱き締める。

「天莉が付けてあげて?」

 二人の間にサンドイッチされてはさまれて、子猫が「ミィ?」と二人を見上げて小首を傾げた。


 天莉が彼にどんな名前を付けたのか、それは本編でのお楽しみ。


  END(2023/08/14)
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