152 / 264
(21)解毒*
荒療治のススメ
しおりを挟む
***
直樹が尽と天莉のために手配してくれていた部屋は、三十五階にあるロイヤルスイートで、リビング・ダイニング・ミニキッチン、書斎などを備えた贅沢な客室だった。
一泊いくらぐらいするのか天莉には見当もつかないような、ラグジュアリーな空間。
その部屋の中、ふかふかのソファに横たえられた天莉は、すぐそばに座った尽の膝枕で話を聞かされている。
「天莉。キミが飲まされた薬には解毒剤がない。というより多分これが効くだろうというものはあるが、例の薬自体、まだ治験にも至ってないような試作段階のシロモノなんだ。正直、他の薬剤を摂り入れることでどんな作用が起こるか分からないから使いたくないというのが本音だ。……そんなリスクを冒すぐらいなら、何もせずに時間経過とともに副作用が薄れていくのを待つ方がよっぽどマシだと思う。だが――」
そこで躊躇いをにじませて言いよどむ尽を、天莉は黙ってじっと見上げて。
「何もせずにいれば、完全に症状が消えるまで丸一日は掛かってしまう。その間は身動きが取れないからトイレなんかにも介添えが必要になるはずだ。あと、言葉も不自由だからね、下手するとそれを伝えること自体困難かも知れない。もちろん、俺がずっとそばにいてキミが不自由を感じないよう手を尽くすつもりではいるが、一〇〇%分かってやれるとは言い切れない。――そういう諸々の事情を踏まえた上で提案だ。多少荒療治にはなるが、少しでも早く動けるようになれる方法を取らせてもらえないか?」
尽がそう言うのなら、きっとそうしてもらうのが一番なんだろう。
天莉だって、尽にお下の世話は任せたくない。
でも、尽の言葉にどうしても引っかかる部分があったから。天莉はそれを確認せずにはいられなかった。
「あ、らりょ、じ……て?」
「……連中がキミにしようとしていたことを俺がする」
「へ…………?」
「率直に言おう。――絶頂に達する頻度が高ければ高いほど薬の抜けが早いんだ」
「ぜっ……」
尽の言葉に、天莉は思わず思考が停止してしまった。
確かに今、身体中が尽の温もりを求めて疼いている。
その欲求を満たしてやれば、この熱も和らぐはずだと言われたら、確かにそうなのかも知れないと思えたし、正直尽以外の男たちに襲われかけて、こんなことならば尽に抱かれておけば良かったと激しく後悔だってした。
でも――。
いざ解毒のためだけにそんなことをすると言われたら、何だか尻込みしてしまう。
尽は沖村とザキの会話を聞いていたわけではないから、まさか後ろを触らせろとは言わないと思うけれど、天莉はそこも含めて物凄く不安になってしまった。
「あ、の……じ、んく……ン、……」
「ん?」
〝後ろも……触るの?〟
尽は、天莉を襲おうとしていた者たちがしようとしていたことをすると言った。
もしもこの何とも厄介な薬効を打ち消すために、そんな行為も必要になるだなんて言われたら、天莉は絶対に怯んでしまう。
元々性行為に関していい思い出がほとんどないのだ。
普通にしても上手く出来るか不安なのに、そんなアブノーマルなことまでしないといけないとしたら。
(ヤダ、怖い……)
その必要はないと尽に否定してもらって安心するためにも、ハッキリ言葉にして聞いてみたいのに、そんなことを口にしようものなら、天莉が尽以外の男性たちからどんな扱いを受けそうになったのかを露呈させてしまうだろう。
それは、尽を物凄く傷つけてしまう気がして結局言えなかった天莉だ。
散々迷った挙句、(尽くんのことを信じるしかないよね?)と自分に言い聞かせながら、そっとまぶたを閉じることしか出来なくて。
直樹が尽と天莉のために手配してくれていた部屋は、三十五階にあるロイヤルスイートで、リビング・ダイニング・ミニキッチン、書斎などを備えた贅沢な客室だった。
一泊いくらぐらいするのか天莉には見当もつかないような、ラグジュアリーな空間。
その部屋の中、ふかふかのソファに横たえられた天莉は、すぐそばに座った尽の膝枕で話を聞かされている。
「天莉。キミが飲まされた薬には解毒剤がない。というより多分これが効くだろうというものはあるが、例の薬自体、まだ治験にも至ってないような試作段階のシロモノなんだ。正直、他の薬剤を摂り入れることでどんな作用が起こるか分からないから使いたくないというのが本音だ。……そんなリスクを冒すぐらいなら、何もせずに時間経過とともに副作用が薄れていくのを待つ方がよっぽどマシだと思う。だが――」
そこで躊躇いをにじませて言いよどむ尽を、天莉は黙ってじっと見上げて。
「何もせずにいれば、完全に症状が消えるまで丸一日は掛かってしまう。その間は身動きが取れないからトイレなんかにも介添えが必要になるはずだ。あと、言葉も不自由だからね、下手するとそれを伝えること自体困難かも知れない。もちろん、俺がずっとそばにいてキミが不自由を感じないよう手を尽くすつもりではいるが、一〇〇%分かってやれるとは言い切れない。――そういう諸々の事情を踏まえた上で提案だ。多少荒療治にはなるが、少しでも早く動けるようになれる方法を取らせてもらえないか?」
尽がそう言うのなら、きっとそうしてもらうのが一番なんだろう。
天莉だって、尽にお下の世話は任せたくない。
