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(20)罠にハメられた天莉

高嶺尽と付き合うと言う事

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 扉が閉まる音に、天莉あまりは小さく吐息を落とすと、自由にならない手でカバンの中に仕舞ったスマートフォンを探り当てて。

じんくんに電話……)

 そう思ったけれど、うまく画面を操作することがままならなくて、電話帳はおろか通話履歴さえ呼び出すことが出来なかった。

 音声サポートに助けてもらおうにも声もマトモに出せない。

 それに――。

 尽は今日、沢山仕事を抱えていると言っていたのを思い出した天莉は、今電話を掛けて彼を心配させるのは良くない気がして、尽への連絡自体を躊躇ためらってしまう。

(あ、でも伊藤さんなら……)

 以前、尽から『もし万が一俺に連絡が取れないときは直樹なおに伝言を残して?』と言われていたのを思い出した天莉だ。

 伊藤直樹は常に尽と行動を共にしている。

 彼にSOSを出せば、いずれ確実に尽の耳にも届くはずだ。


 でも――。

 結局スマートフォンを操作しようと手にした途端、手指にうまく力が入れられなくて、命綱の端末を床に落としてしまった天莉だ。

(あ……)

 慌てて手を伸ばそうとしたのだけれど、身体が思うように動かなくて、気持ちばかりが焦ってしまう。

(な、んで?)
 ――自分は今、こんな目に遭っているのだろう?

 博視ひろしと付き合っている時には、こんな剥き出しの敵意をぶつけられたことなんて一度たりともなかったのに。

 改めて〝高嶺たかみねじん〟と言う、とても目立つ人と付き合うと言うことのリスクを痛感させられた天莉だ。

(私がこうなることで、尽くんに迷惑が掛かるんじゃ……)

 ふとそう思い至った天莉は、サァーッと血の気が引くのを感じてしまう。

 尽が、過保護なくらい天莉のことを心配していた理由は、きっとそう言うことだったのだ。

 非力で何の力も持たない天莉は、簡単に尽のウィークポイントになってしまう。

 もし天莉のせいで尽が窮地きゅうちに立たされるようなことになったら、きっと天莉は自分のことを許せない。

 己の浅はかさがほとほと嫌になって、天莉は今更だと思いつつも涙が出てきてしまった。


***


 床へ転がったスマートフォンを拾い上げる。
 たったそれだけの動作が本当に難しくて、ソファから落ちそうになりながら四苦八苦していた天莉あまりは、部屋の扉が開いたことにすら気付けなかった。


「……やった! もう女の子の方スタンバイ出来てんじゃん」

「おっ。ホントだ。今日の子はどんなかなー? 俺、すっげぇ楽しみなんだけど」

「わー、お前、顔がめちゃくちゃ下品になってるぞ」

「いや、それ、お前もだろ」


 室内に突然響いた男性二人の楽しげな掛け合いに、ビクッとしたつもりだったけれど、実際は身体が跳ね上がったかどうかすら怪しい。

 ノロノロと視線を床から前方へ転じると、視界のうんと端っこに、綺麗に磨かれた革靴が二人分見えた。
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