でも、尽の言葉にどうしても引っかかる部分があったから。天莉はそれを確認せずにはいられなかった。
「あ、らりょ、じ……て?」
「……連中がキミにしようとしていたことを俺がする」
「へ…………?」
「率直に言おう。――絶頂に達する頻度が高ければ高いほど薬の抜けが早いんだ」
「ぜっ……」
尽の言葉に、天莉は思わず思考が停止してしまった。
確かに今、身体中が尽の温もりを求めて疼いている。
その欲求を満たしてやれば、この熱も和らぐはずだと言われたら、確かにそうなのかも知れないと思えたし、正直尽以外の男たちに襲われかけて、こんなことならば尽に抱かれておけば良かったと激しく後悔だってした。
でも――。
いざ解毒のためだけにそんなことをすると言われたら、何だか尻込みしてしまう。
尽は沖村とザキの会話を聞いていたわけではないから、まさか後ろを触らせろとは言わないと思うけれど、天莉はそこも含めて物凄く不安になってしまった。
「あ、の……じ、んく……ン、……」
「ん?」
〝後ろも……触るの?〟
尽は、天莉を襲おうとしていた者たちがしようとしていたことをすると言った。
もしもこの何とも厄介な薬効を打ち消すために、そんな行為も必要になるだなんて言われたら、天莉は絶対に怯んでしまう。
元々性行為に関していい思い出がほとんどないのだ。
普通にしても上手く出来るか不安なのに、そんなアブノーマルなことまでしないといけないとしたら。
(ヤダ、怖い……)
その必要はないと尽に否定してもらって安心するためにも、ハッキリ言葉にして聞いてみたいのに、そんなことを口にしようものなら、天莉が尽以外の男性たちからどんな扱いを受けそうになったのかを露呈させてしまうだろう。
それは、尽を物凄く傷つけてしまう気がして結局言えなかった天莉だ。
散々迷った挙句、(尽くんのことを信じるしかないよね?)と自分に言い聞かせながら、そっとまぶたを閉じることしか出来なくて。
0
お気に入りに追加
147
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
無慈悲な悪魔の騎士団長に迫られて困ってます!〜下っ端騎士団員(男爵令嬢)クビの危機!〜
楠ノ木雫
恋愛
朝目が覚めたら、自分の隣に知らない男が寝ていた。
テレシアは、男爵令嬢でありつつも騎士団員の道を選び日々精進していた。ある日先輩方と城下町でお酒を飲みべろんべろんになって帰ってきた次の日、ベッドに一糸まとわぬ姿の自分と知らない男性が横たわっていた。朝の鍛錬の時間が迫っていたため眠っていた男性を放置して鍛錬場に向かったのだが、ちらりと見えた男性の服の一枚。それ、もしかして超エリート騎士団である近衛騎士団の制服……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
【R18】男嫌いと噂の美人秘書はエリート副社長に一夜から始まる恋に落とされる。
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
真田(さなだ)ホールディングスで専務秘書を務めている香坂 杏珠(こうさか あんじゅ)は凛とした美人で26歳。社内外問わずモテるものの、男に冷たく当たることから『男性嫌いではないか』と噂されている。
しかし、実際は違う。杏珠は自分の理想を妥協することが出来ず、結果的に彼氏いない歴=年齢を貫いている、いわば拗らせ女なのだ。
そんな杏珠はある日社長から副社長として本社に来てもらう甥っ子の専属秘書になってほしいと打診された。
渋々といった風に了承した杏珠。
そして、出逢った男性――丞(たすく)は、まさかまさかで杏珠の好みぴったりの『筋肉男子』だった。
挙句、気が付いたら二人でベッドにいて……。
しかも、過去についてしまった『とある嘘』が原因で、杏珠は危機に陥る。
後継者と名高いエリート副社長×凛とした美人秘書(拗らせ女)の身体から始まる現代ラブ。
▼掲載先→エブリスタ、ベリーズカフェ、アルファポリス(性描写多め版)
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
【R18・完結】蜜溺愛婚 ~冷徹御曹司は努力家妻を溺愛せずにはいられない〜
花室 芽苳
恋愛
契約結婚しませんか?貴方は確かにそう言ったのに。気付けば貴方の冷たい瞳に炎が宿ってー?ねえ、これは大人の恋なんですか?
どこにいても誰といても冷静沈着。
二階堂 柚瑠木《にかいどう ゆるぎ》は二階堂財閥の御曹司
そんな彼が契約結婚の相手として選んだのは
十条コーポレーションのお嬢様
十条 月菜《じゅうじょう つきな》
真面目で努力家の月菜は、そんな柚瑠木の申し出を受ける。
「契約結婚でも、私は柚瑠木さんの妻として頑張ります!」
「余計な事はしなくていい、貴女はお飾りの妻に過ぎないんですから」
しかし、挫けず頑張る月菜の姿に柚瑠木は徐々に心を動かされて――――?
冷徹御曹司 二階堂 柚瑠木 185㎝ 33歳
努力家妻 十条 月菜 150㎝ 24歳
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる